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第五章 ベルリン ベル スロット
ベルリン ベルスロット 1
しおりを挟む「ベル様少し宜しいですか?」
扉を叩く音と共にシャルの声が聞こえた。
私はノアに頼まれていた物をベットの下に隠して扉を開けた。
「どうしたのシャル? 何かあった?」
「夜分遅くにすいません、少しだけベル様と話がしたくて」
「全然大丈夫よ、私もあんまり寝れなかったの。 ちょうど良かったわ、入って」
「ありがとうございます」
元気無くシャルは言う。 ノアの話を聞いてから、いやノアがこの世界に来てからシャルの様子は少しおかしい様に思う。
何か私に言いたい事を隠している感じもする。 シャルの事だからきっといつかは打ち明けてくれるだろうし、もしかしたらその話かも知れないとも思いながら私はシャルを部屋の中に入れた。
お互いにいつもの場所に座って向かい合った後、シャルは特に話を始める事は無かったので私は自分から話を始める事にした。
「えーと、何を話そうかしら? やっぱり明日の事?」
「それもありますけど……いえ、そうですね! 明日の事でベル様にお話があるんです! ベル様はあのノア様の話をどう思っているのか知りたくて」
「どう思っているって言うのは、信じているかどうかと言った事かしら?」
「はい、幾ら何でも都合が良すぎる感じがしませんか? そもそもリリィーの居場所にしても、今回の侵入を予定している場所も全てノア様が突き止めた事ですよ? まだこの世界に来て一ヶ月少しでそんな事が出来ると本気で思いますか? もしかしてユーノと繋がっている可能性だって」
「シャル、ノアを疑うのはもう辞めたでしょ? 私は信じているわ。 ノアも貴方もね」
私はシャルの言葉を遮った、この手の話はこの一ヶ月もう何回も繰り返している事だったから。 でもシャルを攻めているわけでは無い、シャルは私の身を案じて言ってくれている事も十分伝わっていた。
「そ、それはそうですけど……。 ノア様の隠している事が何なのか、それがずっと気になるのです」
顔を俯けながらシャルは言った、確かにノアが何かを隠しているのは明白だ。
シャルの言う通りここまで明確にちる様を助ける策をノアが持ってきた事もも不思議に思う、ユーノと繋がっている可能性だって有り得ない話じゃ無いだろう。
だけど、ノアがちる様を消す計画に手を貸すなんてありえないとも私は思いたい。
ノアはちる様の事をとても大事な人だと、恩人だと言っていた。 あの言葉を私は嘘だと思いたくないのだ。
「シャル、ノアと初めてあった時、あの家で私達は共に一つの目的を誓い合ったわ。 それをノアが蔑ろにすると思う?」
「私ももノア様の事を疑いたくはありません、ベル様が私をを信じてくれている様にノア様を信じたいです。
それにノア様は本当に良い御仁です、ベル様だけではなく私なんかにもとても気を遣って接してくれている事が伝わってきます。
それなのに……ノア様の事を心の底から信じる事が出来なのです。 そしてそんな自分が堪らなく嫌になるんです」
シャルは今にも泣き出してしまいそうな顔で私を見つめる。 シャルの悩みや苦しみは私にも伝わってくる。
シャルが召喚したノアが私達に仇をなした時の事を考えているのだろう。
そしてその責任は全部シャル自身にあるんだと本気で考えて悩んで、恐怖している。
シャルの目を見ればそんな不安がすぐに読み取れた。 そしてその不安をどうにかする事は私にはきっと出来ない。
シャルの不安が全てなくなる日が来るとしたらそれはノアがちる様を救い出した時、その日が来るまでシャルはこの不安と向き合わなくちゃいけないんだと思うと思わず私も泣きそうになってしまう。
同時にシャルにばかり大きな負担をかけてしまっている現状をとても心苦しく思う。
私がシャルに出来る事は少ない、きっとどんなに都合の良い事を言ってもそれは只の気休め程度にしかならないだろう。
それでも私と話している間シャルの気持ちが少しでも休まるならそうするべきだ。
私は自分の気持ちを正直にシャルに言う事に決めた。
「シャル、そんなに自分を責める事はないわ。 私もね、正直言ってノアの言う事を全て信じている訳じゃないの」
「え?」
「ノアの言っていた通り誰かを信頼するって事はそう簡単な事じゃないわよね、家族でもなければ友達でもない、ましてや生きてきた時代が違うんだもの。
ノアの前では偉そうなこと言ったけど、私も自分に言い聞かせていただけなの、ごめんねシャル。
でもシャルの事を信じているって言葉に嘘はないわ、それは本当。 ふふ、ノアには内緒よ?」
