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四ー1.月の歯車
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四
母の初七日が終わり、父の仕事の都合上、早々に納骨をすることになった。立ち会ったのは僧侶と父と祖母と叔父と初穂だけだった。木枯らし一号を観測したとテレビで天気予報士がこぞって告げた翌日で、街外れの高台に位置する墓場にはほかに人影はなく、墓場の周りを目隠しするように覆った常緑針葉樹の杉の木は外界と隔てるように聳え、それ以外の木々は枯れてしなびた葉っぱをカサカサと鳴らし、閑散としたこの場所で余計に寂しさを演出していた。
法衣を着た僧侶が引率するように前を歩く。影のように黒い背中を追って辿りつかないどこかへ向かっているのだ。初穂はそんな気がしてならなかった。初穂の手を握るのは祖母だった。父は小さくなった母の入った骨壷を持っているから、初穂の手を握りしめる役を祖母が請負っていた。祖母の温かく柔らかい手が慰撫するようだ。初穂は手を握るのが父でなくてよかったと密かに安堵している。
灰色の石のなかに入れられる白い骨の母を見ても、母の姿を少しも思いださせる形を取っていないせいで、悲しみを覚えることはなかった。ただその異常なほどの白い骨が暗い闇の洞に残像を残して呑みこまれていくさまが、目に焼きついて一生忘れられないだろうと思わせた。きっと洞には底がなく、上も下も横もわからない目の利かぬ闇のなかで、ただただ永遠に落ち続けるのだ。そのうち感覚は麻痺し、自分と闇の境界線がわからなくなり、半分狂い半分正気のまま、闇へと取りこまれていくのだ。背筋が寒くなり、恐怖とはこういうことだと漠然と思う。
祖母の家に着くと、祖母と父が居間で話し合いを始めた。初穂にも今後初穂をどうするかについて話し合うのだとわかっていた。父はきっと初穂を手放すだろうことも予想がついた。そして、父はこうと決めたら譲ることがないことも。初穂はいまだに馴染まない父よりも祖母の家に暮らすほうが気楽だと感じる一方で、胸には今日参った墓場のように寒々しく荒涼とした風景がじわじわと広がるような心地だった。
身を置く場所がなく、初穂はふらふらと家のなかをさまよった。居間から廊下、廊下から最近寝起きをしている祖母の部屋へ。祖母の部屋は閉め切っていたせいで寒々しかった。居間とは襖を隔てて繋がっているため、父と祖母の声が聞こえてきてしまう。ここにも居てはいけないと、初穂は居間とは対面にある障子を開く。光の差す和紙は白々と輝いていた。
まるでそうされるのを待ちわびていたかのように障子は音もなくなめらかに開いた。小さな庭さきに生える色づいた楓の木が、光を浴びて炎のように輝いているさまが目に飛びこんでくる。青空には白い鱗雲が模様を描き、日射しが庭と縁側を穏やかにあたためている。木の塀に囲まれた小さなその世界のすべてが初穂を歓待しているようだった。高台にあった墓場とは違い、ここは秋の盛りで、これからくる眠りの時期を前に盛大に華やぎ、にぎわっていた。初穂はここに来るべきだったのだと胸のときめきを感じる。
ふと視線を感じて、首をめぐらす。縁側にはすでに先客がいた。
脚を縁側の外に投げ出し黙々と本を読んでいた秋夜は、一瞬だけ視線を初穂と交わしたが、すぐに手にした文庫本に集中した。まるで初穂がいてもいなくても気にしないという態度だった。だがそれは不快な無視ではなく、心地よい許容に感じる。
すでに喪服から普段着へと着替えをすませていた秋夜は、チャコールグレーの薄手のセーターの下に白いコットンのシャツを着て、臙脂色のコーデュロイのパンツを穿いていた。そのどれもがきちんと手入れされたもので、折り目正しく秋夜の体にぴったりと寄り添っている。
