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【番外編】竜人王アルファは惑わす
⑨
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その後、青の王が海岸沿いに戻って来ることはなかった。
そして翌朝。
俺は食事室でオティリオとリサとハンとともに、用意してもらった朝食を食べ終わり、食後の茶が配られた。
緑色の濃い風味のする茶だ。
食事室は風変わりな室内で、絨毯とも木製とも石材とも違う、竜人国特有の畳という床が敷かれており、中央に食卓が設けられている。
椅子の座面にも畳が使用されて、その座り心地は悪くなかった。
そこにクオン宰相が現れる。
恰幅のよいクオン宰相は恭しく挨拶をしたあと、昨日の砂煙の原因について、説明をはじめた。
「王都の端にある町で落石事故がありまして、幸いにも死傷者はいませんが、石橋が崩壊してしまいました」
オティリオが「そうか」と相槌を打つと、クオン宰相は続けて口を開く。
「その影響で孤立無援となった何十軒もの民家がありまして、急遽、国からの支援活動を開始したところです」
「それで青の王の姿も見られないのか?」
オティリオが訊くと、クオン宰相はもともと細い目を、いっそう細めて誇らしげに頷く。
「はい。一旦は王城にお戻りになられましたが、再び被災地に飛んでしまわれました。王都のご案内を途中で中断してしまったこと、お詫び申し上げます」
「いいよ。そっちを優先するのは当然だ。明日は約束の四日目になるけど、青の王は戻られそう?」
オティリオは無表情で話を進める。
「はい。心配はご無用です。リュウコも明日のうちに用意が整いますので、午後になったら、お声をかけさせていただきます。それまでお待ちください」
「わかった。クオン宰相にも世話になったね。感謝するよ」
オティリオが礼を言うと、クオン宰相は「では失礼します」と踵を返して、急ぎ足で退出した。
給仕の使用人も扉から出ていくと、室内には四人だけとなる。
「青の王は王らしいこともされてるみたいですね。ちょっと見直しました」
俺が遠慮なく思ったことを口にすると、隣の席のオティリオは皮肉げに笑った。
「王なのだから当たり前だよ。そんなことより、明日までにリュウコの正体を突き止めないといけないな」
俺は苦笑する。
オティリオは、青の王にだけ容赦がない。
青の王の態度に問題があるのだろうが、誰に対しても一律に愛想のよいオティリオらしくはなかった。
対面のリサが言う。
「リュウコは竜人の身体の一部で間違いなさそうだ。昨日、改めてリュウコの構造を詳細に調べた結果、微細ながら血管のような痕を発見したんだ」
「おお」
俺は茶器に伸ばしかけていた手を止めて、リサに顔を向けた。
昨日、俺は迫力ある青の王の竜化を目にした瞬間、リュウコと竜人を結びつけた。
そしてその推測を、三人に打ち明けていた。
「そうと決まれば、答えは絞られます。あとは消去法で消して行きましょう」
勢いよく声を上げたのはハンだ。
オティリオがテーブルを指で叩く。
「鱗はどうだ? あれはポロポロ取れそうだよ」
「人間の肌と同じで、劣化した鱗は剥がれるでしょうね」
リサがそう答えると、俺は青の王の鱗を思い出す。
親指の爪程度の大きさで、硬質な異物が肌に埋め込まれたようだった。
青い宝石のような。
海の色を散りばめたような。
その破片を想像してみる。
宝飾品のような光沢がありそうだ。
「でも鱗なら、色素が残るのでは?」
俺が首を傾げて呟くと、オティリオはすぐに諦めて、つぎの候補を上げた。
「……それなら角はどうだ? 頭の両側に短い角があったよな?」
「ありましたね。あれは鹿獣人の角みたいに生え変わるのかもしれませんね」
「どっちだろう? あとで侍従の誰かに聞いてみようか」
リサによると、生え変わる角とそうでない角では構造上の違いがあるらしい。
その後も、繰り返し検討した。
リュウコの成分は硬い粒子と繊維状の柔らかい粒子。
それに似た複雑な組織が、竜人の身体のどこかにあるはずだ。
