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魔法の現実
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「エレナ様、この本はあの部屋にあったのですか?」
部屋のドアを閉めるなり、アリアはそう言った。いつもなら私が椅子に座り、お茶を淹れるまではこうして話すことはない。
それだけに、アリアの焦りが伝わってきた。
私は何か大変なことをしでかしてしまったのだろう。
「ええ、本棚の中にありましたの」
「それで、この石に触ったのですね? 石は何色に光りましたか?」
「えっと、確か、赤と青、緑、茶色、それから黄色だったかしら」
途端、アリアの顔色が真っ青になった。
……え? もしかして色に何か意味があるの? 待ってよ、ゲームにそんな描写なかったじゃん! というか転生しても役に立つゲームの知識全くないじゃん! よくある転生チートはどこにいった!!
と、キレても仕方がない。愕然としているアリアの手を引っ張る。
「アリア、少し落ち着きましょう。わたくし全く意味が分からないわ。その本を読んでもいいかしら?」
「あ、そうですね……」
アリアは手に持っていた本を机に置くと、お茶を入れに行った。
私は、よいしょ、と椅子に座り、本をぱらぱらとめくる。
えーと、石……石……あった! どれどれ……。
『属性の判別はこの本の表紙にもついている魔法石で行い、その色によって知ることができる。赤は火、青は水、緑は風、茶色は土である。なお、属性は生まれつきのものであり、各個人一つである』
……うん? つまり、どういうことだ?
属性は生まれつき変わることがなくて、一人一つ。それで、石の色によって分かる……。
じゃあ五色に光った私は何? というか黄色は何? これ壊れているんじゃない?
もう一度石を触ってみるが今度なうんともすんとも言わない。
その時、私の前にお茶が置かれた。
「読まれましたか?」
「ええ……。つまりどういうことですの?」
理解が追い付かないのでアリアに分かりやすく説明してもらいたい。まだ私の知らない何かが隠されているのかもしれない。
「つまり、エレナ様は火・水・風・土、すべての属性を持っているということです」
……やっぱりそういうことですよねぇ。
「先ほどエレナ様がしておられた物を浮かす。これは風属性です。そして、何もないところから物を作る。これは土属性です」
なんと! そんなことにまで全部属性が関係あるんだ! 物を浮かすことなんてザ・魔法って感じだけど、属性によってはできない人もいるんだな……。
タクトを出してふいっと振る。それに合わせて火が出てすぐに消える。次は水。ぱしゃっと出て、消える。水がこぼれたはずのところは濡れていない。
「本当に、全属性……」
今更ながら呆然としてしまい、実際にそれを見たアリアもやはり驚いている。
まじか……私モブだよね? これ絶対バグだよね!!
「……アリア、黄色はなんでしょう」
なんかすごい嫌な予感がする。四つの属性以外って……私の知っているのはあと一つだけだ。
アリアは私の言葉に、どこからかナイフを取り出し、すぱっと自分の腕を切った。血が床にポタっと垂れる。
「な! 何をするのです!!」
驚いて立ち上がる私の前に、アリアは痛そうな素振りを全く見せず、腕を差し出した。
「治すことができますか?」
傷が治るのを想像して、タクトを傷口にかざす。私の想像通り、傷口は光に包まれて、光が収まるころには綺麗さっぱり治っていた。
……つまり、そういうことだよね。
納得している私と違い、アリアは驚いたように傷があったはずの腕を見つめていた。
「光属性……! まさか、本当にあったなんて」
小さな呟きが聞こえた。まあそりゃそうだよね。だってこれは光属性。大昔に一人だけ持っていた人がいて、聖女と呼ばれる人だった。傷口を治し、薬草があればどんな薬でも作れ、軽い病気なら治すことができる、奇跡のような属性だ。今では伝説となっている。
そして、数百年を経て光属性を持つヒロインが現れる。彼女はゲーム内で平民ながらに聖女として扱われていた。
そのヒロインですら光属性しかもっていなかったのだから、全属性+光属性を持っている私はモブとしてどうなのだろうか。
というか属性が生まれつきなら、ゲーム内のエレナもそうだったんじゃないの? これがバグじゃない限り。……でもやっぱりバグだよね。
そんなことを考えながら床に落ちたアリアの血を水で包むようにして一緒に消してしまう。なんか、一回使えるようになったら自由自在だな。魔法ってやっぱり便利!
「エレナ様は、歴史に名を残したいと思いますか?」
「え?」
顔を上げるとそこには真剣な表情のアリアがいた。
歴史に名を残す? そんなことしたくない。私はただモブキャラとしてヒロインの恋路の邪魔をすることなく、このファンタジー世界を満喫したいだけだ。
「多属性や光属性を持っているだけで伝説になるようなことです。そして、八歳で魔法を使えること、魔法を何度も使えること、そして、棒を振るだけで一瞬で魔法を顕在化してしまうこと。どれも異常なことです。もしもこれが人に知られると、エレナ様はもう今まで通りの生活を送ることは不可能でしょう」
「……え?」
「エレナ様がそれを望まないのであれば、人前で魔法を使うことはお止めください」
嫌だ! 絶対に嫌だ! 私は地味に普通にファンタジーしたいだけだもん! こんなチートみたいなバグなんていらない!
「ええ、そうしますわ」
そう言った私の言葉に、アリアはほっと息をついた。そして、「奥様が明日からは毎日お城へと行くように、との仰せです」とついでのように言った。
はいぃ!? 初耳なんですけど!?