父と同じように、秋夜も必要最低限のことしか話さない無口な人物だった。この家に来てから交わした会話も事務的な一言二言でしかない。だが、父といるときのような緊張感はなかった。必要がないのなら話すな、話す必要があるなら要領を得て端的に伝えろ、と父の目線からは強い圧力を感じた。けれど秋夜からは、初穂にどのような言葉をかけるべきか戸惑い迷い気遣って結局言葉少なげになる、そういう弱々しい優しさを感じる。うつむき加減で、笑顔が少なく、笑ったとしても力なく遠慮がちだった。ひとを寄せつけない見えない卵の殻を持っていて、孤独になるのが上手だった。
拒絶することに慣れきった背中が目につく。チャコールグレーの柔らかそうなセーターからは日向の匂いがしてきそうで、衝動的に初穂は触れてみたくなる。
「ここにいてもいい?」
そう問うと、秋夜はゆっくりと顔を上げた。眼鏡の奥の黒目がちな瞳が初穂を映す。その瞳は鉱物のようだ。澄んでいるが無機質で芯に圧縮したなにかを閉じこめている。そこから感情を読み解くのは不可能だった。秋夜のような目を持つひとを初穂はほかに知らない。
音もなく楓の葉が一葉、秋夜の膝近くに舞い落ちた。開いた文庫本のページに夕焼けを写したような美しい葉が花開く。てのひら型の葉は傷も虫食いの跡もなく、左右対称で完璧な形をしており、黄色から山吹色、山吹色から赤色へとみごとな濃淡を見せつける。その葉はいままで初穂が見てきた紅葉のなかで一番華美で端麗だった。
不意に秋夜はその葉を払った。その細い指先にはどんな感情もこもっておらず、行為は無造作だった。初穂は息を呑む。楓の葉の美しさは少しの躊躇もなく簡単に踏みにじられたのだ。
きっと、初穂はその葉くらい秋夜にとって煩わしく、関心がないのだろう。それは初穂が子どもだからとか、美しくないからとかそういった理由ではなく、ただ秋夜がそういう人間だからなのだ。
秋夜は葬式からこのかた一度だって初穂をなぐさめたりはしなかった。けれどそれは初穂にとって救いでもあった。形式的にかけられる大人たちからのお悔やみや慰めの言葉は、初穂の耳より奥に入ってきたりはしなかった。ただ、形式的な言葉をかけられるにつれ、初穂の言い表せない感情すら形式にちなんだものになっていくのを感じていた。それはもう初穂のものではなく、万人が共有するなにかだ。こうあるべきという型に注がれ冷やして固められる類いのものだった。気づくと初穂は初穂ではなく、共通の認識が生みだした親を亡くしたかわいそうな子どもにされており、初穂は望まれるがまま親を亡くしたかわいそうな子どもがするべき行動を取って、けなげな言葉を発していた。
秋夜の言葉を待たずして初穂は秋夜の隣りに腰掛けた。初穂がここにいることを秋夜が強く拒否することがないことをわかってやっていた。秋夜は初穂を嫌ってはおらず、初穂を傷つけるようなことをしないこともまたわかっていた。秋夜の無言は初穂を許す。初穂が初穂であることを受け入れる。
心地よい風が頬を撫でた。誘われるように大きく息を吸って吐く。なんだか久しぶりに呼吸をした気がしていた。弛緩した体の隅々まで新鮮な空気が巡る。頬が熱を帯び、視界が歪んで、初穂は自分が涙を流していることを知る。
母が死んで悲しかった。これからのことを思うと不安だった。だが涙はそういったことで流れているのではない。これはいわば儀式のようなものだ。受け入れるべきものを受け入れ、自分を取り戻し、形式を脱ぎ棄てるための。そして、そうなるのならばこの場所でなければいけなかったのだ。
一秒がすべて同じ長さで進むものではないことを初穂はもう知っていた。ひとは冷たく温かく、恐ろしく優しく、いくつもの矛盾をはらんで胸を掻きむしりたくなる想いを抱きながらも生きていることを知ってしまった。ずっと会っていなかった祖母の手のほうが父の手よりもあたたかいことを知ってしまった。他人を想ったはずの言葉が真綿で首を絞めるように息苦しくさせることを知ってしまった。涙は悲しくなくても流れることを知った。九歳にして初穂はたくさんのことを知らずには生きられなかった。
とめどなく涙は流れた。胸の裡に滞っていたものや外側に張りついていたものが洗い流される。泣きじゃくることも、涙をぬぐうこともせず、初穂は無心のまま、ただ静かに身をまかせた。そして、時間の感覚が失われ、一時間経ったのかまだ一分も経っていないのかわからなくなった頃、途切れることがないように思えた涙は、潮が引くように瞳からこぼれ落ちるのをやめた。