そして、気づけば何時間も過ぎていた。
翌日。約束の日となった。
俺とオティリオは青の王が指定した執務室に向かう。
室内に足を踏み入れると、中庭が見渡せる開放的なテラスがあり、そこに円形のテーブルを囲んで、対角線上にひとりがけのソファが四つあった。
案内されるまま、その色違いのソファーに腰を沈めた。
俺の目の前の席には青の王が座り、オティリオの目の前にはクオン宰相が座る。
この場にいるのは、四人だけだ。
そわそわする。
これから何かがはじまるような前ぶれを感じた。
はじめにクオン宰相が、大量のガラス瓶を納めた木箱を示す。
木箱内は丁寧に間仕切りされており、ひとつひとつのガラス瓶が接触しないようになっていた。
「こちらが国が保管しているリュウコになります。あともう二箱ありますので、後ほど届けさせましょう」
「感謝します。これだけあればアンゼル国の獣人に行き届く」
オティリオは安堵の表情を覗かせる。
ガラス瓶に乳白色の粉末がぎっしり詰まっていた。
これですべての獣人の命が救われる。
俺も心の底から「ありがとうございます」と礼を言った。
「それじゃ。まずは今回の賭けについての確認をしようか。そちらが正解した場合は、無条件でリュウコを譲る。不正解の場合は負けた代償としてリュウコを作る」
青の王が改まった口調で伝えると、オティリオは神妙に頷く。
「わかった」
「不正解の場合は、どちらかに竜人国に残ってもらう……どっちが残る? マイネか?」
青の王がわざとらしく俺のほうに身体を向けて、にこりと笑った。
それを遮るようにオティリオが口を開く。
「マイネが残るくらいなら、僕が残る。その場合は僕が七か月もかけずに完成させて、さっさと帰らせてもらうから」
オティリオは青の王が俺に関心があると、未だに誤解しているのだ。
そろそろ、その誤りに気づいてもいい頃なのに、勘違いし続けている。
咄嗟に何か言いかけたクオン宰相が「いたっ!」と叫んで顔を歪めた。
何事かと思ったら、青の王が足を踏んで黙らせたようだ。
そして何やら耳打ちしている。
なんだか不吉な予感がする。
気のせいだろうか。
「言質は取れた。オティリオ殿下と俺で一緒にリュウコを作る。それでいいな?」
青の王の反応は、不気味なほどわかりやすく嬉々としていた。
それを見たオティリオは、呆気にとられる。
てっきり青の王が異議を唱えるとでも思っていたかのような表情だ。
しかし腑に落ちない面持ちをしつつも、返事をする。
「ああ……でも俺たちの回答が外れるとは限らないよ」
「そうだな。それならば、訊くとしよう。リュウコとは何か」
俺たちは最終的にひとつの答えに辿りついた。
その答えが唯一、正解しているという予感があった。
少なからず自信がある。
オティリオがひと息に答えた。
「竜人の骨だ」
そう。
俺たちが導き出した答えは竜人の骨。
複雑な構造を持つリュウコは、骨の特徴に一番近かった。
リサは一度だけ聖獣人の骨を調べた経験があるらしく、ほかの獣人や人間のぎっしりと詰まった骨と比べると聖獣人の骨は軽量化されているらしいのだ。
体を支える役割を果たす一方で、翼を持つ種族としては、何よりも軽いことが望ましいのだろう。
そして、その特徴がリュウコにも現れていた。
しかも、骨ならば謁見のときのクオン宰相や高官たちの驚きの理由もわかる。
正解であってくれ。
そう思って、青の王の返事を待つ。
しかし青の王は「骨か……」と呟いて黙り、つぎに愉快そうにくくっと笑う声を漏らした。
それは正解ではなかったような態度。
「違うの?」
俺は気が抜けたように呟く。
「着眼点は悪くない。竜人の骨にまで辿り着けたのは褒めてやる。でも発想が逆だ」
「逆?」
オティリオは訝しげに眉根を寄せた。
青の王は楽しげに目を細める。
「面白い。俺が骨を作れなんて言うと思ったか? それでは殺しをしろって言ってるみたいじゃないか。物騒すぎだろ」
「……でも、成分的には骨と一致するんだ」
オティリオがそう言い募ると、青の王は満足げに頷いた。
「そうかもしれないな。優秀な薬師だ」
俺は骨だと導き出した過程を思い出す。
どこで間違えたのだ。
