池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭

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登場

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学校生活を送りながら、陛下からの呼び出しに応えて光魔法を使う日々。いつもとはちょっと違う呼び出しがかかったその日は長期休暇の真っただ中だった。

家に帰らずに人の減った寮でゆったりと過ごしていると、ヘンドリックお兄様から呼び出されたのだ。


『部屋でゴロゴロしているのならすぐに城へ来い。ヨハンが馬車を用意している』


同じ部屋の中でそれを聞いていたクリスがくすくすと笑う。


「見透かされてるね」


私はベッドで呼んでいた本を閉じ、起き上がった。

……なんでばれているんだろう。

最近気が付いたのだが、アリアもお義母様もいないここではベッドで横になったまま本を読んでいても誰も注意しないのだ。何せ同じ部屋にいるのがクリスなのだから。

陛下からの定期的な呼び出しがあって、去年のように田舎に行くことはできない。だから私は家よりもゴロゴロできる寮にいたのだ。ほとんどの生徒が家に帰っていて人も少なくて快適だし。

しかしこうしてゴロゴロしていることはクリス以外の誰も知らないのに。


「……面倒だけど行くしかないわね」


ベッドで本を読んでたまに机に向かって勉強して、外で剣の稽古をして。最近はそんな毎日を送っていたのでヘンドリックお兄様に会うなんて疲れるようなことはしたくない。だけど無視をしたら後が怖い。

しかも馬車を用意しているというヨハンに悪い。


「クリスはどうするの?」


着替える為に部屋着を脱ぎながらそう聞くと、クリスは既に自分のクローゼットを開けて服を選んでいた。



校門まで行くと既に馬車は止まっていて、ヨハンが乗っていた。


「ああ、わざわざごめんね」

「いいえ、馬車を準備していただいてありがとうございます」


中に乗り込み、ヨハンの正面に座ると、私の隣にクリスが座った。この三人で馬車に乗るのは久しぶりだな。なんて考えていると、ヨハンがクリスを見た。


「お前はこっちに座りなさい」

「……はーい」


不服そうに返事をしてヨハンの隣へと座り直すクリス。別に私の隣でもいいと思うんだけど……。まあ私はどっちでもいいけど。

ガタン、と揺れて馬車が動き出す。


「本日の呼び出しのご用件はご存じですか?」

「うん、知ってるよ」


やっぱりヨハンは知っていたか。何だろう、とヨハンの次の言葉を待つ。しかしヨハンはそれっきり一向に口を開こうとしない。私達の視線を受けているのに気が付いているはずなのに。

とうとうクリスがしびれを切らせた。


「それで、兄様、何なの?」

「着いたら分かるよ」


ああ、そうですか。ヨハンの表情を見る。笑ってはいるけど少しだけ疲労の色が見えた。窓の外を眺める。何かがあったのだろけど、どうして私が呼び出されているんだろうか。私はいつの間に国の問題解決係になってしまったのだろうか。ああ、違うな。問題を起きるのはいつも私関連なんだ。

でもどれも私のせいではあるかもしれないけど、私は悪くないことばかり。……だと思っている。

少しして馬車がお城へと着いた。ヨハンは迷いのない足取りで歩き出す。私達もその後を追う。

目的地は魔法省。いつものように中に入り、奥の部屋へと向かう。


「……まじか」


思わずそう呟いてしまい、私は慌てて口を押さえた。しかし誰にも聞こえてはいないようでほっとする。

……まじか。

もう一度同じ言葉を心の中で言う。何度瞬きしても目の前の光景は変わらない。分かっていたことだけど驚く。

だって、そのままなのだ。私の知っているそのまま。

不安そうに、自信なさそうにおどおどしているけど、その顔は、姿は私の知っているそのままだった。

そこにはリリーがいた。


「何をボケっとしている」


温度のない声が聞こえ、私ははっとして視線を動かした。いつもの椅子に座っているヘンドリックお兄様は「知っていたのだろう」と言いたそうな顔で私を見ていた。

いや、まあ知ってはいたけど、でもここで会う予定なんてなかった。リリーと会うのは来年、四年生になってからだと思っていた。

というか今までお兄様と二人でこの部屋にいたのか。可哀そうに。

この場にマルゴット様の姿がない理由は分からないけど、妹の私ですらお兄様と二人きりは勘弁して欲しいものだ。お兄様の機嫌がいい時は良いけど。


「すごくかわいい子ですね。でも誰です?」


クリスが首を傾げる。ヘンドリックお兄様は呆れたような表情を浮かべる。そしてクリスから視線をそらした。答える気はないらしい。

代わりにヨハンが口を開く。


「光属性の使い手だよ。最近見つかったんだ」

「光属性!? エレナ以外に?」

「貴族の間ではかなり話題になっているというのにお前たちは知らなかったのか」


すごく馬鹿にされているような口調でそう言われ、少しムカッとしたけど、知らなかったのは確かなので文句も言えない。寮で引きこもっていたから外の情報が全く入ってきていなかった。

リリーへと視線を向けると、リリーは緊張した面持ちで微笑んだ。


「リリーと申します。よろしくお願い致します」
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