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第百七話 予定の詰まった一日 ――音楽家庭教師編3――
しおりを挟むはぁ、スピーチ面倒臭いなぁ。
まぁ仕方ない、これも金を得る為の仕事だと思えばさ。
でも俺は他人に何かを教えた経験って、ほぼ皆無なんだよなぁ、前世を含めてもね。
正直言えば上手くやれるかとっても不安だ。
だが何事もチャレンジだ、当たって死なない程度に砕けるか!
「えーっ、今アーバイン…………公爵から紹介に預かりました、ハル・ウィードと言います。現段階で唯一のピアノ演奏者です」
俺がこのように自己紹介をすると、教わりたい面々はざわつき、アーバインは笑いを堪えていた。
だって、事実なんだろう?
ならば俺が教えるっていう事がどれ位の事なのかをわかってもらった方が、実際いいと思うんだよね。
普通なら俺から教わった奴が別の奴に教えて金を取るんだろうけど、今の所音楽業界の中で自由に演奏できるのは俺だけらしい。
つまり、そう認知されているのなら強調する事で俺の方に直接家庭教師の依頼をしてくるんじゃないか、そういう風に思ったんだ。
実際上手くいくかはわからない。だけど貴族は限定感溢れる単語が大好きらしいから、大金を叩いても俺に依頼してくるんじゃないかな。
まぁそれで俺の活動資金兼生活資金を稼いで、活動を安定させていきたいんだ。
これも一種の営業だな。
「ここに集まっている皆さんは、本気で演奏できるようになってそれで稼ぎたいと野望を抱いている方々でよろしいですね?」
俺は集まっている皆に確認を取った。
すると、アーバインを含めて全員が頷いた。
いや、アーリアだけは首を横に振ったな。あいつは演奏はできるようになりたいけど、プロになりたい訳じゃないって事か。
「なるほど、アーリア…………姫様以外は本気という事ですね?」
「は、ハル様!? わたくしは稼ぎたいって思っていないだけであって、演奏できるようにはなりたいのですよ!?」
「はいはい、わかってるって。ちょっとからかっただけだ!」
アーリアは頬をリスみたいに膨らませて怒っている。
うん、迫力がなくて逆に可愛いと思うぞ。
「お、王女殿下をからかった……?」
「何者なのだ、この少年は」
皆からざわざわとざわめきが起こる。隣にいるアーバインも少し冷や汗をかいている。
「おいハル、お前は日頃王族の方々とこんな感じで接しているのか?」
「うん、そうだけど?」
「…………」
アーバインは軽くため息をついて、また正面を向いてしまった。
何だよぅ。
「さて、今回はこの通り、たくさんの方にお集まり頂きました。正直言ってこの人数だと、お一人に対してそこまで時間はかけられないでしょう。なので、私はとある方針を立てました」
『とある方針?』
この場にいた全員が、首を傾げながら声を揃えて言った。
「その方針とは、『チキチキ! 地獄の一年間スパルタピアノ教室!』です!」
『…………?』
うん、ごめん。
ノリで日本語でチキチキだったりスパルタって単語を入れてしまったよ。
そりゃ通じないな。
「まぁ簡単に言ってしまえば、本気でプロの演奏家になりたい人向けの、超絶厳しい教育方針って事です」
皆が超絶厳しいって部分にかなり反応して、人によっては唾を飲む音を出している。
しっかりとこっそり展開したサウンドボールが音を拾っております。
隣のアーバインも、緊張した面持ちになっている。
「俺もそれだけ本気で教えます。一年間耐え抜けば、皆さんは《ピアニスト》になれるでしょう」
『ぴあにすと?』
「そう、ピアニストです! この言葉は、ピアノのプロという意味を指す単語です。つまり、ピアノで金を稼げるレベルになった演奏家なのです!」
ここで俺は、この世界にないピアニストという単語を出す。
これによって貴族やお偉いさんが大好きな限定感を出し、俺の授業に対してのモチベーション向上を狙ったんだ。
皆の顔を見てみると――おお、分かりやすい位野心に溢れたギラついた眼をしていらっしゃる。
これだよこれ、音楽家ってのはこれ位積極的で上を目指さないと。
「ちなみに、ピアニストは現状俺だけですね。そんな俺から教われば、俺に続いてピアニストになれます。どうです、なりたくないですか?」
さらに限定感を煽る。
俺は、「唯一のピアニストである俺に教わる事が、次のピアニストへの近道だぜ?」と遠巻きに皆に言っているんだ。
だがしっかり皆に俺の言葉の意味が伝わっているらしく、眼の力強さが増した。
いいねいいね! 俺だけが上にいるのはどうにもつまらない。
やっぱり後から追い抜かそうとする人間がいないとさ、やる気すら出ないぜ!