「ベル様……」
「リリィーに会いに行く時だって本当はとても怖かったの、もしかしてリリィーとノアは結託していて私を差し出す事でノアはちる様に一目会う約束でも取り付けたんじゃないかってね。
結局今になってはそんな事も無かったから、ノアにはそのうち謝らないといけないわね。
いや、ノアの事だからその事にも気付いていそうだけど」
私は自分の本心をシャルへ話す、言葉にすればする程私は自分が酷い人間だと実感する。
ノアへの疑いや不安をずっと見てみないふりをしてきた、その全てをシャルに押し付けていたのだ。 リリィーに言われた言葉が身に染みる、私は尊敬される様な人間じゃない、苦しんでいる仲間も救えない、なんの力も只の人間なんだ。
「ベル様は強いんですね。 私にはマネ出来そうにありません、本当に凄い方です」
「私は強くなんてないわ、ただ逃げていただけ」
「いいえ、強いです。 心ではその様な事をお考えながら、私と同じ気持ちを抱えながらもベル様はノア様を信じているという事を行動で示してきた。
そんな事なかなか出来る事じゃありませんよ」
シャルが力強く私に答える。
「私もノア様の言葉の全てを疑っている訳ではありませんでした、いえむしろ殆ど信じられる事の方が多いとも思っていたのです。
だけどたった一つの出来事で再びノア様を疑ってしまいました、そしてその事で今迄信じてきた事でさえ信じられなくなってしまったのです。
ですが、ですがベル様はそんな事にはならなかった。 ノア様が言ったちる様を助けたいと言う言葉を今でも心から信じている。
その事が私にはとても凄い事に思えます」
シャルは泣きながら私に微笑んだ。 気付けば私がシャルに救われていた、どうしていつもこうなってしまうのだろう、この短い間でシャルは私の足枷を綺麗に解いてくれた。
本当にシャルにはいつも助けられてばかりだ。 いつか私もシャルの助けになりたいと強く思った。
「ありがとうございます、ベル様。 出発前に話す事が出来てよかったです」
シャルは深々と頭を下げて言った、お礼を言うべきは私の方なのにシャルの姿はこれ以上この件で私に何かを話させる事を躊躇させた。
「ねぇシャル? 私達最近ネガティブな話ばかりしていない?
色々不安はお互いあるかもしれない、けどどうせならこの作戦が、ノアの策がどう成功するかを考えない?
失敗する事より成功を考えましょう! 最悪の結果より最高の結果をね! 私も今持っている色々な考えの中で一番こうあって欲しいって思う事を言う様にするから!」
「確かにそうですね、すいません」
「すいませんも禁止ね? って事で次の質問もシャルからしなさい」
心はまだ落ち着かないけど出来るだけ普段通りに私は振る舞う、でも結局物事を楽観的に考えるのが私達には合っているとも思った。
「は、はい。 そうですね! 私も想像出来る最高の結果に通じる考えを話す事にします!
決戦前夜とも言える日ですもんね、その方が良いに決まっています! それでは簡単に一つずつ聞きていきます!
さっきの続きになりますがノア様は一体どうやってちる様を救う策を考えついたと思いますか?」
「そうね、最悪の場合がユーノと繋がっていてノアの情報源は全てユーノから聞いている事だとだとしたら最高の場合はその逆。 ノアが単独で全てを調べ上げた事になるわね」
「ノア様一人でですか?」
「ええ、むしろユーノと繋がってないとしたら考えられるのはそれしか無いわ、この時代に私達の他に協力者が居るとは思えないからね」
「だとしたらノア様は一体どうやってその様な情報を得たのでしょうか?」
「それはわからないわ、その方法こそがノアが私達に聞かないで欲しいと頼んだ事だから。 だけど思い当たる節はある」
は
そう、ノアがどんなに優秀な人物だったとしてもこの短期間にここまで具体的な策を用意する事は不可能だろう、考えられる事はただ一つだけだった。
私の言葉をシャルは息を飲んで待っていた。 きっとシャルの考えている事も私と同じ事なんだと思う。
「それはノア自身が何か特別な能力を持っている人間って事。
その力を使ってノアはこの情報を見つけた。 私達に能力の事を黙っているのは今知られると都合が悪い何かがあるって事だと思う」
「そうですよね、ノア様が能力を持っていてその力を使っている。 それが今考えら最高の展開である事は間違えないでしょう。
ですが、ちる様は昔ソフィア様と神谷様以降その様な特別な力を持って生まれた人間は居なかったと言っていました、次に能力を持って生まれたのがアステル兄様だったと」
「ちる様はノアの事はわざわざ言う必要は無いと考えたのよ。
だってそうでしょ??
