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魔法薬
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お父様は返事をすると、目を閉じて集中した。ぐっと手に力が入っていて、額には汗が浮いている。そして、一分ほど経った頃、お父様が目を開けた。
できたのかな?
お父様は肩で息をしながら、カップを傾けて私たちに中身が見えるようにしてくれた。カップの中には一センチほどの水が入っていた。
これだけ? あんなに頑張っていたのに? え、あれ難しいことじゃないよね。
「もちろん個人差はある。魔法に関しては本人の素質が一番重要だ。だが、基本的に何の補助もなく魔法を使おうとするとこれくらいしかできぬ」
「へえ、知らなかったな」
クリスが呑気な声でそう言うのを聞きながら私は自分のカップの中のお茶を飲み干した。そして想像する。カップいっぱいのお水。
私の手の中のカップは一瞬で水に満たされた。このくらい集中しなくてもできる。
陛下とお父様がそれを見て驚愕の表情を浮かべた。だけど、私からしてみるとお父様がさっき見せてくれたのが信じられない。魔法って便利なものじゃないの? 皆魔法を使わないんじゃなくて、便利なほどの魔法を使えないの?
ついでに風も起こす。私やクリスの髪がさらっとなびいて、男の人の髪も揺れる。
もうここまで来たら面倒な会話はしたくない。自分が十分特異なことは理解できた。さっさと属性のことにも触れておこう。
「そなた、属性は水ではないのか?」
「水と風でございます」
堂々と嘘をついてにっこりと笑う。もうこれ以上ばらす気はない。切り札はとっておかなければ切り札にならないのだ。
部屋の中にいた人達がざわっとなった。といっても数人しかいないんだけど。ひそひそと声が聞こえる。
その時、誰かがお父様に近付き、何かを手渡した。
何だろう。試験管?
お父様は陛下へとそれを手渡した。陛下は重々しく口を開いて、私へと差し出した。
「そなたは色々とあり得ぬことが多い。とりあえず良い、これを飲んでみてくれ」
そのまま手を伸ばしても届きそうにないので、立ち上がって受け取ろうとすると、その前に隣から手が伸びた。
そうだった、静かだったけどカイもいたんだった。
「どうぞ」
「ありがとう存じます」
ポン、とふたを開けるとすごく草の匂いがした。思わず顔をしかめる。隣からうめき声が聞こえた。
「何それ、臭すぎない? そんなの飲んで大丈夫なの?」
……私もそう思う。飲みたくない。匂いだけでもうお腹いっぱいって感じ。
「大丈夫だ。クリスの誕生日は春だっただろう。もうすぐ飲むことになる」
「じゃあこれがさっき言ってた薬!? やだよ、そんなの飲みたくない……」
これを飲まないと魔法を使えるようにならないって、すごい鬼畜な世界だ。っていうか私もう魔法使えるんだから飲む必要ないじゃん。
と思ったが、陛下に飲めと言われたものを「嫌です」なんて言えない。私は勢いよくそれを傾けた。
口の中にさらっと流れ込んでくる液体。吐き出しそうになり、無理やり飲み込むと、むせた。
「げほっ、ごほ……まず……」
「エレナ! 大丈夫!?」
あまりのまずさに咳が止まらない。クリスは横から背中をさすってくれるが、それでも味は変わらない。
こ、これはやばい……苦いし臭いし、なんか舌がピリピリするし。薬ってこんなにまずいの!? これに比べるとあっちの世界の薬はなんて美味しかったか……。
「エレナ、ほら、これ食べて」
目の前にシュークリームを差し出され、私は迷わずそれに食いついた。
甘みが口の中に広がり、まだ味も匂いもピリピリも残っているが、だいぶましになった。
「おいしい……!」
今まで食べた何よりも美味しい。本当に美味しい。感動して涙が出そうなくらいだ。
というか皆これを飲んできたんだよね。すごい、尊敬する。そしてこれから飲む人が可哀そうすぎる。
「クリス、飲む時は鼻をつまんだ方がいいわよ」
「う、うん……」
すると、隣から「あれを飲むのか……」と小さな声が聞こえた。
……うん、頑張れ、カイ。
「どうだ?」
「はい、とてもまずかったです。お味は改良するべきだと存じますわ。……ひっ!」
陛下に聞かれ、そう答えると、その後ろに立っているお父様に睨まれた。それはそれは怖い顔で。
な、なに、聞かれたから答えただけじゃん! 私悪くないよ!
