11 / 15
第2話の5
しおりを挟む
レドガンは言葉通り、シロが身を起こせるまで回復すると、ベッドの傍らに座って世界の成り立ちを教え込み始めた。
しかし教育は難航した。他のほとんどの転生者が一言で飲み込めるキーワードは、シロには馴染みのないものばかりだった。
「異世界転生とかスキルとか、言えばピンとくるものなんだがなぁ。まあたまにお前みたいなのもいるが」
三度目の説明をして、レドガンは頭をかきながら困り顔になった。教えるとは言ったものの、明快な説明は苦手であった。
「聖女もそんなことを言ってた。娯楽の用語だから、それを嗜めないほど貧乏だったんだって」
「そうとは限らんだろ。単に趣味では無かっただけかもしれん……シロ、お前ひょっとして聖女の言ったこと気にしてるのか?」
認めるのが悔しくて、シロは目を逸らす。それを見てレドガンは大声で笑った。
「あんな全方位にキツい女のことを気にしてたら身が持たんぞ! だが、もしかしたらあっちの方もキツキツなのかもしれんな!」
「師匠!」
部屋のドアから、エリと団十郎が顔を出した。
「よくわかんなかったけど、今の下ネタでしょ!」
「おお、よくわかったな」
「シロは怪我人なんだからやめて!」
そう言い捨て、エリは自分の用事に戻っていった。
「13だから色気づくのも無理ないが、最近気にするようになってな。シロ、お前は確か18だったな」
「うん」
「元の世界なら犯罪だな! 法律とかは覚えてるか?」
「うっすらと。殺人や傷害や、複数の人と結婚しちゃいけないとか……」
「ちょっと怪しいな。元の世界には無い法律もあるし、それはまた今度にしよう。異世界やスキルのことは飲み込めたか?」
「ここは前いた世界とは違う世界。記憶が戻ったり元の世界に戻った者はいないし、来てしまったものは仕方ないから深く考えない。生きてる以上は生きるしかない」
「その通りだ」
「スキルっていうのは……技能って言うより超能力?」
なるほど、とレドガンは無精髭を撫でた。
「確かにそうだな。肉体や魔法が強くなるやつもいれば、ちょっと変わったスキルのやつもいる。技能ではないな。人智を超えた能力だ」
「師匠のスキルは?」
「俺か? 俺は食べれば食べるほど肉体が強くなるんだ。肉限定だがな!」
肉限定というところに愛嬌があるだろ! とレドガンは快活に笑う。
「だからそんなムキムキに……」
「おう。この通りだ」
レドガンは力こぶを作る。力を入れれば入れるほど大きくなりそうなそれは、まだかなりの余力を残しているようだ。
「ギルド会館のことだが、入らずに逃げてきたということはスキル判別もしなかったのか?」
「うん」
「そうか。だが運が良ければいずれわかるだろう。ステータスウインドウなんて便利なものは無いが、スキルというのは自分の特徴や才能の延長にあるからな」
「……もう一度、ギルドに行けばいいんじゃないの?」
「勇気があるな。教会から小さい紙をもらっただろう。あれは紹介状だ。まだ持ってるか?」
シロは首を振る。森を彷徨っている間に消えていた。
「教会に行けばもう一度もらえるが……俺はギルドでスキル判別をするのは勧めないな」
「……どういうこと?」
「確かに転生者は高確率で強力なスキルを発現する。それがギルドで判明した場合、もてはやされて山ほどお誘いが来る。だが、そうでない場合」
レドガンは一旦止め、珍しく言葉を探した。
「不要なスキルや、スキルを持ってないとしたら、周りどころかギルドの姉ちゃんでさえもが冷たい目になる。最悪その場でサンドバッグになったり、奴隷になったりする」
シロは青ざめた。あの日、王都の路上で袋叩きにされていた男を思い出す。
「もう転生者が現れて何十年も経つんだ。どんなスキルが役立つか、それとも危険なのか皆わかってるのさ。それに、ギルドに行けば名簿に登録されて国に管理される」
管理、という言葉がシロの胸に刺さる。
「ろくなことにならないぞ。転生者や冒険者なんてすぐ傭兵として呼ばれて、果てのない魔族との戦争に巻き込まれる。金になるから喜んで行く者が多いがな」
「戦争……」
「シロ、お前は運が良いのかもしれない」
「……どうして?」
「登録漏れの転生者はお前くらいだろう。逃げ出す者はいるが、いずれ登録されるか野垂れ死ぬかだ。俺は転生者の死体を何度も拾った。生きていたのはお前が初めてだ」
「……」
「転生者を拾ったら生死に関わらず通報の義務があるんだが、登録されていないなら関係ないな!」
「……師匠」
「おう」
「戦争って、師匠も行くの?」
「俺は行かないよ。拒否権が無いわけじゃないんだ。金さえ払えばだが」
「魔族とかって……」
「シロ、今日はこれくらいにしておこう。もし眠れなかったら……」
レドガンは背後のドアを見る。こっそりと覗いていたエリと団十郎が顔を引っ込めた。
「エリはお前のことが気になるようだ。話し相手になってやってくれ」
