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【番外編】竜人王アルファは惑わす
⑪
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帰りの航海は、順調とは言えなかった。
天候が荒れ雷雨に襲われて、あわやリュウコもろとも大海原に投げ出されるところだったが、竜人騎士ふたりによって難を逃れた。
そして、ようやくアンゼル国の地に辿り着く。
出航した地点よりも北側の国境近くのアプト領で下船した。
二十八日ぶりだ。
帰ってきた。
俺は一度立ち止まって、石畳を踏みしめる。
「やっぱり自国が落ち着くな」
そう言ったリサの表情は、アンゼルに残したエリーゼを脳裏に浮かべているようだった。
俺だけではなく、リサもまた愛する人と遠く離れていたのだと思い知る。
長いようで短い、そんな不思議な二十八日間だった。
この日は船旅の疲れを癒すために、国境沿いの宿屋に宿泊する。
感染者の多いアプト領は、悲しみの色が濃い。
この周辺で営業を続けている宿屋は、ここ一軒だけだというから、獣人不全病の多大な影響がうかがえた。
翌朝。
力車を手配してもらい、領主館を目指して新たに出発する。
向かうのは、俺とリサとグスタとロリーの四人。
ハンは竜人騎士ふたりを伴って、大急ぎで王宮に帰還した。
何時間も力車に揺られ、エモリーのもとに辿り着いたのは、夜遅くだ。
玄関で家令に出迎えられ、簡潔に事情を伝えると、少し待たされてから館内に案内される。
等間隔に燭台が灯る廊下を、家令のあとに続いて歩いた。
白い扉の前で足を止める。
「マイネ様とリサ様をお連れいたしました」
室内に向けて家令が声をかけたあと、扉を開けた。
広い室内には、いくつかの燭台の頼りなさげな明かりしかなく、ぼんやりと薄暗い。
それでも、左奥の寝台に寝ているエモリーの姿がわかった。
熊獣人の獣型のままだ。
目を閉じているものの意識はあり、息苦しそうな呼吸を繰り返している。
そのとき、寝台の正面にあるソファーで大きな影が、のっそりと動いた。
そこにいたのは、エモリーの番であるアプト領主ノアマン。
エモリーと同年の三十九歳の人間アルファで、優しげな文官といった風情の大きな男だ。
俺たちの訪問を事前に聞いていたようで、ノアマンは無表情で迎え入れた。
顔色がひどく悪い。
何日も寝られてないのではないか、と思った。
そんな疲れきったノアマンと目線だけで挨拶を交わし、寝台に近づいてエモリーの顔を覗き込んだ。
「院長。お久しぶりです。マイネです」
そう呼びかけて、エモリーの獣型の手を握ると、意外にも握り返される。
「エモリー。リサだよ。わかるか?」
リサはゆっくりと明瞭な声で続けた。
「特効薬を手に入れたよ。リュウコという竜人の繭卵で、獣人不全病の病原体をすべて死滅させる効果が期待できる。今からエモリーの腕に、治験も兼ねて注射してもいいか?」
エモリーが瞼を痙攣させたように動かし、口をわずかに開ける。
声にならない声がして「頼む」と俺には聞こえたような気がした。
頷いて、リサが準備をはじめた。
リュウコの粉末は、即効性を重視し、注射器という特殊な器具を使って直接体内に取り込むらしい。
俺はリサの手元を照らすように燭台を移動させた。
ノアマンが反対側の寝台に近寄る。
真剣な面持ちで注射器を手に取ったリサを、じっと見ていた。
「打つよ。じっとしてて」
「待ってくれ……それは本当に安全なのか?」
ノアマンが咄嗟に遮り、リサは顔を上げて断言する。
「今以上に最悪なことは、起きないわ」
「……わかった」
ノアマンが唇を噛み締めた。
リサが注射針をエモリーの二の腕に刺す。
室内に緊張が走った。
そして、リサが囁くように「エモリー、終わったよ」と言う。
俺とノアマンは固唾を呑んでエモリーの様子に見入った。
一瞬、エモリーの苦悶の表情が濃くなる。
しかし呼吸が平常の落ち着きを取り戻したように見えるのは、俺の願望なのだろうか。
時間の流れが、ずいぶんと遅く感じた。
