池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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提案と交渉

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「そなたはこれからどうしたい」

「わたくしの希望は叶えられるのでしょうか?」

「出来る限り叶えよう」


こうしたい、と言ってその通りにさせてくれるのなら嬉しい。だけどそう言うわけにはいかないだろう。だって私多分魔力増えちゃったし。薬を飲む前と全然違うもん。

事件を起こした私の魔力が増えるということは、いつでも今回以上のことができるというわけだ。国としては気が気じゃないと思う。もちろん、何かをするつもりはない。私はただ魔法を楽しみたいだけだから。

となると、私の希望は……


「わたくしは今まで通り過ごしたいですわ。勉強して、皆と一緒にお茶を飲んで、たまに遊んで。自分が特異なことは分かっております。だけど、わたくしは特別になどなりたくはありませんの」


俯いてちょっと小さな声で、落ち込んでいる風を演じる。こうすればちょっとは情に訴えかけることができるだろう。とにかく私は目立ちたくないのだ!


「う、うむ……」


陛下が困っているような声を出した。

アリアとお城の教師たちに鍛えられた十七歳の脳をなめるなよ!


「分かっております。わたくしの魔力は陛下の頭痛の種なのですよね。でしたら、わたくしの魔力は国の為に使ってくださいませ」

「国の為に、か?」

「はい、魔法省は今回の事件を起こせるほどの魔力の持ち手を引き取りたいと聞きました。ですがわたくしはまだ未成年。魔法省に入ることができない代わりに、魔力だけを提供いたしましょう。定期的にすることで国も魔力を確保でき、わたくしの魔力も減り、今回のような事件には発展しないのではないでしょうか。ないものはわたくしも使えませんもの」


お義母様に仕込まれた笑顔を浮かべる。これは半分は賭けだった。国が魔力を必要としているのかどうか、私には分からない。魔力は別に不足していないので要らないと言われればそれまでだ。

でも多分欲しいと思うんだよね……だって犯罪者かもしれない人を国直轄の魔法省が欲しがるくらいだよ。それとも欲しいのは魔力そのものじゃなくて、私の魔法なのかな。

ちら、とまだ浮いている水球に視線を向ける。クリスはまだ遊んでいる。さすがにそろそろ金魚が可哀そうだ。……そっか、あれ全部私の魔力からできたお水だもんね。本物じゃないんだった。

他の人がこんなことができないなら、私は結構貴重だ。少しのお手伝いくらいならしてもいい。私の遊ぶ時間が減らない程度なら。

考え込んでいた陛下は少しして顔を上げた。


「魔力の提供だけでなく、そなたにしかできないことが必要になったら手を貸してくれるか」

「ええ、もちろん」


よっし! 交渉成立かな。まだ考えているようだけど、もう覆されることはないだろう。私の希望は全部通っている。あっと、忘れていた。


「陛下、もう一つお願いがあるのです」

「なんだ」


陛下の後ろでお父様が私を睨んでいるのが分かった。欲張るな、といいたいのだろう。だけど無視。これはとても大切なことだから。


「雪は責任もってとかします。だけど、お城の一角だけでいいのです。少しだけ残してはなりませんか?」

「なんのためにだ?」


眉を上げて怪訝そうに私を見る陛下。別に何も企んではいない。


「クリスと遊ぶために降らせた雪ですもの。少しだけでも遊びたいのです」

「陛下、私からもお願い!」


私の言葉に反応したクリスが、金魚を追う手を止めて振り返り、頭を下げた。

どう考えても皇帝陛下にお願いする態度ではない。だけど陛下は特に咎める事もせずに頷いた。

それでいいの!?


「いいだろう。城の裏だけだ。それよりエレナ。そなたクリスを」

「父上!!」


陛下が何かを言おうとした時に、カイが勢いよく立ち上がった。

な、何!? どうしたの、カイが人の話を、それも陛下の話を遮るなんて……。

カイは慌てることもなく微笑むと、言った。


「父上、話が終わったのでしたら、早速雪をとかしてもらいましょう。この大雪ではきっと馬車も動けないでしょう」

「ん? うむ、そうだな」


いやちょっと待ってよ。まだ話は終わってなかったでしょ。思いっきり話の途中だったじゃん。


「あ、あの」

「エレナ、行こう」


クリスが私の手を取り、椅子から立ち上がるように促す。カイも立ち上がり、完全に退室する雰囲気になってしまった。陛下を見ると、行けと言わんばかりに手をひらりと振られた。

まあ陛下がいいならいいか。

私は椅子から立ち上がると、クリスに引かれるままドアへと向かった。ちゃんと水球も消しておく。さよなら、ゴン、キン。また作ってあげるからね。


「陛下、このような状況ですが、一緒にお茶ができてとても嬉しかったですわ。ぜひまたお声かけくださいませ」

「ああ、今後のことはカイを通じて伝える。時間ができたらまた一緒に茶をしよう。うまい菓子も用意しておく」


はい、言質とった! しっかりお菓子の約束までしてくれた! よっしゃ!!

またレベル違いの美味しいお菓子が食べられると思うと、鼻歌を歌ってしまいそうになる。一礼して、部屋を出ると、クリスが私を見てにやっと笑った。


「エレナすごい! やったね!」

「ええ。やりましたわ!」

「私もすごいと思ったよ。借りがある上にあんな条件を出されたらダメとは言えないからね」


借り? 条件? カイは何を言っているのだろうか。

きょとんとする私とクリスを見て、カイもきょとんとなった。


「ほら、借りがあるだろう。公爵令嬢の一件」


ああ、そういえばカイとベアトリクスの婚約はなかったことになったんだったね。私の指摘したことは全部事実で、皇族の婚約者にはふさわしくないって理由で。

でもそれが関係ある?


「借りがあったらわたくしをお茶に誘っていただけますの?」

「……はい?」


カイの笑顔がピシッと固まった。

うん? だって私達その話してたし。美味しいお菓子を用意しておくって言われたことが嬉しかったんだもん。

あ、もしかして、その前の私の待遇の話してる?


「本当に美味しかったね、あれ」

「ねえ、本当に! 次のお菓子も楽しみですわ」


クリスの声にそう答えると、カイは眉間を抑えて俯いた。

えーと、勘違いさせてしまったのは申し訳ない。でも私悪くないよね?

分からないふりをして、首を傾げてにっこりと笑うと、カイもにっこりと笑った。


「私は先にいつもの部屋に行っているよ。二人も雪をとかしたら来てくれ」


あ、呆れられたかもしれない。……まあいいか。
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