Project LUNO

二宮透

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三章 二人

3 テオドラとミズキ

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(なんだろう、ルーノじゃないみたい)


そう仮説を立てるとつじつまが合ってしまう。


もしかして本物のルーノはいなくなって、誰かがルーノをかたっているのではないか?


自分の知っているルーノは誰かに殺された、もしくは攫われた。


さっきまで目の前にいたルーノとおぼしき人物は実は全くの別人で、ヴェスパタイン家の財産目当てに変装している盗賊か何かなのでは?


(……馬鹿らしい。我ながら稚拙だわ)


現実逃避に空想をしている自分に気付いて、ミズキは却って冷静になった。


飛躍した仮説はときに必要だが、それはあくまで始まりから過程を追ってつぶさに検証できる場合の話である。


今の自分には、ここ最近のルーノに関する情報が決定的に欠けているのだ。


「冒険者……冒険者、か」


改めて反すうしてみてもかなり突拍子もない話だ。


(まず、基本に立ち返らないと)


ミズキは研究がうまくいかない時のことを思い出していた。


こんな時はいつだって基盤ベースがしっかりとしていない。


そのことをミズキは経験的に熟知しつつあった。


ルーノはいつ部屋に戻ってくるかもわからない。


もしかしたら気まずくて、自分がいるうちは戻ってこないかもしれない。


大体、今のルーノと二人きりで再び話したとしても本心が聞き出せる保証は全くないのだ。


「ごめんね、ルーノ……」


そうつぶやくとミズキは立ち上がり、西日の翳り始めた部屋のカーテンを閉めた。


それから忘れ物がないかテーブルの上を確認し、ルーノの部屋をあとにした。


中央廊下を進み、ルーノの部屋がある二階から階段を下りると、中年の淑女が声をかけてきた。


「あらミズキ、もう帰るのですか」


ルーノのおばであるテオドラ=ヴェスパタインだった。


「いえ、まだ……」


ルーノが心を許すテオドラなら、何か事情を知っているかもしれない。


「おばさま、少しお話をうかがってもよろしいですか」
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