竜人の身体の一部で間違いはなかったはずだ。
何か足らない情報があったのか。
「クオン宰相、持って来てくれるか」
おもむろに青の王がそう頼むと、クオン宰相は席を離れた。
そのまま扉から廊下に出てしまう。
「今ここで、現物をふたりに見てもらおうと思う。たぶん見るのははじめてだろうからな」
しばらくすると、クオン宰相がひとりの若い女を連れて戻って来た。
その女は布に包まれた何かを身体の前で大事そうに抱えていた。
女が抱えていたのは、楕円形の物体。
幸せそうな表情をした女は、それを優しく撫でる。
まるで腹を撫でるように。
俺は無意識に立ち上がった。
「わかった……」
今、ようやくわかった。
骨を意味するのが死だとするなら、その逆は誕生だ。
青の王がゆっくりと口を開く。
「竜人の繭卵だ」
同時に布が取り除かれて、乳白色の繭卵が現れた。
陽光に照らせてうっすらと光っているかのように感じる。
知らなかった。
竜人の出産が胎児ではなく繭卵だったなんて。
衝撃だ。
俺たちからは、どう転んでも出てこない発想だ。
俺ははっと気づく。
「七か月って孵化する期間ですか?」
「ああ。正解だ」
貴重で価値のあるもの。
俺は胸に下げた菫色の布袋を握りしめた。
その答えは、俺の中に最初からあったのに。
俺の宝物。
俺は「触ってもいいですか?」とおずおずと訊いた。
すると「どうぞ」と女から返事があった。
手を伸ばす。
繭卵の表面は、思った以上にしっとりとして滑らかで弾力があった。
不思議な感触だ。
そして温かい。
ようやく、そこでオティリオが弱々しく声を上げる。
「え? 繭卵? じゃあ……どういうことだ?」
夢ではないことを確かめるように、オティリオは両手で両頬を押しつぶした。
腰を抜かしそうにも見える。
そりゃあ、そうだろうな。
「繭卵の殻を砕いて粉末にしたものがリュウコになる」
そう言いながら、青の王が目配せすると、クオン宰相は女を連れてテラスから静かに退散する。
それを見届けてから、青の王は淡々と続けた。
「だから俺とオティリオ殿下は繭卵を授かるために、これから子作りをすることになる」
言葉を忘れたかのように、口を開けたまま数秒固まるオティリオ。
当たり前だが、処理しきれないのだろう。
そんなオティリオの姿を、俺はただ眺めることしかできなかった。
喉に何か詰まらせたようなオティリオは、絞り出すように言葉を発する。
「……冗談だろ。俺はアルファだ。俺と青の王では子は成せない。リュウコはできないだろ?」
「そうだな。でも約束は約束だ。一生かかっても孕まないだろうけど、繭卵ができるまでずっと俺と一緒だ」
「は? 意味がわからん……」
「都合のいいことに、俺に世継ぎがいなくても次の王は必ず出現する。アルファのオティリオ殿下と婚姻しても誰も反対しない」
「婚姻と言ったのか?」
「言ったよ」
「お前、頭がおかしいだろ」
オティリオは混乱して少々言葉が荒れはじめた。
頭を抱えると、艶のある銀髪がさらさらとテーブルに触れる。
その髪に触れようと青の王が手を伸ばしたが、途中で引っ込めた。
オティリオが顔を上げたからだ。
「お前の目的はマイネじゃなかったのか?」
オティリオは鋭い声で訴える。
青の王は軽薄そうな笑みを口元に浮かべながら、紅い瞳にはアルファらしい執着が溢れ出ていた。
「王都で番に固執しないと言ったのは、俺とオティリオ殿下はアルファ同士だから番になれないからだ。俺は最初からマイネではなく、オティリオ殿下だけを見ていた」
俺は青の王が誰を求めているか察していたから、オティリオほどに驚いてはいない。
しかし、リュウコが繭卵だったという事実には驚いた。
その意味に唖然とする。
オティリオを手中に落とす手段として、青の王の張り巡らされた思惑に踊らされたのか。
ふたりの会話がいやでも耳に入ってしまう。
居たたまれなくなって、俺も席を立とうとした。
それなのに、オティリオが腕を掴んで引き止める。
縋るような視線を向けられた。
仕方ない。
浅く座り直す。
青の王が唐突に話を変える。
「三年前にはじめて会った日のことを覚えているか?」
そして翌朝。
