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愛玲奈なエレナ2
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「おはよう、愛玲奈!」
「千香! おはよ!」
ずっと鏡の中から見ていた世界。実際に愛玲奈になって驚くことはあったけど、不自由はしなかった。私は完全に愛玲奈になりきっていた。
問題は一つ。私が元居た世界を舞台にした乙女ゲーム。人物は知っているが、私は本物の愛玲奈ほど熱くは語れなかった。仕方がないので時間が空いた時にちょっと進めているけど。
「今日小テストだよー……勉強してきた?」
「ばっちり!」
「愛玲奈最近調子いいもんね。裏切りだぁ」
なんて冗談っぽく笑う千香と一緒に私も笑う。ここには私がエレナの時に得られなかった友達がいる。そして愛をくれる母親がいる。愛玲奈のお母さんはどこか私のお母様と似ているような気がした。……お母様が亡くなったのはもうずっと前のことなのでよくは覚えていないけど。
「ねえ、今日映画観に行かない? 愛玲奈が見たがっていたやつ公開されたでしょ?」
「あ! 行く行く! 放課後直接行こうよ。私早く観たい!」
愛玲奈になって数か月もすれは、愛玲奈の趣味は私の趣味となってしまっていた。アニメ文化にも漫画にもすっかりとドハマりし、愛玲奈と同じくらいは詳しくなったし、千香とも話が合うようになった。
そして私はこの世界の勉強が楽しくて仕方がなかった。誰もが同じ身分で、皆が平等に夢を持てる。あちらの世界のように婚約者が決まることもなければ、女性でも一人で生きていく道がある。本当にどうしようもないくらい嬉しかった。
親のしいたレールなどない。周りの目だってそれほど気にしなくていい。好きな服だって着ることができた。愛玲奈になって毎日が楽しい。
一年に一回エレナと電話をする。これはあのゲームの説明書を読んでいて知った。あちらの世界の文字で書かれていたのだ。
『一年に一回、満月の夜、魔力が満ちあちらの世界と繋がる。電話を鳴らせ』
私は毎月満月の夜は携帯をいじった。そして夏がまだ残っているあの日、とうとう見つけたのだ。電話帳にエレナの名前を。愛玲奈がエレナとしてそれなりに楽しんで生活していることを聞いてほっとした。それと同時に恐怖もあった。愛玲奈があの本を見て魔法を使ったらどうしようかと。
最初の内は不安を感じながら過ごしていたが、それも次第になくなっていく。電話が通じなかった年も愛玲奈はあっちの世界で楽しんでいるのだと安心したくらいだ。
そしてそのまま数年が経った。その年は私が高校を卒業して六年目の年だった。
愛玲奈は言った。全て終わったと。第一皇子と結婚し、今後は旅に出る。愛玲奈の人生は私にくれる、と。正直、私はほっとした。エレナに戻る未来がないことに。このまま愛玲奈として生きて良いことに。
そしてようやく決心した。私を作った人間に会いに行こう、と。
そしてその人は今私の目の前にいた。
「改めて、君の名前を聞いてもいいかな?」
「はい、エレナです」
敢えて西野愛玲奈だとは名乗らなかった。この人が私を作った人なら何か知っているかと思って。
正直、どこにでもいそうなおじさん。私がこの人に会えたのはとても偶然だった。制作会社に乗り込んだはいいものの、「アポイントメントのない方は中に入れることはできません」と受付に止められていた私。その私に声をかけたのがこの人だった。
そしてこの人は言った。あのゲームを作ったのは自分だ、と。
おじさんは目を細めて私を見た。全てを見透かすように。
「僕は田中達彦です。君が探していたあのゲームの原案を作った人間だよ」
本当に運がいい。たまたまこの人があそこにいたこと、そしてこの人が私に声をかけてくれたこと。こうも上手く事が進むとは思っていなかった。今日はダメもとで来ただけだったのだ。
「それで、君はどちらのエレナかな?」
この人は何か知っている予感はあった。だけどこんなにも早く確信に迫るチャンスが来るとは。話が早くて助かる。
「中身の話でしたら、伯爵令嬢のエレナです。体は西野愛玲奈ですが」
「……そうか」
田中さんはそれを聞いて笑った。それは慈愛に満ちた笑顔だった。まるで父親が娘を見るような。……違うな、ような、じゃないんだ。
「田中さんは私の、私達の父、ですよね?」
そう聞いたが私は確信していた。私を作り出した父。そして愛玲奈の血を分けた父親。だってこの人は私に、愛玲奈によく似ている。
驚く顔が視界に入る。これは正解。こういうのは自分では気づきにくいことだろう。だけど私は愛玲奈の姿ではいるけど、元は他人だ。そういう目で見てみるとどう見ても親子だ。
田中さんは言葉を探すように視線をさまよわせた。
「……愛玲奈と関係のある人物だと思うのは自然でしょう? そうなれば父親だというのは一番に可能性に上がります。愛玲奈の家は母子家庭ですから」
私がこの人やお母さんの家族だと大きな顔をすることはできなかった。だから、「うち」とは言わない。お母さんと田中さんの娘はあくまでエレナの中にいる愛玲奈で、愛玲奈の姿をした私ではないのだから。
「私が聞きたいのは一つだけです。田中さんがどういうつもりで私を作ったのか。そして、どうしてあの本を私の部屋におき、鏡を屋敷に隠したのか」
その答えを聞くのは少しだけ怖い。だけどどうしても知りたかった。私の存在意義。モブなのに設定の多い私。愛玲奈がそう生きたように、あの世界の主役にすらなれる力。それはどういうつもりなのか。
