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衝撃
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翌日は朝から教室内がざわざわしていた。騎士科の補習を終え、登校するといつもとは違う感じのざわめきが私たちを包んだ。
悪口を言われているわけではなさそうだけど、なんか嫌な感じ。どうせ昨日のカンニング云々の件だろうけど。
できるだけ気にしないようにして席へと向かう。途中でベアトリクスが私を見ていることに気が付いた。相変わらず取り巻きに囲まれている。……うん、あっちを通ってみよう。
いつもとは違った進路で席へと向かう私をクリスが戸惑ったように追いかけてくるのが分かった。ベアトリクスの横で足を止めると、すごい睨まれた。ベアトリクスではなく取り巻き達に。
「おはようございます、クラッセン公爵令嬢」
にっこりと笑ってそう言うと、ベアトリクスは私から視線をそらさずに小さく頷いた。すぐさま別のざわめきが起きる。このクラスの子なら誰でも知っている。ベアトリクスがカイを狙っていて、そのカイと仲の良い私達の関係を。
「エ、エレナっ!?」
クリスが後ろから小さな声で、だけどとても驚いていることが分かる声色で私の名前を呼んだ。無視。昨日のことはクリスにも言っていない。昨日ベアトリクスと普通に会話したのは正直、夢じゃないかと思うほどの出来事だったから。
じっとベアトリクスを見つめてみるが、何も言わない。これ以上こっちから話しかけるのは止めておいた方が良さそうだ。クリスと取り巻き達の目が怖い。
すっと横を通り抜けた時だった。
「ベアトリクスでいいわ。昨日はどうも」
……は?
思わず足が止まった。振り返ってみると、ベアトリクスはもう既に席を立っていた。そのまま教室を出て行ってしまう。
驚きすぎて何も言葉が出てこなかった。
「エ、エレナ! 今の何!?」
クリスの驚いた声にはっとして取り巻き達がベアトリクスを追いかける。
今の何? それは私が一番聞きたい……。あのベアトリクスが『どうも』?
「それは、わたくしが聞きたい……」
呆けていられる時間はとても短かった。なぜなら別の声がすぐに飛んできたから。
「おい! あばずれ!」
はっと振り返る。
しまったー……とうとう『あばずれ』で反応してしまった。ラルフが勝ったように笑みを浮かべたのが見える。あー、これに比べたらベアトリクスなんて可愛いものかもしれない。キレなかったら。
「お前カンニングしたんだろう? 素直に言えよ」
あー、また来た。周りを見てみるが、本気でそう思っているのはラルフだけのようだ。表情を見ただけで分かる。中には私に同情しているような顔の子もいる。
そうでしょう、可哀そうでしょう。こんなのと婚約なんて絶対誰もしたくないよね。私だって嫌だよ。
だけど家同士のことだからどうしようもない。私がこの婚約が嫌だと言ったところで、そう簡単にどうにかならない。家には体裁があるのだ。さらに破棄する場合は身分の高いあっちから言ってもらうしかないのだ。だからこそ皆私に同情しているんだろうけど。
面倒臭すぎてため息が我慢できなかった。
「ラルフ様、その件は昨日解決したはずですわ。ノイナー先生のお言葉を聞かれていないのですか?」
いつもラルフの隣にいる男の子へと視線を向ける。青くなっているその顔からはどちらかよく分からない。
「カンニングはできないということだろう。聞いたが、それがなんだ?」
あー、話が通じない。それとも言葉が通じないのか。
「ラルフ様、お耳が悪いのですか? 頭が悪いのですか?」
思わずそう口に出ていた。はっとした時にはもう遅かった。
言ってしまった……! 目だけでラルフの顔色を伺う。まさか私が正面から馬鹿にするようなことを言うとは思っていなかったのだろう。ポカンとしていた。隣でクリスがくすくすと笑う。「もっと言っちゃえ」と小さな声が聞こえた。
うん、まあいいか。チャンスだ。別にラルフに嫌われても私は構わない。
「ノイナー先生がカンニングが不可能だとおっしゃった以上、わたくしにできるはずがございませんよね? それを疑うのでしたら、次の試験の時にラルフ様がご自分でカンニングしてみてくださいませ」
ラルフが怒りだす前に、と簡潔にまとめてそう言う。あちこちからくすくすと笑う声が聞こえ、ラルフの顔は怒りと羞恥で真っ赤になっていった。
「僕もそう思う。魔法学校は国の学校だよ。カンニング対策くらい普通でしょ」
ラルフが口を開く前に言ったのはマクシミリアンだった。そしてレオンが続く。
