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ピンクのお守り
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果たして本来ならエレナはここでリリーと会うのか。
そう考えて答えはすぐに出た。そんなわけがない。エレナは普通の子だ。ちょっと魔法が使える、それ以外に特に何の特徴もないモブキャラ。それが本来のエレナ。
対して今はどうだろう。全属性使えて光属性までも使えることのできる、魔法の才能にあふれたモブキャラ。
ここまで変わっていて本来のルートをたどっているとは思えない。でもリリーとは仲良くなる予定だったし、別にここで会ったからと言って、ゲームが始まってからも大幅なストーリー変更はないはずだ。
多分、大丈夫。
「わたくしはエレナです。そこのヘンドリックお兄様の妹ですわ」
「はい、私はクリス。この兄様の妹だよ」
「よろしく」と二人の声が重なる。にっこりと微笑むとリリーの方かった表情が段々と柔らかくなっていった。
分かる、分かるよ、リリー。ヘンドリックお兄様と二人のこの空間で緊張しないわけがないもんね。私はリリーの味方だからね。
心の中でそう言う。口に出すことはできなけど、気持ちだけでも伝わるといいな、と思って。
「それで、どうしてわたくしが呼ばれたのでしょうか?」
お兄様へと視線を向けると、お兄様は「ああ」と頷いた。
「お守りを作って欲しい」
お守り? 私のあのお守り?
「わざわざ作らなくてもわたくしのでよければお譲りしますが……」
ユリウス殿下の襲撃の後にわざわざガラス玉を取り寄せて作ったお守り。前の倍の数は身につけているので新しく作る必要はない。
指輪を取って差し出すと、お兄様は舌打ちをした。
……はい、何か違うんですね。差し出した指輪を引っ込める。
「えっと、指輪でダメでしたらネックレスでしょうか? ブレスレットは気に入っているのでお譲りすることはちょっと……あ、ピアスですか!? これはお勧めできませんわ!」
ピアス穴を空けた時の痛みを思い出し、ぞわっと鳥肌が立つ。リリーも光属性を使えるとはいえ、わざわざこんな痛い思いしなくてもいいだろう。まあ私は気に入っているし後悔はしていないけど。
「エレナ? 多分そう言うことじゃないと思うよ……?」
クリスが控えめにそう言って、ヘンドリックお兄様を見る。ヘンドリックお兄様はまるで虫でも見るかのような顔で私を見ていた。
何その顔!
「少しは見直したところだったが……やはりお前は馬鹿だな」
「失礼ですね! お兄様の言葉が足りないのが悪いのですわ!」
勢いよく文句を言うと、ヨハンがはは、と可笑しそうに笑った。
「オレンジはエレナちゃんの色、でしょ?」
あ、そういうことか。
「それならそうと言ってくださいませ」
お兄様に一言文句を言っておく。確かに色で分けているとは言ったけど、正直私自身そこまで重要視はしていなかった。
お兄様がカラカラと音を立てる容器を机の上に置いた。その中を覗き込む。以前お守りを作った時の余りが入っている。色々な色が入っているけど、比率的に多いのはピンクと黒。つまりこの二つはまだ誰も持っていない色。
……いや、ピンクはアリアに渡した気がする。でもリリーに黒を持たせるなんて嫌だし。
「ピンク色にしましょう。アリアが一つだけ持っていますがいいですよね?」
一応お兄様に確認すると、お兄様は「問題ない」と頷いた。ピンクのガラス玉を手に取ってタクトを右手に。慎重に魔力で魔法陣を刻んでいく。
あー、間違えた。また最初からか。込めた魔力を一度吸い取ればまたただのガラス玉に。もう一度魔法陣を刻んだ。
「何個持っていてもらいますか?」
「五つあれば十分だろう。魔法学校に入学するまでは城内でも護衛が付く予定だ」
ああ、そっか、これからお城で教育を受けるのか。あと半年とちょっと。それまでに魔法学校で通用するレベルまで底上げする必要がある。到底不可能だと思われることだけど、リリーはそれを突破するのだ。さすがヒロイン。
「はい、五つできました。加工はお兄様にお任せします」
「ああ」
「なんでお守りが必要なんですか?」
クリスが不思議そうに首を傾げる。確かにこのお守りを持っているのは私の友達や家族など、近しい人ばかりだ。わざわざ私を呼んでまで作らせる理由が分からなくても不思議ではない。
なんと言おうかと考えていると、お兄様がさらっと言った。
「平民出の光属性の使い手など貴族にとっては疎ましいだけだからだ。唯一無二ならまだしも、もうそれがいるわけだしな」
うっわ、言った! オブラートに包もうともしなかったよ、この人!