黒々と密集した毛で覆われていたエモリーの顔が、ゆっくりゆっくりと変化しはじめる。
人型に、滑らかな肌に。
それから人型の鼻と口が現れた。
俺は感激して、リサの腕を握る。
獣人不全病の特徴ともいえる、人型に変化できないという症状が、完全に解けたのだ。
それはリュウコが効いたという証。
ノアマンが寝台のそばに座り込み、人型に戻ったエモリーの手を慈しむように握った。
「……エモリー」
ノアマンは祈りを捧げるように、番の名を呼んだ。
エモリーの瞼から一筋の涙が流れ落ちて、枕を濡らす。
俺は心臓が締め付けられるように痛くなった。
エモリーが小さく口を開く。
何も聞こえなかったが、ノアマンには聞こえたようで返事をしている。
俺とリサは、しばらくふたりの邪魔をしないように、そっと部屋を出た。
よかった。
俺は心の中に喜びが溢れた。
その後、邸内はにわかに騒々しくなった。
ノアマンが寝室から出てくると、再びリサを連れてエモリーの寝室に戻る。
すると、先ほどの家令に呼び止められた。
深々と頭を下げられて、封書を差し出される。
「こちらのお手紙をお預かりしておりました。三日前に、突如こちらにお越しになられてマイネ様がいらっしゃったら、お渡してほしいと頼まれてました」
宛名も差し出し人の名前もない真っ白な封書だった。
受け取ると、家令は忙しそうに立ち去る。
誰からだろうと不審に思いつつ、封書を開けた。
そこに書かれた一文を目にする。
俺の手の中で上質な紙の音が、かさっと鳴った。
つぎに俺の身体は、勝手に動き出した。
全力で駆け出していた。
あっという間に領主館の玄関を出ると、夜の街を疾走する。
誰もいない大通りを、息を切らして走り抜けた。
相当疲労していたはずなのに、俺の身体のどこにこんな体力が残っていたのだろう。
夢中で石畳を蹴る足は力強い。
近衛騎士のグスタとロリーが俺を追っているはずだが、追いつかれないほどの速さで走った。
手の中の手紙をしっかりと握って、地面を蹴る。
そして辿り着いたのは、小さな平屋の家。
ルシャードと再会する前、カスパーとふたりだけで暮らしていた住まいが、あのころのままに残っていた。
古めかしい見慣れた玄関扉の前で、俺は立ちすくむ。
息を整えて来訪を告げると、勢いよく扉が開いた。
ここにいるはずのない人が、目に飛び込む。
金色の聖獣人。王弟ルシャード。
「おかえり、マイネ」
覆い被さるように抱きしめられた。
それは、いつか聞いた言葉と一緒だ。
感情が溢れ出る。
泣きそうになるのを瞬きして堪えた。
「なぜ? ここに?」
「……待ちきれなかった」
手紙には、見慣れた癖のある文字で《マイネとカスパーの家で待ってる。ルシャード》と、そう書かれていたのだ。
「アプト領は王都よりも病が蔓延しているって知ってますか?」
責めるように言いながらも、ルシャードの胸に頬を埋める。
その温もりは何よりも安心した。
背中に回されたルシャードの腕が強まった。
「でも我慢ができなかった。マイネのこととなると、俺の思考はおかしくなって、正しい判断ができないのだ」
扉を閉めたとたん、ルシャードと扉の間に閉じ込められて、金色に輝く瞳に射すくめられる。
息がかかるほどの距離。
「早く会いたかった……」
ルシャードの懇願するような声に、俺の心臓が跳ねた。
「俺だって寂しかった。会いたかったです」
撫でるようにルシャードの手のひらが移動し、俺の頬を包み込むと、そっと顔を上に向けさせられる。
ルシャードの唇が落ちてきて、唇が重なった。
甘美な痺れが全身を襲う。
ルシャードのフェロモンが、俺の身体中を巡って、甘い疼きを引き起こした。
歯列の間から湿った舌が入り込み、ふたりの唾液が混ざり合う。
ルシャードの手のひらが、俺のうなじを繰り返し撫でた。
番の痕を確かめるかのように、執拗に触れる。
その優しい手つきに比べて、口腔を蠢く舌は強引で容赦がなかった。
離れていた時間を取り戻すかのような、激しい口づけが続き、少しだけ唇が離れたかと思えば、すぐ塞がれる。
でも全然足りない。
「ん」
吐息も飲み込まれた。
絡められた淫らな舌によって、下腹部が浅ましく反応する。