俺は食事室でオティリオとリサとハンとともに、用意してもらった朝食を食べ終わり、食後の茶が配られた。
緑色の濃い風味のする茶だ。
食事室は風変わりな室内で、絨毯とも木製とも石材とも違う、竜人国特有の畳という床が敷かれており、中央に食卓が設けられている。
椅子の座面にも畳が使用されて、その座り心地は悪くなかった。
そこにクオン宰相が現れる。
恰幅のよいクオン宰相は恭しく挨拶をしたあと、昨日の砂煙の原因について、説明をはじめた。
「王都の端にある町で落石事故がありまして、幸いにも死傷者はいませんが、石橋が崩壊してしまいました」
オティリオが「そうか」と相槌を打つと、クオン宰相は続けて口を開く。
「その影響で孤立無援となった何十軒もの民家がありまして、急遽、国からの支援活動を開始したところです」
「それで青の王の姿も見られないのか?」
オティリオが訊くと、クオン宰相はもともと細い目を、いっそう細めて誇らしげに頷く。
「はい。一旦は王城にお戻りになられましたが、再び被災地に飛んでしまわれました。王都のご案内を途中で中断してしまったこと、お詫び申し上げます」
「いいよ。そっちを優先するのは当然だ。明日は約束の四日目になるけど、青の王は戻られそう?」
オティリオは無表情で話を進める。
「はい。心配はご無用です。リュウコも明日のうちに用意が整いますので、午後になったら、お声をかけさせていただきます。それまでお待ちください」
「わかった。クオン宰相にも世話になったね。感謝するよ」
オティリオが礼を言うと、クオン宰相は「では失礼します」と踵を返して、急ぎ足で退出した。
給仕の使用人も扉から出ていくと、室内には四人だけとなる。
「青の王は王らしいこともされてるみたいですね。ちょっと見直しました」
俺が遠慮なく思ったことを口にすると、隣の席のオティリオは皮肉げに笑った。
「王なのだから当たり前だよ。そんなことより、明日までにリュウコの正体を突き止めないといけないな」
俺は苦笑する。
オティリオは、青の王にだけ容赦がない。
青の王の態度に問題があるのだろうが、誰に対しても一律に愛想のよいオティリオらしくはなかった。
対面のリサが言う。
「リュウコは竜人の身体の一部で間違いなさそうだ。昨日、改めてリュウコの構造を詳細に調べた結果、微細ながら血管のような痕を発見したんだ」
「おお」
俺は茶器に伸ばしかけていた手を止めて、リサに顔を向けた。
昨日、俺は迫力ある青の王の竜化を目にした瞬間、リュウコと竜人を結びつけた。
そしてその推測を、三人に打ち明けていた。
「そうと決まれば、答えは絞られます。あとは消去法で消して行きましょう」
勢いよく声を上げたのはハンだ。
オティリオがテーブルを指で叩く。
「鱗はどうだ? あれはポロポロ取れそうだよ」
「人間の肌と同じで、劣化した鱗は剥がれるでしょうね」
リサがそう答えると、俺は青の王の鱗を思い出す。
親指の爪程度の大きさで、硬質な異物が肌に埋め込まれたようだった。
青い宝石のような。
海の色を散りばめたような。
その破片を想像してみる。
宝飾品のような光沢がありそうだ。
「でも鱗なら、色素が残るのでは?」
俺が首を傾げて呟くと、オティリオはすぐに諦めて、つぎの候補を上げた。
「……それなら角はどうだ? 頭の両側に短い角があったよな?」
「ありましたね。あれは鹿獣人の角みたいに生え変わるのかもしれませんね」
「どっちだろう? あとで侍従の誰かに聞いてみようか」
リサによると、生え変わる角とそうでない角では構造上の違いがあるらしい。
その後も、繰り返し検討した。
リュウコの成分は硬い粒子と繊維状の柔らかい粒子。
それに似た複雑な組織が、竜人の身体のどこかにあるはずだ。
そして、気づけば何時間も過ぎていた。
翌日。約束の日となった。
俺とオティリオは青の王が指定した執務室に向かう。
室内に足を踏み入れると、中庭が見渡せる開放的なテラスがあり、そこに円形のテーブルを囲んで、対角線上にひとりがけのソファが四つあった。
案内されるまま、その色違いのソファーに腰を沈めた。