しかし教育は難航した。他のほとんどの転生者が一言で飲み込めるキーワードは、シロには馴染みのないものばかりだった。
「異世界転生とかスキルとか、言えばピンとくるものなんだがなぁ。まあたまにお前みたいなのもいるが」
三度目の説明をして、レドガンは頭をかきながら困り顔になった。教えるとは言ったものの、明快な説明は苦手であった。
「聖女もそんなことを言ってた。娯楽の用語だから、それを嗜めないほど貧乏だったんだって」
「そうとは限らんだろ。単に趣味では無かっただけかもしれん……シロ、お前ひょっとして聖女の言ったこと気にしてるのか?」
認めるのが悔しくて、シロは目を逸らす。それを見てレドガンは大声で笑った。
「あんな全方位にキツい女のことを気にしてたら身が持たんぞ! だが、もしかしたらあっちの方もキツキツなのかもしれんな!」
「師匠!」
部屋のドアから、エリと団十郎が顔を出した。
「よくわかんなかったけど、今の下ネタでしょ!」
「おお、よくわかったな」
「シロは怪我人なんだからやめて!」
そう言い捨て、エリは自分の用事に戻っていった。
「13だから色気づくのも無理ないが、最近気にするようになってな。シロ、お前は確か18だったな」
「うん」
「元の世界なら犯罪だな! 法律とかは覚えてるか?」
「うっすらと。殺人や傷害や、複数の人と結婚しちゃいけないとか……」
「ちょっと怪しいな。元の世界には無い法律もあるし、それはまた今度にしよう。異世界やスキルのことは飲み込めたか?」
「ここは前いた世界とは違う世界。記憶が戻ったり元の世界に戻った者はいないし、来てしまったものは仕方ないから深く考えない。生きてる以上は生きるしかない」
「その通りだ」
「スキルっていうのは……技能って言うより超能力?」
なるほど、とレドガンは無精髭を撫でた。
「確かにそうだな。肉体や魔法が強くなるやつもいれば、ちょっと変わったスキルのやつもいる。技能ではないな。人智を超えた能力だ」
「師匠のスキルは?」
「俺か? 俺は食べれば食べるほど肉体が強くなるんだ。肉限定だがな!」
肉限定というところに愛嬌があるだろ! とレドガンは快活に笑う。
「だからそんなムキムキに……」
「おう。この通りだ」
レドガンは力こぶを作る。力を入れれば入れるほど大きくなりそうなそれは、まだかなりの余力を残しているようだ。
「ギルド会館のことだが、入らずに逃げてきたということはスキル判別もしなかったのか?」
「うん」
「そうか。だが運が良ければいずれわかるだろう。ステータスウインドウなんて便利なものは無いが、スキルというのは自分の特徴や才能の延長にあるからな」
「……もう一度、ギルドに行けばいいんじゃないの?」
「勇気があるな。教会から小さい紙をもらっただろう。あれは紹介状だ。まだ持ってるか?」
シロは首を振る。森を彷徨っている間に消えていた。
「教会に行けばもう一度もらえるが……俺はギルドでスキル判別をするのは勧めないな」
「……どういうこと?」
「確かに転生者は高確率で強力なスキルを発現する。それがギルドで判明した場合、もてはやされて山ほどお誘いが来る。だが、そうでない場合」
レドガンは一旦止め、珍しく言葉を探した。
「不要なスキルや、スキルを持ってないとしたら、周りどころかギルドの姉ちゃんでさえもが冷たい目になる。最悪その場でサンドバッグになったり、奴隷になったりする」
シロは青ざめた。あの日、王都の路上で袋叩きにされていた男を思い出す。
「もう転生者が現れて何十年も経つんだ。どんなスキルが役立つか、それとも危険なのか皆わかってるのさ。それに、ギルドに行けば名簿に登録されて国に管理される」
管理、という言葉がシロの胸に刺さる。
「ろくなことにならないぞ。転生者や冒険者なんてすぐ傭兵として呼ばれて、果てのない魔族との戦争に巻き込まれる。金になるから喜んで行く者が多いがな」
「戦争……」
「シロ、お前は運が良いのかもしれない」
「……どうして?」
「登録漏れの転生者はお前くらいだろう。逃げ出す者はいるが、いずれ登録されるか野垂れ死ぬかだ。俺は転生者の死体を何度も拾った。生きていたのはお前が初めてだ」
「……」
「転生者を拾ったら生死に関わらず通報の義務があるんだが、登録されていないなら関係ないな!」
「……師匠」
「おう」
「戦争って、師匠も行くの?」
「俺は行かないよ。拒否権が無いわけじゃないんだ。金さえ払えばだが」
「魔族とかって……」
「シロ、今日はこれくらいにしておこう。もし眠れなかったら……」
レドガンは背後のドアを見る。こっそりと覗いていたエリと団十郎が顔を引っ込めた。
「エリはお前のことが気になるようだ。話し相手になってやってくれ」
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる