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第三部
36.<閑話>傍迷惑な逃亡劇②
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遅くなりました…番外編の続きです。
前半は白夜視点、ヤンデレにご注意ください。
********************************************
突然ですが、私は妻を溺愛しています。
「好き」の一言では表せないくらい、彼女を愛しています。その愛がどれくらいかと問われると比較は難しいですが、彼女の願いはなんだって叶えてあげたいし、彼女が望むならこの国の首相にだってなってみせましょう。
正直、私の麗への気持ちは、半分も彼女に伝わっていないと思っています。周囲に言わせると、どうやら私の愛は重いのだとか。己の気持ちに忠実に行動すれば、彼女が好き過ぎてなにをしでかすかわからない。そう思われているのはなんと言いますか、心外ですけれど。否定できないのも事実。自分でも時折思うのです。私の心を全て見せたら、きっと可愛い私の奥さんは裸足で逃げ出すだろう、と。
可愛くて愛おしくて、朝から晩まで一日中愛でていたい大好きな私の麗。笑った顔も怒った顔も、拗ねた時の表情も可愛く甘えてくる声も、全てが私を惹きつけてやまない。寝息を立てて眠る姿を見るのは、至福の時間でしょう。もちろん、眠るまでの過程も堪らなくさせてくれますが。
ですが彼女を手に入れるには、それはそれは忍耐の連続でした。誰かを心の底から欲したことなど無に等しく、ここまで時間がかかるものなのかと驚きと同時に狩猟本能も刺激されましたっけ。私の中にも、雄の狩りとしての本能が存在していたのですね。それを思う存分発揮させていただきましたよ。ええ、全力で彼女の捕獲の為に奔走したのも今ではいい思い出です。
本来なら入籍を済ませた新婚夫婦はひとつ屋根の下で暮らしているはずですが、私と彼女はいまだに半同棲状態。本格的な二人の生活は、結婚式を終えた後の予定なのですが……なんていうことでしょう。新婚生活を始める前に離婚の危機だなんて。これは一体、誰の冗談なのでしょうね?
「……白夜様」
電話の通話が切れる音が室内に響いてから数秒後。空気を読むことに長けている司馬が、固い声音で私の名前を呼びました。つい先ほどまでスピーカーから電話内容を聞いていた室内とは思えないほど、静かで重くるしい空気が漂っています。まあ、その発生源は私なのですが。
「司馬、今の古紫室長の電話を聞いていましたね?」
「はい」
「タイミングがいいのか悪いのか、明日から五日間お盆休みでしたね。社員も全員休む予定ですが、念のため確認します。特に緊急の予定は入っていませんでしたよね?」
すぐにタブレットを使い確認する司馬は、一言ありませんと返答しました。その答えに頷いた私は、椅子の背もたれに背を預けて思案します。
「仕事は休んで実家に麗を連れて戻る予定でしたが……、どうやらそちらをキャンセルしなければいけませんね。ついでに彼女を避暑地へ連れて行こうと思っていたのですが、それも見送りですか」
「白夜様、……」
名前を呼んだあとになにか言いよどんだ司馬は、私の顔を見て表情を強張らせます。おや、なにを引きつった顔をしているのでしょうか? 私はいつも通りですよ。ええ、誰に対しても平等に、穏やかで優しく丁寧に……
「司馬、今すぐ警視庁の桜田さんに電話を繋げてください。それと全ての主要な交通機関に連絡を。まずは国外に行かれないように、空港を抑える必要がありますか。彼女の名前と同じ乗客は本人確認が取れるまで引き留めておくようにと。ついでに海斗にも協力を要請しましょう」
「…………かしこまりました。ですが、ひとつ確認を。古紫室長が仰っていた内容は、本当なのですか?」
『――東条さんが別の女とホテルに入るのを目撃したうちの麗がショックを受けてな~』から始まった宣戦布告のことですか。なんというタイミングでしょうねぇ。悪魔の悪戯とでも言いたくなります。
「なにを勘ぐっているのかわかりませんが、誤解ですよ。昨夜は学生時代の友人数名がとあるホテルで集まっていたんですよ。クラス会と言いますか、まあ生徒会の仲間だった連中です。私は仕事の終わり次第だと思っていたのですが、まだ飲んでいるという連絡を受けたので顔出し程度に行ったのです」
