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第九十七話 予定の詰まった一日 ――お城編2――

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 いやぁ、約二年振りですねぇ、謁見の間。
 相変わらず巨大な扉で、開けるのがとっても面倒臭そうだ。
 その分豪華な装飾がされているから、まさに王がいる所って感じだけど。
 扉を守っている兵士さんは、よかったぁ、顔馴染みだ。

「おっ、ハル君。久しぶりだね。随分と男前になったじゃないか」

「ちっす! 王様に会いたいんだけど」

「陛下は玉座に座って君を待っているよ。じゃあ準備はいいかい?」

「おう、準備オッケー!」

「相変わらずそのおっけーって意味が分からないが、大丈夫って事だよね?」

 この兵士さんはとっても面倒見が良く、高圧的な態度を取らない本当優しい人だ。
 この人にはよくご飯を奢って貰ったっけ。
 
 さて、そんな彼は重そうな扉をゆっくりと押して開けた。
 俺は兵士さんの後に続いて謁見の間を歩いていき、そして玉座に座る王様の前に辿り着いた。
 
「陛下! ハル・ウィード殿をお連れ致しました!」

「うむ、ご苦労。下がってよいぞ」

「はっ!」

 兵士さんは去り際に俺の耳元で、「最近美味い飯屋が出来たんだ。また奢ってあげるよ」と言ってくれた。
 おっ、奢りだったら喜んで行くぜ!
 俺は小さく頷いた。

「久々だな、ハル殿」

「ちっす、王様! 元気みたいっすね!」

 俺は二年前通りの挨拶をすると、周りがどよめく。
 見渡してみると、扉から王様の玉座まで一直線に、横幅大体三メートル位の赤い絨毯が敷いてあるんだけど、その左右を守っているかのように中年男性達が立っていた。
 皆この国を支える重鎮達なんだろうな。
 半数は二年前に顔見知りになった人はいたが、後の半数は知らない人だ。
 あっ、玉座の横には王太子様が立っていて、玉座の斜め前には宰相さんが立っていた。
 俺を知っている人達は懐かしいなと呟きながら苦笑していた。

「な、何と無礼な……!」

「これだから田舎者は!!」

「へ、陛下の御前であるぞ!!」

 俺の顔を知らない人達は、口々に俺を批難した。
 まぁ、完璧に俺がやらかしちゃったからなぁ。
 仕切り直そうとしたら、宰相さんが右手を軽く挙げてざわめきが収まる。

「皆の者、静かに。このハル殿は、唯一王家の方々と砕けた会話が出来る客人であり、命の恩人だ。ハル殿に限り、口調は見逃してやってほしい」

 宰相さんがそう言うと、俺を見てにっこり笑った。
 立派な白い髭のおかげか、優しいおじいちゃんって感じに思える。

「ハル殿、久しいな。すっかり立派になられたではないか。私は陛下と王太子殿下を救ってくれた事を、未だに感謝しているぞ。ありがとう」

「いいって、宰相さん! 俺も王様と王太子様が死んだら、”色々”困るしな」

 俺がそう言った瞬間、何処かから一瞬殺気が漏れ出てきた。
 俺が”色々”の部分を強調したのは、俺の敵になりそうな人間を見極める為だ。
 どうやらこの城の重鎮の中に《武力派》の一味らしい奴もいるらしい。
 当然俺は王様や王太子様の暗殺を食い止めたから、奴等からは憎い相手に思われているだろう。
 ちなみに”色々”の意味は、当然未だ顔すら見た事ない第二王子が王様になると困るよって事だ。
 殺気を放った奴が、俺の言葉の意図を一瞬で理解したようで、かなり俺を殺したいようだった。
 殺気を出したのは三人。正確な位置はわからなかったけど、表情を見て特定した。
 だってさ、まるで般若みたいな顔をしてるんだぜ? もうちょっと上手く表情を隠せよ。
 とりあえず、てめぇらの顔は覚えておく。
 
 すると、陛下も口を開いた。

「余からも改めて感謝させてもらう。本当にありがとう、ハル殿」

「別にいいですって。あんな奴等、大した事ないんで」

 おっと、俺の発言でさらに殺気が膨れ上がったぞ。
 王様もさすがに漏れ出た殺気を捉えられたようで、俺に頷いた。
 
「ではハル殿、朝食を取りながら歓談しようではないか。娘のアーリアも会いたがっているぞ?」

「俺もアーリアと色々話したかったから、早く会いたいっす!」

 ん?
 別方向から殺気とは違った、敵意というか恨みみたいな視線を感じた。
 誰だ?
 表情を見ても巧妙に平静を装っているから、特定できなかった。
 アーリアの名前を出した瞬間だったな。
 こりゃまた面倒そうな政策絡みなんだろうか?
 ま、今の俺には関係ないな。

「ではハル殿、余の後に着いてまいれ」

「了解っす」

 俺は王様、王太子様、宰相さんの後に続いて、王家の人間と宰相しか通れない通路を使って謁見の間を去った。
 少し歩いていると、王太子様がにやりといやらしい笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。

「ハル君、かなり上手くいったね」

「ああ、本当に面白い程に殺気を向けてきたよ、王太子様」

 王太子様とは結構仲良くさせてもらっていて、故郷にいた時も個人的に手紙のやり取りをしていた。
 どうやら俺が王都に着く三日前に成人――つまり十二歳になったようで、式典と王都全体で祝いの祭をやったそうだ。
 いいなぁ、俺はこの世界の祭を経験した事ないから、めっちゃ参加したかった!
 さて、話を戻すと、その手紙のやり取りの中で、王太子様からお願いされていた。

『ハル君。王都に着いたらなるべく早めに父上に謁見をしてほしい。重鎮の中に《武力派》のメンバーがいるようなんだ。そこで君が謁見した時に軽く挑発をしてみてほしいんだ。重鎮達の中に何かしらの反応があった場合、尻尾を掴む為にそいつらに偵察を張り付かせたいんだ』

 このような内容だった。
 俺があんな風に強調したりしたのは、彼からのお願いによるものだったんだ。
 案の定、見事なまでに引っ掛かってくれた訳だ。

「うむ、余も誰が《武力派》に関与しているのか、流石にわかったぞ」

「ええ、分かりやすすぎて笑えるレベルでしたね、父上」

 でも本当王族ってのは本当に大変なんだな。
 ただふんぞり返っているだけかと思うが、周りの部下達はそれぞれの思惑がある。
 宰相さんは忠臣らしいから問題ないが、あの重鎮達は皆何か腹に黒いのを抱えていそうだったな。
 おぉ、怖い怖い。
 俺は王族だけにはなりたくないや。
 
 俺達は食事をする部屋に到着すると、たたたたと小走りしてくる美しい銀髪の女の子がいた。容姿に似合わないサングラスを着けて。

「ハル様!」

「よっ、アーリア」

「ハル様、お会いしたかったですわ!」

 アーリアは俺の右腕に抱き着いて来た。
 お人形さんのような可愛らしい表情に、細いスレンダーな体躯。
 もうアーリアは立派なレディだった。
 まぁ胸は悲しいかな、ちょっとしかなく、腕には骨の感触しかない。
 残念だ、非常に残念だが問題ない。
 俺はきっと貧乳も大丈夫だ!

「これ、アーリア。はしたないぞ」

「だって、ハル様に会えたんですもの。はしゃいでも仕方ないではありませんか!」

「全く……。ハル殿絡みだと本当に言う事を聞きやしない」

 アーリアは俺の腕に自分の頬を押し当て、幸せそうな表情をしている。
 俺は不覚にも、アーリアが可愛いと思ってしまったんだ。
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