「ひとつ、物語を話そうか」
秋夜がひとりごとのように呟いた。秋夜は初穂を見ておらず、庭のどこかを遠目で眺めている。ただ、さっきまで開いていた文庫本は閉じられ、本屋の名前が印字された黄土色のカバーがてのひらの下で覗いていた。
「うん、聞かせて」
そう初穂が言うと、秋夜は陶器のような繊細な人差し指をそっと空へ向けた。
「月が少しずつ地球に近づいてきていることを、知っているかい?」
☽
月は地球の周りを巡り、常に浮いているものだけど、なぜそれが可能か知っているだろうか。
これは秘密だけど、月が空に浮かんでいられるのは、月のウサギのおかげなんだ。
実は、月の内側には無数の歯車があって、機械式時計のように絶えずせわしなく動いている。逆に言えば、それが動いているからこそ月は空に浮かんでいられるんだ。
そして、その歯車を動かしているのが月のウサギだ。
月のウサギとはなにもので、どうして存在するのか、それはだれにもよくわからない。月が地球の周りを巡ると決まったそのときから、月のウサギも月にいて、すでに歯車を回していたらしい。月が存在したからこそ月のウサギは存在し、月のウサギが存在するからこそ月は存在する。どちらかが欠けてもその存在はありえなかったんだ。
月のウサギの性質は純粋で善良、そして責任感がとても強い。寿命は約十年なんだけど、その間を月の歯車を絶えず回すという仕事に費やす。
月のウサギたちにとって仕事は非常に重要だ。使命と言っていい。なぜなら、月の歯車を回さなければ、月はみるみるうちに落っこちて地球に衝突してしまう。そうなっては、月に暮らす自分たちが滅びるだけじゃない。地球にも壊滅的な被害を与えてしまう。そんな悲しいことを起こしてはいけないと、月のウサギたちは白く柔らかい胸のうちに硬く熱い決意を持って一生懸命働いている。
だから、月のウサギたちの毎日はとても忙しいんだ。なにせ衛星ひとつを浮かせるほどの動力を持つ歯車だ。それは月の大部分を占める。歯車の点検に、歯車のメンテナンス、すり減った部品を交換しなければいけないから、交換用の部品を作る工場だっていつも動いている。人手はいくらあっても足りない。月のウサギたちは昼夜を問わず交代で働く。
彼らの仕事はどれも重要だが、なかでももっとも重要な仕事がある。
それは自らが動力となって歯車を回すという仕事だ。
実はすべての歯車が動くのは、月の中心のもっとも重要な歯車をある一匹のウサギが回しているからなんだ。それはちょうど自転車を動かす要領らしい。
その歯車を回すためのペダルはひと組しかない。だから、その役目はたった一匹のウサギに託される。そして、託されたウサギはその使命の重要性を知って、命を削ってでもその歯車を回すんだ。
なにせ、歯車を回さなければ月は落っこちてしまう。疲れたからと言ってだれかと交代すればその分歯車は止まって、月は少し地球に近づく。だから自らのだいじな家族や大好きな友人たちを想って、月のウサギは寝ることも休むこともなく死ぬまで歯車を回す。
そのせいで歯車を回す役目を担った月のウサギはひどく短命だけど、同時にとても名誉なこととされた。月では役目を終えた月のウサギは英雄として奉られる。銅像も作られ、月の中心に安置され、月の歯車を回す役目を担ったつぎの月のウサギを静かに威厳を持って見守るという。
だから歯車を回す役目を仰せられた月のウサギはだれもがよろこんでその役目を果たす。歯車を回す役目は立候補制なんだけど、立候補できる年齢に達した月のウサギたちはこぞって名を連ねるくらい、どの月のウサギもいつかその仕事に命を賭して臨みたいと願うんだ。
もちろん、過酷な仕事だからその仕事を任された月のウサギの命はもっても一月くらいだ。なかには一日で亡くなってしまうものもいる。そんなことでは月からウサギがいなくなるんじゃないかって? そうだね。だけど、こう言ってはなんだが、安心していい。月のウサギたちはそれをよく心得ていて、新しいウサギは毎日誕生し、代わりを絶やさないようにしている。
