音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

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第百五十三話 三者三様の愛情 ――レイの場合――

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 今、俺はレイがいる部屋の扉の前に立っている。
 夕食を取った後に、彼女達の希望によって一人一時間ずつ、二人きりになる時間が欲しいと言われた。
 もちろん俺は快諾したんだが、いざ、今みたいに入ろうとすると心臓の鼓動が早くなって胸が苦しくなる。
 そう、何故か異様にドキドキしていた。
 今までも二人きりになる事なんて結構あったはず。何故今更こんなにドキドキしてんだよ!

 とりあえず俺は三回深呼吸を行った後、意を決して扉をノックする。
 コンコンと乾いた音が、部屋を移動する廊下に響き渡った。

「今開けるね」

 中からレイの返事が聞こえた。
 わざわざ開けてくれるらしい。
 扉の向こうからレイの足音が聞こえる。日本とは違ってこの世界は洋式スタイルだから、室内でも靴を脱がずに過ごす形だ。
 音からしてヒールを履いているのだろうか。
 って、あれ? さっき飯食ってた時はヒールじゃなかったような?
 さっきまでのレイは、黒のジャケットにタイツに近いぴっちりした白のズボン、そして脛まである茶色のブーツといった格好のはず。
 あいつ、部屋ではヒールで過ごしているのか? 彼女達が去って大体五分程度しか経ってないし、着替えだって出来る時間なんてないと思うんだけど。

 ガチャリと扉がゆっくり開く。
 扉が開ききり、俺の目に写ったレイは、官能的だった。
 たった五分で早着替えをしたのかちょっと息は切らしているけど、後頭部で結んでいた髪を下ろし、そして白のネグリジェの姿で俺を出迎えた。
 レイのしなやかで白い四肢が、俺の理性を崩していく。
 胸も普通にあり、正直言って性欲を持て余す位に沸き上がってくる。

 だめだ、こんなの、理性が持つ訳がねぇ!

「お、おま……何てかっこ――」

「さ、早く入って」

 俺はレイに手首を掴まれて、部屋に引き込まれた。
 細く見える割には身体をしっかり鍛えているのか、なかなかに引っ張る力が強かった。
 扉が閉まりきると、レイは官能的な格好で俺に抱き付いてくる。

(や、やめてくれ! 俺の理性がガリガリ削られていってる! あっ、いい匂い)

 無理無理無理無理!
 こいつ香水でも使ってるのか? すっごくふわっと良い香りがしたぞ!
 俺はレイの親御さんと結婚するまで手を出さないって約束してるんだぞ、ここで折れたら男じゃねぇって!!
 でもさ、ネグリジェって生地が薄いから、その、レイの暖かい肌の熱や柔らかさが伝わってくるんだが……。
 どうしたんだ、この積極性!?
 何かあったのか!?

 とりあえず俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、レイの肩を掴んで体から離した。
 ……名残惜しいけど。

「レイ、どうした? こんな積極的になっちまって……」

「……その、さ。僕、さ」

「うん?」

「じ、自分で思っている以上に、いやらしい……子だった、みたい」

 顔を手で覆い隠した状態で、額を俺の胸に当ててくる。
 か、可愛い!

「久々にハルに会えてさ、もうさ、もっとハルを欲しちゃってるっていうか……恥ずかしい!」

 つまり、つまりだよ?
 俺に抱いて欲しかったと!?
 こんな格好していたのも、俺を誘っているという事なんだよな?
 これは合意と見て宜しいですね!?

 これ以上、女の子に理由を聞いて恥をかかせる訳にもいかないな。
 俺はレイを抱き寄せようとした時だった。
 やはり、思い止まった。

「俺もさ、そんな素敵な格好されて、かなり我慢の限界が来てる。レイを俺のものにしたいって思ってる」

「! じゃあ――」

「だけど、俺は約束したんだ、レイの両親にさ。結婚するまでセッ――じゃなかった、抱かないって。レイだけじゃない、リリルとアーリアの両親とも約束してる」

「えっ、僕が内緒にしていれば――」

「まぁそうなんだけどさ。俺はどうも難儀な性格のようだ。ただでさえ三人も婚約者がいて不誠実極まりない事をやっちまってるからさ、せめて両親との約束だけは守りたいって思ってる」

「……破天荒な事ばかりやっているのに、こういうところは変にきっちりしてるね」

「俺もそう思うわ。レイの言う通り、内緒にしていればいい話なんだけど、どうも俺がそれを許さないみたいだ」

「まぁ、ハルらしいね」

 レイが頬を赤く染めながら、少し呆れたような笑顔を見せる。
 俺もさ、本当は脱・童貞したいよ!?
 でも、こういう約束だけはしっかりと守りたいのよ、俺!
 