クリスは目を丸くし、リリーは表情を曇らせて俯いている。しかしそれだけでは終わらなかった。
「しかもそれに比べると魔力も低い、魔法もろくに使えない、使えるのは光属性だけときた。そのくせ光属性を持っていると言うだけで平民なのに魔法学校への入学の機会が与えられる。敵視されるのも無理はない」
あー、やっぱりそうなるかー……。薄々気が付いてはいた。リリーが平民なのに魔法学校に入学してもベアトリクス一味以外から手を出されなかった理由。それはやはり唯一の光属性の使い手という大きなアドバンテージがあったからだ。
国に絶対に必要な人物。たとえそれが平民であっても。
しかし今は貴族である私が光属性の使い手として知られている以上、もう既にいるのだから平民を光属性の使い手として貴族かそれ以上の扱いをすることを嫌がる人が出てきてもおかしくない。
……前途は多難だ。
そう考えて答えはすぐに出た。そんなわけがない。エレナは普通の子だ。ちょっと魔法が使える、それ以外に特に何の特徴もないモブキャラ。それが本来のエレナ。
対して今はどうだろう。全属性使えて光属性までも使えることのできる、魔法の才能にあふれたモブキャラ。
ここまで変わっていて本来のルートをたどっているとは思えない。でもリリーとは仲良くなる予定だったし、別にここで会ったからと言って、ゲームが始まってからも大幅なストーリー変更はないはずだ。
多分、大丈夫。
「わたくしはエレナです。そこのヘンドリックお兄様の妹ですわ」
「はい、私はクリス。この兄様の妹だよ」
「よろしく」と二人の声が重なる。にっこりと微笑むとリリーの方かった表情が段々と柔らかくなっていった。
分かる、分かるよ、リリー。ヘンドリックお兄様と二人のこの空間で緊張しないわけがないもんね。私はリリーの味方だからね。
心の中でそう言う。口に出すことはできなけど、気持ちだけでも伝わるといいな、と思って。
「それで、どうしてわたくしが呼ばれたのでしょうか?」
お兄様へと視線を向けると、お兄様は「ああ」と頷いた。
「お守りを作って欲しい」
お守り? 私のあのお守り?
「わざわざ作らなくてもわたくしのでよければお譲りしますが……」
ユリウス殿下の襲撃の後にわざわざガラス玉を取り寄せて作ったお守り。前の倍の数は身につけているので新しく作る必要はない。
指輪を取って差し出すと、お兄様は舌打ちをした。
……はい、何か違うんですね。差し出した指輪を引っ込める。
「えっと、指輪でダメでしたらネックレスでしょうか? ブレスレットは気に入っているのでお譲りすることはちょっと……あ、ピアスですか!? これはお勧めできませんわ!」
ピアス穴を空けた時の痛みを思い出し、ぞわっと鳥肌が立つ。リリーも光属性を使えるとはいえ、わざわざこんな痛い思いしなくてもいいだろう。まあ私は気に入っているし後悔はしていないけど。
「エレナ? 多分そう言うことじゃないと思うよ……?」
クリスが控えめにそう言って、ヘンドリックお兄様を見る。ヘンドリックお兄様はまるで虫でも見るかのような顔で私を見ていた。
何その顔!
「少しは見直したところだったが……やはりお前は馬鹿だな」
「失礼ですね! お兄様の言葉が足りないのが悪いのですわ!」
勢いよく文句を言うと、ヨハンがはは、と可笑しそうに笑った。
「オレンジはエレナちゃんの色、でしょ?」
あ、そういうことか。
「それならそうと言ってくださいませ」
お兄様に一言文句を言っておく。確かに色で分けているとは言ったけど、正直私自身そこまで重要視はしていなかった。
お兄様がカラカラと音を立てる容器を机の上に置いた。その中を覗き込む。以前お守りを作った時の余りが入っている。色々な色が入っているけど、比率的に多いのはピンクと黒。つまりこの二つはまだ誰も持っていない色。
……いや、ピンクはアリアに渡した気がする。でもリリーに黒を持たせるなんて嫌だし。
「ピンク色にしましょう。アリアが一つだけ持っていますがいいですよね?」
一応お兄様に確認すると、お兄様は「問題ない」と頷いた。ピンクのガラス玉を手に取ってタクトを右手に。慎重に魔力で魔法陣を刻んでいく。
あー、間違えた。また最初からか。込めた魔力を一度吸い取ればまたただのガラス玉に。もう一度魔法陣を刻んだ。
「何個持っていてもらいますか?」
「五つあれば十分だろう。魔法学校に入学するまでは城内でも護衛が付く予定だ」
ああ、そっか、これからお城で教育を受けるのか。あと半年とちょっと。それまでに魔法学校で通用するレベルまで底上げする必要がある。到底不可能だと思われることだけど、リリーはそれを突破するのだ。さすがヒロイン。
「はい、五つできました。加工はお兄様にお任せします」
「ああ」
「なんでお守りが必要なんですか?」
クリスが不思議そうに首を傾げる。確かにこのお守りを持っているのは私の友達や家族など、近しい人ばかりだ。わざわざ私を呼んでまで作らせる理由が分からなくても不思議ではない。
なんと言おうかと考えていると、お兄様がさらっと言った。
「平民出の光属性の使い手など貴族にとっては疎ましいだけだからだ。唯一無二ならまだしも、もうそれがいるわけだしな」
うっわ、言った! オブラートに包もうともしなかったよ、この人!
クリスは目を丸くし、リリーは表情を曇らせて俯いている。しかしそれだけでは終わらなかった。
「しかもそれに比べると魔力も低い、魔法もろくに使えない、使えるのは光属性だけときた。そのくせ光属性を持っていると言うだけで平民なのに魔法学校への入学の機会が与えられる。敵視されるのも無理はない」
あー、やっぱりそうなるかー……。薄々気が付いてはいた。リリーが平民なのに魔法学校に入学してもベアトリクス一味以外から手を出されなかった理由。それはやはり唯一の光属性の使い手という大きなアドバンテージがあったからだ。
国に絶対に必要な人物。たとえそれが平民であっても。
しかし今は貴族である私が光属性の使い手として知られている以上、もう既にいるのだから平民を光属性の使い手として貴族かそれ以上の扱いをすることを嫌がる人が出てきてもおかしくない。
……前途は多難だ。
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