音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

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第百六話 予定の詰まった一日 ――音楽家庭教師編2――

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 アーバイン宅の第一ホールの扉の前まで着いた俺は、ちょっとした違和感を感じた。
 何だろう、扉の向こうから結構ガヤガヤ音が聞こえるんだけど。
 試しにアーバインを見てみると、俺から視線を逸らした。
 ……こいつ。

 俺は扉の向こうにサウンドボールを放り込んで、《集音》と《伝達》の指示を与えた。
 すると、第一ホールの部屋の音の招待がわかった。

「ハル・ウィードはまだかね!」

「私はもう彼のピアノの虜なのだよ」

「私は何度もピアノを練習しているのだが、どうにも彼のように弾けないのだ」

「これは恥を捨てて、しっかり教わるしかないな!」

「是非彼を、儂の孫と婚約を――」

「おっと、それは俺の娘と――」

「いいや、うちの子と――」

「「「ぐぬぬ」」」

 いやぁ、賑やかですねぇ、扉の向こうは。
 確かぁ、人数はそんなにいないって聞いていた気がするんだけどぉ、間違いかな?
 扉の向こうでは約二十人程の声が聞こえるんだけど?
 俺は自然とアーバインの胸ぐらを掴んでいた。

「わ、悪気はなかったんだ」

「あったらタチ悪すぎるだろう!!」

「お前のピアノは、音楽業界では伝説と言っていい程の騒ぎになっていてな。仲良くしている同業者にだけ家庭教師の話を持ちかけたのだ」

「じゃあそれが何でこんな大人数になってるわけ? 俺を過労死させてぇのか!?」

「いや、な。声を掛けた一人が『俺はあのハル・ウィードにピアノを教えてもらうんだ』と自慢をしたら――」

「……こうなった、と」

「……うむ」

「うむじゃねぇよ!! 俺の身体は一つだぜ!? どうやってこの人数捌けっていうんだよ!」

「……正直、すまないと思っている」

「なら謝罪を――」

「だが、私は謝らない!!」

「何でだよ!!」

 くっそ、また前世のネット世界でネタのように使われている言葉が出てきたし!
 俺はこれからもバンド練習したり、アーリアと楽器の話を詰めないといけないし、まだまだやりたい事がたくさんある。
 それなのに、おっさん達の家庭教師で時間を取られるなんて、まっぴら御免だ!
 
 するとアーバインは、焦っていた表情から急に真面目な表情になった。

「いいか。お前のピアノは聴いた人間を一瞬に魅了したんだ。そして音楽家やそれを志している者に憧れを抱かせたんだ。だがいざやってみると何をしていいのかわからない、何がなんだかサッパリだったんだ。もちろん、私を含めてね」

「つまり、何が言いたい?」

「つまり現状、ピアノはハルが独占している事になっている。となると、恐らくオーギュスト君は将来ピアノの買い手がなくなるぞ?」

 あっ、そういう事か!
 敷居が高過ぎるから、徐々にピアノを買いたいと思う者が少なくなって、オーグとしてはちょっと苦しくなっちまうって事か。
 そういやオーグが手紙で言っていたっけ、最近ピアノの製造依頼が少なくて頭を悩ませているって。

「なるほどな、この家庭教師はピアノのやり方をしっかりと教え、そして教えた音楽業界の重鎮達が弟子やら何やらに技術を伝播させてピアノを広める狙いがあるって訳か?」

「それもある」

「ん? 他に理由があるのか?」

「……私達も、お前のように格好良く弾きたいのだ!!」

「そんな大層真面目な顔で結局はそれかよ!!」

 俺は思いっきりアーバインの頭を引っ叩いた。
 アーバインは叩かれた頭を擦りつつ、続きを話した。

「それほどまでにお前の演奏は凄かったのだよ。八歳なのに妙な色気があったし、何より輝いていたんだよ、ハルがな」

「俺が?」

「うむ。まるで宝石のように輝いていて、女子生徒なんて皆お前に夢中だったぞ。ハルが村へ帰った後の女子生徒なんて、お前がいなくなって三週間程魂ここにあらずって状態だったんだ」