「女性と二人でホテルへ、というのは?」
「ほろ酔いだった一人がわざわざ外で出迎えてくれたのですが、よろけた瞬間に身体を支えただけですよ。ホテルに入ってすぐに彼女の夫に引き渡しました。その奇跡的な瞬間を、まさか麗に目撃されるとは……」
「なんという運の悪さ……」
不憫な、と司馬の目が語っていますが、これも自業自得なのでしょうか。麗には昨夜のことは一言伝えておこうと思っていましたが、彼女は時に驚くほどの行動力を発揮させてくれます。まさかこんな事態になるとは……
「五日以内にこの鬼ごっこに勝たなければ、私の愛しい妻は戻ってこないかもしれない、ということですね。しかも相手は麗だけでなく、古紫家もですか……。なんという厄介な展開でしょう。ですが、たとえ古紫家が相手だとしても、この私から逃げ切れると本気で思っているわけではありませんよね?」
護衛につけている彼らも素人ではありません。麗には伝えていませんが。知ったらきっと彼女は自分が守られる立場にあることに戸惑いを隠せないでしょう。まだ公には結婚したことを発表していませんし、保険と言えば保険なのですが。なにかあってからじゃ遅いので。
ですが、万が一ということもあります。向こうもプロ。尾行が得意なら、尾行を撒くのも得意なはず。麗はまだ私がつけた護衛の存在に気付いていないようですが、古紫室長と彼女の同僚が気づかないはずがありません。いつバレてもおかしくはない状況。私の純粋な麗に、様々な情報を植え付けられるのも時間の問題でしょう。
……ふふ、本当に。私の奥さんは私を本気にさせるのが上手い。
「どうやら私の愛情表現は足りなかったようです。あんなにも愛を伝えていましたのに、まだまだ不足していたのですねぇ。出来れば仕事を辞めさせて、家に閉じ込めて私が信頼している相手とだけ面会させて、私だけを見つめて欲しいのに」
「犯罪です、白夜様。監禁は犯罪です」
司馬の冷静なツッコミに、「しませんよ。嫌われますからね」と答えれば、あからさまにほっとされました。なんですかその疑いが消えていない眼差しは。私は犯罪者になる予定はありませんよ。
ですが本音を言えば、私だけを見つめて欲しいし私だけにあの笑顔を見せてくれればいいのに……と、自分の中で抑えられないほどの暴走した愛が疼くことはあります。理性で抑えているだけですが、それもいつまで保つのやら。
「逃がしませんよ。絶対に捕まえます。私の持てるだけの力とコネを全力で使ってでも、すぐに見つけだしましょう」
そして私の愛がどれだけ深いのか、思い知らせて差し上げなくては。
……ねぇ、麗。私から逃げようとした罪は、重いですよ?
◆ ◆ ◆
その日警視庁のとある一室では、極秘の緊急捜索室が設けられていた。指揮を執るのは、若きアイドル管理官の桜田笑30歳。高校生にしか見えない童顔で、彼は呆れたため息を吐いた。
「東条グループの後継者、東条白夜氏の妻が失踪した。妻というのは公表されていない為、今回極秘で行方を捜査することになっている。期間は本日から五日間。その間に東条麗――旧姓、一ノ瀬麗は、古紫家のバックアップのもと全力で夫から逃げるそうだ。我々はそれを断固阻止し、早急に東条白夜氏のもとへ彼女を連れ戻さなければならない。さもなくば、今後東条セキュリティの協力は得難くなることと、東条グループとの繋がりも断たれる恐れがあり……」
総勢十名ほどの捜査官を集めた室内にて、手元の資料を読み上げる桜田の声は次第に弱く、震えてくる。扉の付近で堂々とたたずむもう一人の管理官の同期を、桜田は思いっきり振り返った。
「っつーか、なんなんだよ古紫! こんなのただの痴話喧嘩じゃねーか!! 麗が自主的に失踪して古紫家がサポートするのも意味わかんねーよ。人捜しはお前の十八番だろ。俺と代われよ!」
「それは無理。今回の指揮は桜田が執るようにと上からの命令である通り、僕も古紫の一員として彼女側につくようにと命令されているから。可愛い僕の従妹を、浮気されたかもと不安に陥れた東条白夜の罪は重いんだよ」
「誤解なんだろ!? ならさっさと和解すりゃーいいじゃねぇか」
「そうなんだけどね、これは検証でもあるから。東条家が本気を出した場合どこまで動けるのか。また彼女もどこまで一人前になれたのか、とね」