あるとき、一匹の雄の月のウサギが歯車を回す役目を任ぜられた。たくましく一途で真面目な若者のウサギだ。
その雄のウサギには恋人がいたんだけど、別れもそこそこにいままで足を踏みいれたことのない月の中心へと向かった。次の役目を担うものは、現在役目を果たしているものの身の回りの世話をしながら、来るべきそのときにいつでも対応できるようすぐそばに控えることを義務づけられていた。
歯車が止まると、月は地震に見舞われる。揺れが治まると、それは新しい英雄が歯車を回し始めたことを意味する。そうして英雄の永遠の眠りを知った月のウサギたちはしばし祈りを捧げる。
代替わりし、新しき英雄となった雄の若い月のウサギは、歯車を回していた。両肩にはすべての幸いと命がのしかかってくる。覚悟はしていたが、想像の覚悟では全然足りなかったと知る。体力に自信はあったが、息はすぐに切れ、動悸は激しかった。意気込んで、いままでの歯車を回す最長記録を作ってやろうと心に誓っていたが、そんな誓いはいますぐにでも潰えそうだった。
早く次の英雄となる月のウサギが来ることを雄のウサギは願った。次のウサギが来ないまま、力を果たしてしまっては大変なことになってしまう。残してきた家族も、友人も、だいじな恋人も自らの失態によって殺してしまうことになりかねない。
恐怖に毛は逆立ち、真っ赤な目は血走り、汗だくになりながら雄のウサギは必死で歯車を回した。そして、待望の次の英雄――つまり、若者の雄のウサギが死んだら代わりに歯車を回すものが姿を現した。
雄のウサギは息を呑む。そこにいたのは、若く美しい雌のウサギだった。それは、彼が置いてきたはずの恋人だった。
恋人の雌のウサギは、彼のそんな姿をひと目見て涙を流した。だが、彼女は一切彼を責めなかった。ただ静かに涙を流し、彼が少しでも快適に過ごせるよう手厚く身の回りの世話を焼き始めた。
それから雄のウサギは必死に歯車を回した。いままでも死に物狂いで回していたのだが、それからは命を失ったとしても回す勢いがあった。なにせ彼が死ぬことは、恋人のウサギの命を削ることをも意味したからだ。きっと、たおやかな彼女はきっと長く英雄ではいられない。その命を一瞬で燃やしつくしてしまうだろう。それは彼女を守りたいがために英雄に志願した彼の最も望まない結末だった。だから彼は持っている力以上に頑張った。歯を食いしばりながら、奮闘した。
がんばってがんばって、気づくと雄のウサギは一年という英雄の最長記録を更新していた。きっと恋人のウサギの心づくしの世話のおかげでもあった。もう駄目だと思う瞬間はなんどもあったが、側にいる恋人のことを想うと胸のうちから不思議と力が湧いてきた。
それからも彼は歯車を回しつづけた。自慢の毛は日々の奮闘でところどころ抜け落ちていたが、彼女が甲斐甲斐しく世話をするので、輝くような白さを保っていた。
そうして、二年経ち、三年経ち、長い年月が過ぎた。
いつしか彼の恋人は、英雄である適齢を過ぎ、つぎの英雄となりうる資格を剥奪され、彼のもとを去っていた。彼女がきっと別のだれかと結婚し、子どももいるだろうことは想像に難くなかった。月のウサギは必ず結婚し子どもをもうけることを義務づけられていたからね。
それでも雄のウサギは幸せだった。恋人を守れたと満足だった。そしていまも歯車を回すことによって、守り続けていることに誇りを感じた。
ある日、長らく会っていなかった恋人だったウサギが彼のもとを訪れてきた。それは特例だった。通常英雄のウサギにはその仕事を邪魔しないために次の英雄候補しか会えないことになっている。だが、彼女が彼の恋人であったこと、長く世話をしてきたことが考慮され、特別に会える手筈となっていた。
老いた恋人はむかしの面影は残すものの、息は絶え絶えで、耳もひげもたれ、年齢以上に老けて見えた。聞けば病になり、もう長くないのだという。だが、彼女には子どももおり、いまでは孫もいて、小さな孫は庭を跳ね回りうるさいほど元気だと話した。彼女の言葉のかいまに見える穏やかな生活を思い描き、安堵と満足で胸を満たした彼はむかしの恋人に優しく問いかけた。
――幸せかい?
