音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

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第八十九話 俺、話し合いをする

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「ハル、あのピアノって奴すっげぇな!」

「ハル君、超格好良かったよ!!」

「また曲弾いてよ!」

 学校から帰る時、すれ違う度に生徒や先生から絶賛の声を貰った。
 ピアノに関しては、先生達に頼んで自宅に運んでもらう事になっていて、もう自宅に届いているだろうな。
 俺の両隣には、レイとリリルがぴったりとくっついて歩いてきていた。
 でも何だろう、二人共顔が引き締まっているように感じるんだが。
 何かあったのか?
 まぁ俺としても、この二人に話さないといけない事があるしな。
 今日はリリルとレイがうちに来る。だから、俺は家族とこの二人に王都に行く事を伝えようと思う。
 多分、反対されるだろうなぁ。








「おう、行ってこい!」

 反対されませんでした。
 あれぇぇぇ?

「お前の剣の腕は、八歳だってのに相当な腕だ。何たって《武力派》の中でも戦闘狂な奴を倒した位だしな」

「母さんはね、学校での演奏を聴いた時に、この子は音楽で食べていけるって確信したから、安心して送り出せるわ」

 反対されないとされないで、少し寂しいんですけど……。
 こうさ、可愛い息子が出ていくって言ったんだからさ、「許さん! 成人するまで村から出さないぞ!!」みたいなのを期待していたんだけど……。
 妹のナリアは、母さんの腕の中ですやすや眠っている。こいつ、あんま夜泣きしないんだよなぁ。将来はちょっと静かめな清楚美人になるに違いない!

「でもハル、お前が本当に村を出ていってもやっていけるかどうか、卒業式前日に試練を出す」

「えっ、試練?」

「そうだ。俺を倒してみろ、ハル。倒せたら好きにしていいさ」

 うわっ、急に父さんが俺に向けて気迫をぶつけてきた!
 全く、びっくりするだろうが。
 俺も気迫を父さんにぶつけた。すると、父さんが軽く笑った。

「ふっ、上等な気迫だ。戦うのが楽しみだ」

 この人も立派なバトルジャンキーだよ……。
 さて、静かに聞いている愛しの二人にも言わないとな。

「それでさ、レイとリリル。無事父さんの試練を乗り越えたら王都へ行くつもりだ。だから、二人も付いてきて欲しい」

 俺の中で付いてきてくれるという確信がさっきまではあった。
 でも、学校の帰りの時に二人が見せた、何かを決断したような表情がどうも引っ掛かるんだ。
 俺は何も悪い事をこの二人にはしていない、していない……はず。
 あ、めっちゃキスはしたけど、喜んでいたはず……。

「ハル。僕達、成人になるまでの二年間は君から離れようと思ってる」

 レイが、真剣な表情で俺に言った。
 なっ!?
 えっ、何で?
 二人共俺から離れる?
 どういう事!?

「そんな絶望した顔しないで、ハル君」

 リリルがくすりと笑った。
 いや、するでしょうよ!
 だって、二年も離れようとか言われたんですよ!
 そりゃ泣きたくなるわ……。

「私達ね、ハル君にとっても大事にされてるのがすごくわかるの。私達もとっても嬉しいの」

「じゃあ、何で?」

「今の私達のままだと、きっとハル君は別の女の子と結婚すると思う」

 えっ!?
 それこそ意味がわからんのだけど。
 どうやってそんな結論に辿り着いたのか詳しく聞きたい。
 そんな俺の心の疑問を察知したのか、苦笑しながらレイが答えてくれた。

「ハル。君は自分が思っている以上に、とてつもなく大きな人間になってきているんだ」

「えっ、そうなの?」

「そうなんだよ」

 まぁ色々暴れたから、何かしら目は付けられているだろうけど。
 大きい人間なのかどうかはわからない。
 レイは続けて話す。

「そして僕はただの田舎貴族の娘だし、リリルも一般人と変わりない。どんどん国にとっても無視しにくい存在になってきているハルに、釣り合う訳がないんだよ」

「何を言っているんだ! レイは大人びていてとっても美人だし、リリルはとっても可愛くて守ってやりたい、二人共超最高な女の子なんだぜ!? 釣り合うとかそういうのは関係ないね!」

「「あ、ありがとぅ」」

 俺のストレートな気持ちをぶつけたら、二人は顔を真っ赤にした。
 可愛いなぁ。
 ……じゃなくて! 釣り合うとか何だそれ!?

