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本当の気持ち
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ユリウス殿下の魔力の気配。ユリウス殿下の魔力はあの時に覚えた。自分の中を巡っていたあの魔力。見えなくてもなんとなく分かる。
それに全神経を集中させる。ベアトリクスのような特別な目は持っていない。魔力で書いた文字のように魔力強化をしても魔法は、魔力は見えない。だけどなぜか見えた。ユリウス殿下の魔法の形。つまり、魔法陣が。
この魔法陣だったら……多分ここ。
魔法がカイへと届く前にどうにかしないといけない。時間はないのだ。魔法陣のおそらく重要なところへ魔力を飛ばして乱す。これが正しかったら魔法は効果をなくすはずだ。
いっそのこと魔法陣の全てを乱すことができたらいいのだけど、魔法ならまだしも、魔力そのものを使うことに慣れていない私にはできない。
魔力がカイへと届く。
「殿下」
短く呼べば、カイは私を見た。多分ユリウス殿下が使ったのは記憶を消す魔法だろう。選ばなかった私を失わせるために。
ドキドキする。私がちゃんと魔法を壊せていなかったらカイは私のことを忘れているだろう。そうなったらもう私にはどうしたらいいか分からない。こうなるように仕向けたのだけど、それは一か八かの賭けだった。
「何? エレナ」
呼ぶだけ呼んで何も言わない私にカイが不思議そうな顔をしている。
よし、ユリウス殿下の使た魔法が私の考えた通りだったら成功!
ユリウス殿下の方を見ると、殿下は不思議半分、驚き半分といった表情だった。今がチャンスだ。驚いているユリウス殿下は隙だらけ。最初からねらい目はここだった。が、具体的なことは考えていなかった。
それでも体が動いた。私はユリウス殿下の前へ歩み出た。目の前に立ち、ユリウス殿下を見上げる。殿下は私を見下ろし、何をするのかと思っているだろう。
こういう時は相手の想像していない行動に出ることが大切。だけど別に考えてなどいない。ただこのままでは終われないと思っただけ。
にっこりと微笑み、私はユリウス殿下の頬を強く打った。乾いた、だけど大きな音が響いた。右手がジンジンとした。
「いい加減にしてくださいませ」
ユリウス殿下は何が起こったのかまだよく分かっていないようで、私の打った左頬を押さえて呆然とした顔で私を見た。
後ろから押さえたような笑い声が聞こえる。振り向かなくても分かる。こんな状況で笑うなんてヘンドリックお兄様くらいだ。
「どちらを選んでも失うのは殿下。ユリウス殿下は何も失わないではありませんか。自分は安全なところから一方的に二択を突き付けるなんてずるいとは思いませんこと?」
「私も同感! エレナよく言った!」
能天気な声が聞こえ、ガクリと体の力が抜けそうになる。
……クリス、状況を考えてくれ。
「何歳ですか? 子供じみた嫌がらせはもう止めてくださいませ」
実は結構前からムカついていたのだ。今までのような心の底から湧き上がる怒りとは違う。ムカムカして一発殴りたいと思っていた。本当ならグーで行きたいところだったけど、パーにしたのだ。感謝して欲しい。
「嫌がらせ……?」
ユリウス殿下が今まで見たことのない顔をしている。こういう驚いた表情を見ると、何でもできるユリウス殿下も同じ人間なのだと思う。
「あら? 自覚はありませんの? 国の為なんて大層なことおっしゃっておられますが、わたくしにはただの嫌がらせに見えますわよ」
次の皇帝を鍛えるなんて名目だけ。ユリウス殿下がしているのはカイへの嫌がらせだ。
「さっきおっしゃったではありませんか。わたくしやクリスが近くにいて羨ましい、と」
思えば可哀そうな人だ。全属性に加え誰も知らない闇属性を持って生まれた。さらに魔法の才に恵まれている。皇族として教育を受け、優秀な人。授業を受けずとも試験を突破し、図書室に籠る。
皇子ということもあるが、それ以上にその優秀さが人を遠ざけたのだろう。この人と対等に話をできる人はこの国でもたったの一握りだ。卒業後はすぐに異空間に閉じ込められ、たった一人で何年も過ごした。
そして戻って来てみれば弟は友人に囲まれ、次の皇帝としての道を歩いている。
皇帝になりたいわけではないだろう。国をよくしたいのは本当だろう。だけど、かつて自分が歩いた道を幸せそうな顔をして歩いている弟が羨ましかったのだ。
「それが全てですわ。殿下はユリウス殿下がたった一人、冷たいお城で過ごしていた間も笑っておられたのですから。羨む気持ちはとても分かりますわ」
カイがはっとした表情でユリウス殿下を見た。カイだってユリウス殿下の置かれていた状況は知っている。だけどそこまで考えが及ばなかったのかもしれない。
誰だって自分の不幸を探すことは簡単だ。だけど人の不幸は見えない。特に自分が幸福な時は。そんなものだ。
「羨ましい……? 僕が、カイを?」
「ええ。お心当たりがございませんか?」
本当にカイのことを思うなら側にいてあげることが一番だ。もちろん、ユリウス殿下が表に顔を出すことは帝位争いにつながる可能性があるのであまりおすすめはできないけど。
だけど歴史を見てみると、皇帝の座についているのは必ずしも長男ではない。他に継承権を持つ者がいる場合、放棄することもできる。それをユリウス殿下が知らないわけがない。
「どうぞご自分の心に正直にお答えください」
にっこりと笑った私を見て、ユリウス殿下はすっと真剣な表情になった。
それに全神経を集中させる。ベアトリクスのような特別な目は持っていない。魔力で書いた文字のように魔力強化をしても魔法は、魔力は見えない。だけどなぜか見えた。ユリウス殿下の魔法の形。つまり、魔法陣が。
この魔法陣だったら……多分ここ。
魔法がカイへと届く前にどうにかしないといけない。時間はないのだ。魔法陣のおそらく重要なところへ魔力を飛ばして乱す。これが正しかったら魔法は効果をなくすはずだ。
いっそのこと魔法陣の全てを乱すことができたらいいのだけど、魔法ならまだしも、魔力そのものを使うことに慣れていない私にはできない。
魔力がカイへと届く。
「殿下」
短く呼べば、カイは私を見た。多分ユリウス殿下が使ったのは記憶を消す魔法だろう。選ばなかった私を失わせるために。
ドキドキする。私がちゃんと魔法を壊せていなかったらカイは私のことを忘れているだろう。そうなったらもう私にはどうしたらいいか分からない。こうなるように仕向けたのだけど、それは一か八かの賭けだった。
「何? エレナ」
呼ぶだけ呼んで何も言わない私にカイが不思議そうな顔をしている。
よし、ユリウス殿下の使た魔法が私の考えた通りだったら成功!
