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仕返し大作戦
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ガタリと音を立てて立ち上がると、カミラが不思議そうな顔で私を見上げていた。
音を立てて立ち上がったのはちょっとマナー違反だった。だけど我慢ができなかった。
「クリス、ラルフ様のところに行くわよ」
本当は呼び捨てにしてやりたいところだが、様付けで呼ぶくらいの理性は残っていた。カミラが慌てて立ち上がり、「落ち着いてください」と言う。
「安心してちょうだい、カミラ。わたくしは落ち着いているわ。少しラルフ様とお話をしてくるわね」
にっこりと笑うと、カミラが引きつった顔で笑った。どうやら怒りがにじみ出ていたようだ。
だって許せない。カミラは憩いの場であるはずの家にいることもできず、恐らくできるだけ女子寮から出ずに過ごしているのだろう。そんな窮屈な生活をカミラに送らせるなんてあり得ない。
「今まで気が付かなくてごめんなさい。カミラのことはわたくしが絶対に守るから大丈夫よ」
そうカミラに言って足早に部屋を出た。もう卒業パーティーまでも待っていたくない。ここで決着をつけてやる。
ぐっと拳を握ると、後ろから呆れた声が聞こえた。
「エレナ、やる気があるのはいいことなんだけど、ラルフが寮にいるかは分からないよ」
その言葉で足が止まった。
……確かに。その可能性は考えていなかった。むしろうちにまで押しかけて来ていたくらいだし、家に帰っている可能性の方が高い。今からいきなり家に行くのは非常識だし……。
「エレナが暴走しないかと思ってついて来てみたけど、正解だったようだね」
分かっていたなら最初から教えてくれたらよかったのに。なんて心の中で文句を言うが、その可能性に気が付かなかった私が悪い。
「……とりあえず寮にいないか確認してみるわ」
勢いで文句を言ってやろうと思っていたが、その勢いもそがれてしまった。先ほどとは違い、ゆっくりと男子寮へと歩いて行くと、ちょうど見慣れた姿が目に入った。
「マクシミリアン様!」
私が名前を呼ぶと、マクシミリアンはゆっくりとこちらを見た。
「ああ、エレナ」
そして柔らかく微笑む。
「さっきカイが落ち込んでいたよ。断ったんだ?」
お、おお、その話か。すっかり頭から抜けていた。
「わたくしにはもう既に婚約者がいますもの」
作り笑いを浮かべてそう言うとマクシミリアンは「ふーん」と目を細めた。全てを見透かすようなその目に一瞬怯む。が、私は嘘は言っていない。それが全てではないだけで。
「そのラルフのことなんだけど、今寮にいるかな?」
横からクリスが入って来た。マクシミリアンはクリスへと視線を向けて、「どうだったかな」と呟いた。
私が変に言葉を重ねるよりもスムーズに話題が移行して、正直助かった。
「あ、ねえ、ラルフって今いる?」
マクシミリアンがその辺にいた男子生徒を捕まえて聞く。その顔は私も知っていた。私たちと同じ学年で、ラルフと同室の生徒だ。
「いや、一回戻って来たんだけど、一昨日くらいからまた家に帰っているよ」
「そっか、ありがとう」
マクシミリアンは男子生徒から私へと視線を向けて「らしいよ」と言った。なるほど。まあ休暇ももうそんなに残っていないし、そう遠くない内に戻って来るか。ラルフが帰って来ないならとりあえずカミラに害が及ぶことはないし。
男子生徒が私に気付き、少し表情を曇らせた。
「……最近ラルフと上手くいってる?」
何事かと思ったが、私とラルフの仲が気になったようだ。上手くいっているも何も私とラルフが元々仲良くないのはこの人も知っているだろうに。
なんと言おうかと言葉を探していると、男子生徒が先に口を開いた。
「いや、大きなお世話かもしれないけど、最近ラルフの口から出てくるのは、その……」
かと思えば言いにくそうに口をつぐんだ。あー、なるほど。現状を知っているのか。
……まあいいか。
「カミラの名前ばかり、でしょうか?」
私の言葉に頷くのを確認して、私はとりあえず笑っておいた。
カミラにつきまとっているだけでも非常識だというのに、その恥をさらに他人にさらしているのか。本当に恥ずかしい。まあ本人はそれが恥だとは思っていないんだろうけど。
「心配していただいてありがとうございます。学校に来ることができなかった間にラルフ様のお心は完全にわたくしから離れてしまったようですわ。わたくしも妹もとても困っているのですけど……」
とりあえず被害者面しておこう。
本来なら身分が上のラルフの方が圧倒的に立場が強いけど、何せ私は『光属性・全属性の使い手』だ。周りの目が私達二人をどう見ているかなんて自分でも分かっている。同情をされるのはちょっと微妙な気持ちだけど、これでラルフが少しでもカミラに近寄りづらくなればいい。
男子生徒はそんな私を心底不憫そうに見て、「ラルフには俺から言っておくから」と言ってくれた。
「そんな、お気遣いいただいてありがとうございます」
謙虚にお礼を言っておくが、心の中ではニヤニヤが止まらない。これだ。いないならいないでいい。積極的にこの話を広めてラルフが白い目で見られるようにしてやろう。
実際はどうであれ、第三者から見たら私は婚約者に裏切られた女だ。その立場を大いに利用してやろう。
婚約者に裏切られたら、誰だってそのくらいの仕返しはするよね?
