異世界転生したけど採取生活で平穏に生きています 〜武勲とか伝説とかよそでやってください〜

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第2話の5

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 レドガンは言葉通り、シロが身を起こせるまで回復すると、ベッドの傍らに座って世界の成り立ちを教え込み始めた。

 しかし教育は難航した。他のほとんどの転生者が一言で飲み込めるキーワードは、シロには馴染みのないものばかりだった。

「異世界転生とかスキルとか、言えばピンとくるものなんだがなぁ。まあたまにお前みたいなのもいるが」

 三度目の説明をして、レドガンは頭をかきながら困り顔になった。教えるとは言ったものの、明快な説明は苦手であった。

「聖女もそんなことを言ってた。娯楽の用語だから、それを嗜めないほど貧乏だったんだって」

「そうとは限らんだろ。単に趣味では無かっただけかもしれん……シロ、お前ひょっとして聖女の言ったこと気にしてるのか?」

 認めるのが悔しくて、シロは目を逸らす。それを見てレドガンは大声で笑った。

「あんな全方位にキツい女のことを気にしてたら身が持たんぞ! だが、もしかしたらあっちの方もキツキツなのかもしれんな!」

「師匠!」

 部屋のドアから、エリと団十郎が顔を出した。

「よくわかんなかったけど、今の下ネタでしょ!」

「おお、よくわかったな」

「シロは怪我人なんだからやめて!」

 そう言い捨て、エリは自分の用事に戻っていった。

「13だから色気づくのも無理ないが、最近気にするようになってな。シロ、お前は確か18だったな」

「うん」

「元の世界なら犯罪だな! 法律とかは覚えてるか?」

「うっすらと。殺人や傷害や、複数の人と結婚しちゃいけないとか……」

「ちょっと怪しいな。元の世界には無い法律もあるし、それはまた今度にしよう。異世界やスキルのことは飲み込めたか?」

「ここは前いた世界とは違う世界。記憶が戻ったり元の世界に戻った者はいないし、来てしまったものは仕方ないから深く考えない。生きてる以上は生きるしかない」

「その通りだ」

「スキルっていうのは……技能って言うより超能力?」

 なるほど、とレドガンは無精髭を撫でた。

「確かにそうだな。肉体や魔法が強くなるやつもいれば、ちょっと変わったスキルのやつもいる。技能ではないな。人智を超えた能力だ」

「師匠のスキルは?」

「俺か? 俺は食べれば食べるほど肉体が強くなるんだ。肉限定だがな!」

 肉限定というところに愛嬌があるだろ! とレドガンは快活に笑う。

「だからそんなムキムキに……」

「おう。この通りだ」

 レドガンは力こぶを作る。力を入れれば入れるほど大きくなりそうなそれは、まだかなりの余力を残しているようだ。

「ギルド会館のことだが、入らずに逃げてきたということはスキル判別もしなかったのか?」

「うん」

「そうか。だが運が良ければいずれわかるだろう。ステータスウインドウなんて便利なものは無いが、スキルというのは自分の特徴や才能の延長にあるからな」

「……もう一度、ギルドに行けばいいんじゃないの?」


「勇気があるな。教会から小さい紙をもらっただろう。あれは紹介状だ。まだ持ってるか?」

 シロは首を振る。森を彷徨っている間に消えていた。

「教会に行けばもう一度もらえるが……俺はギルドでスキル判別をするのは勧めないな」

「……どういうこと?」

「確かに転生者は高確率で強力なスキルを発現する。それがギルドで判明した場合、もてはやされて山ほどお誘いが来る。だが、そうでない場合」

 レドガンは一旦止め、珍しく言葉を探した。

「不要なスキルや、スキルを持ってないとしたら、周りどころかギルドの姉ちゃんでさえもが冷たい目になる。最悪その場でサンドバッグになったり、奴隷になったりする」

 シロは青ざめた。あの日、王都の路上で袋叩きにされていた男を思い出す。

「もう転生者が現れて何十年も経つんだ。どんなスキルが役立つか、それとも危険なのか皆わかってるのさ。それに、ギルドに行けば名簿に登録されて国に管理される」

 管理、という言葉がシロの胸に刺さる。

「ろくなことにならないぞ。転生者や冒険者なんてすぐ傭兵として呼ばれて、果てのない魔族との戦争に巻き込まれる。金になるから喜んで行く者が多いがな」

「戦争……」

「シロ、お前は運が良いのかもしれない」

「……どうして?」

「登録漏れの転生者はお前くらいだろう。逃げ出す者はいるが、いずれ登録されるか野垂れ死ぬかだ。俺は転生者の死体を何度も拾った。生きていたのはお前が初めてだ」

「……」

「転生者を拾ったら生死に関わらず通報の義務があるんだが、登録されていないなら関係ないな!」

「……師匠」

「おう」

「戦争って、師匠も行くの?」

「俺は行かないよ。拒否権が無いわけじゃないんだ。金さえ払えばだが」

「魔族とかって……」

「シロ、今日はこれくらいにしておこう。もし眠れなかったら……」

 レドガンは背後のドアを見る。こっそりと覗いていたエリと団十郎が顔を引っ込めた。

「エリはお前のことが気になるようだ。話し相手になってやってくれ」
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