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第九十六話 予定の詰まった一日 ――お城編1――
しおりを挟む俺の家に着いてから翌日の朝、俺はお城に向かっていた。
昨日は何だかんだめっちゃくちゃテンションが上がりまくって、地下室で思いっきり演奏してみたり、二階で一番広い部屋である自室のレイアウトをうきうきしながら考えてた。
今はベッドと本棚、そして実家で使っていた小さな机が置いてある程度だから、アーバインからの仕事をこなして金を貯めて、あの部屋を素敵な部屋にしてやろうじゃねぇか!!
ふっふっふ、俄然やる気が出てくるなぁ!!
さてさて、今日はとにかく忙しいぞ。
まず朝早くお城に行って王様と王太子様に挨拶とお礼だな。新しい楽器を作る支援をしてくれた事に対してな。
そして、アーリアから楽器の試作品を見せてもらう。製作はオーグの実家らしい。
昼食を済ませた後はアーバインの所へ行って、家庭教師をする偉い音楽家さんの面々と顔合わせをする。
そこで一人一人と細かいスケジュールの打ち合わせをする事になっている。
最後に夕方からはミリア、レイス、レオン、オーグの面々と合流する事になっていて、バンドの動き全体を決める為に俺の家で会議をやる事となった。
本当に今日は濃厚だぞ。
とりあえず、王様と王太子様の挨拶をしっかりやろう!
何か朝食は王様が用意してくれるらしいし、ラッキーだな!
まぁ仲が良かった兵士さん達にも会えるし、結構楽しみだなぁ。
俺は出店の準備で賑わっている通りを、スキップしながら通っていった。
「おっ、ハル君。随分大きくなったね!」
「お久しぶり! ってか、よく一発で俺だってわかったな!」
「そりゃ赤髪といったら、ハル君位だろう。結構珍しい髪色なんだし」
城門まで来た俺は、懐かしの兵士さんと握手を交わして軽く雑談をした。
この人と初めて会った時はまだ新米で、俺が訓練の手伝いを空いた時間に付き合っていたんだ。
城門の守衛はそれなりに実力がないと任されないらしいから、どうやらこの人はそれなりに強くなったんだろう。
「とりあえず、王様に会いたいんだけど、通っていい?」
「ああ、話は聞いているよ。玉座まで直接向かっていいそうだ」
「了解~。ありがと!」
「また時間があったら手合わせ頼むよ」
「あいよぉ~」
俺は門を潜って城の中に入る。
うん、約二年振りにはなるけど、あまり変わっていないな。
だけど見知らぬ兵士さんが結構いた。どうやら新人さんのようだ。
そして案の定、見知らぬ兵士さんに声を掛けられた。
「おい、そこのお前! どうやって入ってきた!!」
うっわ、やたら高圧的だな。
まぁしゃあないか、不審者として見られてるんだろうし。
一応証としては、俺の腰にぶら下がっている二本の名剣を見せればいいんだろうけど、剣に手を掛けたらさらに面倒な事になりそうなんだよなぁ。
「とりあえず、俺は正面から入ってきたけど」
「嘘を付くな! 城門は兵士がいるからお前のような子供を通す訳がない!」
クソ面倒だな、この人。
でも忠実に職務をこなしていると見れるからいいのかな?
とりあえず俺は事情を説明しようとしたのだが、話す間を与えてくれずにひたすら追い出そうとしている。
周りを見ても知り合いの兵士さんが運悪くいないし。
こりゃちとピンチじゃね?
「おい、お前。何やってるんだ」
おっ、聞き覚えのある声だ!
俺は声がした方に視線をやると、兵士さん達の隊長さんがいた。
おおっ、救いの手だ!!
「うっす、隊長さん。お久しぶり!」
「お前、ハル君か!? いやぁ、大きくなったし益々ロナウド殿に似てきたなぁ!」
「ふっふっふ、最高の褒め言葉だぜ」
尊敬する父さんに似てきたってのは、俺にとっては本当に嬉しい事なんだ。
俺と隊長さんがそんな挨拶を交わしていると、俺に絡んできていた兵士さんが叫び始めた。
「た、隊長!? この子供と知り合いですか!?」
「お前さぁ、朝の会議で行っただろう? 陛下とご懇意な子供が来るってさ」
「まさか、この子供があのハル・ウィードなのですか!」
この兵士さん、俺にめっちゃ指を指してくるんですけど。
失礼じゃありませんかねぇ?
「そう。この赤髪の子供こそ、《武力派》による音楽学校占拠事件をほぼ一人で解決、その直後に陛下と王太子殿下、ご病気のアーリア王女殿下のお命を救った奴だ。しかも勲章を堂々と蹴っ飛ばして『音楽で名を挙げる』と啖呵を切った、この国一番の大物って言われているハル・ウィードだ」
「……俺より弱そうに見えるんですけど」
ああ?
何だこいつ、さっきから俺を見下してくれちゃってるなぁ。
「ふっ、お前は相変わらず意気だけはいいな」
「だって子供ですよ? 負ける訳ないじゃないですか!」
「その子供に負けてるんだよ。俺も、音楽学校占拠事件の首謀者である、元王国騎士団長のヨハン・ラーヴィルもな」
「なっ!?」
おっ、随分懐かしい名前が出てきたな。
あの俺と戦いたいって言って、勃起しながら剣を振ってきた変態野郎。かなり剣に自信があったようだけど、やっぱり父さんと比べると微妙だったよなぁ。
「う、嘘だ。信じられないですよ!」
何なんだ、こいつ。
相当自分の腕に自信があるようじゃないか。
でもさっきから俺に指指しっぱなしだし、ちょっとムカついて来たなぁ。
「ねぇ隊長さん、これ、何なん?」
「ああ、すまないな。こいつは《ライル・ラーヴィルトン》って言って最近兵士になった新人だ。だが新人の中で一番腕が良くて、調子がいい時は俺と五分五分って実力だ」
へぇ、隊長さんとやりあえるんだ。
ならそこそこ強いんだな。
まぁ、俺には強さは届いてないな。
戦わなくても、それ位容易くわかるわ。
「えっと、ライルだっけ?」
「ああ、そうだが?」
「あんま容姿や年齢で人の強さを決めない方がいいぜ?」
「どういう事だよ」
「そういう風に油断してると、戦場ですぐに命を落とすからさ」
「意味わかんね――!?」
俺はさりげなく、レヴィーアを抜刀してライルの首筋に刃を軽く当てていた。
奴が気づいたのは、俺に突っかかろうとした時だった。
「はい、これで一回死んだぜ?」
「……」
実はこれ、父さんが過去に俺に繰り出した《無明》と同じ事をやったんだ。
父さんが放った《無明》のカラクリは、相手の視線を剣以外に意識をさせる。そして視角外から無駄無く高速に斬撃を放つんだ。
すると視角外からの突然の斬撃は、相手からしたら一瞬の煌めきのような攻撃に見える。
俺はそれを応用し、今のような零距離でも首を斬れるようにしたんだ。
これは魔法も何も使用していない。
純粋な抜刀技術だ。
一応名前は《早抜き》とした。
俺はレヴィーアを鞘に仕舞い、隊長さんへ話し掛けた。
「ごめん、今の見なかった事にしてくれねぇ?」
「……本来なら牢屋にぶちこむ所だが、俺の頼みを聞いてくれたら見なかった事にしてやる」
「何を聞けばいいのさ」
「陛下との用事が終わったら、訓練場に来てくれ。久々に手合わせしたい」
「おっ、そういう事ならいいぜ。俺、最近父さんに勝ったから、結構強くなってるぜ?」
「マジか!! なら最高の腕試しが出来るな」
「その後も予定があるから、そこまで時間取れないけどいい?」
「ああ、構わないさ」
「じゃ、城の用事が済んだら訓練場に行くよ」
俺は玉座がある広間へ向かって歩き出した。
ライルからの、恨みやら色々と感情が籠っている視線を背中に受けながら。
めっちゃくちゃ俺に敵意剥き出しなんですけど!
何か彼の燗に触るような事、したかなぁ?
まぁそんな些細な事を気にしててもしゃぁないな。
俺はライルの視線を華麗に無視して、玉座へ向かっていった。
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