だが、その瞬間、むかしの恋人は目の色を変え、彼の望むような言葉は一言だって口にしないものになってしまった。彼女は目に憎しみを宿して吐き捨てた。
――幸せかって? 冗談じゃないわ。あなたのもとを離れたあの日から、英雄になれなかったわたしは惨めで一瞬だって幸せじゃなかった。わたしはあなたと死ぬことを望んでいたというのに! ねえ、どうして一緒に死んでくれなかったの。
そう言われた雄のウサギは悲しくて悲しくて悲しくて、身も心もぼろぼろになってしばらくすると力尽きて亡くなったんだ。それはちょうどむかしの恋人のウサギが亡くなった翌日のことだったという。
だれもが到達しえない記録を作り、長い年月を英雄でいつづけた雄のウサギの死は、地震によってすべての月のウサギに知らされた。その日、月のウサギたちはだれもが深く悲しみ、同時に深く感謝したんだ。彼がたった一匹で歯車を回しつづけた長い年月のおかげで、月のウサギたちは栄え、平穏に暮らせたのだからね。彼を奉った祭壇には、せめて一輪の花をたむけようと地平線まで続く長い行列ができたんだ。
いまも栄光の月のウサギとして、彼を月の世界で知らないものはなく、彼のようになれたらと尊敬され、崇められつづけているという。
☾
母の初七日が終わり、父の仕事の都合上、早々に納骨をすることになった。立ち会ったのは僧侶と父と祖母と叔父と初穂だけだった。木枯らし一号を観測したとテレビで天気予報士がこぞって告げた翌日で、街外れの高台に位置する墓場にはほかに人影はなく、墓場の周りを目隠しするように覆った常緑針葉樹の杉の木は外界と隔てるように聳え、それ以外の木々は枯れてしなびた葉っぱをカサカサと鳴らし、閑散としたこの場所で余計に寂しさを演出していた。
法衣を着た僧侶が引率するように前を歩く。影のように黒い背中を追って辿りつかないどこかへ向かっているのだ。初穂はそんな気がしてならなかった。初穂の手を握るのは祖母だった。父は小さくなった母の入った骨壷を持っているから、初穂の手を握りしめる役を祖母が請負っていた。祖母の温かく柔らかい手が慰撫するようだ。初穂は手を握るのが父でなくてよかったと密かに安堵している。
灰色の石のなかに入れられる白い骨の母を見ても、母の姿を少しも思いださせる形を取っていないせいで、悲しみを覚えることはなかった。ただその異常なほどの白い骨が暗い闇の洞に残像を残して呑みこまれていくさまが、目に焼きついて一生忘れられないだろうと思わせた。きっと洞には底がなく、上も下も横もわからない目の利かぬ闇のなかで、ただただ永遠に落ち続けるのだ。そのうち感覚は麻痺し、自分と闇の境界線がわからなくなり、半分狂い半分正気のまま、闇へと取りこまれていくのだ。背筋が寒くなり、恐怖とはこういうことだと漠然と思う。
祖母の家に着くと、祖母と父が居間で話し合いを始めた。初穂にも今後初穂をどうするかについて話し合うのだとわかっていた。父はきっと初穂を手放すだろうことも予想がついた。そして、父はこうと決めたら譲ることがないことも。初穂はいまだに馴染まない父よりも祖母の家に暮らすほうが気楽だと感じる一方で、胸には今日参った墓場のように寒々しく荒涼とした風景がじわじわと広がるような心地だった。
身を置く場所がなく、初穂はふらふらと家のなかをさまよった。居間から廊下、廊下から最近寝起きをしている祖母の部屋へ。祖母の部屋は閉め切っていたせいで寒々しかった。居間とは襖を隔てて繋がっているため、父と祖母の声が聞こえてきてしまう。ここにも居てはいけないと、初穂は居間とは対面にある障子を開く。光の差す和紙は白々と輝いていた。
まるでそうされるのを待ちわびていたかのように障子は音もなくなめらかに開いた。小さな庭さきに生える色づいた楓の木が、光を浴びて炎のように輝いているさまが目に飛びこんでくる。青空には白い鱗雲が模様を描き、日射しが庭と縁側を穏やかにあたためている。木の塀に囲まれた小さなその世界のすべてが初穂を歓待しているようだった。高台にあった墓場とは違い、ここは秋の盛りで、これからくる眠りの時期を前に盛大に華やぎ、にぎわっていた。初穂はここに来るべきだったのだと胸のときめきを感じる。
ふと視線を感じて、首をめぐらす。縁側にはすでに先客がいた。
脚を縁側の外に投げ出し黙々と本を読んでいた秋夜は、一瞬だけ視線を初穂と交わしたが、すぐに手にした文庫本に集中した。まるで初穂がいてもいなくても気にしないという態度だった。だがそれは不快な無視ではなく、心地よい許容に感じる。
すでに喪服から普段着へと着替えをすませていた秋夜は、チャコールグレーの薄手のセーターの下に白いコットンのシャツを着て、臙脂色のコーデュロイのパンツを穿いていた。そのどれもがきちんと手入れされたもので、折り目正しく秋夜の体にぴったりと寄り添っている。