「迷惑すぎる……! 明日からお盆休みだっていうのに」
「基本、祝日関係なく働くのが警察だけど、確かにちょっと可愛そうだから。お盆に休む予定のある者は遠慮なくこの捜査から抜けていいよ。他の案件に手を焼いている者もね。いざとなったら桜田一人で健闘してもらうから」
「俺は巻き添えじゃねーか!」
十名ほどいた室内は、隼人と桜田を含めて五名にまで減った。しかし目論み通りである。残った人物は古紫家の秘密も知っており、また上層部からの評価が高い優秀な警察官。そしてまだ独身。家族サービスなどの配慮を考える必要は、とりあえずなくなった。
「サイバーテロ関係の対策局からも人員が確保出来て良かったね?」
「お前の言動は他人事過ぎるぞ! まさかこっちの情報を麗に渡すつもりじゃねーだろうな?」
「しないよ。それじゃ公平じゃないじゃない。それに僕たち古紫も、必要以上に麗ちゃんに干渉しないことになっているんだ。これは彼女の試練でもあるからね」
どういうことだ? と首を傾げた同僚に、簡単に隼人は説明する。そして手助けは最低限のみと伝えれば、若干桜田の顔がげんなりした。
「なんか、麗も酷な気がしてきたぞ……。こんな大げさなことにまで発展すると思ってなかったんだろう。慌てふためいて逃げ惑う姿が目に浮かぶ」
「兄さんは可愛い子を容赦なく谷底に突き落とすタイプだからね。でも彼女もバカじゃない。なかなか使える人材に成長していると思うよ。
東条グループに恩を売っておけば、今後警察としても何かとやりやすくなる。悪いけど、皆付き合ってあげて。全力で僕の従妹を捕獲するつもりで」
数名の部下にそう告げた隼人を見て、一瞬戸惑いが混じった空気が流れたが、彼らはぎこちなく頷いた。
「お前も容赦なく谷底に突き落とすタイプじゃねーか……」
そう告げた桜田に微笑み返し、隼人はその部屋を後にした。
************************************************
9月に似非紳士文庫①が刊行されることになりました。
これも応援してくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます。
今年中には似非紳士も完結させたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
前半は白夜視点、ヤンデレにご注意ください。
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突然ですが、私は妻を溺愛しています。
「好き」の一言では表せないくらい、彼女を愛しています。その愛がどれくらいかと問われると比較は難しいですが、彼女の願いはなんだって叶えてあげたいし、彼女が望むならこの国の首相にだってなってみせましょう。
正直、私の麗への気持ちは、半分も彼女に伝わっていないと思っています。周囲に言わせると、どうやら私の愛は重いのだとか。己の気持ちに忠実に行動すれば、彼女が好き過ぎてなにをしでかすかわからない。そう思われているのはなんと言いますか、心外ですけれど。否定できないのも事実。自分でも時折思うのです。私の心を全て見せたら、きっと可愛い私の奥さんは裸足で逃げ出すだろう、と。
可愛くて愛おしくて、朝から晩まで一日中愛でていたい大好きな私の麗。笑った顔も怒った顔も、拗ねた時の表情も可愛く甘えてくる声も、全てが私を惹きつけてやまない。寝息を立てて眠る姿を見るのは、至福の時間でしょう。もちろん、眠るまでの過程も堪らなくさせてくれますが。
ですが彼女を手に入れるには、それはそれは忍耐の連続でした。誰かを心の底から欲したことなど無に等しく、ここまで時間がかかるものなのかと驚きと同時に狩猟本能も刺激されましたっけ。私の中にも、雄の狩りとしての本能が存在していたのですね。それを思う存分発揮させていただきましたよ。ええ、全力で彼女の捕獲の為に奔走したのも今ではいい思い出です。
本来なら入籍を済ませた新婚夫婦はひとつ屋根の下で暮らしているはずですが、私と彼女はいまだに半同棲状態。本格的な二人の生活は、結婚式を終えた後の予定なのですが……なんていうことでしょう。新婚生活を始める前に離婚の危機だなんて。これは一体、誰の冗談なのでしょうね?