唇を強く吸われながら、ルシャードが腰を蠢かすと、硬い性器の感触が伝わった。
触れてもいないのに、あっけなく口づけだけで果ててしまいそうだ。
まだ玄関に一歩入ったところだというのに。
熱い。
発情期でもないのに、身体が蕩けそうに熱い。
閉じていた瞼を開けると、間近にルシャードの欲情した瞳があった。
ルシャードの美しく端整な容姿が際立つ。
震えるほどに官能的だ。
「マイネを待っていた」
口づけを解くと、耳元で囁いた。
そのルシャードの声には、心から俺を欲して求める響きがあり、ぞくりとするような愉悦を感じる。
「ルシャード様」
無意識に番の名を呼んだ。
「もうどこにも行くな」
返事をしようとしたのに、唇を塞がれてできない。
何度目の口づけなのか、もうわからなかった。
縋るように左右の手をルシャードの指先に絡めると、強く握り返された。
ルシャードの唇がわずかに離れる。
「ルシャードさま」
「マイネ」
お互いの存在を確かめ合うように名を呼び合う。
「マイネがいないと、俺は生きている意味がない」
俺だって同じだ。
だから治療薬を探しに行った……生きてほしいから。
ルシャードの首に腕を回して、啄むように唇に触れると、荒々しい口づけが返ってきた。
唇を奪われながら、腰を抱き上げられると、ルシャードは部屋の奥へと移動する。
住んでいたころのまま、清潔に掃除もされている室内は、家具もそのまま残っていた。
ルシャードが誰かに管理をさせているのかもしれない。
寝室に足を踏み入れると、あと少しで寝台に辿りつくというのに、ルシャードはその数歩の距離を諦めて、切羽詰まったように寝室の扉に俺を押し付ける。
「早くマイネを感じたい」
「触って……」
ルシャードの身体がぴったりと重なった。
熱が混じり合う。
硬くなった中心を服越しに擦り合わせて、上衣を剥ぎ取られた。
胸の突起を口に含まれる。
「あぁ」
舌で潰されて喘いだ。
もう片方の乳首は指で摘んで捏ねられる。
「マイネの可愛い声も、聞きたくてたまらなかった。もっと聞かせてくれ」
執拗に胸の粒を弄ばれる。
甘噛みされて、強く吸われると敏感になって声が漏れてしまう。
「ん……ぁあ」
天候が荒れ雷雨に襲われて、あわやリュウコもろとも大海原に投げ出されるところだったが、竜人騎士ふたりによって難を逃れた。
そして、ようやくアンゼル国の地に辿り着く。
出航した地点よりも北側の国境近くのアプト領で下船した。
二十八日ぶりだ。
帰ってきた。
俺は一度立ち止まって、石畳を踏みしめる。
「やっぱり自国が落ち着くな」
そう言ったリサの表情は、アンゼルに残したエリーゼを脳裏に浮かべているようだった。
俺だけではなく、リサもまた愛する人と遠く離れていたのだと思い知る。
長いようで短い、そんな不思議な二十八日間だった。
この日は船旅の疲れを癒すために、国境沿いの宿屋に宿泊する。
感染者の多いアプト領は、悲しみの色が濃い。
この周辺で営業を続けている宿屋は、ここ一軒だけだというから、獣人不全病の多大な影響がうかがえた。
翌朝。
力車を手配してもらい、領主館を目指して新たに出発する。
向かうのは、俺とリサとグスタとロリーの四人。
ハンは竜人騎士ふたりを伴って、大急ぎで王宮に帰還した。
何時間も力車に揺られ、エモリーのもとに辿り着いたのは、夜遅くだ。
玄関で家令に出迎えられ、簡潔に事情を伝えると、少し待たされてから館内に案内される。
等間隔に燭台が灯る廊下を、家令のあとに続いて歩いた。
白い扉の前で足を止める。
「マイネ様とリサ様をお連れいたしました」
室内に向けて家令が声をかけたあと、扉を開けた。
広い室内には、いくつかの燭台の頼りなさげな明かりしかなく、ぼんやりと薄暗い。
それでも、左奥の寝台に寝ているエモリーの姿がわかった。
熊獣人の獣型のままだ。
目を閉じているものの意識はあり、息苦しそうな呼吸を繰り返している。
そのとき、寝台の正面にあるソファーで大きな影が、のっそりと動いた。
そこにいたのは、エモリーの番であるアプト領主ノアマン。
エモリーと同年の三十九歳の人間アルファで、優しげな文官といった風情の大きな男だ。
俺たちの訪問を事前に聞いていたようで、ノアマンは無表情で迎え入れた。
顔色がひどく悪い。
何日も寝られてないのではないか、と思った。
そんな疲れきったノアマンと目線だけで挨拶を交わし、寝台に近づいてエモリーの顔を覗き込んだ。
「院長。お久しぶりです。マイネです」
そう呼びかけて、エモリーの獣型の手を握ると、意外にも握り返される。
「エモリー。リサだよ。わかるか?」
リサはゆっくりと明瞭な声で続けた。
「特効薬を手に入れたよ。リュウコという竜人の繭卵で、獣人不全病の病原体をすべて死滅させる効果が期待できる。今からエモリーの腕に、治験も兼ねて注射してもいいか?」
エモリーが瞼を痙攣させたように動かし、口をわずかに開ける。
声にならない声がして「頼む」と俺には聞こえたような気がした。
頷いて、リサが準備をはじめた。
リュウコの粉末は、即効性を重視し、注射器という特殊な器具を使って直接体内に取り込むらしい。
俺はリサの手元を照らすように燭台を移動させた。
ノアマンが反対側の寝台に近寄る。
真剣な面持ちで注射器を手に取ったリサを、じっと見ていた。
「打つよ。じっとしてて」
「待ってくれ……それは本当に安全なのか?」
ノアマンが咄嗟に遮り、リサは顔を上げて断言する。
「今以上に最悪なことは、起きないわ」
「……わかった」
ノアマンが唇を噛み締めた。
リサが注射針をエモリーの二の腕に刺す。
室内に緊張が走った。
そして、リサが囁くように「エモリー、終わったよ」と言う。
俺とノアマンは固唾を呑んでエモリーの様子に見入った。
一瞬、エモリーの苦悶の表情が濃くなる。
しかし呼吸が平常の落ち着きを取り戻したように見えるのは、俺の願望なのだろうか。
時間の流れが、ずいぶんと遅く感じた。
黒々と密集した毛で覆われていたエモリーの顔が、ゆっくりゆっくりと変化しはじめる。
人型に、滑らかな肌に。
それから人型の鼻と口が現れた。
俺は感激して、リサの腕を握る。
獣人不全病の特徴ともいえる、人型に変化できないという症状が、完全に解けたのだ。
それはリュウコが効いたという証。
ノアマンが寝台のそばに座り込み、人型に戻ったエモリーの手を慈しむように握った。
「……エモリー」
ノアマンは祈りを捧げるように、番の名を呼んだ。
エモリーの瞼から一筋の涙が流れ落ちて、枕を濡らす。
俺は心臓が締め付けられるように痛くなった。
エモリーが小さく口を開く。
何も聞こえなかったが、ノアマンには聞こえたようで返事をしている。
俺とリサは、しばらくふたりの邪魔をしないように、そっと部屋を出た。
よかった。
俺は心の中に喜びが溢れた。
その後、邸内はにわかに騒々しくなった。
ノアマンが寝室から出てくると、再びリサを連れてエモリーの寝室に戻る。
すると、先ほどの家令に呼び止められた。
深々と頭を下げられて、封書を差し出される。
「こちらのお手紙をお預かりしておりました。三日前に、突如こちらにお越しになられてマイネ様がいらっしゃったら、お渡してほしいと頼まれてました」
宛名も差し出し人の名前もない真っ白な封書だった。
受け取ると、家令は忙しそうに立ち去る。
誰からだろうと不審に思いつつ、封書を開けた。
そこに書かれた一文を目にする。
俺の手の中で上質な紙の音が、かさっと鳴った。
つぎに俺の身体は、勝手に動き出した。
全力で駆け出していた。
あっという間に領主館の玄関を出ると、夜の街を疾走する。
誰もいない大通りを、息を切らして走り抜けた。
相当疲労していたはずなのに、俺の身体のどこにこんな体力が残っていたのだろう。
夢中で石畳を蹴る足は力強い。
近衛騎士のグスタとロリーが俺を追っているはずだが、追いつかれないほどの速さで走った。
手の中の手紙をしっかりと握って、地面を蹴る。
そして辿り着いたのは、小さな平屋の家。
ルシャードと再会する前、カスパーとふたりだけで暮らしていた住まいが、あのころのままに残っていた。
古めかしい見慣れた玄関扉の前で、俺は立ちすくむ。
息を整えて来訪を告げると、勢いよく扉が開いた。
ここにいるはずのない人が、目に飛び込む。
金色の聖獣人。王弟ルシャード。
「おかえり、マイネ」
覆い被さるように抱きしめられた。
それは、いつか聞いた言葉と一緒だ。
感情が溢れ出る。
泣きそうになるのを瞬きして堪えた。
「なぜ? ここに?」
「……待ちきれなかった」
手紙には、見慣れた癖のある文字で《マイネとカスパーの家で待ってる。ルシャード》と、そう書かれていたのだ。
「アプト領は王都よりも病が蔓延しているって知ってますか?」
責めるように言いながらも、ルシャードの胸に頬を埋める。
その温もりは何よりも安心した。
背中に回されたルシャードの腕が強まった。
「でも我慢ができなかった。マイネのこととなると、俺の思考はおかしくなって、正しい判断ができないのだ」
扉を閉めたとたん、ルシャードと扉の間に閉じ込められて、金色に輝く瞳に射すくめられる。
息がかかるほどの距離。
「早く会いたかった……」
ルシャードの懇願するような声に、俺の心臓が跳ねた。
「俺だって寂しかった。会いたかったです」
撫でるようにルシャードの手のひらが移動し、俺の頬を包み込むと、そっと顔を上に向けさせられる。
ルシャードの唇が落ちてきて、唇が重なった。
甘美な痺れが全身を襲う。
ルシャードのフェロモンが、俺の身体中を巡って、甘い疼きを引き起こした。
歯列の間から湿った舌が入り込み、ふたりの唾液が混ざり合う。
ルシャードの手のひらが、俺のうなじを繰り返し撫でた。
番の痕を確かめるかのように、執拗に触れる。
その優しい手つきに比べて、口腔を蠢く舌は強引で容赦がなかった。
離れていた時間を取り戻すかのような、激しい口づけが続き、少しだけ唇が離れたかと思えば、すぐ塞がれる。
でも全然足りない。
「ん」
吐息も飲み込まれた。
絡められた淫らな舌によって、下腹部が浅ましく反応する。
唇を強く吸われながら、ルシャードが腰を蠢かすと、硬い性器の感触が伝わった。
触れてもいないのに、あっけなく口づけだけで果ててしまいそうだ。
まだ玄関に一歩入ったところだというのに。
熱い。
発情期でもないのに、身体が蕩けそうに熱い。
閉じていた瞼を開けると、間近にルシャードの欲情した瞳があった。
ルシャードの美しく端整な容姿が際立つ。
震えるほどに官能的だ。
「マイネを待っていた」
口づけを解くと、耳元で囁いた。
そのルシャードの声には、心から俺を欲して求める響きがあり、ぞくりとするような愉悦を感じる。
「ルシャード様」
無意識に番の名を呼んだ。
「もうどこにも行くな」
返事をしようとしたのに、唇を塞がれてできない。
何度目の口づけなのか、もうわからなかった。
縋るように左右の手をルシャードの指先に絡めると、強く握り返された。
ルシャードの唇がわずかに離れる。
「ルシャードさま」
「マイネ」
お互いの存在を確かめ合うように名を呼び合う。
「マイネがいないと、俺は生きている意味がない」
俺だって同じだ。
だから治療薬を探しに行った……生きてほしいから。
ルシャードの首に腕を回して、啄むように唇に触れると、荒々しい口づけが返ってきた。
唇を奪われながら、腰を抱き上げられると、ルシャードは部屋の奥へと移動する。
住んでいたころのまま、清潔に掃除もされている室内は、家具もそのまま残っていた。
ルシャードが誰かに管理をさせているのかもしれない。
寝室に足を踏み入れると、あと少しで寝台に辿りつくというのに、ルシャードはその数歩の距離を諦めて、切羽詰まったように寝室の扉に俺を押し付ける。
「早くマイネを感じたい」
「触って……」
ルシャードの身体がぴったりと重なった。
熱が混じり合う。
硬くなった中心を服越しに擦り合わせて、上衣を剥ぎ取られた。
胸の突起を口に含まれる。
「あぁ」
舌で潰されて喘いだ。
もう片方の乳首は指で摘んで捏ねられる。
「マイネの可愛い声も、聞きたくてたまらなかった。もっと聞かせてくれ」
執拗に胸の粒を弄ばれる。
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