微笑む似非紳士と純情娘

月城うさぎ

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第二部

54.一大イベント前夜

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 何事もなく無事一週間を乗り切れると思っていた、金曜日。
 
 今週の初めに、突然のK君出現で微妙な別れ方をしてしまった私は、何度か時間を見つけてまどかさん&小鳥さんの2人に謝ろうと思ったけれど、未だに会えずにいた。
 お詫びが出来なくて申し訳ない気持ちと、追求されたら困るからはぐらかしたい気持ちが半々で。実はタイミングが合わずにいたことに、密かに安堵していたりもする。

 まあ、また来週にでも会えればいっか。
 お互い忙しいし、フロアも違うから仕方がない。そんなことを考えながら仕事を片付けていたら。丁度昼休みに入る10分前、社長室に来訪を告げる音が響いた。

 ◆ ◆ ◆

 「お疲れ様です!最新号の社内報をお持ちしましたー!」

 噂をすれば影がさす・・・って、マジか。
 扉を開けた司馬さんの後ろから現れたのは、ずっと会えずにいた人物。若干やつれ気味のまどかさんと小鳥さんだ。忙しかったのか、疲れているように見えるけど、瞳が爛々と輝いている。もしもし小鳥さん、まどかさんが喋っているからいいけど、社長じゃなくて隣に佇む司馬さんを見すぎじゃありませんかね。目からハートのビームが出てる勢いだよ。間近で司馬さんが見れて幸せそうだけど、それはファンとしての心理なのか、実際に恋しちゃってるのか。ちょっとだけ気になるところだ。

 笑顔で東条さんは、出来上がったばかりの雑誌を受け取る。見出しには新規の事業や開発されたばかりの商品の紹介、今月のニュースなど。そしてそれらを押しのける勢いで、でかでかと写っているのが、東条さんの写真と以下4名だった。

 ああ、ついに出来たんだ・・・社内のいい男ランキングの結果発表が。
 予定より早い気がするのは、きっと彼女達ががんばったからだろう。

 恐らく中は堂々と東条さんの写真が使われている。1位と2位は不動で、大方の女子社員の予想通り。5位までは写真つきで、6位からは名前と部署のみの発表だそうだ。そして1位から5位まではインタビューまで載っている。

 えーと、これって何のアイドル雑誌ですかね。
 でも記念に何冊か取っておこう!もしかしてあっという間に売り切れ(別に売ってはいない)になるかもだし、なくなったらまどかさん達に融通をきかせてもらうか。

 パラパラと目を通した東条さんは静かに雑誌をデスクに置いて、目の前の2人に微笑みかける。

 「ありがとうございます。後でゆっくり読ませてもらいますね」
 
 破壊力満点の微笑は、さぞやお疲れの2人には眩しすぎるだろう。
 2人が僅かに目を逸らしそうになったのを、私は見逃さなかった。流石社内のいい男ランキング一位の東条さん・・・女子社員にそんな笑顔を振りまけば、ファンも増える一方だよ。ちょっとだけもやもやするのは、複雑な乙女心の所為だ。って、ダメダメ!今は婚約者じゃなくて、ただの一介の秘書なんだから!


 そしてお昼時間になり2人が社長室を出て行く時――まどかさんと目が合った。好奇心旺盛な彼女の瞳がきらり、と輝く。え、待って。今何考えたかな!?

 「長月さんも今からお昼休みですか?」

 笑顔で尋ねられて、ちらりと司馬さんに確認する。無言で小さく頷かれ、私は淡々と一言「はい」と告げた。

 「そうですか、それなら丁度よかった」
 「はい?」

 怪訝な顔で尋ねると、黙っていた小鳥さんがおっとりと話し始める。

 「実は私達もなんですよ~。今からお昼なんで、是非ご一緒しましょうね」
 「というわけで、社長。少し長月さんをお借りしますね」

 実は押しが強かった小鳥さんに驚いていたら、すかさずまどかさんが東条さんに告げた。そして気付くと右側にはまどかさん、左側には小鳥さんががっちりと私の腕をホールドして、両開きの扉を目指す・・・って待った待った!

 戸惑いながら後ろを振り返ると、苦笑を抑えて東条さんが手を小さく振ってくれる。女性同士の交流も少しは必要だと思ってくれているのなら、一応嬉しいけど!隣で東条さんをちら見して見下ろしている司馬さんのなんとも言えない微妙な表情も気になるけど!今日は会うことないだろうと思っていた相手に不意打ちで会うとか、いきなり来られると心の準備が・・・!

