音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

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第九十五話 突撃、マイホーム!

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「やっぱりさぁ、馬車で十日は長げぇよ……」

 村を出て十日、俺はまだ馬車に揺られていた。
 村を出た直後はかなり悲しくて、しばらくは何も手をつけられなかったんだけど、王都に着いたらやる事がたくさんある。
 何とか気持ちを奮い立たせて、俺は馬車の中でTODOリストを作っていく。
 王都では本当にやる事が多いんだ。
 まず、王都に着いたらアーリアの所へ行き、エレキギターやベース、シンセサイザーにドラムの試作品を確認する。
 そして次にミリア達とバンドの打ち合わせ。これは全体練習も含まれていたりする。
 さらに、アーバインからの依頼で、王都にいる音楽家達にピアノのレッスンをして欲しいと頼まれていた。つまりはピアノの家庭教師だ。
 最初はアーバイン含めて十五人だったが、それを何とか七人にして貰った。もちろんその中にアーバインは含まれている。
 授業料は週一回の三時間って約束で、一回六万ジル。
 かなり高めだと思ったのだが、相手にするのはこの世界の音楽業界では重鎮と言われる存在だったりする。
 そして彼らが言い値でこの金額を提示してきたので、俺はとりあえず受ける事にした。
 また、アーバインのアドバイスで、しっかり彼らに俺の顔を売って仲良くすれば、音楽業界でかなり動きやすくなるだろうとの事。
 この気遣いには本当に感謝しかない。

「忙しいけど、寂しさを紛らわすには十分だよな……」

 多分、俺は音楽活動が軌道に乗らない限り、帰郷はしないと思う。
 この遠い距離を往復する時間すら勿体ないと感じているんだ。
 だから両親や妹のナリアには暫く会えない。
 あっ、父さんは多分王都に来る事があるだろうから、その時は会えるか。
 そして、レイとリリルに会えないのもとっても悲しかった。
 それに甘えちゃうからって理由で、成人するまで手紙のやり取りもしないって決めたらしい。
 つまり俺は、この二年間、一切の連絡を取らない状態でレイとリリルへの気持ちを維持しなくてはいけない。
 試されているのかもな、俺は。

 正直自信はあまりない。
 音楽にも打ち込むだろうから、きっと少なからず二人への愛情は薄れてしまうだろう。
 せめて、せめて! 手紙だけはオッケーにして欲しかったです、はい。

「ハル殿、王都が見えてきましたよ!」

 やっとか!
 俺は馬車から上半身を出して、その光景を見る。
 やっぱ、相変わらずでっかいわぁ、中世ファンタジーの城下町をまさに体現した素晴らしい王都、《リュッセルバニア》!
 俺は今日から、ここに住むんだよな。
 ちなみに住まいはすでに用意されている。
 最初王様が俺に屋敷をプレゼントするとか言っていたから、いらんって突っぱねたんだ。
 そうしたら、アーバインが自分が昔住んでいて貸家にしていた物件を持っていたらしく、それを譲り受けた。
 ちなみに家賃は、ピアノの授業をやってくれればいらないと言われたので実質タダ!
 さらにその家は防音処置を施されているようで、いくら爆音を鳴らそうが、外に音が漏れないそうだ。
 もう文句なしの物件だな!

 王都の入り口で俺は、従者さんと一緒に王都の住人になる手続きをしていた。
 事前に王様が手配をしていたようで、意外とそこまで時間がかからなかった。
 本来王都の住人になるには兵士さんとの面接、過去に犯罪歴がないかのチェック、そして住人証書が発行されるんだが、一万ジル支払うらしい。
 ちなみに住むんじゃなくて一時的に入る場合は、荷物チェックと千ジルを支払って入れるのだとか。
 さて、俺は王都の兵士さん達とはほとんどが顔見知りで、俺を面接してくれた兵士さんも知り合いだった。
 ほぼ元気だったかとかお互いの近況を語り合い、お金を支払ってさくっと審査は終了した。

 俺は再び馬車に乗り込み、俺の家へ向かっていった。
 馬車に乗りながら頭を出して、入り口からどういった経路で俺の家に向かうのかを、頭の中に叩き込んでいく。
 そして、ついに到着した!
 馬車から飛び出すように降りて、家の外観を見てみた。

「……マジかよ」

 俺は、驚いてしまった。
 だってさ、家って聞いていたから普通の一軒家かと思ったのさ。
 でもね、違ったんだ。
 何と、ちょっと小さめな屋敷だった。
 イメージとしては、前世で言う芸能人が建てた豪邸みたいな感じかな?
 庭も前世の一般家庭の一軒家より三倍程広いし、外から見てもわかる位に部屋数も多いみたいだ……。
 一人暮らしには広すぎるっての!
 すると従者さんが俺の傍に寄ってきて、話しかけてきた。

「主からの伝言です。『今後お前は幅広く音楽を活動するだろう。そうしたら仲間と寝食共にした方が都合がいい場合が出てくる。その時用に広めの家を用意した。好きに使って構わない』との事です」

「……うわっ、見透かされてるなぁ」

 確かにミリア達とバンドの話とかをするのに、常にじゃなくてもたまに寝泊まりする事もあるだろうな。
 本当、アーバインは気が利くからありがたい友人だよ。
 
 俺は屋敷に入る。
 目の前には、だだっ広い玄関が広がっていた。
 しかもソファが置いてあるから、客間としても使えるようだな。
 一階をざっくり見てみると、客室と思われる約十畳位の広さの部屋、トイレ、八畳程ある白のシンプルな風呂、そして広めなキッチンが設置されている。
 二階に上がってみると、部屋数は八つあった。
 七つほど部屋を覗いてみると、大体風呂と同じ八畳の広さだった。物は何も置いていないから、殺風景だったけど。
 そして最後に、一番奥にある部屋。これが広かった!
 約十五畳位あるんじゃないか? と思える程の広さで、一番日当たりが良さそうな場所だった。

「うん、決定! ここが俺の部屋だな!」

 もうね、一目見て気に入っちゃったよ。惚れちゃったよ。
 これだけ広いと書斎にも出来るし、ベッドを置いてもまだスペースがあるし!
 最高じゃん!!

「ハル殿、気に入っていただけましたか?」

「ええ、文句なしですよ! アーバインにお礼言っておいて下さい」

「しっかり伝えましょう。後、この家には地下室も御座います」

「えっ、マジ!?」

 俺は従者さんを急かして地下室へ足を運ぶ。
 地下室は玄関兼客間から行く事が出来た。
 階段を降りて木製の扉を開けると、そこにはかなり広い空間があった。
 壁は全て石造り。灰色一色の何もない空間だ。
 だが一目見てわかった。
 ここは、自由に演奏できるスペースだ!
 
 やっべぇ、楽しくなってきた!
 これから俺はここで、音楽家への第一歩を踏み出すんだ!!

 この先の未来を夢想していたら、いつの間にか悲しい気持ちは遠い彼方へぶっ飛んでいた。
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