背筋をのばした私は笑顔を浮かべることなく田中さんを真っすぐに見た。
「千香! おはよ!」
ずっと鏡の中から見ていた世界。実際に愛玲奈になって驚くことはあったけど、不自由はしなかった。私は完全に愛玲奈になりきっていた。
問題は一つ。私が元居た世界を舞台にした乙女ゲーム。人物は知っているが、私は本物の愛玲奈ほど熱くは語れなかった。仕方がないので時間が空いた時にちょっと進めているけど。
「今日小テストだよー……勉強してきた?」
「ばっちり!」
「愛玲奈最近調子いいもんね。裏切りだぁ」
なんて冗談っぽく笑う千香と一緒に私も笑う。ここには私がエレナの時に得られなかった友達がいる。そして愛をくれる母親がいる。愛玲奈のお母さんはどこか私のお母様と似ているような気がした。……お母様が亡くなったのはもうずっと前のことなのでよくは覚えていないけど。
「ねえ、今日映画観に行かない? 愛玲奈が見たがっていたやつ公開されたでしょ?」
「あ! 行く行く! 放課後直接行こうよ。私早く観たい!」
愛玲奈になって数か月もすれは、愛玲奈の趣味は私の趣味となってしまっていた。アニメ文化にも漫画にもすっかりとドハマりし、愛玲奈と同じくらいは詳しくなったし、千香とも話が合うようになった。
そして私はこの世界の勉強が楽しくて仕方がなかった。誰もが同じ身分で、皆が平等に夢を持てる。あちらの世界のように婚約者が決まることもなければ、女性でも一人で生きていく道がある。本当にどうしようもないくらい嬉しかった。
親のしいたレールなどない。周りの目だってそれほど気にしなくていい。好きな服だって着ることができた。愛玲奈になって毎日が楽しい。
一年に一回エレナと電話をする。これはあのゲームの説明書を読んでいて知った。あちらの世界の文字で書かれていたのだ。
『一年に一回、満月の夜、魔力が満ちあちらの世界と繋がる。電話を鳴らせ』
私は毎月満月の夜は携帯をいじった。そして夏がまだ残っているあの日、とうとう見つけたのだ。電話帳にエレナの名前を。愛玲奈がエレナとしてそれなりに楽しんで生活していることを聞いてほっとした。それと同時に恐怖もあった。愛玲奈があの本を見て魔法を使ったらどうしようかと。
最初の内は不安を感じながら過ごしていたが、それも次第になくなっていく。電話が通じなかった年も愛玲奈はあっちの世界で楽しんでいるのだと安心したくらいだ。
そしてそのまま数年が経った。その年は私が高校を卒業して六年目の年だった。
愛玲奈は言った。全て終わったと。第一皇子と結婚し、今後は旅に出る。愛玲奈の人生は私にくれる、と。正直、私はほっとした。エレナに戻る未来がないことに。このまま愛玲奈として生きて良いことに。
そしてようやく決心した。私を作った人間に会いに行こう、と。
そしてその人は今私の目の前にいた。
「改めて、君の名前を聞いてもいいかな?」
「はい、エレナです」
敢えて西野愛玲奈だとは名乗らなかった。この人が私を作った人なら何か知っているかと思って。
正直、どこにでもいそうなおじさん。私がこの人に会えたのはとても偶然だった。制作会社に乗り込んだはいいものの、「アポイントメントのない方は中に入れることはできません」と受付に止められていた私。その私に声をかけたのがこの人だった。
そしてこの人は言った。あのゲームを作ったのは自分だ、と。
おじさんは目を細めて私を見た。全てを見透かすように。
「僕は田中達彦です。君が探していたあのゲームの原案を作った人間だよ」
本当に運がいい。たまたまこの人があそこにいたこと、そしてこの人が私に声をかけてくれたこと。こうも上手く事が進むとは思っていなかった。今日はダメもとで来ただけだったのだ。
「それで、君はどちらのエレナかな?」
この人は何か知っている予感はあった。だけどこんなにも早く確信に迫るチャンスが来るとは。話が早くて助かる。
「中身の話でしたら、伯爵令嬢のエレナです。体は西野愛玲奈ですが」
「……そうか」
田中さんはそれを聞いて笑った。それは慈愛に満ちた笑顔だった。まるで父親が娘を見るような。……違うな、ような、じゃないんだ。
「田中さんは私の、私達の父、ですよね?」
そう聞いたが私は確信していた。私を作り出した父。そして愛玲奈の血を分けた父親。だってこの人は私に、愛玲奈によく似ている。
驚く顔が視界に入る。これは正解。こういうのは自分では気づきにくいことだろう。だけど私は愛玲奈の姿ではいるけど、元は他人だ。そういう目で見てみるとどう見ても親子だ。
田中さんは言葉を探すように視線をさまよわせた。
「……愛玲奈と関係のある人物だと思うのは自然でしょう? そうなれば父親だというのは一番に可能性に上がります。愛玲奈の家は母子家庭ですから」
私がこの人やお母さんの家族だと大きな顔をすることはできなかった。だから、「うち」とは言わない。お母さんと田中さんの娘はあくまでエレナの中にいる愛玲奈で、愛玲奈の姿をした私ではないのだから。
「私が聞きたいのは一つだけです。田中さんがどういうつもりで私を作ったのか。そして、どうしてあの本を私の部屋におき、鏡を屋敷に隠したのか」
その答えを聞くのは少しだけ怖い。だけどどうしても知りたかった。私の存在意義。モブなのに設定の多い私。愛玲奈がそう生きたように、あの世界の主役にすらなれる力。それはどういうつもりなのか。
背筋をのばした私は笑顔を浮かべることなく田中さんを真っすぐに見た。
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