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リリーの笑顔
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ベアトリクスはとても機嫌の悪い顔をしていた。私が見てすぐに分かるほど。クリスが小さな声で「うわー」と言っているのが聞こえる。その声にはやってしまった、といった響きが含まれていた。
私も同じ気持ちだ。
カイとベアトリクスも多少は歩み寄れたと思っていたんだけど……でもよく考えれば私がいない状況で二人で話しているところは見たことがない。
ベアトリクスはともかく、カイがベアトリクスにいい感情を抱いていないのも仕方がないし。
とはいえ、今のこの状況で喧嘩を売るような真似はして欲しくなかったんだけど。
頼むから謝って!
祈るようにベアトリクスを見ると目が合った。そして、フン、と顔をそらすとそのまま歩いて行ってしまった。何で! 悪役令嬢のベアトリクスから遠ざけることができたと思ったのに! 何でこうなるの!!
悲しさ半分怒り半分。深いため息を吐く。カイは私の方など全く気にした様子もなく、いつも通りの調子。
「リリー、気にしなくていいから。私のことはカイと呼んで欲しい」
「あ、ありがとうございます、カイ様」
はい、絆深まった。当初の目標は達成した。だけどなぜか私の斜め上の展開になってしまった。敗因はカイとベアトリクスが和解したと思っていたことだ。
「殿下ってベアトリクス様のことまだ良く思われてないのかしら?」
ひそひそとクリスにそう聞くと、クリスは「みたいだね」とため息を吐いた。
「多分カイとしてはベアトリクス様の今までのエレナへの態度がネックなんだと思う。今まで散々なことをしてきて、今更どういうつもりだ、って」
「わたくし? 殿下ご自身も結構嫌な思いされていたのに?」
「うん。私だって今でもそう思うことあるからね。エレナは全く気にしていないみたいだけど」
ふむ、よく分からない。だけど二人が優しいことは分かった。まあ私が今望んでいるのはそんなことではないんだけど。
「エレナもぜひこの機会に私のことを名前で呼んでくれないかな?」
はい、嫌です。私はカイと必要以上に関わる気はないんだから。名前で呼ぶなんて論外だ。しかしはっきりと嫌だと言えるわけもない。私はカイへと笑顔を向けた。
「ありがとうございます、殿下」
カイはぽかんとした顔で私を見た。名前で呼べと言う半分は命令みたいな言葉を、私はそれとなく断ったのだ。まさかこういうことになるとはカイも思っていなかっただろう。だけど私はただのモブなのだ。結構色々なことをしてしまっているけど、忘れてはいない。
これからはカイは私よりもリリーと仲良くなっていってほしいから。
「では気を取り直して、お勉強を始めましょうか」
カイは何か言いたそうに口を開いたが、私がそれに気が付かないふりをして椅子に座ると、カイも口を噤んで座った。
ああ、疲れた……。
集中して勉強したので目が疲れている。無性に甘いものが食べたい。ああ、そういえば最近はお城で出されるあの美味しいお菓子を食べてないな。そろそろ陛下からの呼び出しかからないかな。
そんな都合のいいことを考えながら歩いていると、目の前にカミラとフロレンツの姿が見えた。お、ちょうどいい。もう一人の攻略対象とも会わせておこう。
「カミラちゃん、フロレンツ!」
私の考えを読んだかのようにクリスが二人を呼び止めた。ナイスクリス!
二人が私達の姿を見て顔をほころばす。年下って本当に可愛い。二人のとても明るい笑顔に釣られて私も笑顔になる。
学年が違うので学校内ではあまり会えない二人。リリーがフロレンツルートに進んだ場合どんな風に絆を深めていくのかは分からないけど、きっかけさえ作っておけば後はどうにでもなるはずだ。
「リリー様、紹介しますね。わたくしの妹のカミラと、従姉弟のフロレンツですわ。二人ともとてもいい子ですの」
「お姉さまからお話は聞いております、リリー様。カミラです。わたくしともぜひ仲良くしてくださいませ」
たまにカミラを部屋に呼んでお茶をしがてらリリーの話もしていたのだ。新しい友達ができたと言ったら自分も会いたいと言っていたので、とても嬉しそうだ。
「フロレンツです。エレナちゃんはちょっと変わっているけど、すごく優しいから、これからも仲良くしてあげてください」
「何よそれ」
思わず口をついて言葉が出た。誰目線で言ってるの。保護者? 私の保護者のつもり?
冗談だと分かっていても、年下にそういう風に言われるのは年上としての私のプライドが許さない。確かに身内だから「いつもお世話になっております」的な挨拶はおかしくはないかもしれないけど、でも私の方が年上なのだ。
ジトっとした目で見るとフロレンツは可笑しそうにははっと笑った。クリスも一緒に笑う。それがまたちょっとムカついて。
「わたくし、クリスよりは普通な自信があるわよ」
「何言ってんの。どっちもどっちだよ」
クリスが呆れたようにそう言った。
……それもどうなの。
クリスは自分の変人さを認めている。その上で私も似たようなものだと言われるということは、本当に私は変なのかもしれない。んー、まあこっちの世界の常識はあんまりないし、今までの色々なやらかしを考えるとそうかもしれない。が、認めるのは癪なので何も言わないでおこう。
そんなやり取りを見ていたリリーは堪えきれなかったのか、プッと噴き出した。
「あはは、可笑しいです」
その笑顔はいつものようなちょっと無理している作った笑顔ではなかった。気を遣わず、人目を気にせず、心の底からの笑い。
可愛くて、嬉しくて、心が温かくなった。
私も同じ気持ちだ。
カイとベアトリクスも多少は歩み寄れたと思っていたんだけど……でもよく考えれば私がいない状況で二人で話しているところは見たことがない。
ベアトリクスはともかく、カイがベアトリクスにいい感情を抱いていないのも仕方がないし。
とはいえ、今のこの状況で喧嘩を売るような真似はして欲しくなかったんだけど。
頼むから謝って!