「俺もそう思うぜ。というかここにいる皆そう思っているだろ」
周りを見てみると、その言葉に頷く姿がいくつも見えた。完全に分が悪いのはラルフだ。勝ったぜ! 拳を上げたいがやめておく。にっこりと笑うと、ラルフは言葉にならない言葉を吐き捨てて、教室から飛び出して行った。
それと入れ替わるようにノイナー先生が入って来て、教室内にいる皆が一斉に席へと着いた。まるで何事もなかったかのような空気の中でまたいつも通りの日常が始まった。
悪口を言われているわけではなさそうだけど、なんか嫌な感じ。どうせ昨日のカンニング云々の件だろうけど。
できるだけ気にしないようにして席へと向かう。途中でベアトリクスが私を見ていることに気が付いた。相変わらず取り巻きに囲まれている。……うん、あっちを通ってみよう。
いつもとは違った進路で席へと向かう私をクリスが戸惑ったように追いかけてくるのが分かった。ベアトリクスの横で足を止めると、すごい睨まれた。ベアトリクスではなく取り巻き達に。
「おはようございます、クラッセン公爵令嬢」
にっこりと笑ってそう言うと、ベアトリクスは私から視線をそらさずに小さく頷いた。すぐさま別のざわめきが起きる。このクラスの子なら誰でも知っている。ベアトリクスがカイを狙っていて、そのカイと仲の良い私達の関係を。
「エ、エレナっ!?」
クリスが後ろから小さな声で、だけどとても驚いていることが分かる声色で私の名前を呼んだ。無視。昨日のことはクリスにも言っていない。昨日ベアトリクスと普通に会話したのは正直、夢じゃないかと思うほどの出来事だったから。
じっとベアトリクスを見つめてみるが、何も言わない。これ以上こっちから話しかけるのは止めておいた方が良さそうだ。クリスと取り巻き達の目が怖い。
すっと横を通り抜けた時だった。
「ベアトリクスでいいわ。昨日はどうも」
……は?
思わず足が止まった。振り返ってみると、ベアトリクスはもう既に席を立っていた。そのまま教室を出て行ってしまう。
驚きすぎて何も言葉が出てこなかった。
「エ、エレナ! 今の何!?」
クリスの驚いた声にはっとして取り巻き達がベアトリクスを追いかける。
今の何? それは私が一番聞きたい……。あのベアトリクスが『どうも』?
「それは、わたくしが聞きたい……」
呆けていられる時間はとても短かった。なぜなら別の声がすぐに飛んできたから。
「おい! あばずれ!」
はっと振り返る。
しまったー……とうとう『あばずれ』で反応してしまった。ラルフが勝ったように笑みを浮かべたのが見える。あー、これに比べたらベアトリクスなんて可愛いものかもしれない。キレなかったら。
「お前カンニングしたんだろう? 素直に言えよ」
あー、また来た。周りを見てみるが、本気でそう思っているのはラルフだけのようだ。表情を見ただけで分かる。中には私に同情しているような顔の子もいる。
そうでしょう、可哀そうでしょう。こんなのと婚約なんて絶対誰もしたくないよね。私だって嫌だよ。
だけど家同士のことだからどうしようもない。私がこの婚約が嫌だと言ったところで、そう簡単にどうにかならない。家には体裁があるのだ。さらに破棄する場合は身分の高いあっちから言ってもらうしかないのだ。だからこそ皆私に同情しているんだろうけど。
面倒臭すぎてため息が我慢できなかった。
「ラルフ様、その件は昨日解決したはずですわ。ノイナー先生のお言葉を聞かれていないのですか?」
いつもラルフの隣にいる男の子へと視線を向ける。青くなっているその顔からはどちらかよく分からない。
「カンニングはできないということだろう。聞いたが、それがなんだ?」
あー、話が通じない。それとも言葉が通じないのか。
「ラルフ様、お耳が悪いのですか? 頭が悪いのですか?」
思わずそう口に出ていた。はっとした時にはもう遅かった。
言ってしまった……! 目だけでラルフの顔色を伺う。まさか私が正面から馬鹿にするようなことを言うとは思っていなかったのだろう。ポカンとしていた。隣でクリスがくすくすと笑う。「もっと言っちゃえ」と小さな声が聞こえた。
うん、まあいいか。チャンスだ。別にラルフに嫌われても私は構わない。
「ノイナー先生がカンニングが不可能だとおっしゃった以上、わたくしにできるはずがございませんよね? それを疑うのでしたら、次の試験の時にラルフ様がご自分でカンニングしてみてくださいませ」
ラルフが怒りだす前に、と簡潔にまとめてそう言う。あちこちからくすくすと笑う声が聞こえ、ラルフの顔は怒りと羞恥で真っ赤になっていった。
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