部屋のドアを閉めるなり、アリアはそう言った。いつもなら私が椅子に座り、お茶を淹れるまではこうして話すことはない。
それだけに、アリアの焦りが伝わってきた。
私は何か大変なことをしでかしてしまったのだろう。
「ええ、本棚の中にありましたの」
「それで、この石に触ったのですね? 石は何色に光りましたか?」
「えっと、確か、赤と青、緑、茶色、それから黄色だったかしら」
途端、アリアの顔色が真っ青になった。
……え? もしかして色に何か意味があるの? 待ってよ、ゲームにそんな描写なかったじゃん! というか転生しても役に立つゲームの知識全くないじゃん! よくある転生チートはどこにいった!!
と、キレても仕方がない。愕然としているアリアの手を引っ張る。
「アリア、少し落ち着きましょう。わたくし全く意味が分からないわ。その本を読んでもいいかしら?」
「あ、そうですね……」
アリアは手に持っていた本を机に置くと、お茶を入れに行った。
私は、よいしょ、と椅子に座り、本をぱらぱらとめくる。
えーと、石……石……あった! どれどれ……。
『属性の判別はこの本の表紙にもついている魔法石で行い、その色によって知ることができる。赤は火、青は水、緑は風、茶色は土である。なお、属性は生まれつきのものであり、各個人一つである』
……うん? つまり、どういうことだ?
属性は生まれつき変わることがなくて、一人一つ。それで、石の色によって分かる……。
じゃあ五色に光った私は何? というか黄色は何? これ壊れているんじゃない?
もう一度石を触ってみるが今度なうんともすんとも言わない。
その時、私の前にお茶が置かれた。
「読まれましたか?」
「ええ……。つまりどういうことですの?」
理解が追い付かないのでアリアに分かりやすく説明してもらいたい。まだ私の知らない何かが隠されているのかもしれない。
「つまり、エレナ様は火・水・風・土、すべての属性を持っているということです」
……やっぱりそういうことですよねぇ。
「先ほどエレナ様がしておられた物を浮かす。これは風属性です。そして、何もないところから物を作る。これは土属性です」
なんと! そんなことにまで全部属性が関係あるんだ! 物を浮かすことなんてザ・魔法って感じだけど、属性によってはできない人もいるんだな……。
タクトを出してふいっと振る。それに合わせて火が出てすぐに消える。次は水。ぱしゃっと出て、消える。水がこぼれたはずのところは濡れていない。
「本当に、全属性……」
今更ながら呆然としてしまい、実際にそれを見たアリアもやはり驚いている。
まじか……私モブだよね? これ絶対バグだよね!!
「……アリア、黄色はなんでしょう」
なんかすごい嫌な予感がする。四つの属性以外って……私の知っているのはあと一つだけだ。
アリアは私の言葉に、どこからかナイフを取り出し、すぱっと自分の腕を切った。血が床にポタっと垂れる。
「な! 何をするのです!!」
驚いて立ち上がる私の前に、アリアは痛そうな素振りを全く見せず、腕を差し出した。
「治すことができますか?」
傷が治るのを想像して、タクトを傷口にかざす。私の想像通り、傷口は光に包まれて、光が収まるころには綺麗さっぱり治っていた。
……つまり、そういうことだよね。
納得している私と違い、アリアは驚いたように傷があったはずの腕を見つめていた。
「光属性……! まさか、本当にあったなんて」
小さな呟きが聞こえた。まあそりゃそうだよね。だってこれは光属性。大昔に一人だけ持っていた人がいて、聖女と呼ばれる人だった。傷口を治し、薬草があればどんな薬でも作れ、軽い病気なら治すことができる、奇跡のような属性だ。今では伝説となっている。
そして、数百年を経て光属性を持つヒロインが現れる。彼女はゲーム内で平民ながらに聖女として扱われていた。
そのヒロインですら光属性しかもっていなかったのだから、全属性+光属性を持っている私はモブとしてどうなのだろうか。
というか属性が生まれつきなら、ゲーム内のエレナもそうだったんじゃないの? これがバグじゃない限り。……でもやっぱりバグだよね。
そんなことを考えながら床に落ちたアリアの血を水で包むようにして一緒に消してしまう。なんか、一回使えるようになったら自由自在だな。魔法ってやっぱり便利!
「エレナ様は、歴史に名を残したいと思いますか?」
「え?」
顔を上げるとそこには真剣な表情のアリアがいた。
歴史に名を残す? そんなことしたくない。私はただモブキャラとしてヒロインの恋路の邪魔をすることなく、このファンタジー世界を満喫したいだけだ。
「多属性や光属性を持っているだけで伝説になるようなことです。そして、八歳で魔法を使えること、魔法を何度も使えること、そして、棒を振るだけで一瞬で魔法を顕在化してしまうこと。どれも異常なことです。もしもこれが人に知られると、エレナ様はもう今まで通りの生活を送ることは不可能でしょう」
「……え?」
「エレナ様がそれを望まないのであれば、人前で魔法を使うことはお止めください」
嫌だ! 絶対に嫌だ! 私は地味に普通にファンタジーしたいだけだもん! こんなチートみたいなバグなんていらない!
「ええ、そうしますわ」
そう言った私の言葉に、アリアはほっと息をついた。そして、「奥様が明日からは毎日お城へと行くように、との仰せです」とついでのように言った。
はいぃ!? 初耳なんですけど!?
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