 「さあ、長月さん。折角だから外で食べましょうね!」

 こうして私はエレベーターに乗るまで、まるで囚われた宇宙人のような格好で連行されたのだった。

 ◆ ◆ ◆

 ランチに選んだ場所は、この前隼人君&桜田さんと食べたカフェだった。
 何故よりによってこのお店・・・そして同じテーブルで同じ店員さん!!ここは私の指定席じゃないはずだけど!?

 「今日のオススメは~・・・あ、このスパゲティーセットいいじゃない。あ、でもミニハンバーグとオムライスも捨てがたいわね・・・。明太パスタも食べたいんだけど」
 
 ぶつぶつメニューを見ながら悩むまどかさんに、小鳥さんがくすくす笑いを零す。

 「先輩相変わらずメニュー決めるの遅いですよねー。私はシーフードカレーにします。長月さんは?」
 「え?ええ、そうね・・・じゃあ、今日のオススメのビーフシチューをサラダセットで」

 適当に目に飛び込んできたのに決めた。未だに悩んでいたまどかさんは、最終的には私と同じメニューをオーダーした。ウエイトレスのお姉さんにお水をもらって、喉を湿らした後。前の席に座る2人がずずい、と前のめりになり、瞳を輝かせて唇が弧を描いた。

 「結局この前訊けなかったから、今日はたっぷり喋ってもらいますよ?まずは、この店で一緒にいたイケメン2人はどなたですか!まさかどちらかが長月さんの旦那さん!?」

 え、隼人君か桜田さんが!?
 それはないよ・・・。長月の設定で既婚者ってことにはなってるけど、何故よりによって麗の関係者を巻き込まなきゃいけない。架空の人物にしておかないと、色々とややっこしい!

 「ただの知人です。たまたまお2人の食事中にお店に入った私が、一緒に食べるよう勧められて相席になっただけです」

 嘘ではない、よね?
 正確には、店の前を華麗に立ち去ろうとした私を、瞬間移動した(ように見えた)隼人君に捕まって、強制的に座らされたんだけど。朝姫ちゃんについての尋問が目的で。良かった、癒しの美少年、桜田さんも一緒にいてくれて・・・!余計に面倒な混乱を招いた気もするが。

 「知人って、何だ~ご主人ではないのかー。残念」
 がっくりと肩を落とすまどかさんの肩を叩いて、小鳥さんが呟く。

 「私達はたまたま帰り途中に目撃しただけでしたけど、お2人共もてそうですよね~!もしあの2人がうちで働いてたら、今回の結果も変わってたでしょうね」
 「そうね!かなり盛り上がってたわね!1位から4位が誰になるかで。5位以下の存在が霞みそうだわ」

 何故か興奮し出した2人を眺めながら、思わず乾いた笑みが零れる。
 あの2人が刑事じゃなくて東条セキュリティーの社員だったら?って想像すると、桜田さんはいいとしても隼人君がそうだったら・・・背筋がゾゾって凍るんですけど・・・!物凄く黒い物を笑顔で閉じ込めて、上司や部下をうまく使いながら、ちゃくちゃくと出世していくエリートサラリーマンになりそうで怖い。そして笑顔で東条さんと談笑する場面とか、見ているこっちがハラハラしそうになるんですが!女子社員の憧れの的になりながら、必要以上に近寄らせないそっけなさも漂って、東条さん同様女性嫌いの噂が流れそうだ。そして朝姫ちゃんもかなり危険な状況になりそうだよね・・・社長の妹でも、隼人君は容赦しなさそうだし。