父と同じように、秋夜も必要最低限のことしか話さない無口な人物だった。この家に来てから交わした会話も事務的な一言二言でしかない。だが、父といるときのような緊張感はなかった。必要がないのなら話すな、話す必要があるなら要領を得て端的に伝えろ、と父の目線からは強い圧力を感じた。けれど秋夜からは、初穂にどのような言葉をかけるべきか戸惑い迷い気遣って結局言葉少なげになる、そういう弱々しい優しさを感じる。うつむき加減で、笑顔が少なく、笑ったとしても力なく遠慮がちだった。ひとを寄せつけない見えない卵の殻を持っていて、孤独になるのが上手だった。
拒絶することに慣れきった背中が目につく。チャコールグレーの柔らかそうなセーターからは日向の匂いがしてきそうで、衝動的に初穂は触れてみたくなる。
「ここにいてもいい?」
そう問うと、秋夜はゆっくりと顔を上げた。眼鏡の奥の黒目がちな瞳が初穂を映す。その瞳は鉱物のようだ。澄んでいるが無機質で芯に圧縮したなにかを閉じこめている。そこから感情を読み解くのは不可能だった。秋夜のような目を持つひとを初穂はほかに知らない。
音もなく楓の葉が一葉、秋夜の膝近くに舞い落ちた。開いた文庫本のページに夕焼けを写したような美しい葉が花開く。てのひら型の葉は傷も虫食いの跡もなく、左右対称で完璧な形をしており、黄色から山吹色、山吹色から赤色へとみごとな濃淡を見せつける。その葉はいままで初穂が見てきた紅葉のなかで一番華美で端麗だった。
不意に秋夜はその葉を払った。その細い指先にはどんな感情もこもっておらず、行為は無造作だった。初穂は息を呑む。楓の葉の美しさは少しの躊躇もなく簡単に踏みにじられたのだ。
きっと、初穂はその葉くらい秋夜にとって煩わしく、関心がないのだろう。それは初穂が子どもだからとか、美しくないからとかそういった理由ではなく、ただ秋夜がそういう人間だからなのだ。
秋夜は葬式からこのかた一度だって初穂をなぐさめたりはしなかった。けれどそれは初穂にとって救いでもあった。形式的にかけられる大人たちからのお悔やみや慰めの言葉は、初穂の耳より奥に入ってきたりはしなかった。ただ、形式的な言葉をかけられるにつれ、初穂の言い表せない感情すら形式にちなんだものになっていくのを感じていた。それはもう初穂のものではなく、万人が共有するなにかだ。こうあるべきという型に注がれ冷やして固められる類いのものだった。気づくと初穂は初穂ではなく、共通の認識が生みだした親を亡くしたかわいそうな子どもにされており、初穂は望まれるがまま親を亡くしたかわいそうな子どもがするべき行動を取って、けなげな言葉を発していた。
秋夜の言葉を待たずして初穂は秋夜の隣りに腰掛けた。初穂がここにいることを秋夜が強く拒否することがないことをわかってやっていた。秋夜は初穂を嫌ってはおらず、初穂を傷つけるようなことをしないこともまたわかっていた。秋夜の無言は初穂を許す。初穂が初穂であることを受け入れる。
心地よい風が頬を撫でた。誘われるように大きく息を吸って吐く。なんだか久しぶりに呼吸をした気がしていた。弛緩した体の隅々まで新鮮な空気が巡る。頬が熱を帯び、視界が歪んで、初穂は自分が涙を流していることを知る。
母が死んで悲しかった。これからのことを思うと不安だった。だが涙はそういったことで流れているのではない。これはいわば儀式のようなものだ。受け入れるべきものを受け入れ、自分を取り戻し、形式を脱ぎ棄てるための。そして、そうなるのならばこの場所でなければいけなかったのだ。
一秒がすべて同じ長さで進むものではないことを初穂はもう知っていた。ひとは冷たく温かく、恐ろしく優しく、いくつもの矛盾をはらんで胸を掻きむしりたくなる想いを抱きながらも生きていることを知ってしまった。ずっと会っていなかった祖母の手のほうが父の手よりもあたたかいことを知ってしまった。他人を想ったはずの言葉が真綿で首を絞めるように息苦しくさせることを知ってしまった。涙は悲しくなくても流れることを知った。九歳にして初穂はたくさんのことを知らずには生きられなかった。
とめどなく涙は流れた。胸の裡に滞っていたものや外側に張りついていたものが洗い流される。泣きじゃくることも、涙をぬぐうこともせず、初穂は無心のまま、ただ静かに身をまかせた。そして、時間の感覚が失われ、一時間経ったのかまだ一分も経っていないのかわからなくなった頃、途切れることがないように思えた涙は、潮が引くように瞳からこぼれ落ちるのをやめた。
「ひとつ、物語を話そうか」