 そんなに?
 俺としてはただ普通にピアノを弾いていただけなんだけどなぁ。
 まぁでも、俺が独占してるのはちっと不味いかもな。
 
「はぁ、わかったよ。だけどスケジュールは俺の方で決めさせてもらうし、従ってもらうぜ?」

「ありがとう、ハル」

「まぁお前に教える時間は、極端に少なくするがな」

「ちょっ!? それは本気で辞めて貰いたい!!」

 必死か!
 俺の肩を掴んで揺さぶってくる。
 わかった、わかったからそんなに揺らさないでくれ!!

「冗談だって、全く!」

「い、いや。あまり冗談に聞こえなかったのでな。……つい」

「ほら、さっさと入ろうぜ!」

「うむ」

 アーバインが扉を開けると、パーティ用の部屋なんだろうか。二百人位が入りそうな広さだ。
 そこに約三十人位の老若男女がスーツをびしっと決めて立っていた。
 扉が開いた音で、そんな彼らが一斉に俺達の方へ向いてきたのだ。
 ちょっと怖いぜ……。

 アーバインの姿を見るや、皆頭を下げる。
 アーバインはこれでも公爵だからな。同じ業界人だとしても天と地の差位の身分の違いがあるようだ。

「皆の者、待たせてすまなかった。待ち望んだハル・ウィードが到着した!」

『おおっ!』

 そんなに俺の事待っていたのだろうか、アーバインの横にいる俺に一斉に視線が集まった。
 野郎に視線を向けられるのは、何か嫌だな……。
 いやぁ、本当アーバインと同い年の人もいれば、俺の父さんと同じ位の人もいる。中には息子と思われる小さい男の子を連れてきている人もいるな。
 
「ハル様!」

 ん?
 女性の声?
 声がした方を見ると、スーツの男性三人を引き連れたサングラスを着用したアーリアがいた。
 おまっ、何処にでも現れるな!
 所謂ストーカーか!?
 皆アーリアの姿を見た瞬間、アーバインも含めて片膝を地面に付けてお辞儀した。王族に対する敬礼だ。

「アーリア、何でここに!?」

「実はわたくしもピアノを習いたくて、ここに来ちゃいました!」

「ならさっき言えばよかったじゃんか……」

「そうなのですが、つい新しい楽器の演奏に心を奪われてしまいまして……」

 ちょっと恥ずかしそうに笑うアーリア。

「わたくしもハル様と出会ってから、演奏をしてみたいって思うようになりましたの。そこで一番心を奪われたピアノを是非習いたくて、お父様に許可を頂いてここに来ましたの」

「そうなんだ。じゃあアーリアも生徒希望って事でいいんだな?」

「はい!」

「本音は?」

「一秒でも長く、ハル様と一緒にいたいですわ! でも演奏してみたいのも本音です」

 あぁ、くそっ。
 こいつ、今俺がリリルとレイと離れて心に穴が空いているところに、狙ってないだろうがつけ込んできやがる。
 忙しくはなるけど、やはり恋愛的な寂しさは仕事では埋められない。
 俺は試されているんだ、これは女神様の試練なんだ!
 俺は耐えて耐えて耐え抜いて、リリル、レイと結ばれるんだ!!

「私、そんな試練は与えていませんが……」

 だまらっしゃい!
 今はそういう問題ではない!!
 って、ナチュラルに頭の中で女神様の声がしたぞ。
 あんた実は、暇だろ?

 ――次は無言かよ。

「オッケー。ちゃんとアーリアの分も予定組むから」

「ありがとうございます、嬉しいです!」

 目はサングラスで隠されているけど、きっと満面の笑みなんだろうな。
 ずっと前はこいつの事何とも思わなかったのに、少し意識している。
 だーっ! 頑張れよ俺!!

