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【離婚した攻め】
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カーテンを閉めた部屋の中、自らの性器を手のひらで握り、柴理一は自慰をする。
しかし、十分経っても手の中に反応はない。
手を離すと、棒状の肉はくたりと垂れ下がった。
長いため息を吐いた。
駄目だ。やはり、まだ治らない。
虚しい空虚感にとらわれる。
三年前に結婚した柴が「離婚」を最初に口にした時、妻は、ほっとしたような表情をした。
そして、妻から離婚届を渡されて終わった。
原因は、柴の勃起不全だ。
結婚した途端に発症し、性行為は一度もなされなかった。
柴の役立たずの性器は、気まずい夜を幾度と繰り返し「ごめん」と何度も呟いた。
精神的な問題だと柴にはわかっていた。
自ら選んで伊野崎晶太と別れたはずだったが、どんなに誤魔化しても心は正直だ。
嘘に塗れた結婚生活も柴の体を蝕み、まったく反応をしなくなった。
病院で貰った薬も効かない。
家に帰ろうとすると、緊張し動悸が激しくなり、ぐっすり眠ることもできなかった。
EDになった柴が離婚したのは、結婚十ヶ月目だった。
柴には長い十ヶ月だった。
自業自得な結果だ。
そして、伊野崎を思い出しては、何度も「ごめん」と心の中で呟き続けていた。
芯を持たなくなった性器は、離婚しても変わらない。
スウェットパンツを再び履き、洗面所で手を洗う。
柴は顔も洗い、黒フレームの眼鏡をかけ直すと、出かける用意をした。
水曜は定休日で、子猫の世話を言い訳に伊野崎に会いに行く。
離婚後、伊野崎の家を訪ねたのは、やり直せると思ったからではない。
だが、二年ぶりに再会し欲が出た。
伊野崎のそばにいたい。
その衝動に駆られ、すぐに行動に移すと、この部屋に引っ越し毎日欠かさず伊野崎を訪問していた。
外に出ると、暑い七月の太陽の下を日陰を探して歩く。
到着すると、インターホンを鳴らした。
一緒に暮らしていた頃は、当然、家の鍵を持っていたが今はない。
短いアプローチを進み玄関扉の前で待つ。
扉が開いた。
伊野崎が目の前に現れる。
暑さが苦手な伊野崎は、気怠げな表情を浮かべると、一歩ひいて柴を迎え入れた。
陶器のような滑らかな肌や肩の高さで切り揃えたストレートな髪に触れたくなる。
柴は自然と笑みが溢れる。
伊野崎は、薄い唇を開けた。
「 雨宮さんが、柴にお礼を言いたいって、リビングで待ってる」
今日は、編集の雨宮と打ち合わせがあると聞き、時間をずらしたのだが、返って待たせてしまったらしい。
リビングに入ると、そこに雨宮がいた。
伊野崎とは方向は違うが、雨宮も整った容姿をしている。
第一印象は、伊野崎の口を塞ぐ怪しげな男だった。
二度目に会った時は、誤解したことが申し訳なくなるほどの好青年だった。
「柴さん、マンションの紹介ありがとうございました」
雨宮が、頭を下げる。
柴が勤めているハウスメーカーは賃貸マンションの斡旋もしている。
今回、雨宮の部屋探しに協力したばかりだ。
「たいしたことはしてません。引っ越しは終わりましたか?」
柴の紹介状を添付することによって、同性カップルの入居者でも、オーナー審査に通ったのだが知らせる必要はない。
「はい。先週、夏生も引っ越してきました」
「夏生くんと仲良くしてるみたいですね」
伊野崎がそう言うと、雨宮が破顔した。
「ちょー楽しいです」
整った容姿がくしゃと崩れる。
柴も、伊野崎と一緒に暮らした三年間は楽しかった。
別れるなんて予想もしていなかった。
柴は何度も後悔する。
リビングのローテーブルの上にページが開かれたままの雑誌があり、視界に入った。
雨宮が見ていたのだろう。
先週発売された書籍情報雑誌「ピエーロ」だ。
書籍だけでなく漫画や芸能の情報もある画期的な雑誌だ。
最新号は、伊野崎初の対談がカラー四ページにも渡り載っていた。
柴も発売日に購入した。
対談相手は、音楽ユニット「ロマンス」の三井だった。
三井はアーティストながら二作の小説を執筆し、権威ある賞にノミネートされた。
その三井の強い要望で伊野崎が対談相手に抜擢されたそうだ。
対談というより、三井がメインで伊野崎はインタビュアーのような扱いではあったが、伊野崎の写真もある。
雑誌「ピエーロ」のカラーページに伊野崎の顔が登場したのは初めてではないだろうか。
「それ、すごく評判がいいですよ」
柴の視線を追った雨宮が説明する。
この雑誌は、伊野崎がカミングアウトした雑誌でもあった。
しかし、十分経っても手の中に反応はない。
手を離すと、棒状の肉はくたりと垂れ下がった。
長いため息を吐いた。
駄目だ。やはり、まだ治らない。
虚しい空虚感にとらわれる。
三年前に結婚した柴が「離婚」を最初に口にした時、妻は、ほっとしたような表情をした。
そして、妻から離婚届を渡されて終わった。
原因は、柴の勃起不全だ。
結婚した途端に発症し、性行為は一度もなされなかった。
柴の役立たずの性器は、気まずい夜を幾度と繰り返し「ごめん」と何度も呟いた。
精神的な問題だと柴にはわかっていた。
自ら選んで伊野崎晶太と別れたはずだったが、どんなに誤魔化しても心は正直だ。
嘘に塗れた結婚生活も柴の体を蝕み、まったく反応をしなくなった。
病院で貰った薬も効かない。
家に帰ろうとすると、緊張し動悸が激しくなり、ぐっすり眠ることもできなかった。
EDになった柴が離婚したのは、結婚十ヶ月目だった。
柴には長い十ヶ月だった。
自業自得な結果だ。
そして、伊野崎を思い出しては、何度も「ごめん」と心の中で呟き続けていた。
芯を持たなくなった性器は、離婚しても変わらない。
スウェットパンツを再び履き、洗面所で手を洗う。
柴は顔も洗い、黒フレームの眼鏡をかけ直すと、出かける用意をした。
水曜は定休日で、子猫の世話を言い訳に伊野崎に会いに行く。
離婚後、伊野崎の家を訪ねたのは、やり直せると思ったからではない。
だが、二年ぶりに再会し欲が出た。
伊野崎のそばにいたい。
その衝動に駆られ、すぐに行動に移すと、この部屋に引っ越し毎日欠かさず伊野崎を訪問していた。
外に出ると、暑い七月の太陽の下を日陰を探して歩く。
到着すると、インターホンを鳴らした。
一緒に暮らしていた頃は、当然、家の鍵を持っていたが今はない。
短いアプローチを進み玄関扉の前で待つ。
扉が開いた。
伊野崎が目の前に現れる。
暑さが苦手な伊野崎は、気怠げな表情を浮かべると、一歩ひいて柴を迎え入れた。
陶器のような滑らかな肌や肩の高さで切り揃えたストレートな髪に触れたくなる。
柴は自然と笑みが溢れる。
伊野崎は、薄い唇を開けた。
「 雨宮さんが、柴にお礼を言いたいって、リビングで待ってる」
今日は、編集の雨宮と打ち合わせがあると聞き、時間をずらしたのだが、返って待たせてしまったらしい。
リビングに入ると、そこに雨宮がいた。
伊野崎とは方向は違うが、雨宮も整った容姿をしている。
第一印象は、伊野崎の口を塞ぐ怪しげな男だった。
二度目に会った時は、誤解したことが申し訳なくなるほどの好青年だった。
「柴さん、マンションの紹介ありがとうございました」
雨宮が、頭を下げる。
柴が勤めているハウスメーカーは賃貸マンションの斡旋もしている。
今回、雨宮の部屋探しに協力したばかりだ。
「たいしたことはしてません。引っ越しは終わりましたか?」
柴の紹介状を添付することによって、同性カップルの入居者でも、オーナー審査に通ったのだが知らせる必要はない。
「はい。先週、夏生も引っ越してきました」
「夏生くんと仲良くしてるみたいですね」
伊野崎がそう言うと、雨宮が破顔した。
「ちょー楽しいです」
整った容姿がくしゃと崩れる。
柴も、伊野崎と一緒に暮らした三年間は楽しかった。
別れるなんて予想もしていなかった。
柴は何度も後悔する。
リビングのローテーブルの上にページが開かれたままの雑誌があり、視界に入った。
雨宮が見ていたのだろう。
先週発売された書籍情報雑誌「ピエーロ」だ。
書籍だけでなく漫画や芸能の情報もある画期的な雑誌だ。
最新号は、伊野崎初の対談がカラー四ページにも渡り載っていた。
柴も発売日に購入した。
対談相手は、音楽ユニット「ロマンス」の三井だった。
三井はアーティストながら二作の小説を執筆し、権威ある賞にノミネートされた。
その三井の強い要望で伊野崎が対談相手に抜擢されたそうだ。
対談というより、三井がメインで伊野崎はインタビュアーのような扱いではあったが、伊野崎の写真もある。
雑誌「ピエーロ」のカラーページに伊野崎の顔が登場したのは初めてではないだろうか。
「それ、すごく評判がいいですよ」
柴の視線を追った雨宮が説明する。
この雑誌は、伊野崎がカミングアウトした雑誌でもあった。
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