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旅の収穫
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部屋の窓から外を眺めていると、一台の馬車が門から入ってくるのが見えた。見慣れた装飾の馬車。
屋敷を出るために立ち上がる。さて、旅行から帰って来たのが昨日。早速今日、クリスと会うわけだけど、昨日こってり怒られたであろうクリスは平気なのだろうか。昨日の夜に魔法をとばしたときはいつもと同じ声色で返事が来たけど。
外へ出ると、ちょうど目の前に馬車が止まった。
「じゃあ行ってくるわ。今日はお昼には帰る予定だから」
「はい、行ってらっしゃいませ」
頭を下げるアリアを見て、私は馬車へと乗り込んだ。
「おはよう、エレナ」
「……ええ、おはよう」
そこにはいつも通りのクリスがいた。昨日あれから怒られたんじゃないの? あの時点でクリスのお母さん結構怖かったんだけど、一晩でそんな普通にけろりとしていられるの?
「大丈夫だよ。お母様の説教には慣れてるから」
私が何も言わない内にクリスはさらっとそんなことを言った。私の考えていることは全部お見通しのようだ。
「そうなの。それはよかったわ」
果たして本当によかったのかどうかは分からないけど。
「もうちょっと反省するフリくらいはした方がいいんじゃないの?」
「家ではしてるから大丈夫」
ああ、そうですか。抜かりのないクリスに感心するべきか、呆れるべきか。もうどうでもいいや。私はため息をついて思考を放棄した。
「お久しぶりです、ヘンドリックお兄様」
魔法省にいたヘンドリックお兄様は私とクリスの顔を見るなり、嫌そうに舌打ちをした。……失礼なお兄様だな。
「久しぶりだね、エレナちゃん。旅行は楽しかったかな?」
「はい、それはとても! とてもいいところでしたわ。次の機会にはヨハン様もぜひご一緒に」
「うん、ありがとう」
ヘンドリックお兄様と正反対の反応を示してくれたのはヨハン。どうやら長期休暇の間は半分くらい魔法省にいたらしい。聞けば新しい魔法陣の開発をしていたとか。
「喋りに来ただけなら帰れ。邪魔だ」
後ろからそんな声が聞こえてカチンとなる。いつもだったらここまで邪険に扱われないけど、今日は機嫌があまり良くないのか。何気なくお兄様の顔を見ると、お兄様は私から視線をそらした。
ああ、なるほど。あまり健康的ではない生活を送っている顔だ。私が休めだのちゃんと食べろだの、小言を言うのが嫌なのだろう。確かに小言を言いたいくらい酷い顔はしているが。
「今日はお土産を持って参りましたの。それから一件お願いが。できれば場所を移したいのですが」
ヘンドリックお兄様はヨハンをへと一瞬視線を向けると、立ち上がった。二人が歩き始めた後について歩くと、着いたのはいつも使っている一室だった。
「この大荷物の中身が土産か? お前は一体何を買って来たんだ」
魔法省を出るときにお兄様が私の手から取ったバッグを見て、馬鹿にしたように笑う。大荷物といってもそこまで大きい荷物ではない。お土産にしては大きいかもしれないけど。
「いいえ、お兄様がまた食事をとっていないんじゃないかと思ってお弁当も持って来たのです。ヨハン様とマルゴット様の分も」
まずお弁当箱を三つ、机の上に並べる。それから、私が飲む用にとおばあ様が大量にくれた茶葉のおすそわけ。
「この茶葉はこの辺りでは飲めない香りなんです。とても美味しいのでヘンドリックお兄様にも分けて差し上げます」
「私もそれ好き! 早速入れようよ」
クリスがはしゃいでそう言った。うん、そうしよう。しかし真っ先に立ち上がったのはヨハンだった。
「私が入れるよ」
「いいよ、兄様。兄様は座っててよ」
クリスが慌ててそう言うが、ヨハンは「いいから」と笑うだけだ。ヘンドリックお兄様がすごく嫌そうに顔をしかめる。そして私を見て小声で「なんとかしろ」と言った。クリスもすがるように私に視線を向ける。なんとかしろって、付き合いの長いクリスとかヘンドリックお兄様の方がどうにかできるじゃん!
なんで私を見るの!