「とりあえずアーバイン、俺はどうすればいい?」

「あ、あぁ。とりあえず壇上まで行ってくれ。私も一緒に行くが」

「おう、じゃあ早く行こうぜ。またな、アーリア」

 俺は壇上へ向かう。
 その時すれ違っている人達から何か言われているような気がした。
 どれどれ、サウンドボールで小さいボソボソ声を拾ってみるか。

「あ、アーリア姫様を呼び捨て……だと?」

「ハル・ウィード、王族と懇意にしていると噂に聞いたが、まさかここまでとは」

「まさか、許嫁だったりするのか?」

「アーリア姫様、とっても綺麗。父上、私の許嫁に出来ないですか?」

「……無理だろ」

 そうだよなぁ、王族を呼び捨てに出来るのってなかなかいないよなぁ。
 俺も皆の前だったから、王族として接した方がよかったかな?

「アーバイン、アーリアを呼び捨てにするの、まずかった?」

「……まぁまずくはないが、色々噂は立つだろうな。そしてさらにお前に媚を売って、王族に自分の名を売ってもらおうとするだろうな」

「媚売っても俺は絶対に何もしないんだがな……」

「まぁ一晩極上の女をあてがわれるかもしれないな」

「極上、ね……」

 リリルとレイの方が極上だし。
 あっ、一応付けとかないと後でアーリアの機嫌を損ねてしまいそうだから、アーリアも極上だ。
 うん、これで大丈夫。楽器製作に遅れが出たらヤバイからな。

 俺とアーバインは壇上に上がった。
 壇上にはピアノが用意されており、演奏はいつでも出来そうな感じだ。
 多分何曲かは弾けって事なんだろうな。

「では皆の者、これからピアノ家庭教師の説明会を行う。話は長くなるかもしれないから、遠慮せずに椅子に座ってほしい」

 アーバインの言葉で、全員が一斉に座った。

「ありがとう。ではまず私から概要を説明しよう。二年前、音楽業界に颯爽と現れたこのピアノという楽器、相当話題になったのは記憶に新しいだろう」

 皆が一斉に頷いた。

「しかし、このピアノでの演奏を聴いた者以外は、これがどういうものか、どうすればいいかが具体的に分からず、手を焼いているというのが現状だろう。そこで私は、さらなる音楽業界発展の為に”我が友人”にして、唯一のピアノ演奏者であるハル・ウィードに家庭教師の件を依頼したのだ」

 アーバインの奴、”我が友人”って部分を強調したな。
 確か前に聞いた事あるが、貴族の友人ってのは身分を越えた平等の関係の事を指すらしい。
 つまり、俺に何かあったら、公爵であるアーバインも敵に回るという事なんだ。
 公爵個人の力ってどれ位なのかはわからんが、王族の次の次位に権力を持っているのだそうだ。
 まぁ、逆らうバカは早々いないって事らしい。

「ただし人数がかなり多い。そこでハル自身が予定を組む形になる。恐らくは一人二時間の授業にはなるだろうが、彼の身体は一つしかない。そこを考慮して頂きたい。もし、無茶な言い分が発生した場合は、私の名を持って退場してもらう。十分注意せよ。いいな?」

『はっ』

「アーリア姫様も、この場では王族の権限は発動出来ないものと思ってくだされ」

「大丈夫ですわ。誓ってハル様を困らせるような事は致しません」

 俺、アーリアのアタックに結構困っているんですけど、すでに。
 まぁ俺はそもそも身分とか全く気にしていないから、別にアーバインがわざわざアーリアに対して念押ししなくても無理なものは無理と断っていただろうけどな。

「では、我が友人のハル・ウィードからも挨拶頂こうと思う」

 えっ、何それ。
 聞いてないんですけど!

 アーバインを見ると、右目をウインクしてきやがった。
 くっ、音楽学校に入った際にも同じ事をされたっけ。
 野郎のウインクはノーセンキューだっつぅの!!
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