「えっと、理解していないようだから言うね。人間ってね、自分と平等の立場にいる人間と親しくなるんだ。爵位とかそういうので片付けられればいいんだけど、君の場合は違うんだ」

「うん。ハル君はね、多分この国の歴史に名前を残す位すごい人になると思うの。でもね、そういう人って大概孤独なんだって。何でか、わかる?」

 多分何となくわかった。
 レイは物心付いた時から貴族の娘……当時は《麗人》だったから息子か。息子として様々な人間を見てきている。
 だから考え方が大人びているし、貴族にしかわかり得ない心情も知っているんだろうね。
 でも確かに、身分の差があるだけでちょっと取っ付きにくい感じはある。前世で海外のお偉いさんと初めて会う時は、やっぱり壁みたいなのを感じるしな。
 そしてリリルが言った事は、歴史に基づいている。
 この世界の歴史上の英雄は、大半が孤独死という最期を送っている。
 となると、導き出される答えは――――

「人は、釣り合いを求めている、か?」

「その通りだ、ハル」

 レイじゃなくて、父さんが正解と言った。
 突然横から入ってきたから、少しびっくりした。

「どんな性格であれ、人間ってのは傍にいる人間と自分の差を勝手に比べるんだ。『俺はこいつより劣っている』と思った瞬間、恩恵をもらう為にヘコヘコするか、卑屈になって離れるか。逆に『こいつは俺より劣っている』と思ったら、傲慢な態度が出てくる。お前だって、剣に関してはちょっとそれが出てるんだぞ?」

 ……あぁ。
 言われてみればそうかもしれない。

「心当たりはあるようだな。つまり、レイちゃんとリリルちゃんは、今『私はハルより劣っている』と感じているんだ」

「別に俺は、この二人の事大好きだから、大事にするって!」

「今は、な。王都に行けばわかると思うが、お前はどんどん大きな事をやって、讃えられる。でもな、讃えられるのは案外精神的に辛いんだ。断言してやる、今のレイちゃんとリリルちゃんだと、そんなお前を支えられるものがない」

 父さんの確信めいた発言に、レイとリリルは下を向いた。
 
「おい、父さん。ちょっと待て。いくらなんでもそれはねぇだろ!」

「いいか、これは愛情だけの問題じゃない。愛情だけで乗り越えられるのは一般人の話だ。お前は王族とも親しくなっている時点で一般人じゃない。特別な人間なんだ」

 確かに、王族と砕けて話せる奴はほとんどいないって、仲良くなった城の兵士さんが言ってたな。

「そんなお前を支えられる女性も、お前が注力を注いでいるものに対して、協力出来る程じゃないと務まらない。ただ理解してもらえるだけじゃない、安心して任せられる、平等な実力者じゃないとな」

 平等な実力者……。
 つまり、俺が注力を注いでいるのは、今のところは剣と音楽。
 これに関して理解があり、尚且つ俺に協力してくれる女性、か。
 それを踏まえて現状のリリルとレイはどうかというと……。
 どちらも俺が協力して欲しいと思えるレベルには到底至っていない。
 理解、しちまったよ、俺。

「理解したな、ハル。それが長い目で見て、愛情だけではやっていけない大きな壁となるんだ。この二人は、それをいち早く察知したんだ」

「……」

 何も言えない。
 他の女性と結婚するって意味は、今は二人の事が好きでも、全てを理解して支えてくれる女性が出てきた瞬間、二人を捨ててその人に靡く可能性が高いって事なんだな。
 そんな事はない、とは、言い切れなかった。