俺の目の前の席には青の王が座り、オティリオの目の前にはクオン宰相が座る。
この場にいるのは、四人だけだ。
そわそわする。
これから何かがはじまるような前ぶれを感じた。
はじめにクオン宰相が、大量のガラス瓶を納めた木箱を示す。
木箱内は丁寧に間仕切りされており、ひとつひとつのガラス瓶が接触しないようになっていた。
「こちらが国が保管しているリュウコになります。あともう二箱ありますので、後ほど届けさせましょう」
「感謝します。これだけあればアンゼル国の獣人に行き届く」
オティリオは安堵の表情を覗かせる。
ガラス瓶に乳白色の粉末がぎっしり詰まっていた。
これですべての獣人の命が救われる。
俺も心の底から「ありがとうございます」と礼を言った。
「それじゃ。まずは今回の賭けについての確認をしようか。そちらが正解した場合は、無条件でリュウコを譲る。不正解の場合は負けた代償としてリュウコを作る」
青の王が改まった口調で伝えると、オティリオは神妙に頷く。
「わかった」
「不正解の場合は、どちらかに竜人国に残ってもらう……どっちが残る? マイネか?」
青の王がわざとらしく俺のほうに身体を向けて、にこりと笑った。
それを遮るようにオティリオが口を開く。
「マイネが残るくらいなら、僕が残る。その場合は僕が七か月もかけずに完成させて、さっさと帰らせてもらうから」
オティリオは青の王が俺に関心があると、未だに誤解しているのだ。
そろそろ、その誤りに気づいてもいい頃なのに、勘違いし続けている。
咄嗟に何か言いかけたクオン宰相が「いたっ!」と叫んで顔を歪めた。
何事かと思ったら、青の王が足を踏んで黙らせたようだ。
そして何やら耳打ちしている。
なんだか不吉な予感がする。
気のせいだろうか。
「言質は取れた。オティリオ殿下と俺で一緒にリュウコを作る。それでいいな?」
青の王の反応は、不気味なほどわかりやすく嬉々としていた。
それを見たオティリオは、呆気にとられる。
てっきり青の王が異議を唱えるとでも思っていたかのような表情だ。
しかし腑に落ちない面持ちをしつつも、返事をする。
「ああ……でも俺たちの回答が外れるとは限らないよ」
「そうだな。それならば、訊くとしよう。リュウコとは何か」
俺たちは最終的にひとつの答えに辿りついた。
その答えが唯一、正解しているという予感があった。
少なからず自信がある。
オティリオがひと息に答えた。
「竜人の骨だ」
そう。
俺たちが導き出した答えは竜人の骨。
複雑な構造を持つリュウコは、骨の特徴に一番近かった。
リサは一度だけ聖獣人の骨を調べた経験があるらしく、ほかの獣人や人間のぎっしりと詰まった骨と比べると聖獣人の骨は軽量化されているらしいのだ。
体を支える役割を果たす一方で、翼を持つ種族としては、何よりも軽いことが望ましいのだろう。
そして、その特徴がリュウコにも現れていた。
しかも、骨ならば謁見のときのクオン宰相や高官たちの驚きの理由もわかる。
正解であってくれ。
そう思って、青の王の返事を待つ。
しかし青の王は「骨か……」と呟いて黙り、つぎに愉快そうにくくっと笑う声を漏らした。
それは正解ではなかったような態度。
「違うの?」
俺は気が抜けたように呟く。
「着眼点は悪くない。竜人の骨にまで辿り着けたのは褒めてやる。でも発想が逆だ」
「逆?」
オティリオは訝しげに眉根を寄せた。
青の王は楽しげに目を細める。
「面白い。俺が骨を作れなんて言うと思ったか? それでは殺しをしろって言ってるみたいじゃないか。物騒すぎだろ」
「……でも、成分的には骨と一致するんだ」
オティリオがそう言い募ると、青の王は満足げに頷いた。
「そうかもしれないな。優秀な薬師だ」
俺は骨だと導き出した過程を思い出す。
どこで間違えたのだ。
竜人の身体の一部で間違いはなかったはずだ。
何か足らない情報があったのか。
「クオン宰相、持って来てくれるか」
おもむろに青の王がそう頼むと、クオン宰相は席を離れた。
そのまま扉から廊下に出てしまう。
「今ここで、現物をふたりに見てもらおうと思う。たぶん見るのははじめてだろうからな」
