61 / 66
Extra story (後日談、ネタバレ注意)
薬師の夢、騎士の想い ①
しおりを挟む
ロカの木の根元に群生するアカヒラカサタケを採取する。
アカヒラカサタケは素手で触れると被れてしまう為、木で作った匙を使って革の袋に入れる。
全て取ってしまわない様に、ある程度の数を確保すると袋の口を縛り採取を終える。
この場所は森のごく浅い場所であり、後ろを振り返れば森の外の草原が目に入り、私の周囲を警戒してくれている連れが居る。
森と草原の境目に戻ると小さな影が近付いて来た。
「師匠~、見て下さい。
アマギ草を見つけました」
弟子のアルルが自慢げに青い小さな花を付ける珍しい薬草が入った籠を掲げた。
「あら、よく見つけたわね。
今の時期のアマギ草は大地の魔力を蓄えているから高い薬効を得られるわ」
私がアルルを褒めていると、周囲を警戒していた男が声を掛ける。
「それは希少な薬草なのかい?」
男は穏やかな笑顔を浮かべているが、その体はしっかりと鍛え上げており、腰に下げた使い込まれた剣がその力量の一端を表していた。
彼はククイさんと言う帝国の騎士の1人だ。
騎士団の仕事が非番の日には、私とアルルの薬草採取に同行してくれるのが日課になっている。
「ええ、本来はもっと森の奥に入らないと手に入らない薬草なんですよ」
「ほう」
ククイさんが興味深げに薬草を覗き込んだ。
彼の顔が急に近づいて来た為、私の心臓は少し鼓動を速める。
ククイさんに気付かれない様にいつも通りの顔を心掛けながら薬草の見分け方や簡単な使い方を説明する。
彼はこうして少しずつ薬草について覚えてくれる。
その為か、騎士団の隊では1番薬草に詳しくなったらしく、最近では衛生騎士を目指さないかと誘われたりもしていると言っていた。
私とククイさんの関係はいわゆる、友達以上恋人未満と言う奴だ。
彼が私に好意を持っている事には気付いている。
彼も私の気持ちに気付いているとは思う。
しかし臆病な私達は、今の関係が壊れてしまう事を恐れてお互いの気持ちを伝える事が出来ずにいるのだ。
『もし、この考えが思い違いで、彼が私と一緒に居るのはただの親切心なのでは……』
そう思うと、今のままで良いのではないかと思ってしまうのだ。
旦那さんの胸倉を掴み上げて『男ならそろそろケジメをつけて下さい』と言って退けた師匠とは大違いだ。
3人で昼食を済ませた私達は、もう少し森で採取を続けようと、軽く身体をほぐしているところだった。
森の脇の細い道(街道では無く、狩人や樵が使う小道だ)からボロボロの格好をした男がフラフラと歩み出て来た。
盗賊かと思い、武器に手を掛けた私達だったが、男の様子がおかしい事にすぐ気が付いた。
男は森から出ると数歩進んで倒れ伏したのだ。
慌てて近づくと、男は血や泥で汚れた鎧を着ているが、髭などは綺麗に手入れされておりとても盗賊には見えなかった。
「これは!」
すると、ククイさんが何かに気づいた。
彼は男の鎧に描かれていた紋章を指差した。
「あ!」
汚れていて見辛いが、見覚えのある紋章だ。
確か騎士団の何れかだったはずだ。
「これは近衛騎士団の紋章だ」
「え、なんで近衛騎士団がこの森に?」
私は急いで取り出したポーションを傷に振りかけ、残りを男に飲ませる。
「う……」
男が薄っすらと目を開いた。
「大丈夫ですか、一体何が?」
「で……殿下……」
男は抱き起こしていたククイさんの腕を強く掴むと血を吐きながら伝える。
「お、御忍びで……伐採地の、ごほ、し、視察を……されていた殿下が……刺客に……」
「な、なんだって!」
「殿下は……じ、重傷を……」
「分かりました、取り敢えずポーションを飲んで下さい」
私は追加のポーションを男に飲ませる。
すると、男は気絶してしまった。
「殿下が……」
「アルル」
「は、はい」
「この人を帝都に運んで頂戴、門の衛兵に今の話を伝えて」
私はアルルに帝国の紋章が刻まれたカードを手渡しながら指示を出す。
「師匠はどうするのですか?」
「私は殿下を救出に行くわ」
「危険だ、殿下の救出には僕が行く!
リリさんはアルルちゃんと帝都に戻ってくれ!」
ククイさんが驚き声を荒げる。
「ダメです!