秋夜がひとりごとのように呟いた。秋夜は初穂を見ておらず、庭のどこかを遠目で眺めている。ただ、さっきまで開いていた文庫本は閉じられ、本屋の名前が印字された黄土色のカバーがてのひらの下で覗いていた。
「うん、聞かせて」
そう初穂が言うと、秋夜は陶器のような繊細な人差し指をそっと空へ向けた。
「月が少しずつ地球に近づいてきていることを、知っているかい?」
☽
月は地球の周りを巡り、常に浮いているものだけど、なぜそれが可能か知っているだろうか。
これは秘密だけど、月が空に浮かんでいられるのは、月のウサギのおかげなんだ。
実は、月の内側には無数の歯車があって、機械式時計のように絶えずせわしなく動いている。逆に言えば、それが動いているからこそ月は空に浮かんでいられるんだ。
そして、その歯車を動かしているのが月のウサギだ。
月のウサギとはなにもので、どうして存在するのか、それはだれにもよくわからない。月が地球の周りを巡ると決まったそのときから、月のウサギも月にいて、すでに歯車を回していたらしい。月が存在したからこそ月のウサギは存在し、月のウサギが存在するからこそ月は存在する。どちらかが欠けてもその存在はありえなかったんだ。
月のウサギの性質は純粋で善良、そして責任感がとても強い。寿命は約十年なんだけど、その間を月の歯車を絶えず回すという仕事に費やす。
月のウサギたちにとって仕事は非常に重要だ。使命と言っていい。なぜなら、月の歯車を回さなければ、月はみるみるうちに落っこちて地球に衝突してしまう。そうなっては、月に暮らす自分たちが滅びるだけじゃない。地球にも壊滅的な被害を与えてしまう。そんな悲しいことを起こしてはいけないと、月のウサギたちは白く柔らかい胸のうちに硬く熱い決意を持って一生懸命働いている。
だから、月のウサギたちの毎日はとても忙しいんだ。なにせ衛星ひとつを浮かせるほどの動力を持つ歯車だ。それは月の大部分を占める。歯車の点検に、歯車のメンテナンス、すり減った部品を交換しなければいけないから、交換用の部品を作る工場だっていつも動いている。人手はいくらあっても足りない。月のウサギたちは昼夜を問わず交代で働く。
彼らの仕事はどれも重要だが、なかでももっとも重要な仕事がある。
それは自らが動力となって歯車を回すという仕事だ。
実はすべての歯車が動くのは、月の中心のもっとも重要な歯車をある一匹のウサギが回しているからなんだ。それはちょうど自転車を動かす要領らしい。
その歯車を回すためのペダルはひと組しかない。だから、その役目はたった一匹のウサギに託される。そして、託されたウサギはその使命の重要性を知って、命を削ってでもその歯車を回すんだ。
なにせ、歯車を回さなければ月は落っこちてしまう。疲れたからと言ってだれかと交代すればその分歯車は止まって、月は少し地球に近づく。だから自らのだいじな家族や大好きな友人たちを想って、月のウサギは寝ることも休むこともなく死ぬまで歯車を回す。
そのせいで歯車を回す役目を担った月のウサギはひどく短命だけど、同時にとても名誉なこととされた。月では役目を終えた月のウサギは英雄として奉られる。銅像も作られ、月の中心に安置され、月の歯車を回す役目を担ったつぎの月のウサギを静かに威厳を持って見守るという。
だから歯車を回す役目を仰せられた月のウサギはだれもがよろこんでその役目を果たす。歯車を回す役目は立候補制なんだけど、立候補できる年齢に達した月のウサギたちはこぞって名を連ねるくらい、どの月のウサギもいつかその仕事に命を賭して臨みたいと願うんだ。
もちろん、過酷な仕事だからその仕事を任された月のウサギの命はもっても一月くらいだ。なかには一日で亡くなってしまうものもいる。そんなことでは月からウサギがいなくなるんじゃないかって? そうだね。だけど、こう言ってはなんだが、安心していい。月のウサギたちはそれをよく心得ていて、新しいウサギは毎日誕生し、代わりを絶やさないようにしている。
あるとき、一匹の雄の月のウサギが歯車を回す役目を任ぜられた。たくましく一途で真面目な若者のウサギだ。
その雄のウサギには恋人がいたんだけど、別れもそこそこにいままで足を踏みいれたことのない月の中心へと向かった。次の役目を担うものは、現在役目を果たしているものの身の回りの世話をしながら、来るべきそのときにいつでも対応できるようすぐそばに控えることを義務づけられていた。
歯車が止まると、月は地震に見舞われる。揺れが治まると、それは新しい英雄が歯車を回し始めたことを意味する。そうして英雄の永遠の眠りを知った月のウサギたちはしばし祈りを捧げる。