ユリウス殿下の方を見ると、殿下は不思議半分、驚き半分といった表情だった。今がチャンスだ。驚いているユリウス殿下は隙だらけ。最初からねらい目はここだった。が、具体的なことは考えていなかった。
それでも体が動いた。私はユリウス殿下の前へ歩み出た。目の前に立ち、ユリウス殿下を見上げる。殿下は私を見下ろし、何をするのかと思っているだろう。
こういう時は相手の想像していない行動に出ることが大切。だけど別に考えてなどいない。ただこのままでは終われないと思っただけ。
にっこりと微笑み、私はユリウス殿下の頬を強く打った。乾いた、だけど大きな音が響いた。右手がジンジンとした。
「いい加減にしてくださいませ」
ユリウス殿下は何が起こったのかまだよく分かっていないようで、私の打った左頬を押さえて呆然とした顔で私を見た。
後ろから押さえたような笑い声が聞こえる。振り向かなくても分かる。こんな状況で笑うなんてヘンドリックお兄様くらいだ。
「どちらを選んでも失うのは殿下。ユリウス殿下は何も失わないではありませんか。自分は安全なところから一方的に二択を突き付けるなんてずるいとは思いませんこと?」
「私も同感! エレナよく言った!」
能天気な声が聞こえ、ガクリと体の力が抜けそうになる。
……クリス、状況を考えてくれ。
「何歳ですか? 子供じみた嫌がらせはもう止めてくださいませ」
実は結構前からムカついていたのだ。今までのような心の底から湧き上がる怒りとは違う。ムカムカして一発殴りたいと思っていた。本当ならグーで行きたいところだったけど、パーにしたのだ。感謝して欲しい。
「嫌がらせ……?」
ユリウス殿下が今まで見たことのない顔をしている。こういう驚いた表情を見ると、何でもできるユリウス殿下も同じ人間なのだと思う。
「あら? 自覚はありませんの? 国の為なんて大層なことおっしゃっておられますが、わたくしにはただの嫌がらせに見えますわよ」
次の皇帝を鍛えるなんて名目だけ。ユリウス殿下がしているのはカイへの嫌がらせだ。
「さっきおっしゃったではありませんか。わたくしやクリスが近くにいて羨ましい、と」
思えば可哀そうな人だ。全属性に加え誰も知らない闇属性を持って生まれた。さらに魔法の才に恵まれている。皇族として教育を受け、優秀な人。授業を受けずとも試験を突破し、図書室に籠る。
皇子ということもあるが、それ以上にその優秀さが人を遠ざけたのだろう。この人と対等に話をできる人はこの国でもたったの一握りだ。卒業後はすぐに異空間に閉じ込められ、たった一人で何年も過ごした。
そして戻って来てみれば弟は友人に囲まれ、次の皇帝としての道を歩いている。
皇帝になりたいわけではないだろう。国をよくしたいのは本当だろう。だけど、かつて自分が歩いた道を幸せそうな顔をして歩いている弟が羨ましかったのだ。
「それが全てですわ。殿下はユリウス殿下がたった一人、冷たいお城で過ごしていた間も笑っておられたのですから。羨む気持ちはとても分かりますわ」
カイがはっとした表情でユリウス殿下を見た。カイだってユリウス殿下の置かれていた状況は知っている。だけどそこまで考えが及ばなかったのかもしれない。
誰だって自分の不幸を探すことは簡単だ。だけど人の不幸は見えない。特に自分が幸福な時は。そんなものだ。
「羨ましい……? 僕が、カイを?」
「ええ。お心当たりがございませんか?」
本当にカイのことを思うなら側にいてあげることが一番だ。もちろん、ユリウス殿下が表に顔を出すことは帝位争いにつながる可能性があるのであまりおすすめはできないけど。
だけど歴史を見てみると、皇帝の座についているのは必ずしも長男ではない。他に継承権を持つ者がいる場合、放棄することもできる。それをユリウス殿下が知らないわけがない。
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にっこりと笑った私を見て、ユリウス殿下はすっと真剣な表情になった。
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