殿下は重傷を負っているといっていました。
一刻も早く治療をしなければいけないかもしれません」
「しかし…………」
ククイさんは苦虫を噛み潰した様な顔をする。
だが、それも数秒。
「…………分かった。
君は僕が守ってみせる」
決意を秘めた彼の瞳に、私は自然と微笑みを浮かべた。
「頼りにしています」
こうして私達は皇太子殿下が視察に訪れたと言う伐採地へと向かう事になったのでした。
アカヒラカサタケは素手で触れると被れてしまう為、木で作った匙を使って革の袋に入れる。
全て取ってしまわない様に、ある程度の数を確保すると袋の口を縛り採取を終える。
この場所は森のごく浅い場所であり、後ろを振り返れば森の外の草原が目に入り、私の周囲を警戒してくれている連れが居る。
森と草原の境目に戻ると小さな影が近付いて来た。
「師匠~、見て下さい。
アマギ草を見つけました」
弟子のアルルが自慢げに青い小さな花を付ける珍しい薬草が入った籠を掲げた。
「あら、よく見つけたわね。
今の時期のアマギ草は大地の魔力を蓄えているから高い薬効を得られるわ」
私がアルルを褒めていると、周囲を警戒していた男が声を掛ける。
「それは希少な薬草なのかい?」
男は穏やかな笑顔を浮かべているが、その体はしっかりと鍛え上げており、腰に下げた使い込まれた剣がその力量の一端を表していた。
彼はククイさんと言う帝国の騎士の1人だ。
騎士団の仕事が非番の日には、私とアルルの薬草採取に同行してくれるのが日課になっている。
「ええ、本来はもっと森の奥に入らないと手に入らない薬草なんですよ」
「ほう」
ククイさんが興味深げに薬草を覗き込んだ。
彼の顔が急に近づいて来た為、私の心臓は少し鼓動を速める。
ククイさんに気付かれない様にいつも通りの顔を心掛けながら薬草の見分け方や簡単な使い方を説明する。
彼はこうして少しずつ薬草について覚えてくれる。
その為か、騎士団の隊では1番薬草に詳しくなったらしく、最近では衛生騎士を目指さないかと誘われたりもしていると言っていた。
私とククイさんの関係はいわゆる、友達以上恋人未満と言う奴だ。
彼が私に好意を持っている事には気付いている。
彼も私の気持ちに気付いているとは思う。
しかし臆病な私達は、今の関係が壊れてしまう事を恐れてお互いの気持ちを伝える事が出来ずにいるのだ。
『もし、この考えが思い違いで、彼が私と一緒に居るのはただの親切心なのでは……』
そう思うと、今のままで良いのではないかと思ってしまうのだ。
旦那さんの胸倉を掴み上げて『男ならそろそろケジメをつけて下さい』と言って退けた師匠とは大違いだ。
3人で昼食を済ませた私達は、もう少し森で採取を続けようと、軽く身体をほぐしているところだった。
森の脇の細い道(街道では無く、狩人や樵が使う小道だ)からボロボロの格好をした男がフラフラと歩み出て来た。
盗賊かと思い、武器に手を掛けた私達だったが、男の様子がおかしい事にすぐ気が付いた。
男は森から出ると数歩進んで倒れ伏したのだ。
慌てて近づくと、男は血や泥で汚れた鎧を着ているが、髭などは綺麗に手入れされておりとても盗賊には見えなかった。
「これは!」
すると、ククイさんが何かに気づいた。
彼は男の鎧に描かれていた紋章を指差した。
「あ!」
汚れていて見辛いが、見覚えのある紋章だ。
確か騎士団の何れかだったはずだ。
「これは近衛騎士団の紋章だ」
「え、なんで近衛騎士団がこの森に?」
私は急いで取り出したポーションを傷に振りかけ、残りを男に飲ませる。
「う……」
男が薄っすらと目を開いた。
「大丈夫ですか、一体何が?」
「で……殿下……」
男は抱き起こしていたククイさんの腕を強く掴むと血を吐きながら伝える。
「お、御忍びで……伐採地の、ごほ、し、視察を……されていた殿下が……刺客に……」
「な、なんだって!」
「殿下は……じ、重傷を……」
「分かりました、取り敢えずポーションを飲んで下さい」
私は追加のポーションを男に飲ませる。
すると、男は気絶してしまった。
「殿下が……」
「アルル」
「は、はい」
「この人を帝都に運んで頂戴、門の衛兵に今の話を伝えて」
私はアルルに帝国の紋章が刻まれたカードを手渡しながら指示を出す。
「師匠はどうするのですか?」
「私は殿下を救出に行くわ」
「危険だ、殿下の救出には僕が行く!
リリさんはアルルちゃんと帝都に戻ってくれ!」
ククイさんが驚き声を荒げる。
「ダメです!
殿下は重傷を負っているといっていました。
一刻も早く治療をしなければいけないかもしれません」
「しかし…………」
ククイさんは苦虫を噛み潰した様な顔をする。
だが、それも数秒。
「…………分かった。
君は僕が守ってみせる」
決意を秘めた彼の瞳に、私は自然と微笑みを浮かべた。
「頼りにしています」
こうして私達は皇太子殿下が視察に訪れたと言う伐採地へと向かう事になったのでした。
1
あなたにおすすめの小説
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる