微笑む似非紳士と純情娘

月城うさぎ

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第二部

51.麗の遭遇

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*一部表現を変えました*
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 終業時間が来ても、多忙の東条さんの一日が終わるはずもなく。6時を過ぎた頃に私は一人会社を出る事にした。次から次へ仕事が回されて、いつも以上に忙しそうな東条さんを見たら、帰ったらお茶でも淹れて上げたくなる。

 ・・・って、何だその帰ったらっていうのは!!

 何だかすでに東条さんの家が自分の家と勘違いしていない、私!?違うからね、私の家はあくまで響と住んでるあの家であって、東条さんにはご厄介になっているだけの居候だから!婚約してても別に同棲とかしているわけじゃないから!!

 まったく、自分の発想にうろたえてどうするんだ。甘い時間を一緒に過ごしただけでこうも心境の変化があるとか、自分の気の早さに呆れてしまうし、同時に顔も赤くなる。うわ、うわー!これってでも世間一般で言う、家族公認の同棲ってやつなんじゃないのかな!?

 「・・・あ、でも鍵もらってないや・・・」

 はたと気付く。
 そういえば今朝も一緒に出てきたし、週末も一緒に行動してたから鍵(東条さん)は傍にあった為、必要性を感じなかった。でもこうやって今日みたいに帰りがいつになるかわからないなら、私先に帰ってて夕飯とか仕度した方がいいんじゃないの?

 今日東条さんは私と帰るつもりだったらしいけど、それを司馬さんが許してくれなかった。あの冷静沈着で職務に忠実な司馬さんは、一言「社長」と冷ややかに呼びかけるだけで、東条さんの動きを先回りして制した。
 そして溜息を吐いてから東条さんはすっかり帰宅準備の出来た私に、どこかで時間を潰しててくれないかと伝えてきたのだ。あまり遅くならないうちに迎えに行くから、と。申し訳ないと謝ってくれる東条さんに、「私の事は気にしないでがんばってください」とだけ言って社長室を後にした。今朝一緒に出社しても、帰り時間も一緒とは限らないのは当然だし、それに文句をつける気はさらさらないよ。

 実家に戻れない以上、今は東条さんの家にお邪魔するしかなくて、ちょっと申し訳ない気持ちになるけど。すっかり私の荷物が揃っているあの家は、第二の自分の家になりつつあると思う。図々しい考えだとは思うけど!それがどこか甘酸っぱくって、ちょっと嬉しい。でも自分から鍵を強請るのはちょっとまだ、ね・・・。

 「それに鍵を貸してもらっても、住所覚えていないんだよね・・・」

 ダメダメじゃん、自分!
 ずっと車だったから、最寄の駅からどうやって東条さんのマンションまで行けばいいのか実は知らなかったり。住所を調べれば一発で出るけど、住所すら覚えていないとか!自分のダメさ加減に呆れてしまった。帰ったら後で東条さんに住所くらいは訊ねてみよう。

 1階までエレベーターで下りて、エントランスまで向う。同じく帰宅する社員の波に乗るように歩いていたら、後ろから「あ、長月さん!」と声をかけられた。

 振り返ると、そこにはすっかり顔なじみになったお2人・・・広報担当の南まどかさんと、如月小鳥さんだ。丁度2人の帰宅時間と重なったらしい。

 ここで遭遇するなんて珍しいなあ。2人とももう夏らしい色使いの服を着てて、どことなく爽やかだ。満面の笑顔で手を振りながら近付いてくる二人を素直に好ましいと思ってしまう。こんな無愛想で無表情女の長月にも分け隔てなく付き合ってくれるなんて、優しく出来たお嬢さん方だ。

 「お疲れ様です。今お帰りですか?」
 パタパタと近寄ってきた2人に声をかけた。ふわふわのパーマがかったボブヘアーの小鳥さんが頷く。

 「はい!今日は残業なしで帰れることになりました。長月さんもお仕事は終わりましたか?」
 「ええ。私は一応パートの派遣社員なので、基本定時に帰宅できるんです」

 時と場合によるけどね。
 でも基本は定時で上がれるのだ。よっぽどのことがない限り、今まで残業をした事はない。

 「あら、そうなの!ねね、じゃもしこの後用がなかったら、三人でご飯食べに行かない?」
 キレイな巻き髪を胸元で揺らしながら、まどかさんがにこやかに尋ねた。隣で小鳥さんが「いいですね!是非行きましょう長月さん」と誘いをかけてくれる。

 うーん、どうしようかな。
 2人とはそこそこ親しい仲だし、ご飯くらい行っても大した問題にはならないと思う。それに東条さんも何時になるかわからないし、一人でご飯を食べに行ってもねえ?

