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第九十話 俺VS父さん 前編
しおりを挟む俺はこの一年半の間、様々な準備をしてきた。
まず最初に、家族に対して王都へ行く旨を伝えた時から、バンドをやるメンバー達と頻繁に手紙でやり取りをした。
メンバーはレイス、レオン、オーグ、ミリアだ。
皆の現状報告、演奏技術だったりを随時手紙に書いてもらって、そこで俺が知っている技術を手紙なりに詳しく書いて教えたりした。
特にレイスとレオンには、どちらかにベースを弾いてもらいたいと考えている。だから今二人には、ピックを使って弦を弾いて演奏する形ではなく、指で弾いて演奏する《フィンガー・ピッキング》を練習しておくようにも伝えた。
手紙で報告を受けた感じだと、少しずつ形にはなってきているようだ。
ミリアに関しては、《風のささやき亭》の店長にお願いして、そこで歌ってもらうように手配した。
あそこの客はボーカルに飽きている。そんな中であえて歌わせたんだ。
狙いは、舞台度胸をつける為だ。
俺達が考えているバンドという概念は、この世界には存在していない。だから、きっとブーイングだったり無反応だったりするのが大半だろう。
その時に必要になってくるのは、「どのようにその無反応な客を沸かせるか」なんだ。
ミリアから報告を受けた時は、「あんな所に私を放り込むなんて、ハルっちの鬼畜!!」って罵られたっけなぁ。
しかし、二ヶ月位経った頃には客を盛り上げる方法がわかってきたらしく、店長からも「いい歌い手を紹介してくれてありがとう」とお礼の手紙を貰えた。
オーグは随分とピアノを弾けるようになったようだ。
俺が即興で練習曲を作曲したんだが、それを譜面に書き起こして手紙に同封したら、何とか弾けるようになったそうだ。
オーグにはシンセサイザーを担当してもらう予定だから、もっとピアノを弾けるようにして貰おうと考えている。
そして、ここは一番の収穫だ。
何とエレキギターとエレキベース、そしてシンセサイザーにドラムが完成間近だという!
これらの製作はオーグの実家が主導なんだが、その背後には王家がいた。
ピアノ以外にも新しい楽器の構想があると言った時に、目を輝かせて食い付いてきたのは王様だった。
王都から派遣された、音楽に詳しい使者の人にこれらの楽器の概念を伝えた。
かなり混乱していたが、数時間掛けて説明をしたら理解をしてくれたらしく、帰って王様にプレゼンをしてくれるらしい。
それから数週間後に王様から直接手紙が来て、「余が私財を出して援助するから、貴殿が王都に来るまでに形にしろ」との事。
全く新しい音楽に非常に興味を持ったらしく、かなり協力的だった。
びっくりしたのは、その手紙を持ってやってきたのはアーリア本人だった。
前々からアーリアの《虹色の魔眼》の特性を利用して、ドラム以外に必要なアンプやエフェクター、何よりシンセサイザーの音作りが出来る機能を作り出すには、彼女の魔眼の特性である、『魔力の流れを視認して、容易に魔法を改変する』能力を屈指して、アンプとエフェクターのような魔道具を作る必要があった。
アーリアは、俺の魔法を直接見て魔法陣に書き起こし、それを元に魔道具を作ろうとしてくれたようなんだ。
約三日間かけて打ち合わせをした後、アーリアは帰っていった。
去り際に、
「今は振り向いてくれませんが、貴方様の音楽の野望を支えられるのはわたくし以外いませんわ。きっと、わたくしに振り向いてくれると確信しておりますの」
アーリアの宝石のような虹色の瞳は、とても強く輝いていた。
俺の決意を告げた際に言われた、レイとリリルの覚悟。彼女もそれを感じ取っていて、自分こそが俺の隣に相応しいと感じているようだったんだ。
全く、覚悟を決めた女性って、何でこんなに強いんだよ。
それを言った当時のアーリアは八歳になったばかり。この世界の皆、精神的に早熟過ぎるだろ!!
俺もレイとリリル、そしてアーリアに負けてられねぇな!
そして今から一ヶ月前、ついに試作品が完成した。
俺が王都に行く頃には試しに演奏できるだろうとの事。ドラムに関しても試作品が出来たらしいから、楽しみだ!
さらにはアーバインからも手紙が来ていて、王都に来たらピアノの家庭教師をやってほしいとの声がアーバインに多く届いているそうだ。仕事にはきっと困らないだろうな。
ここまで俺が王都に行く事前提に準備が進んでいるんだ。
父さんとの戦いに負ける訳にはいかない。
言い忘れたが、もしこの戦いに負けたら、父さんに勝てるまで王都に行かせないという。
そうなると全ての準備が遅れてしまう。
絶対に負けられない。
俺が今立っている場所は、学校の校庭だ。
全校生徒、そして教師陣が観客として集まっていた。
俺は皆が見守る中、父さんと本気で戦うんだ。
ちなみに、父さんはまだ来ていない。
約五分後、父さんが姿を現した。
黒のロングコートを来て、真剣を腰に帯剣している。
一度聞いた事がある、父さんは攻撃系魔道具を屈指した、対複数戦を想定して単独で撃破出来る剣士だと。
あのコートにはたくさんの魔道具が仕込んであるらしい。どんなのが仕込んであるのかはわからないけど。
「よぅ、ハル。逃げずに来たな?」
「当たり前だろ? 逃げたら俺の計画がすべて頓挫するからな」
「ふっ。それだけの野心があるんだ、俺を飛び越えていけよ?」
「いや、飛び越えない。叩っ斬る!!」
俺は右手に赤の名剣、左手に青の名剣を持つ。
最初から全力の二刀流だ。
「なるほど、そいつとやるのは初めてだから楽しみだ!」
「ああ、俺も父さんを乗り越えられるのが楽しみだぜ!」
「ふっ、言ってろ!」
俺達は互いに殺気をぶつける。
これはただの戦いじゃない、ガチの殺し合いだ。
ただし、死なない程度に斬り合う感じだ。
「さぁ、行くぞ、ハル!!」
「ああ、行くぜ、父さん!!」
俺達は殺気をぶつけ合いながら、斬りかかる機会を探り合う。
風が吹く音しか聞こえない中、ついに静寂を切り裂くように走って距離を詰めた。
最初に動いたのは、俺だった。
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