代替わりし、新しき英雄となった雄の若い月のウサギは、歯車を回していた。両肩にはすべての幸いと命がのしかかってくる。覚悟はしていたが、想像の覚悟では全然足りなかったと知る。体力に自信はあったが、息はすぐに切れ、動悸は激しかった。意気込んで、いままでの歯車を回す最長記録を作ってやろうと心に誓っていたが、そんな誓いはいますぐにでも潰えそうだった。
早く次の英雄となる月のウサギが来ることを雄のウサギは願った。次のウサギが来ないまま、力を果たしてしまっては大変なことになってしまう。残してきた家族も、友人も、だいじな恋人も自らの失態によって殺してしまうことになりかねない。
恐怖に毛は逆立ち、真っ赤な目は血走り、汗だくになりながら雄のウサギは必死で歯車を回した。そして、待望の次の英雄――つまり、若者の雄のウサギが死んだら代わりに歯車を回すものが姿を現した。
雄のウサギは息を呑む。そこにいたのは、若く美しい雌のウサギだった。それは、彼が置いてきたはずの恋人だった。
恋人の雌のウサギは、彼のそんな姿をひと目見て涙を流した。だが、彼女は一切彼を責めなかった。ただ静かに涙を流し、彼が少しでも快適に過ごせるよう手厚く身の回りの世話を焼き始めた。
それから雄のウサギは必死に歯車を回した。いままでも死に物狂いで回していたのだが、それからは命を失ったとしても回す勢いがあった。なにせ彼が死ぬことは、恋人のウサギの命を削ることをも意味したからだ。きっと、たおやかな彼女はきっと長く英雄ではいられない。その命を一瞬で燃やしつくしてしまうだろう。それは彼女を守りたいがために英雄に志願した彼の最も望まない結末だった。だから彼は持っている力以上に頑張った。歯を食いしばりながら、奮闘した。
がんばってがんばって、気づくと雄のウサギは一年という英雄の最長記録を更新していた。きっと恋人のウサギの心づくしの世話のおかげでもあった。もう駄目だと思う瞬間はなんどもあったが、側にいる恋人のことを想うと胸のうちから不思議と力が湧いてきた。
それからも彼は歯車を回しつづけた。自慢の毛は日々の奮闘でところどころ抜け落ちていたが、彼女が甲斐甲斐しく世話をするので、輝くような白さを保っていた。
そうして、二年経ち、三年経ち、長い年月が過ぎた。
いつしか彼の恋人は、英雄である適齢を過ぎ、つぎの英雄となりうる資格を剥奪され、彼のもとを去っていた。彼女がきっと別のだれかと結婚し、子どももいるだろうことは想像に難くなかった。月のウサギは必ず結婚し子どもをもうけることを義務づけられていたからね。
それでも雄のウサギは幸せだった。恋人を守れたと満足だった。そしていまも歯車を回すことによって、守り続けていることに誇りを感じた。
ある日、長らく会っていなかった恋人だったウサギが彼のもとを訪れてきた。それは特例だった。通常英雄のウサギにはその仕事を邪魔しないために次の英雄候補しか会えないことになっている。だが、彼女が彼の恋人であったこと、長く世話をしてきたことが考慮され、特別に会える手筈となっていた。
老いた恋人はむかしの面影は残すものの、息は絶え絶えで、耳もひげもたれ、年齢以上に老けて見えた。聞けば病になり、もう長くないのだという。だが、彼女には子どももおり、いまでは孫もいて、小さな孫は庭を跳ね回りうるさいほど元気だと話した。彼女の言葉のかいまに見える穏やかな生活を思い描き、安堵と満足で胸を満たした彼はむかしの恋人に優しく問いかけた。
――幸せかい?
だが、その瞬間、むかしの恋人は目の色を変え、彼の望むような言葉は一言だって口にしないものになってしまった。彼女は目に憎しみを宿して吐き捨てた。
――幸せかって? 冗談じゃないわ。あなたのもとを離れたあの日から、英雄になれなかったわたしは惨めで一瞬だって幸せじゃなかった。わたしはあなたと死ぬことを望んでいたというのに! ねえ、どうして一緒に死んでくれなかったの。
そう言われた雄のウサギは悲しくて悲しくて悲しくて、身も心もぼろぼろになってしばらくすると力尽きて亡くなったんだ。それはちょうどむかしの恋人のウサギが亡くなった翌日のことだったという。
だれもが到達しえない記録を作り、長い年月を英雄でいつづけた雄のウサギの死は、地震によってすべての月のウサギに知らされた。その日、月のウサギたちはだれもが深く悲しみ、同時に深く感謝したんだ。彼がたった一匹で歯車を回しつづけた長い年月のおかげで、月のウサギたちは栄え、平穏に暮らせたのだからね。彼を奉った祭壇には、せめて一輪の花をたむけようと地平線まで続く長い行列ができたんだ。
いまも栄光の月のウサギとして、彼を月の世界で知らないものはなく、彼のようになれたらと尊敬され、崇められつづけているという。
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