池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

文字の大きさ
188 / 300

ピンクのお守り

しおりを挟む
果たして本来ならエレナはここでリリーと会うのか。

そう考えて答えはすぐに出た。そんなわけがない。エレナは普通の子だ。ちょっと魔法が使える、それ以外に特に何の特徴もないモブキャラ。それが本来のエレナ。

対して今はどうだろう。全属性使えて光属性までも使えることのできる、魔法の才能にあふれたモブキャラ。

ここまで変わっていて本来のルートをたどっているとは思えない。でもリリーとは仲良くなる予定だったし、別にここで会ったからと言って、ゲームが始まってからも大幅なストーリー変更はないはずだ。

多分、大丈夫。


「わたくしはエレナです。そこのヘンドリックお兄様の妹ですわ」

「はい、私はクリス。この兄様の妹だよ」


「よろしく」と二人の声が重なる。にっこりと微笑むとリリーの方かった表情が段々と柔らかくなっていった。

分かる、分かるよ、リリー。ヘンドリックお兄様と二人のこの空間で緊張しないわけがないもんね。私はリリーの味方だからね。

心の中でそう言う。口に出すことはできなけど、気持ちだけでも伝わるといいな、と思って。


「それで、どうしてわたくしが呼ばれたのでしょうか?」


お兄様へと視線を向けると、お兄様は「ああ」と頷いた。


「お守りを作って欲しい」


お守り? 私のあのお守り?


「わざわざ作らなくてもわたくしのでよければお譲りしますが……」


ユリウス殿下の襲撃の後にわざわざガラス玉を取り寄せて作ったお守り。前の倍の数は身につけているので新しく作る必要はない。

指輪を取って差し出すと、お兄様は舌打ちをした。

……はい、何か違うんですね。差し出した指輪を引っ込める。


「えっと、指輪でダメでしたらネックレスでしょうか? ブレスレットは気に入っているのでお譲りすることはちょっと……あ、ピアスですか!? これはお勧めできませんわ!」


ピアス穴を空けた時の痛みを思い出し、ぞわっと鳥肌が立つ。リリーも光属性を使えるとはいえ、わざわざこんな痛い思いしなくてもいいだろう。まあ私は気に入っているし後悔はしていないけど。


「エレナ? 多分そう言うことじゃないと思うよ……?」


クリスが控えめにそう言って、ヘンドリックお兄様を見る。ヘンドリックお兄様はまるで虫でも見るかのような顔で私を見ていた。

何その顔!


「少しは見直したところだったが……やはりお前は馬鹿だな」

「失礼ですね! お兄様の言葉が足りないのが悪いのですわ!」


勢いよく文句を言うと、ヨハンがはは、と可笑しそうに笑った。


「オレンジはエレナちゃんの色、でしょ?」


あ、そういうことか。


「それならそうと言ってくださいませ」


お兄様に一言文句を言っておく。確かに色で分けているとは言ったけど、正直私自身そこまで重要視はしていなかった。

お兄様がカラカラと音を立てる容器を机の上に置いた。その中を覗き込む。以前お守りを作った時の余りが入っている。色々な色が入っているけど、比率的に多いのはピンクと黒。つまりこの二つはまだ誰も持っていない色。

……いや、ピンクはアリアに渡した気がする。でもリリーに黒を持たせるなんて嫌だし。


「ピンク色にしましょう。アリアが一つだけ持っていますがいいですよね?」


一応お兄様に確認すると、お兄様は「問題ない」と頷いた。ピンクのガラス玉を手に取ってタクトを右手に。慎重に魔力で魔法陣を刻んでいく。

あー、間違えた。また最初からか。込めた魔力を一度吸い取ればまたただのガラス玉に。もう一度魔法陣を刻んだ。


「何個持っていてもらいますか?」

「五つあれば十分だろう。魔法学校に入学するまでは城内でも護衛が付く予定だ」


ああ、そっか、これからお城で教育を受けるのか。あと半年とちょっと。それまでに魔法学校で通用するレベルまで底上げする必要がある。到底不可能だと思われることだけど、リリーはそれを突破するのだ。さすがヒロイン。


「はい、五つできました。加工はお兄様にお任せします」

「ああ」

「なんでお守りが必要なんですか?」


クリスが不思議そうに首を傾げる。確かにこのお守りを持っているのは私の友達や家族など、近しい人ばかりだ。わざわざ私を呼んでまで作らせる理由が分からなくても不思議ではない。

なんと言おうかと考えていると、お兄様がさらっと言った。


「平民出の光属性の使い手など貴族にとっては疎ましいだけだからだ。唯一無二ならまだしも、もうそれがいるわけだしな」


うっわ、言った! オブラートに包もうともしなかったよ、この人!

クリスは目を丸くし、リリーは表情を曇らせて俯いている。しかしそれだけでは終わらなかった。


「しかもそれに比べると魔力も低い、魔法もろくに使えない、使えるのは光属性だけときた。そのくせ光属性を持っていると言うだけで平民なのに魔法学校への入学の機会が与えられる。敵視されるのも無理はない」


あー、やっぱりそうなるかー……。薄々気が付いてはいた。リリーが平民なのに魔法学校に入学してもベアトリクス一味以外から手を出されなかった理由。それはやはり唯一の光属性の使い手という大きなアドバンテージがあったからだ。

国に絶対に必要な人物。たとえそれが平民であっても。

しかし今は貴族である私が光属性の使い手として知られている以上、もう既にいるのだから平民を光属性の使い手として貴族かそれ以上の扱いをすることを嫌がる人が出てきてもおかしくない。

……前途は多難だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...