「せっかくの魅力的なお誘いだけど、色々レイと話をしたいな。一時間しかないけど」

「うん、それでも嬉しいよ」

 俺とレイは手を繋いでベッドまで歩き、そして腰掛けた。
 やっぱりレイの今の格好、良い意味で目に毒だわ……。

「そ、そういえば、レイはこの二年間はどういう修行をしてたんだ?」

「うん、ロナウド殿に弟子入りをして、剣の腕を磨いたよ!」

「えっ、父さん!?」

「そうだよ! とても辛かったけど、その分充実した日々だったよ」

 修行の日々を想像してか、うっとりした表情をするレイ。
 うん、その格好でその表情は本当止めて。
 マジでエロいです……。

「それでね! ついにロナウド殿に勝てるようになったんだよ! しかも本気のロナウド殿に!!」

「マジで!? すげぇじゃん!」

 ついに父さんに勝てるようになったか!
 父さんの本気って事は、魔道具をフル活用した、あのコマンドー剣士スタイルだよな?
 そりゃマジで凄いぞ!
 俺だって結構ギリギリで勝ったからなぁ。
 
「どうやって勝ったんだ?」

「うん、《ゴッドスピード》をとにかく突き詰めたら、攻撃する瞬間まで光の粒子でいられるようになったんだ。後は絶妙な瞬間に起動して一太刀入れて勝ったんだ」

「……マジチート魔法じゃねぇか」

「ちーと? まぁよくわからないけど、今ならハルともいい勝負出来ると思うよ」

「へぇ、随分自信あるみたいじゃねぇか」

「まぁね。なら、僕と真剣勝負、するかい?」

 さっきまで優しい表情だったのが一変して、鋭い眼光をギラつかせた剣士の表情になる。
 ほんの少し前まで官能的な格好も相まって妖艶だったのが、格好すら気にしなくなる程の、一級品の闘気をぶつけてくる。
 父さんに勝った事で、本当に剣士としても成長したんだろうな。
 気迫やその存在感を見るに、以前のレイと思って舐めてかかると、確実に俺が負ける。

 しかし、何だろう。
 レイのこの眼を見た瞬間、体に電流が走ってゾクゾクしたんだが……。
 武者震いなのか、はたまた俺はMっ気に目覚めてしまったのか……。
 でもレイと戦ってみたいのは事実だな。
 なら、決まりだな!

「ああ、今度時間を作るから、本気で勝負しようぜ」

「うん! 僕の剣技がどれほどになったか見てよね!」

 白い歯を見せて小さく笑うレイに、俺の心臓が高鳴る。
 ああ、本当に、こいつはなんて魅力的なんだろうか。
 ってか、きっと今の俺の顔、すっげぇ情けない事になってるんだろうなぁ。

「ねぇ、ハル」

「ん?」

「僕はね、きっと君の隣にいるのがふさわしい女じゃないと思う。でもね、好きになっちゃったんだ。ハル以外あり得ないって思っちゃったんだ。僕は君が僕を拒絶するまで、その隣で、肩が触れあう程、君の傍にいたい」

 レイが俺の体に体重を預けてくる。
 俺にふさわしくないけど、傍にいたいという決意が声色でしっかりと伝わってくる。
 俺は俺にふさわしい女を求めている訳じゃないのにな。
 レイだから、年齢と全く比例しない位大人びていて綺麗で、麗人だったせいか男勝りで剣術好きで、だけど自分が女だとわかったらすっかり恋する乙女な思考でさ。それに俺に尽くしてくれようとする。
 俺はそんなレイだから、好きになったんだ。
 そんなレイだから、結婚したいって思ったんだよ。
 俺のそんな風に思っているなか、レイは言葉を続ける。

「君はきっと爵位を貰って領地も賜るだろう。でも、平民上がりのハルには領地運営はきっとわからないだろ? だから、ロナウド殿との剣術修行の合間を縫って、父上から領地運営学を学んでいたんだ。領地運営で苦しむ君を助ける為にね」

 レイは、そこまで俺との将来を考えて、あの二年間を過ごしてくれていた。
 本当にすっげぇ嬉しい。
 こんなに一途な愛情を受けるなんて、前世では全くなかったから。
 この世界は、本当に俺が前世で欲しくても味わえなかった事を、こんなにも与えてくれるんだろう。
 もうさ、前世への未練なんて、これっぽっちもない。
 俺はこの世界で、人生をもっと謳歌して骨を埋めたい!