ああ、それからちゃんとカミラも被害者だとアピールして、悪く言われないようにしないとね。
よしよし、これから数日忙しくなりそうだ。
そんなことを考えていると、クリスとマクシミリアンがなんとも言えない顔をして私を見ていた。
……しまった、顔に出ていたか。
音を立てて立ち上がったのはちょっとマナー違反だった。だけど我慢ができなかった。
「クリス、ラルフ様のところに行くわよ」
本当は呼び捨てにしてやりたいところだが、様付けで呼ぶくらいの理性は残っていた。カミラが慌てて立ち上がり、「落ち着いてください」と言う。
「安心してちょうだい、カミラ。わたくしは落ち着いているわ。少しラルフ様とお話をしてくるわね」
にっこりと笑うと、カミラが引きつった顔で笑った。どうやら怒りがにじみ出ていたようだ。
だって許せない。カミラは憩いの場であるはずの家にいることもできず、恐らくできるだけ女子寮から出ずに過ごしているのだろう。そんな窮屈な生活をカミラに送らせるなんてあり得ない。
「今まで気が付かなくてごめんなさい。カミラのことはわたくしが絶対に守るから大丈夫よ」
そうカミラに言って足早に部屋を出た。もう卒業パーティーまでも待っていたくない。ここで決着をつけてやる。
ぐっと拳を握ると、後ろから呆れた声が聞こえた。
「エレナ、やる気があるのはいいことなんだけど、ラルフが寮にいるかは分からないよ」
その言葉で足が止まった。
……確かに。その可能性は考えていなかった。むしろうちにまで押しかけて来ていたくらいだし、家に帰っている可能性の方が高い。今からいきなり家に行くのは非常識だし……。
「エレナが暴走しないかと思ってついて来てみたけど、正解だったようだね」
分かっていたなら最初から教えてくれたらよかったのに。なんて心の中で文句を言うが、その可能性に気が付かなかった私が悪い。
「……とりあえず寮にいないか確認してみるわ」
勢いで文句を言ってやろうと思っていたが、その勢いもそがれてしまった。先ほどとは違い、ゆっくりと男子寮へと歩いて行くと、ちょうど見慣れた姿が目に入った。
「マクシミリアン様!」
私が名前を呼ぶと、マクシミリアンはゆっくりとこちらを見た。
「ああ、エレナ」
そして柔らかく微笑む。
「さっきカイが落ち込んでいたよ。断ったんだ?」
お、おお、その話か。すっかり頭から抜けていた。
「わたくしにはもう既に婚約者がいますもの」
作り笑いを浮かべてそう言うとマクシミリアンは「ふーん」と目を細めた。全てを見透かすようなその目に一瞬怯む。が、私は嘘は言っていない。それが全てではないだけで。
「そのラルフのことなんだけど、今寮にいるかな?」
横からクリスが入って来た。マクシミリアンはクリスへと視線を向けて、「どうだったかな」と呟いた。
私が変に言葉を重ねるよりもスムーズに話題が移行して、正直助かった。
「あ、ねえ、ラルフって今いる?」
マクシミリアンがその辺にいた男子生徒を捕まえて聞く。その顔は私も知っていた。私たちと同じ学年で、ラルフと同室の生徒だ。
「いや、一回戻って来たんだけど、一昨日くらいからまた家に帰っているよ」
「そっか、ありがとう」
マクシミリアンは男子生徒から私へと視線を向けて「らしいよ」と言った。なるほど。まあ休暇ももうそんなに残っていないし、そう遠くない内に戻って来るか。ラルフが帰って来ないならとりあえずカミラに害が及ぶことはないし。
男子生徒が私に気付き、少し表情を曇らせた。
「……最近ラルフと上手くいってる?」
何事かと思ったが、私とラルフの仲が気になったようだ。上手くいっているも何も私とラルフが元々仲良くないのはこの人も知っているだろうに。
なんと言おうかと言葉を探していると、男子生徒が先に口を開いた。
「いや、大きなお世話かもしれないけど、最近ラルフの口から出てくるのは、その……」
かと思えば言いにくそうに口をつぐんだ。あー、なるほど。現状を知っているのか。
……まあいいか。
「カミラの名前ばかり、でしょうか?」
私の言葉に頷くのを確認して、私はとりあえず笑っておいた。
カミラにつきまとっているだけでも非常識だというのに、その恥をさらに他人にさらしているのか。本当に恥ずかしい。まあ本人はそれが恥だとは思っていないんだろうけど。
「心配していただいてありがとうございます。学校に来ることができなかった間にラルフ様のお心は完全にわたくしから離れてしまったようですわ。わたくしも妹もとても困っているのですけど……」
とりあえず被害者面しておこう。
本来なら身分が上のラルフの方が圧倒的に立場が強いけど、何せ私は『光属性・全属性の使い手』だ。周りの目が私達二人をどう見ているかなんて自分でも分かっている。同情をされるのはちょっと微妙な気持ちだけど、これでラルフが少しでもカミラに近寄りづらくなればいい。
男子生徒はそんな私を心底不憫そうに見て、「ラルフには俺から言っておくから」と言ってくれた。
「そんな、お気遣いいただいてありがとうございます」
謙虚にお礼を言っておくが、心の中ではニヤニヤが止まらない。これだ。いないならいないでいい。積極的にこの話を広めてラルフが白い目で見られるようにしてやろう。
実際はどうであれ、第三者から見たら私は婚約者に裏切られた女だ。その立場を大いに利用してやろう。
婚約者に裏切られたら、誰だってそのくらいの仕返しはするよね?
ああ、それからちゃんとカミラも被害者だとアピールして、悪く言われないようにしないとね。
よしよし、これから数日忙しくなりそうだ。
そんなことを考えていると、クリスとマクシミリアンがなんとも言えない顔をして私を見ていた。
……しまった、顔に出ていたか。
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