 一度食堂で食べている所に2人もいたしも、大丈夫だろう。
 明るい性格の2人は素直に好ましいし、私を無駄に敵視したりしないから居心地が悪いと感じた事もない。数秒考えた所で頷いた。

 「やった!よし、飲むわよー!」
 はりきってお店を探そうと意気込むまどかさんに、小鳥さんが苦笑いする。

 「え~先輩、月曜から飲むんですかー?」
 「いいのよ!酒は飲んでも飲まれなければ!それに長月さんにはいろいろと訊きたい事もあるし~?」

 ニマニマと笑い出したまどかさんは、私の腕を取って会社から見える左方向を指差した。

 何とな~く嫌な事を訊かれそうなんだけど、あえて訊こう。何を訊くつもりですか!

 「いろいろとは?」
 
 釣られて指を指した方面を眺める。あっちの方に何があったっけ?

 くすり、と微笑んだまどかさんは、小さな声で、私がお昼ご飯をいただいたお店の名前を呟いた。

 「見ましたよ~?長月さんったら、あんなイケメン2人もお知り合いだなんて。くぅ~羨ましい!これは根掘り葉掘り聞きたくなるわよね!小鳥」
 「はい、先輩!」と、小鳥さんが元気よく頷く。

 「長月さんの周りってイケメンばっかりいる気がするわ~。社長と司馬さんだけでも目の保養なのに、その上お昼を一緒に食べてた2人もかなりハイレベルでしたよね!写真撮らせてもらいたかった~!!」

 一瞬脳がフリーズした。
 え、まさかあのお店にこの2人がいたの!?それともたまたま通りがかって見られてたの!?
 
 一応店内をぐるりと見回したけど、全く気付かなかった。そして社員の人がいないか懸念はしていたけど、まさか本当に見られていただなんて・・・だから顔が良くて目立つ隼人君たちとはいたくなかったんだよー!余計に注目されて噂立てられるの、私なんだから!

 「ささ、お酒でも飲みながらゆっくり語り合いましょう!薬指の指輪についても聞きたいですし?」
 「あ、私も長月さんの旦那様のお話聞きたいです~!」

 がっちりと両腕をとられて否応なしに歩かされて。早くも私選択間違えた!?と内心で焦る。鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌な二人の足を止めたのは、私の待ったの一声でも、ましてや上司である司馬さんや東条さんでもなくて。

 まるで見知らぬ若い青年だった。


 ◆ ◆ ◆

 オフィスから20mほど離れた場所で、ガードレールに軽く腰を乗せてじっとしていた青年が立ち上がる。少し長めの前髪に、地味なフレームの眼鏡。ダメージ加工がされたジーンズにスニーカーを履き、黒いTシャツは若干ロック系にも見える。そこら辺にいそうな大学生くらいの青年は、私達が通り過ぎると同時に後ろから声をかけた。

 振り向きざまにその青年は私の手首を掴むと、ぐいっと引っ張る。突然の出来事に呆然とする2人の拘束から解放されて、今度は初対面と呼べる青年に何故か捕まっている。この状況は一体なんだ!?

 「見つけた」
 小さく呟いた声を聞いた瞬間――。まさか?と、冷や汗をかく。

 ゆっくりと目線をあげたそこには、パッと見誰だかわからない大学生位の青年だけど。その声と眼差しは、既に何度も面識があるもので。でも忙しいはずの彼がここにいるはずがないと自分の考えを否定してしまう。

 「えっと、長月さん?お知り合い?」

 困惑気味に背後からまどかさんに尋ねられて、はっとした。自分でも何が起こっているのか状況の整理が出来ていなかったから、すっかり後ろの2人への配慮を忘れていた!いきなり若い青年が現れて手首を掴んできたら、そりゃ困惑するし戸惑うよね・・・。私もかなり戸惑っているんだけれども!

 「・・・長月?」

 ちらり、と上から下まで確認されて、そして顔を覗きこまれて。何か納得したように頷いた彼は、淡々とマイペースに告げた。

 「友人です。ちょっと彼女借りるから、ごめんね」
 「え、え?ちょ、ちょっと待っ・・・!」

 人前で名前を呼ぶのはまずい!と咄嗟に判断して、慌てて口を閉じる。手首を掴まれたまま目の前に駐車していた車の後部座席に乗せられて、さすがに焦った。動揺する2人に、車が発車する前に窓から一言謝罪する。ぎこちない顔のまま、彼女達はいきなりの拉致事件にひたすら驚いた様子で呆然とする。そして車が走っていく方向をじっと車が左折するまで見つめていた。

 ◆ ◆ ◆

 「・・・聞いた?小鳥」
 「はい、ばっちりと」

 突然の逃走劇を目撃した気分に浸ったまどかと小鳥は、思わず顔を見合わせた。そして徐々に興奮を抑え切れなくなり、頬を紅潮させる。

 「今の声って・・・まさか!まさかよね!?」
 「ええ、間違いないですよね!嘘、何で長月さんったら"彼"ともお知り合いなんですか~!?」

 これはまた明日問い詰めなくては!

 先ほどまでの呆然振りから打って変わって、意気揚々とはしゃぎ始めた2人は、その後行きつけの居酒屋で謎だらけの社長第二秘書について語り合ったのだった。
 
 















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