現状の音楽業界は、言わば俺のワンサイドゲームだ。
全くライバルがいない状態で、ガチの一人勝ち。
だけど、そんなのは楽しい訳がない。
やはり、競える相手がいないと、人生すら張り合いはないってもんだ!!
「ハル、今のお前、とても悪い笑顔を見せているぞ……」
「当たり前だ、こんなにライバルがいるんだ。ワクワクしない方がおかしいだろ?」
「お前がこの仕事を引き受けた理由は、もしかして――」
「ああ、競い合える相手を作る事だ」
実は金だけじゃない、現状の一番の不満であるライバル不足を解消する為に、俺はこの仕事を承諾したんだ。
音楽は競い合って初めて、様々なジャンルが産まれてくる。
俺は、この世界でしかない音楽の誕生を、見てみたいんだよ。
だから俺が一方的に与えるんじゃなくて、音楽業界に新しい風を吹かせる立場にもなって欲しいんだ。
「アーバイン、あんたにも期待してるんだぜ?」
「っ!」
軽くアーバインも煽ってみた。
そう、完全な上から目線でだ。
最初は驚いていたアーバインだったが、火がついたのか鋭い眼光を俺にぶつけて、そして口角を釣り上げた。
「子童が、調子に乗りすぎだからそろそろ天上から引きずり降ろしてくれる!」
「はっ、調子に乗ってるんじゃなくて、事実だろ?」
「……否定できないのが悔しいが、私はお前に教わりつつ、牙を磨こうじゃないか」
アーバインも音楽業界をトップで走り続けた実績を持つ男だ。
現状は俺の実績の足元にいるんだ。さぞかし悔しいんだろうな。
まぁ俺と出会うまでは、傲っていて技術をさらに昇華させようともしていなかったようだし、今の方が生き生きとしていていい感じだぜ?
「ふっ、俺の方が若いから、さらに成長するぜ?」
「あまり老人を舐めるなよ? 人生経験の差で私はまだまだ上へ行ける!」
「ははっ、それは、燃えてくるな!」
「ああ、こんなにたぎるのは久方ぶりだ!」
俺達は教わりたい皆を放り出して、闘争心むき出しで向かい合っていた。
今ここに、友人兼ライバルの関係が出来上がった。
ははっ、本当に燃えてきて楽しいぜ。
「せいぜい俺に教わりながら腕を磨きたまえ、アーバイン君?」
「ああ。磨いて研ぎ澄まして、死ぬまでに一度切り刻んで見せよう!!」
ああ、何かこいつ、急に若返った気がした。
こりゃ老人とかからかえないな。
すると、俺達のやり取りを見て心が燃えたのだろう、皆も闘争心むき出しで俺に様々な言葉をぶつけてきた。
「若造が、私の意地を見せてやる!!」
「いずれ俺が、君を追い越してみせる!!」
「儂が真のピアニストになるんじゃ!!」
本当に、こういうのがいいんだよ。
前世ではここまで野心をむき出しにして立ち向かってくる奴なんていなかったしさ。
いや、社交的になりすぎで上品すぎたんだ。だから音楽業界は衰退してきたなんて言われてしまう。
きっと俺が求めていたのは、こういった追い付き追い越しっていうやり取りなんだろうな。
ふふっ、俺も結構餓えていたんだな。
楽しくなってきたぜ!
「この際言っておく! 俺が教える時は身分も歳も一切関係ない!! 俺がお前達の上で、お前達は俺の下だ! それはどうあがいても今はそれが事実だ。悔しかったら必死になって腕を磨いて、這い上がって見せろ!!」
俺は最後の煽りを言ってみた。
すると効果は絶大だったようで、アーバインを含めた皆が――
『やってやるよ!!』
と声を合わせて言ってきた。
もちろん、アーリアとアーリアを護衛する人以外は、だけど。
もう最高に楽しいぜ!!
「上等!!」
俺も、負けていらんねぇな!!
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何と、ついにファンアートを頂きました!!
水樹 悠莉様という読者の方から頂いた、レイちゃんです!
いいですね、いいですね!
太ももいいですねぇ!!
ありがとうございます、本当に嬉しいです^^
これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!
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