 ここまで容易に想像できて頬が引きつりそうになるのを、水を飲むことでごまかした。派遣先に身内がいるとか冗談じゃない。

 うちに来ないかな~と夢見ているお2人を見て、つい口を挟んでしまう。

 「ちなみにあの2人は、警視庁の刑事さんですよ。あんな見た目だけど・・・」
 
 運ばれてきたサラダにフォークをつき立てながら告げたら、「「刑事!?」」と食い着いて来る。
 
 「はい、だからうちに転職とかは無理・・・」

 そう最後まで言わないうちに、2人の目の色が変わった。

 「イケメン刑事ー!?キャー萌えるー!!」
  
 え、萌えるの!?
 ツボがさっぱりわからない私は、暫く楽しそうな2人を眺めながら黙々とビーフシチューを食べ始めた。

 ◆ ◆ ◆

 食後の紅茶を飲みながら、食休みをしていたら。ふいに謝罪をまだしていないと思い出して、小さく頭を下げた。

 「あの、この間はすみませんでした。折角誘っていただいたのに、急にあんな風に去ってしまって・・・」

 正確には、連れ去られてしまって、だと思うけど。
 本当は蒸し返したくない話なんだけど、この2人もあの格好でK君本人とは思わないだろうし、大丈夫・・・

 と思ったのは、甘かった。

 キラン、と瞳を光らせたまどかさんは、カチャンとコーヒーをソーサーに戻した。そして誰にも聞こえないような小声で、話しかけてくる。

 「別に失礼だとか思っていないから気にしないで?気になっているのは別のところだから」
 「は?別・・・と、言いますと」

 なにやら嫌な予感がしなくもないけど・・・。隣の小鳥さんは、耳をすませながらコーヒーゼリーを口に運んでいた。

 声を潜めてまどかさんは私に内緒話をするように、確信めいた声音で告げる。

 「長月さんって顔が広いのね。まさかAddiCtのKとも知り合いだなんて」
 「・・・!」
 
 絶句して固まる私に、小鳥さんはにっこりと笑いかけた。
 
 「心配しないで下さい。誰にも言ってませんから」

 何で・・・
 何であの短時間で気付かれた!?

 イケメンレーダーを内臓している乙女、侮りがたし。
 がっくりと肩を落としたい気持ちでいっぱいになった私は、答えられる範囲内で更につるし上げになる覚悟を決めたのだった。
 
 ◆ ◆ ◆

 その後長月の架空の夫がどんな人か、結婚はいつしたのかなど、尋ねられた質問に考えていた答えを伝えた。そして辿り着いた社内の入り口で2人と別れた。

 嘘でも限りなく本当を混ぜることで、全てが嘘にならなくなる。信憑性も増すし、多分不審な発言はしていないと思う。

 一人で歩いていると、先ほどまで賑やかさが蘇ってくる。2人は明るくて可愛くて一緒にいると楽しいけど、これが長月を演じている今だけだと思うと少し悲しくなった。だから必要以上に特定の人と仲良くならない方がいいのに。知らない間に関わりすぎているような気がして、ちょっとだけ気落ちした。嬉しいけど困る。騙しているのは私だし仕方がない事だけど、出来れば嫌われたくないから。

 ちゃっかりと出来たての社内報をいくつか取って、記念に保存しておく。エレベーターの中でぺらぺらと捲ったら、東条さんの写真や司馬さん、そして3位に霧島さんが入ってる事に驚いた。5位以内は確実って言われてたけど、まさか3位になるとは!随分がんばったじゃないか、霧島さんは。

 そして今日は珍しく東条さんと同じ時間に帰れることになった。
 東条さんの運転でマンションまで到着すると、ふいに思い出したかのように東条さんが告げる。

 「そうでした、明日は11時頃には出ましょうか」

 冷蔵庫を漁っていた私は間抜けな返事を返した。あれ?明日どこかに出かける予定って入っていたっけ。

 「どこか行くんですか?」
 
 疑問符を浮かべながら首を傾げると、数回瞬いた東条さんは、「ああ」と言った。何か忘れていたと気付いたような声で。

 「すっかり伝えた気でいましたが、まだでしたっけ?明日は両親に麗を紹介することになっているんです」
 「・・・・・・え?」
 
 ぽかん、と口を開いたまま硬直する私に、東条さんは優しく頭を撫でて、抱きしめてきた。

 「早く会わせろと言われてまして。ふふ、緊張なんてする必要ないですよ?朝姫も来ることですし」
 
 がたがたと震える私に気付いて、安心させるように後頭部にもキスを落とされたけど・・・そうじゃねえ!

 「何でそんな大事な事をもっと早く言ってくれないのー!?」

 よりによって前日!?婚約者の両親と会うだなんてドキドキイベントを突然告げられて、これが緊張せずにいられるか!
 
 「しまった、美容院!あ、ネイルも!?ってか、服とか考えてない!」
 
 どうしよう!?
 焦りまくる私と対照的に、東条さんは優しく微笑むだけで。終いには、「どんな格好でも麗が可愛いのは誰の目から見ても明らかなので、問題ありませんよ」と、まるで身内贔屓のような甘い言葉を投げかけられた。

 そ、それはきっと貴方限定だと思う・・・!
 
 この日の夜、私はほとんど眠ることが出来なかった。
























************************************************
次回ようやく白夜の両親登場・・・!の、はずです。
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