池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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魔法の本

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「エレナ様、私は奥様に呼ばれておりますので、行って参ります」


部屋に戻り、私の着替えが終わると、アリアはそう言った。コトン、と机にお茶が置かれる。

そういえばアリアを通して話すって言っていたね。じゃあその間私することないし……。


「アリア、この家には図書室はあるのかしら?

「はい、ありますが……」


だよね。いっつもアリアどっかから本を持って来ているからあるとは思っていた。

カップをぐいっと傾ける。

ぅあっち!

熱すぎて飲むことを諦め、椅子から立ち上がる。


「アリアがお義母様の所へいている間、わたくし図書室にいますわ。案内してちょうだい」

「……かしこまりました」


アリアは何かを言いたそうに口を開いたが、何も言わずに頭を下げた。

部屋を出てアリアの後に続く。広くはない屋敷だ。そう歩かない内に着いた。

ドアを開けてもらい、中に入ると、そこは図書室というよりは書庫といった感じだった。

まあ期待はしていなかったけどね。うちそんなにお金持ちなわけではないだろうし。


「ありがとう。お義母様とのお話が終わったら迎えに来てくださいませ」


アリアがドアを閉めて行ったのを確認して、私は本棚へと向いて、端から表紙を確認していく。

魔法に関する本あるかな……。

魔法の勉強をして自分でも使えるようになりたいと思っていた。それは愛玲奈の時からの夢だ。

だけど実際にこの世界で生活する中で魔法なんて一度も見たことがない。だから存在を忘れていたわけではないけど、憧れの気持ちが薄れていたし、色々としている内に後回しになっていた。

だけど自分の身に危険が迫った今は魔法を使えるようになっていて損はないと思う。

魔法が実際に身を守る手段に使えるかというのも確認しておきたいし……。


「うーん……見当たらないな……」


これは歴史、これは小説、これは……何かの専門書。

まさか魔法の本がないとか……? 途中まで見た本棚から移動して部屋の奥の方へと歩く。

パッと見た感じ、魔法という文字もそれらしものも見つからない。


「ん?」


一番奥の本棚だった。そこに並べられているのは全部古語で書かれた本だ。その中に一冊だけあった。


「これ、魔法の本だ……」


見つけた! アリア、私に古語を教えてくれてありがとう……!

本を引き出すと、表紙に大きな宝石のような透明な石が付いていた。何気なくその石を撫でたその時だった。透明だった石が様々な色に光った。

赤、青、緑、茶色、黄色……何だろ、これ。やっぱり魔法の本だから仕掛けがしているのかな。

その光は十秒も経たない内に消えて何事もなかったかのように透明になった。

すごいファンタジーだ! 表紙でこれって、中身はすごい期待できるんじゃない!?

わくわくしながら早速本をめくって呼んでみる。


『魔法は火・水・風・土の四つの属性に分かれている。魔力を持つすべての者がこのどれかに属し、その加護を得ることができる』


なるほど、よくある感じね。それで、魔法の使い方は……。

ペラペラと本をめくって使い方を探すと、すぐに見つけることができた。


『魔力が持っている者が、想像することで使うことができる。ただし、持っていない属性は使うことはできない』


はい? それだけ? もっと具体的な何かはないの?

そう思い、他のページを開いてみるが、どこにも書かれていない。後は魔法の歴史や、魔力に関してのことだけだ。これも気になるけど……また後で。

とりあえず想像してみたらいいのかな?

手のひらを上に向けて、目を閉じて魔力を想像する。それを手の上に集めて……火の玉!!

そっと目を開けると、私の手の平の上に火がめらめらと浮いて燃えていた。

うわ、マジだ……! 熱くないな。魔法だから?

火が消えるのを想像するとふっとなくなる。

本当に魔法だ……! 私にも使えた!!

次に本が浮き上がるのを想像してみると、置いていた魔法の本が、私の前に浮いた。そのままページをめくるところを想像すると、私が思った通りにパラパラと開く。そして本棚へと戻す。


「やばい……超楽しい……! 魔法使いといえばあれだよね!」


ふっと二十センチくらいの細い棒が私の右手に現れる。

これだよこれ! 魔法のタクト! 杖だと大きくて邪魔そうだもんね。

テンションが上がってタクトを振る。本棚の本をニ、三冊出して、頭上をふわふわさせる。私のタクトに合わせて動く本を見ていたら、この世界に本当に魔法が存在することを実感した。

だって、ゲームの中でも、ヒロインは魔法科に通っておきながら、魔法のことなんてほとんど出てこなかったもんね。魔法も魔力も名前だけだったもん。ああ、何回か攻略対象の怪我を治していたっけ?

そんなことを考えている時だった。ノックの音が聞こえてアリアが入ってくる。


「エレナ様、お待たせいたしました」


私は本棚の影から出て浮いている本をアリアに見せた。


「アリア、見てちょうだい!」


タクトを振って見せる。すごいでしょ、とちょっと見て欲しかっただけだ。

だけどアリアは、慌てた様子で音を立ててドアを閉めた。私を厳しい目で見ている。そして素早く私の前へ来ると、浮いていた本を全て手に取った。


「アリア……?」


そのいつもとは違う様子に、言いようのない不安を覚えた。

私、何か失敗した?

私はアリアを見上げてタクトを消した。それを見たアリアがまだ顔色を変え、私の右腕を掴んだ。


「エレナ様! 今のはなんですか!?」

「え、これ……?」


いつものアリアにはあり得ない程に取り乱していて、掴まれた腕がちょっと痛い。

何も分からないままタクトをもう一度作る。その様子を見ていたアリアはすっと私に本を差し出した。


「浮かせることができますか?」


言われるままにふわふわと本を浮かす。

何、何なの……私何がダメだったの?

アリアはさっと本棚を一瞥すると、魔法の本を引き抜いて、「これですか」と小さく言った。そして深刻そうな顔でため息を吐く。


「とりあえずお部屋に戻りましょう。いいですか、魔法は使わないでください」
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