「……白夜様」
電話の通話が切れる音が室内に響いてから数秒後。空気を読むことに長けている司馬が、固い声音で私の名前を呼びました。つい先ほどまでスピーカーから電話内容を聞いていた室内とは思えないほど、静かで重くるしい空気が漂っています。まあ、その発生源は私なのですが。
「司馬、今の古紫室長の電話を聞いていましたね?」
「はい」
「タイミングがいいのか悪いのか、明日から五日間お盆休みでしたね。社員も全員休む予定ですが、念のため確認します。特に緊急の予定は入っていませんでしたよね?」
すぐにタブレットを使い確認する司馬は、一言ありませんと返答しました。その答えに頷いた私は、椅子の背もたれに背を預けて思案します。
「仕事は休んで実家に麗を連れて戻る予定でしたが……、どうやらそちらをキャンセルしなければいけませんね。ついでに彼女を避暑地へ連れて行こうと思っていたのですが、それも見送りですか」
「白夜様、……」
名前を呼んだあとになにか言いよどんだ司馬は、私の顔を見て表情を強張らせます。おや、なにを引きつった顔をしているのでしょうか? 私はいつも通りですよ。ええ、誰に対しても平等に、穏やかで優しく丁寧に……
「司馬、今すぐ警視庁の桜田さんに電話を繋げてください。それと全ての主要な交通機関に連絡を。まずは国外に行かれないように、空港を抑える必要がありますか。彼女の名前と同じ乗客は本人確認が取れるまで引き留めておくようにと。ついでに海斗にも協力を要請しましょう」
「…………かしこまりました。ですが、ひとつ確認を。古紫室長が仰っていた内容は、本当なのですか?」
『――東条さんが別の女とホテルに入るのを目撃したうちの麗がショックを受けてな~』から始まった宣戦布告のことですか。なんというタイミングでしょうねぇ。悪魔の悪戯とでも言いたくなります。
「なにを勘ぐっているのかわかりませんが、誤解ですよ。昨夜は学生時代の友人数名がとあるホテルで集まっていたんですよ。クラス会と言いますか、まあ生徒会の仲間だった連中です。私は仕事の終わり次第だと思っていたのですが、まだ飲んでいるという連絡を受けたので顔出し程度に行ったのです」
「女性と二人でホテルへ、というのは?」
「ほろ酔いだった一人がわざわざ外で出迎えてくれたのですが、よろけた瞬間に身体を支えただけですよ。ホテルに入ってすぐに彼女の夫に引き渡しました。その奇跡的な瞬間を、まさか麗に目撃されるとは……」
「なんという運の悪さ……」
不憫な、と司馬の目が語っていますが、これも自業自得なのでしょうか。麗には昨夜のことは一言伝えておこうと思っていましたが、彼女は時に驚くほどの行動力を発揮させてくれます。まさかこんな事態になるとは……
「五日以内にこの鬼ごっこに勝たなければ、私の愛しい妻は戻ってこないかもしれない、ということですね。しかも相手は麗だけでなく、古紫家もですか……。なんという厄介な展開でしょう。ですが、たとえ古紫家が相手だとしても、この私から逃げ切れると本気で思っているわけではありませんよね?」
護衛につけている彼らも素人ではありません。麗には伝えていませんが。知ったらきっと彼女は自分が守られる立場にあることに戸惑いを隠せないでしょう。まだ公には結婚したことを発表していませんし、保険と言えば保険なのですが。なにかあってからじゃ遅いので。
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……ふふ、本当に。私の奥さんは私を本気にさせるのが上手い。
「どうやら私の愛情表現は足りなかったようです。あんなにも愛を伝えていましたのに、まだまだ不足していたのですねぇ。出来れば仕事を辞めさせて、家に閉じ込めて私が信頼している相手とだけ面会させて、私だけを見つめて欲しいのに」
「犯罪です、白夜様。監禁は犯罪です」
司馬の冷静なツッコミに、「しませんよ。嫌われますからね」と答えれば、あからさまにほっとされました。なんですかその疑いが消えていない眼差しは。私は犯罪者になる予定はありませんよ。
ですが本音を言えば、私だけを見つめて欲しいし私だけにあの笑顔を見せてくれればいいのに……と、自分の中で抑えられないほどの暴走した愛が疼くことはあります。理性で抑えているだけですが、それもいつまで保つのやら。
「逃がしませんよ。絶対に捕まえます。私の持てるだけの力とコネを全力で使ってでも、すぐに見つけだしましょう」
そして私の愛がどれだけ深いのか、思い知らせて差し上げなくては。
……ねぇ、麗。私から逃げようとした罪は、重いですよ?