しばらくすると、クオン宰相がひとりの若い女を連れて戻って来た。
その女は布に包まれた何かを身体の前で大事そうに抱えていた。
女が抱えていたのは、楕円形の物体。
幸せそうな表情をした女は、それを優しく撫でる。
まるで腹を撫でるように。
俺は無意識に立ち上がった。
「わかった……」
今、ようやくわかった。
骨を意味するのが死だとするなら、その逆は誕生だ。
青の王がゆっくりと口を開く。
「竜人の繭卵だ」
同時に布が取り除かれて、乳白色の繭卵が現れた。
陽光に照らせてうっすらと光っているかのように感じる。
知らなかった。
竜人の出産が胎児ではなく繭卵だったなんて。
衝撃だ。
俺たちからは、どう転んでも出てこない発想だ。
俺ははっと気づく。
「七か月って孵化する期間ですか?」
「ああ。正解だ」
貴重で価値のあるもの。
俺は胸に下げた菫色の布袋を握りしめた。
その答えは、俺の中に最初からあったのに。
俺の宝物。
俺は「触ってもいいですか?」とおずおずと訊いた。
すると「どうぞ」と女から返事があった。
手を伸ばす。
繭卵の表面は、思った以上にしっとりとして滑らかで弾力があった。
不思議な感触だ。
そして温かい。
ようやく、そこでオティリオが弱々しく声を上げる。
「え? 繭卵? じゃあ……どういうことだ?」
夢ではないことを確かめるように、オティリオは両手で両頬を押しつぶした。
腰を抜かしそうにも見える。
そりゃあ、そうだろうな。
「繭卵の殻を砕いて粉末にしたものがリュウコになる」
そう言いながら、青の王が目配せすると、クオン宰相は女を連れてテラスから静かに退散する。
それを見届けてから、青の王は淡々と続けた。
「だから俺とオティリオ殿下は繭卵を授かるために、これから子作りをすることになる」
言葉を忘れたかのように、口を開けたまま数秒固まるオティリオ。
当たり前だが、処理しきれないのだろう。
そんなオティリオの姿を、俺はただ眺めることしかできなかった。
喉に何か詰まらせたようなオティリオは、絞り出すように言葉を発する。
「……冗談だろ。俺はアルファだ。俺と青の王では子は成せない。リュウコはできないだろ?」
「そうだな。でも約束は約束だ。一生かかっても孕まないだろうけど、繭卵ができるまでずっと俺と一緒だ」
「は? 意味がわからん……」
「都合のいいことに、俺に世継ぎがいなくても次の王は必ず出現する。アルファのオティリオ殿下と婚姻しても誰も反対しない」
「婚姻と言ったのか?」
「言ったよ」
「お前、頭がおかしいだろ」
オティリオは混乱して少々言葉が荒れはじめた。
頭を抱えると、艶のある銀髪がさらさらとテーブルに触れる。
その髪に触れようと青の王が手を伸ばしたが、途中で引っ込めた。
オティリオが顔を上げたからだ。
「お前の目的はマイネじゃなかったのか?」
オティリオは鋭い声で訴える。
青の王は軽薄そうな笑みを口元に浮かべながら、紅い瞳にはアルファらしい執着が溢れ出ていた。
「王都で番に固執しないと言ったのは、俺とオティリオ殿下はアルファ同士だから番になれないからだ。俺は最初からマイネではなく、オティリオ殿下だけを見ていた」
俺は青の王が誰を求めているか察していたから、オティリオほどに驚いてはいない。
しかし、リュウコが繭卵だったという事実には驚いた。
その意味に唖然とする。
オティリオを手中に落とす手段として、青の王の張り巡らされた思惑に踊らされたのか。
ふたりの会話がいやでも耳に入ってしまう。
居たたまれなくなって、俺も席を立とうとした。
それなのに、オティリオが腕を掴んで引き止める。
縋るような視線を向けられた。
仕方ない。
浅く座り直す。
青の王が唐突に話を変える。
「三年前にはじめて会った日のことを覚えているか?」
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竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
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