 そんな思いのせいか、気が付いた時にはレイを覆い隠すように抱き付いていた。

「は、ハル!?」

「……レイ、大好きだ。ずっと傍にいてほしい」

「……うん、傍にいるよ。君にふさわしくないのは――」

「ふさわしいとかふさわしくないとか、どうでもいい! 俺は、ただただレイが好きだ。惚れた! 理由は、単純でいいじゃねぇか」

「ほ、本当に、僕でいいの?」

「ああ、レイじゃなきゃ、嫌なんだよ」

「……ああ、嬉しいよ。本当は僕だけだったら尚よかったんだけど、他に二人もお嫁さんいるからなぁ」

「すまないとは思う。でもさ、リリルとアーリアも、レイと同じ位好きなんだ。許して欲しい」

 身勝手な事言ってるよなぁ、俺。
 レイも呆れたのか、軽く溜め息をついた

「本当、ハルは身勝手だ。結構僕はこれでも容姿端麗で、他の男子からもかなり告白を受けていたんだよ? それだけでも贅沢なのに、他に二人もなんだから、身勝手で欲張りだよねぇ」

「……それは、自覚してる」

「それで周囲もめっちゃめちゃに巻き込んじゃってさ。でも、不思議と君は、最良の結果に引き込む力と不思議な魅力があるんだ。だから何だかんだ言って、僕の恋人は自慢しても恥ずかしくない、凄い男だよ」

「……レイ」

「もう一度言うね。僕はハルを愛しているよ。何があったとしても、僕は君の敵にならない」

「普通そこ、『僕は君の味方だよ』って言う場面だろ……」

「完全な味方になっちゃったら、君に対して意見を言えなくなっちゃうだろ? だから、僕は中立の立場でいる。でも敵には絶対ならない」

「……なるほど」

「でもね、いつも僕の心は、君の傍にいるから……」

 レイが自分の顔を俺に見せると、静かに目を閉じて唇を差し出す。
 無言でのキスのおねだりだった。
 ああ、こいつは本当に綺麗だから、俺の心臓は破裂しそうなんだけど。

 俺は軽く深呼吸をして心臓を落ち着かせて、レイの無言の要求に応えた。
 何の音も聞こえない、静寂な時間が部屋を支配していただろう。
 しかし俺の心臓の音が激しく耳に聞こえ、俺の唇から伝わるレイの柔らかな感触が、俺の体に更なる熱を与える。
 とても、甘美な空間だった。

 そして、名残惜しそうに唇を離す。

「……僕、息吸うの忘れてた。頭がちょっとクラクラするよ」

「……そっか」

 実は俺もなんだけど、内緒にしておこう。

 それから俺達は抱き合いながら、互いの話を色々した。
 剣術の話もそうだけど、結婚したらどういう事をしたいのかとか、そんな他愛もないことをずっと。
 約束の一時間が来るまでは。

「はい、一時間終了ですわ!!」

 とても甘い時間だったのに、ノックもなしに扉を開いて現れたアーリアによってぶち壊された!
 ああ、もっと余韻に浸りたかったのに!

「さぁさぁ、レイさんもハル様から離れてくださいませ! 後がつっかえてますのよ!?」

「後一分、一分だけでいいから!」

「そんな起きたくない子供みたいな言い訳は見苦しいですわよ! さぁハル様、次ですわよ?」

「うわぁぁん、ハルぅぅぅっ!」

 何か、おもちゃを取り上げられて泣いている子供のようだな、レイ……。
 俺はアーリアに手を引っ張られながら、次はリリルが待つ部屋へ移動した。
 ああ、俺ももうちょっとレイといたかったわぁ……。



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