「……あれ?」
なんか体が温かい。目に見えない何かに包まれているような感じだ。なんか重い気がするけど、本当に重いわけじゃない。よく分からない感じけど。
「もしかして、これ全部魔力でしょうか」
私の言葉に陛下は「うむ」と頷いた。
今なら何でもできそうな気がする。試しに誰もいないところに大きな水球を作ってみる。
「おお……っ」
うん、どこまで大きくなりそう。一メートルほどになったところで大きくするのはやめた。この中に水でできた魚とかいいんじゃない? 水の魔力って色をつけることはできるのかな。水だからできるよね!
水球の中に金魚を泳がせる。とはいっても全部水だけど。愛玲奈の時に飼っていた金魚。赤が多めのゴンと黄色が多めのキン。私が中学生の時に死んじゃったけど。
楽しそうに泳ぎ回る金魚たちを見て私は満足した。すぐに消すのはもったいないから少しこのままでいよう。綺麗だしインテリアにはピッタリだ。
「エレナこれすごいねぇ」
クリスは立ち上がって水球へ触れる。そしてそのまま中に手を入れた。金魚が慌てて逃げている。
……うわ、めっちゃリアルだ。やっぱり私のイメージからできているからだろうか。
「エレナ」
「はい」
急に重い声で呼ばれ、前を向くと、そこには真剣な表情の陛下とお父様がいた。つられて私も表情を引き締める。
面白そうに金魚を追いかけているクリスだけが楽しそうだった。
できたのかな?
お父様は肩で息をしながら、カップを傾けて私たちに中身が見えるようにしてくれた。カップの中には一センチほどの水が入っていた。
これだけ? あんなに頑張っていたのに? え、あれ難しいことじゃないよね。
「もちろん個人差はある。魔法に関しては本人の素質が一番重要だ。だが、基本的に何の補助もなく魔法を使おうとするとこれくらいしかできぬ」
「へえ、知らなかったな」
クリスが呑気な声でそう言うのを聞きながら私は自分のカップの中のお茶を飲み干した。そして想像する。カップいっぱいのお水。
私の手の中のカップは一瞬で水に満たされた。このくらい集中しなくてもできる。
陛下とお父様がそれを見て驚愕の表情を浮かべた。だけど、私からしてみるとお父様がさっき見せてくれたのが信じられない。魔法って便利なものじゃないの? 皆魔法を使わないんじゃなくて、便利なほどの魔法を使えないの?
ついでに風も起こす。私やクリスの髪がさらっとなびいて、男の人の髪も揺れる。
もうここまで来たら面倒な会話はしたくない。自分が十分特異なことは理解できた。さっさと属性のことにも触れておこう。
「そなた、属性は水ではないのか?」
「水と風でございます」
堂々と嘘をついてにっこりと笑う。もうこれ以上ばらす気はない。切り札はとっておかなければ切り札にならないのだ。
部屋の中にいた人達がざわっとなった。といっても数人しかいないんだけど。ひそひそと声が聞こえる。
その時、誰かがお父様に近付き、何かを手渡した。
何だろう。試験管?