そもそも私達はちる様が千年前よりずっと前にその姿を見せていた事も知らなかったのよ?
そしてその時に一緒にいたのがノア。
ちる様がその姿を見せる時は大抵能力者絡みの事だもの、ノアが何かしらの能力を持っている事は不思議な事じゃないわ、それはシャルもわかっていた事でしょう?
問題はその能力が一体どんなものでどう使ったかって事。 情報を集めるための能力なのか、ユーノにとって都合が悪い能力でそれを交渉材料に使っているか、前者が最高の結果で後者が私達にとっての最悪の結果って事かしらね」
私は自分の考えをシャルに伝えた。
「ノア様の能力がなんなのかわからない以上、結局ノア様を信じるか信じないかの話に逆戻りですね」
シャルはまた微笑みながら私に言葉を返す。
「ふふ、確かにそうよね。 でも、シャルと二人でこの事を話せたのは良かったわ。 言葉にしたら、少なくとも今は私も明日には最高の結果が待っていると思う気持ちが増えたもの。
不安や恐怖はここまでにするわ、全ては明日にならなきゃわからないのだから」
「私もベル様の気持ちを聞く事ができて大変感謝しています。 ありがとうございます! 最後に一つベル様にお願いがあります」
「何かしら?」
シャルのお願いには心当たりが無い、一体なんだろう?
「ベル様、どうか無事にここへ帰ってきてください。 ベル様が居なくなった世界で私は、生きていけそうにありませんから」
悲痛な表情を浮かべてシャルは私に言った、声は弱々しく震えている。 それを私は少し嬉しく感じる、
こんなにも私の身を心配してくれる人が近くにいる。 その事が私に勇気と力を与えてくれている様にも思えた。
私は肩を振るわせて小さくなるシャルにゆっくりと抱きついた。
「ありがとうシャル。 でも心配しないで、私は必ず帰ってくるわ。 勿論ノアと一緒にね? そしたら今度はこの部屋でノアも含めて三人でまた色々な話をしましょう。
だからシャルはまた質問を考えておきなさい。 それが今回の私からのお願いよ」
「はい……ベル様とノア様に聞きたい事をいっぱい考えながら私はお待ちしております」
少しの時間が流れた時、シャルは顔を赤らめて私を引き離そうとした、もう少し抱きついて居たかったけど私は渋々シャルから離れる事にした。
「すいませんベル様、弱音ばかりの見苦しい姿をお見せしました! それに夜遅くまでシャルの話に付き合って頂きありがとうございます! 今日はこれで失礼します!」
シャルはそそくさと立ち上がり私の部屋の扉に手をかける、そのまま出ていきそうな勢いだったので私はシャルの手を握り引き止めた。
まだ別れたくなかったのだ。
「シャル、良かったら今日は一緒に寝てくれないかしら。 なんだか一人じゃ寝れそうにないから」
その言葉に嘘は無いし、これはシャルを心配していった事じゃなかった。 私は自分の体が宙に浮いている様な不思議な感覚になっていたから。
「ベル様がそれで宜しいのなら」
シャルは扉から手を離して言った、振り向きはしなかったけどシャルも喜んでくれている事は尻尾でわかった私はシャルの手を握ったままベットに入る。
「ねぇシャル。 これからも私の側にいてね」
「……勿論ですベル様。 私の心はベル様と共にあります」
シャルは静かにそう口にした、その言葉には僅かに哀愁が漂っていた様に私は感じた。
私もシャルが居なくなった世界なんて考えられない。
シャルと別れる、そんな日が来ない事を祈りながら私は眠った。
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