祈るようにベアトリクスを見ると目が合った。そして、フン、と顔をそらすとそのまま歩いて行ってしまった。何で! 悪役令嬢のベアトリクスから遠ざけることができたと思ったのに! 何でこうなるの!!
悲しさ半分怒り半分。深いため息を吐く。カイは私の方など全く気にした様子もなく、いつも通りの調子。
「リリー、気にしなくていいから。私のことはカイと呼んで欲しい」
「あ、ありがとうございます、カイ様」
はい、絆深まった。当初の目標は達成した。だけどなぜか私の斜め上の展開になってしまった。敗因はカイとベアトリクスが和解したと思っていたことだ。
「殿下ってベアトリクス様のことまだ良く思われてないのかしら?」
ひそひそとクリスにそう聞くと、クリスは「みたいだね」とため息を吐いた。
「多分カイとしてはベアトリクス様の今までのエレナへの態度がネックなんだと思う。今まで散々なことをしてきて、今更どういうつもりだ、って」
「わたくし? 殿下ご自身も結構嫌な思いされていたのに?」
「うん。私だって今でもそう思うことあるからね。エレナは全く気にしていないみたいだけど」
ふむ、よく分からない。だけど二人が優しいことは分かった。まあ私が今望んでいるのはそんなことではないんだけど。
「エレナもぜひこの機会に私のことを名前で呼んでくれないかな?」
はい、嫌です。私はカイと必要以上に関わる気はないんだから。名前で呼ぶなんて論外だ。しかしはっきりと嫌だと言えるわけもない。私はカイへと笑顔を向けた。
「ありがとうございます、殿下」
カイはぽかんとした顔で私を見た。名前で呼べと言う半分は命令みたいな言葉を、私はそれとなく断ったのだ。まさかこういうことになるとはカイも思っていなかっただろう。だけど私はただのモブなのだ。結構色々なことをしてしまっているけど、忘れてはいない。
これからはカイは私よりもリリーと仲良くなっていってほしいから。
「では気を取り直して、お勉強を始めましょうか」
カイは何か言いたそうに口を開いたが、私がそれに気が付かないふりをして椅子に座ると、カイも口を噤んで座った。
ああ、疲れた……。
集中して勉強したので目が疲れている。無性に甘いものが食べたい。ああ、そういえば最近はお城で出されるあの美味しいお菓子を食べてないな。そろそろ陛下からの呼び出しかからないかな。
そんな都合のいいことを考えながら歩いていると、目の前にカミラとフロレンツの姿が見えた。お、ちょうどいい。もう一人の攻略対象とも会わせておこう。
「カミラちゃん、フロレンツ!」
私の考えを読んだかのようにクリスが二人を呼び止めた。ナイスクリス!
二人が私達の姿を見て顔をほころばす。年下って本当に可愛い。二人のとても明るい笑顔に釣られて私も笑顔になる。
学年が違うので学校内ではあまり会えない二人。リリーがフロレンツルートに進んだ場合どんな風に絆を深めていくのかは分からないけど、きっかけさえ作っておけば後はどうにでもなるはずだ。
「リリー様、紹介しますね。わたくしの妹のカミラと、従姉弟のフロレンツですわ。二人ともとてもいい子ですの」
「お姉さまからお話は聞いております、リリー様。カミラです。わたくしともぜひ仲良くしてくださいませ」
たまにカミラを部屋に呼んでお茶をしがてらリリーの話もしていたのだ。新しい友達ができたと言ったら自分も会いたいと言っていたので、とても嬉しそうだ。
「フロレンツです。エレナちゃんはちょっと変わっているけど、すごく優しいから、これからも仲良くしてあげてください」
「何よそれ」
思わず口をついて言葉が出た。誰目線で言ってるの。保護者? 私の保護者のつもり?
冗談だと分かっていても、年下にそういう風に言われるのは年上としての私のプライドが許さない。確かに身内だから「いつもお世話になっております」的な挨拶はおかしくはないかもしれないけど、でも私の方が年上なのだ。
ジトっとした目で見るとフロレンツは可笑しそうにははっと笑った。クリスも一緒に笑う。それがまたちょっとムカついて。
「わたくし、クリスよりは普通な自信があるわよ」
「何言ってんの。どっちもどっちだよ」
クリスが呆れたようにそう言った。
……それもどうなの。
クリスは自分の変人さを認めている。その上で私も似たようなものだと言われるということは、本当に私は変なのかもしれない。んー、まあこっちの世界の常識はあんまりないし、今までの色々なやらかしを考えるとそうかもしれない。が、認めるのは癪なので何も言わないでおこう。
そんなやり取りを見ていたリリーは堪えきれなかったのか、プッと噴き出した。
「あはは、可笑しいです」
その笑顔はいつものようなちょっと無理している作った笑顔ではなかった。気を遣わず、人目を気にせず、心の底からの笑い。
可愛くて、嬉しくて、心が温かくなった。
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