「ただ、この二人はいい女だぞ? 何せ、二年間お前と添い遂げる為に花嫁修行をするって言ってるんだからな!」

「つまり、二年間で俺と並べられる女性になってくるって事?」

「そういう事だ。容姿だけじゃなく、中身もしっかり磨き上げてくるって事だ」

「そっか……」

 二人は、俺の事をかなり深く好いてくれているのはわかっている。
 その二人が、俺とずっと傍にいる為に、二年間頑張ってくれるって言ってるんだ。

 正直二年間は長すぎる。
 俺も二年間、他の女性に靡かない自信がちょっとない。
 でも、頑張って俺は、この二人を信じてみようと思う。

「なぁ、リリルとレイ」

「何だい?」

「はい」

「俺、二人を待つよ。あまりにも長いけど、出来る限り他の女性に靡かないようにする」

「そこ、普通絶対靡かないとか言う場面じゃない?」

 レイがジト目で睨んでくる。おっと、リリルもだ。

「そう言いたいけど、こればっかりはわからないからな。もしかしたら、二人共気持ちが変わるかもしれないし」

「「それは絶対ない!」」

「お、おう……」

 二人が強く言った。
 すっげぇ自信だな。

「知っているかい、ハル。追いかけると決めた女の子は、気持ちはぶれないんだよ?」

「そりゃすげぇな」

「でもね、ハルは待っている側。正直待っている方が辛いと思うんだ。心に隙が出来ると思う。そこに付け入る女の子が出てくるはずだから、もしかしたらハルは別の女の子と付き合っちゃうかもしれない」

 レイは随分と先の話をしているから、そんな予想すら出来ないわ!
 靡かないと言い切れないしね。
 とりあえず、黙って聞いておこうかな。

「でも、私達は決めたの。そんな女の子が逃げ出すくらい、私達は魅力的になってハル君の前に現れるって」

 リリルが、今までで一番輝いた瞳で俺を見てくる。
 何だろう、急にリリルが大人びた気がする。レイは元からなんだけど、デキる女オーラが半端ない。

「私は、何がなんでも、ハル君を諦めないから!」

「僕ももう、ハル以外の男はどうでもいいんだ。ハルじゃないと嫌なんだ。だからどんな女の子といてもいいから、十二歳の成人になった時、必ず僕達に振り向いてもらうからね!」

 もうさ、俺、本当にこの二人の事大好きだわ。
 こんなに想われてるなんて、滅多にないと思う。
 これは俺も頑張らないとな。

「俺もレイとリリルじゃないと嫌だ。だから、成人したら必ず会おう」

「「うん!」」

 二人は満面の笑みで頷いた。
 あぁ、本当に可愛いし綺麗だ。

「あっ。でも、学校卒業するまでは、出来る限り一緒にいようね!」

「王都に行ってからが、花嫁修行だから!」

 最後に二人が俺の手を繋いで、上目遣いで言ってきた。
 わかってますって。
 俺もそのつもりだったからさ!

 俺達三人は、笑顔だった。











 そして平穏に年月は流れる。
 ナリアも少し喋れるようになって、ハイハイで動き回れるようになった。
 ナリアは俺の事を「にいちゃ」と呼ぶ。
 うん、とっても可愛くて、呼ばれる度に頬擦りしている!
 二度目の人生で初めての妹だ、可愛くない訳がない!
 そしてレイとリリルとの仲は、他の生徒が羨む位だった。
 キスはたくさんしているけど、それ以上はしていない。理性が吹っ飛んでしかけてしまったが、自分の頬を殴って思い止まった。
 二人の残念そうな表情は、脳内に強烈に残っている。このむっつり二人娘め!

 さて、俺は十歳になった。
 今の俺は、腰に赤の名剣《レヴィーア》と青の名剣《リフィーア》を左腰に着けていた。
 今日が、父さんと戦う、試練の時だ。
 真剣で、冗談抜きの戦いをやるんだ。
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