「ヨハン様、わたくしが入れますわ。どうぞ座っていてくださいませ」
「いやいや、いつもエレナちゃんに任せていて悪いからね」
……無理だ。そもそもお兄様が自分ではどうにかできないと判断したから私に言ったんだよね。お兄様にどうにもできないもの私にもできるわけがない。そうそうに諦めようとした私の袖をクリスがぎゅっと握る。そんなにヨハンの入れたお茶が飲みたくないのか。
「エレナ、あれがあるじゃん。ほら、お願い」
あれって……こんなところで使うものではない。絶対に。それにヘンドリックお兄様に見せたくはないんだけどな。なんて渋っていると、クリスが涙目で私を見ていた。ヨハンはもうすでに茶器の前に立っている。ヘンドリックお兄様の機嫌がどんどん悪くなっていくのが分かる。
……めんどくさいな、このメンバー。
『ヨハン様、椅子に座っていてくださいませ』
私の言葉にヨハンは一瞬動きを止めて、私の言ったように椅子へと歩き、座った。
「なんだ、これ」
驚いたように呟くヨハンに、私は笑う。
「企業秘密です」
「ふざけるな」
……だからお兄様に見せるの嫌だったんだって。口をとがらせながらも魔法でお茶を入れる。すぐに部屋の中に緑の香りが広がった。
「後で教えますから。とりあえずお土産です。どうぞ」
コトン、と机にお茶を四つ置く。次にバッグの中から出したのはガラスペンの入った箱。四つ。
「こちらはお兄様に。こちらはヨハン様、これはクリス」
青、紫、黄色。色を確認しながらそれぞれの前に置き、もう一つのオレンジ色を自分の手元に置く。
「どうぞ。綺麗で実用性のある優れものですわ」
三人が箱を開けて目を見張る。ガラスのペンなんて初めて見たのだろう。私だって向こうの世界で知らなかったら驚いていただろう。
「これ、私にもいいの?」
クリスが輝いた表情で私を見る。
「ええ、これでいっぱい勉強しましょうね」
「うん! ありがとう!」
ヨハンも嬉しそうに「ありがとう」と言う。ヘンドリックお兄様はお礼はないのかな、と見ると、笑っていた。いつもの変な笑い方じゃない。ちゃんと笑ってガラスペンを眺めていた。
……皆喜んでくれてよかった。
屋敷を出るために立ち上がる。さて、旅行から帰って来たのが昨日。早速今日、クリスと会うわけだけど、昨日こってり怒られたであろうクリスは平気なのだろうか。昨日の夜に魔法をとばしたときはいつもと同じ声色で返事が来たけど。
外へ出ると、ちょうど目の前に馬車が止まった。
「じゃあ行ってくるわ。今日はお昼には帰る予定だから」
「はい、行ってらっしゃいませ」
頭を下げるアリアを見て、私は馬車へと乗り込んだ。
「おはよう、エレナ」
「……ええ、おはよう」
そこにはいつも通りのクリスがいた。昨日あれから怒られたんじゃないの? あの時点でクリスのお母さん結構怖かったんだけど、一晩でそんな普通にけろりとしていられるの?
「大丈夫だよ。お母様の説教には慣れてるから」
私が何も言わない内にクリスはさらっとそんなことを言った。私の考えていることは全部お見通しのようだ。
「そうなの。それはよかったわ」
果たして本当によかったのかどうかは分からないけど。
「もうちょっと反省するフリくらいはした方がいいんじゃないの?」
「家ではしてるから大丈夫」
ああ、そうですか。抜かりのないクリスに感心するべきか、呆れるべきか。もうどうでもいいや。私はため息をついて思考を放棄した。
「お久しぶりです、ヘンドリックお兄様」
魔法省にいたヘンドリックお兄様は私とクリスの顔を見るなり、嫌そうに舌打ちをした。……失礼なお兄様だな。
「久しぶりだね、エレナちゃん。旅行は楽しかったかな?」
「はい、それはとても! とてもいいところでしたわ。次の機会にはヨハン様もぜひご一緒に」
「うん、ありがとう」
ヘンドリックお兄様と正反対の反応を示してくれたのはヨハン。どうやら長期休暇の間は半分くらい魔法省にいたらしい。聞けば新しい魔法陣の開発をしていたとか。
「喋りに来ただけなら帰れ。邪魔だ」
後ろからそんな声が聞こえてカチンとなる。いつもだったらここまで邪険に扱われないけど、今日は機嫌があまり良くないのか。何気なくお兄様の顔を見ると、お兄様は私から視線をそらした。
ああ、なるほど。あまり健康的ではない生活を送っている顔だ。私が休めだのちゃんと食べろだの、小言を言うのが嫌なのだろう。確かに小言を言いたいくらい酷い顔はしているが。
「今日はお土産を持って参りましたの。それから一件お願いが。できれば場所を移したいのですが」
ヘンドリックお兄様はヨハンをへと一瞬視線を向けると、立ち上がった。二人が歩き始めた後について歩くと、着いたのはいつも使っている一室だった。
「この大荷物の中身が土産か? お前は一体何を買って来たんだ」
魔法省を出るときにお兄様が私の手から取ったバッグを見て、馬鹿にしたように笑う。大荷物といってもそこまで大きい荷物ではない。お土産にしては大きいかもしれないけど。
「いいえ、お兄様がまた食事をとっていないんじゃないかと思ってお弁当も持って来たのです。ヨハン様とマルゴット様の分も」
まずお弁当箱を三つ、机の上に並べる。それから、私が飲む用にとおばあ様が大量にくれた茶葉のおすそわけ。
「この茶葉はこの辺りでは飲めない香りなんです。とても美味しいのでヘンドリックお兄様にも分けて差し上げます」
「私もそれ好き! 早速入れようよ」
クリスがはしゃいでそう言った。うん、そうしよう。しかし真っ先に立ち上がったのはヨハンだった。
「私が入れるよ」
「いいよ、兄様。兄様は座っててよ」
クリスが慌ててそう言うが、ヨハンは「いいから」と笑うだけだ。ヘンドリックお兄様がすごく嫌そうに顔をしかめる。そして私を見て小声で「なんとかしろ」と言った。クリスもすがるように私に視線を向ける。なんとかしろって、付き合いの長いクリスとかヘンドリックお兄様の方がどうにかできるじゃん!
なんで私を見るの!
「ヨハン様、わたくしが入れますわ。どうぞ座っていてくださいませ」
「いやいや、いつもエレナちゃんに任せていて悪いからね」
……無理だ。そもそもお兄様が自分ではどうにかできないと判断したから私に言ったんだよね。お兄様にどうにもできないもの私にもできるわけがない。そうそうに諦めようとした私の袖をクリスがぎゅっと握る。そんなにヨハンの入れたお茶が飲みたくないのか。
「エレナ、あれがあるじゃん。ほら、お願い」
あれって……こんなところで使うものではない。絶対に。それにヘンドリックお兄様に見せたくはないんだけどな。なんて渋っていると、クリスが涙目で私を見ていた。ヨハンはもうすでに茶器の前に立っている。ヘンドリックお兄様の機嫌がどんどん悪くなっていくのが分かる。
……めんどくさいな、このメンバー。
『ヨハン様、椅子に座っていてくださいませ』
私の言葉にヨハンは一瞬動きを止めて、私の言ったように椅子へと歩き、座った。
「なんだ、これ」
驚いたように呟くヨハンに、私は笑う。
「企業秘密です」
「ふざけるな」
……だからお兄様に見せるの嫌だったんだって。口をとがらせながらも魔法でお茶を入れる。すぐに部屋の中に緑の香りが広がった。
「後で教えますから。とりあえずお土産です。どうぞ」
コトン、と机にお茶を四つ置く。次にバッグの中から出したのはガラスペンの入った箱。四つ。
「こちらはお兄様に。こちらはヨハン様、これはクリス」
青、紫、黄色。色を確認しながらそれぞれの前に置き、もう一つのオレンジ色を自分の手元に置く。
「どうぞ。綺麗で実用性のある優れものですわ」
三人が箱を開けて目を見張る。ガラスのペンなんて初めて見たのだろう。私だって向こうの世界で知らなかったら驚いていただろう。
「これ、私にもいいの?」
クリスが輝いた表情で私を見る。
「ええ、これでいっぱい勉強しましょうね」
「うん! ありがとう!」
ヨハンも嬉しそうに「ありがとう」と言う。ヘンドリックお兄様はお礼はないのかな、と見ると、笑っていた。いつもの変な笑い方じゃない。ちゃんと笑ってガラスペンを眺めていた。
……皆喜んでくれてよかった。
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