お父様は陛下へとそれを手渡した。陛下は重々しく口を開いて、私へと差し出した。
「そなたは色々とあり得ぬことが多い。とりあえず良い、これを飲んでみてくれ」
そのまま手を伸ばしても届きそうにないので、立ち上がって受け取ろうとすると、その前に隣から手が伸びた。
そうだった、静かだったけどカイもいたんだった。
「どうぞ」
「ありがとう存じます」
ポン、とふたを開けるとすごく草の匂いがした。思わず顔をしかめる。隣からうめき声が聞こえた。
「何それ、臭すぎない? そんなの飲んで大丈夫なの?」
……私もそう思う。飲みたくない。匂いだけでもうお腹いっぱいって感じ。
「大丈夫だ。クリスの誕生日は春だっただろう。もうすぐ飲むことになる」
「じゃあこれがさっき言ってた薬!? やだよ、そんなの飲みたくない……」
これを飲まないと魔法を使えるようにならないって、すごい鬼畜な世界だ。っていうか私もう魔法使えるんだから飲む必要ないじゃん。
と思ったが、陛下に飲めと言われたものを「嫌です」なんて言えない。私は勢いよくそれを傾けた。
口の中にさらっと流れ込んでくる液体。吐き出しそうになり、無理やり飲み込むと、むせた。
「げほっ、ごほ……まず……」
「エレナ! 大丈夫!?」
あまりのまずさに咳が止まらない。クリスは横から背中をさすってくれるが、それでも味は変わらない。
こ、これはやばい……苦いし臭いし、なんか舌がピリピリするし。薬ってこんなにまずいの!? これに比べるとあっちの世界の薬はなんて美味しかったか……。
「エレナ、ほら、これ食べて」
目の前にシュークリームを差し出され、私は迷わずそれに食いついた。
甘みが口の中に広がり、まだ味も匂いもピリピリも残っているが、だいぶましになった。
「おいしい……!」
今まで食べた何よりも美味しい。本当に美味しい。感動して涙が出そうなくらいだ。
というか皆これを飲んできたんだよね。すごい、尊敬する。そしてこれから飲む人が可哀そうすぎる。
「クリス、飲む時は鼻をつまんだ方がいいわよ」
「う、うん……」
すると、隣から「あれを飲むのか……」と小さな声が聞こえた。
……うん、頑張れ、カイ。
「どうだ?」
「はい、とてもまずかったです。お味は改良するべきだと存じますわ。……ひっ!」
陛下に聞かれ、そう答えると、その後ろに立っているお父様に睨まれた。それはそれは怖い顔で。
な、なに、聞かれたから答えただけじゃん! 私悪くないよ!
「……あれ?」
なんか体が温かい。目に見えない何かに包まれているような感じだ。なんか重い気がするけど、本当に重いわけじゃない。よく分からない感じけど。
「もしかして、これ全部魔力でしょうか」
私の言葉に陛下は「うむ」と頷いた。
今なら何でもできそうな気がする。試しに誰もいないところに大きな水球を作ってみる。
「おお……っ」
うん、どこまで大きくなりそう。一メートルほどになったところで大きくするのはやめた。この中に水でできた魚とかいいんじゃない? 水の魔力って色をつけることはできるのかな。水だからできるよね!
水球の中に金魚を泳がせる。とはいっても全部水だけど。愛玲奈の時に飼っていた金魚。赤が多めのゴンと黄色が多めのキン。私が中学生の時に死んじゃったけど。
楽しそうに泳ぎ回る金魚たちを見て私は満足した。すぐに消すのはもったいないから少しこのままでいよう。綺麗だしインテリアにはピッタリだ。
「エレナこれすごいねぇ」
クリスは立ち上がって水球へ触れる。そしてそのまま中に手を入れた。金魚が慌てて逃げている。
……うわ、めっちゃリアルだ。やっぱり私のイメージからできているからだろうか。
「エレナ」
「はい」
急に重い声で呼ばれ、前を向くと、そこには真剣な表情の陛下とお父様がいた。つられて私も表情を引き締める。
面白そうに金魚を追いかけているクリスだけが楽しそうだった。
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