池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
106 / 300

相変わらずな兄妹

しおりを挟む
魔法省の扉を開けると、いつも通りの光景が視界に飛び込んできた。これまたいつも通り部屋を片付けながら奥の部屋へと向かうと、そこは魔法省とは思えない程片付いていた。


「クリス、ここは魔法省で間違っていないわよね?」

「う、うん、そのはずだけど……」


私が適当にその辺りに書類をまとめるのとはわけが違う。あるべきところにあるべき物が置いてあり、きちんと片付けられていた。


「邪魔だ、どけ」


部屋に入口に二人並んで呆然としていると冷ややかな声が聞こえた。ばっと振り返ると、そこにはヘンドリックお兄様が立っていて、とても機嫌が悪そうに見える。髪はきちんと整えられている。げっそりとやせ細っているわけでもない。目の下の隈は少しだけ。

私が思っていた以上に魔法省に染まっていないようだ。お兄様は私とクリスの間を通って部屋へ入ると、椅子へと深く腰掛けてため息をついた。


「遅い。どこで道草を食っていた」


お、怒ってらっしゃる……。別に遅くなんてなってない。けど、行きたくないと駄々をこねていたなんて言えない。


「あら、道の草なんて食しませんわよ、妹をなんだと思っておられるのですか?」


私の口から出てきたのはそんな言葉だった。……しまったあぁぁぁぁぁ! 完全に間違えた! もっと他に言うことあったでしょ、私!

お兄様は心底苛立たしそうに私を睨むと、音を立てて立ち上がった。恐怖で足がすくんだ。隣でクリスも固まっているのが分かる。カツン、カツン、とゆっくりと私の前まで来ると、凄みのある笑顔を浮かべて言った。


「会うのは卒業パーティー以来だが、どうも生意気になったようだな。私の妹は」


ひいぃぃぃ! わ、笑っているのに怖い! 今までで一番怖い!

言葉が何も出てこなくて、「えへ」とごまかすように笑うとお兄様はすっと私の方へ手を伸ばした。そしてそのまま私のほっぺをつまんだ。


「ほう、まだ笑う余裕があるか」


ぎゅーと思いっきりつねられて涙が出そうになる。痛い痛い痛い! この人本気なんだけど! そんなに怒らなくてもいいじゃん!


「ほ、ほめんなはいいぃぃぃ!」


痛みに耐えながらもやっとのことで謝ると、お兄様はようやく手を離し、「行くぞ」とそれだけ言って部屋から出た。ひりひりするほっぺを押さえて、こっそり光魔法をかけておく。


「エレナは魔法だけじゃなくてヘンドリック様を怒らせる才能もすごいんだね」


隣から呆れたような声が聞こえた。……すごいと言われたけど褒められてる気がしない。っていうか皮肉だよね、今の。まあ自分でも失敗したとは思ってるけど。ヘンドリックお兄様とさっさと歩き出したクリスの背を追って私はとぼとぼと歩いた。



お兄様は迷いのない足取りで一つに部屋へ入ると、私達にもさっさと入るように促した。急ぎ足で入ると、お兄様は閉まった扉に紙をペタ、と張り付けた。クリスと顔を見合わせて首を傾げていると、お兄様は同じように床にも紙を置いて回る。椅子と机を囲むように四隅に。


「……扉に貼ったのは出入り禁止の魔法陣。これは盗聴防止の魔法陣だ」


ああ、魔法陣。改めて扉へと目を向けて見るが、魔法陣は見えない。魔力で書いてあるのかな? 目を魔力強化してみると、魔法陣は浮かび上がった。それだけではない。天井や壁、床、いたるところに魔法陣が浮かび上がった。

もしかしてこれが普段使っている魔法陣? そっか、全部魔力で書かれてあるから見えないんだ。


「茶の入れ方は?」

「はい、知っております」


私が頷くとお兄様は部屋の隅に置いてあったワゴンへと視線を向けた。茶葉が入った筒と、ティーポットやカップが見える。お茶を入れろということか。まあ別にいいけど。

風魔法でティーポットに茶葉を入れる。そして水と火魔法でお湯を入れて、それからカップへそそぐ。ソファに座っているお兄様の前と、向かいに二つ。あっという間に部屋の中が紅茶の香りに包まれた。家で飲むのともお城で飲むのとも違う茶葉の香り。


「全属性持ちは便利でいいな。魔法だけで茶を入れることもできるのか」


それは私達に話しかけているのではなく、まるで何かを考えているような独り言に聞こえた。……お茶を入れるための魔法陣を作ろうと考えているのかな。


「ところで、お兄様もご自分でお茶を入れることがありますの?」


お兄様の向かい側のソファにクリスと二人で並んで座りながら聞くと、お兄様は「私も?」と呟いた。そして、すぐにくつくつと笑い出す。

何か面白いことがあったのだろうか。


「そうか、お前たち、ヨハンの入れた茶を飲んだか」


おお? すごい、あれだけでそこまで分かるんだ。つい今まであまり機嫌が良さそうではなかったが、急によくなったようだ。


「魔法でも剣でも勉強でも何でもできるあいつが、茶を入れさせたらあれだ。唯一の欠点といっても過言ではない。言っておくが、慣れていないとか入れ方を知らないとかそう言う問題じゃないぞ、あれは。茶を入れることに関しての才能が全くと言っていいほどないんだ。あれほどまずい茶はもう飲みたくない」


……そんなに言うほど酷くはなかったよ。そりゃ美味しくはなかったけど、お茶の香りはあんまりしなかったけど、まるで苦いお湯を飲んでいるような感じではあったけど、でもそこまでは言わない。飲めないことはない。……けど、今度から私が入れよう。


「私ももう飲みたくはありませんね。あれは本当にまずかった。私全部飲み切れなかったですもん」


クリスがけらけらと笑う。何でもできる兄の欠点を知ることができて嬉しいのかもしれない。私だってヘンドリックお兄様の欠点を知ることができたら多分嬉しいもん。ああ、あれか。女の子に優しくできないところ。

そんな私の考えていることなど知らずに、ヘンドリックお兄様は上機嫌にお茶へ口を付けた。そして、満足そうに頷く。気に入ってもらえたかな?


「アリア直伝ですのよ。お口に合いまして?」

「上出来だ」


よっし! 心の中でガッツポーズをして、私もお茶を一口飲んだ。カップを置くと、先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気ではなくなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...