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その日警視庁のとある一室では、極秘の緊急捜索室が設けられていた。指揮を執るのは、若きアイドル管理官の桜田笑30歳。高校生にしか見えない童顔で、彼は呆れたため息を吐いた。
「東条グループの後継者、東条白夜氏の妻が失踪した。妻というのは公表されていない為、今回極秘で行方を捜査することになっている。期間は本日から五日間。その間に東条麗――旧姓、一ノ瀬麗は、古紫家のバックアップのもと全力で夫から逃げるそうだ。我々はそれを断固阻止し、早急に東条白夜氏のもとへ彼女を連れ戻さなければならない。さもなくば、今後東条セキュリティの協力は得難くなることと、東条グループとの繋がりも断たれる恐れがあり……」
総勢十名ほどの捜査官を集めた室内にて、手元の資料を読み上げる桜田の声は次第に弱く、震えてくる。扉の付近で堂々とたたずむもう一人の管理官の同期を、桜田は思いっきり振り返った。
「っつーか、なんなんだよ古紫! こんなのただの痴話喧嘩じゃねーか!! 麗が自主的に失踪して古紫家がサポートするのも意味わかんねーよ。人捜しはお前の十八番だろ。俺と代われよ!」
「それは無理。今回の指揮は桜田が執るようにと上からの命令である通り、僕も古紫の一員として彼女側につくようにと命令されているから。可愛い僕の従妹を、浮気されたかもと不安に陥れた東条白夜の罪は重いんだよ」
「誤解なんだろ!? ならさっさと和解すりゃーいいじゃねぇか」
「そうなんだけどね、これは検証でもあるから。東条家が本気を出した場合どこまで動けるのか。また彼女もどこまで一人前になれたのか、とね」
「迷惑すぎる……! 明日からお盆休みだっていうのに」
「基本、祝日関係なく働くのが警察だけど、確かにちょっと可愛そうだから。お盆に休む予定のある者は遠慮なくこの捜査から抜けていいよ。他の案件に手を焼いている者もね。いざとなったら桜田一人で健闘してもらうから」
「俺は巻き添えじゃねーか!」
十名ほどいた室内は、隼人と桜田を含めて五名にまで減った。しかし目論み通りである。残った人物は古紫家の秘密も知っており、また上層部からの評価が高い優秀な警察官。そしてまだ独身。家族サービスなどの配慮を考える必要は、とりあえずなくなった。
「サイバーテロ関係の対策局からも人員が確保出来て良かったね?」
「お前の言動は他人事過ぎるぞ! まさかこっちの情報を麗に渡すつもりじゃねーだろうな?」
「しないよ。それじゃ公平じゃないじゃない。それに僕たち古紫も、必要以上に麗ちゃんに干渉しないことになっているんだ。これは彼女の試練でもあるからね」
どういうことだ? と首を傾げた同僚に、簡単に隼人は説明する。そして手助けは最低限のみと伝えれば、若干桜田の顔がげんなりした。
「なんか、麗も酷な気がしてきたぞ……。こんな大げさなことにまで発展すると思ってなかったんだろう。慌てふためいて逃げ惑う姿が目に浮かぶ」
「兄さんは可愛い子を容赦なく谷底に突き落とすタイプだからね。でも彼女もバカじゃない。なかなか使える人材に成長していると思うよ。
東条グループに恩を売っておけば、今後警察としても何かとやりやすくなる。悪いけど、皆付き合ってあげて。全力で僕の従妹を捕獲するつもりで」
数名の部下にそう告げた隼人を見て、一瞬戸惑いが混じった空気が流れたが、彼らはぎこちなく頷いた。
「お前も容赦なく谷底に突き落とすタイプじゃねーか……」
そう告げた桜田に微笑み返し、隼人はその部屋を後にした。
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9月に似非紳士文庫①が刊行されることになりました。
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