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神社編2

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「大丈夫かな雅」

 自分の部屋に戻った一刀は半袖短パンのラフな姿に着替えてベッドに寝転ぶと先ほどの雅の様子を思い出して不安になる。
 折角作った朝食もあまり食べてくれなかった。養子として迎えられたが、居候のような気分であり、何かと家事を手伝っている一刀であり食事も作れる。
 だから雅が食べてくれないのは少々寂しい。

「やっぱり怒っているのかな」

 幾ら幼馴染みで許嫁とはいえ、婚前に襲ったのは不味かったか。
 承諾を得てからとはいえ、場の雰囲気を利用して迫ったのではないかと一刀は後悔していた。

「でも、いいよな」

 雅が自分を受け容れてくれたことを一刀は、素直に喜んでいた。
 幼い頃から一つ屋根の下で生活し日に日に美しくなっている雅に愛情を覚えるようになった。役目を果たす心強い相棒であり、同時に討滅の一員でライバル。
 だが精気の操作は変身出来る程、雅が格上な事に一刀は劣等感を感じる。
 しかし、それ以上に変身したときの雅が美しすぎて欲望の方が強くなってしまう。

「色ボケか」

 思春期に入るにつれて日に日に色々と妄想をしてしまう一刀だったが、最近は少ない。
 雅と肌を重ねてからは童貞を脱したことである種の焦りが無くなった。
 時折、思い出して身体が熱くなり情動に駈られるが、前ほどでは無い。

「でも雅に負担を課してしまった」

 同時に一刀は罪悪感を感じる。
 知らなかったとはいえ、雅の力を消失させ妖魔を封印する羽目になったのは自分のせいだ。
 自分の精気を分ける事で何とか前の雅と同じ能力を発揮しているが、何度も抱きしめたり愛撫しなければならない。それでも足りず、封印が弱まり妖魔に遅れをとった。
 自分がしっかり守らなければならないが、雅へ分ける精気も増大させたい。そのためには交わることが一番だが、雅に拒まれている。

「嫌がられているのかなあ」

 精気の注入は先ほどのようにキスや愛撫だけでそれ以上は雅が嫌がっている。
 幾度も肌を重ね、激しく交わっているにも関わらずだ。
 その時の事を身体が覚えており、身体が熱くなる。

「けど妖魔か」

 しかし最初の一回を除いていずれも雅の中に封印した玉兎が雅を乗っ取ったときだ。
 日に日に女性の身体になりつつある雅の身体を、普段は大人しく貞淑な雅とは思えないほど扇情的な行動で玉兎は激しく一刀と交わり合う。
 あの淫蕩な姿を思い出してしまうのは玉兎に操られている雅に失礼だと一刀は思っているが身体が求めている。
 そのことを否定しようとすると余計に欲情が大きくなり、鎮めるのに苦労する。

「どうしたものかな」

 ベッドの上で悶々としていると部屋の扉が開く音がした。

「雅か?」

 部屋に入ってくるのは家族だけで、養父母は社務所で神社の切り盛りをしているので今の時間はやってこない。
 普段は一刀も雅も神社を手伝っているが、お役目が続いたこともあり、休息を命じられていた。
 なので入ってくるのは雅だけの筈だが、ノックもせずに扉を開けたことがないため、一刀は不審に思った。

「どうした、何かあったのか……」

 尋ねかけて一刀は絶句した。
 入って来たのは間違いなく雅であり、雅だけだった。他は何も無し、服さえもなく、生まれたままの姿だった。
 そして一刀の部屋に入ると後ろ手で扉を閉じた。

「玉兎か」

「そうじゃ」

 玉兎は肯定した。
 いつものバニーガール姿ではなく裸の姿だが、挑発的な切れ長の瞳と言動は玉兎に間違いなかった。

「どうして出てきたんだ」

「封印の力が弱まっておるのでな。簡単に入れ替われたわ」

 鍛錬のしすぎで精気が弱まったのだと一刀は推定した。
 事実だが、更に身体の高ぶりを鎮めるためにオナニーして、精気を更に消耗したことを一刀は知らなかった。
 いずれにしろ玉兎を封印しなければならない。

「大人しく再封印されろ」

「きゃーっ一刀のエッチ! やめて! 離して! 襲わないで!」

「うおっ、止めろ!」

 雅の声と口調で叫んだ玉兎の口を一刀は慌てて手で塞いだ。
 住居と社務所は別棟になっているとはいえ、隣接しており大声で叫ぶと養父母に聞かれてしまう。
 そのことを理解しているのか玉兎は瞳だけで妖艶に笑う。口元も声を出すのを止め笑みをこぼしているのが掌越しに伝わってきた。
 一刀は口から手を離し、玉兎に問いかけた。

「バレたら大変な事になるぞ」

「それはお主達も同じであろう」

 玉兎に事実を言われて一刀は黙り込んだ。
 雅の中に玉兎を封印していることは養父母には内緒にしている。初めは全て話して協力して貰おうと思ったが、雅が強く止めたために話していない。
 大恩ある養父母を裏切ることになるが、雅の願いを無下に出来ない。
 もし知られたら雅と離れるように言われてしまう恐れがあり、それは一刀も嫌だった。
 そのため秘密がバレないようにする必要がある。
 幸い、今の大声に気付いた人間はいないようで接近してくる気配は無い。

「しかしよく聞かれなかったな」

 嘘の悲鳴とはいえ良く通る澄んだ声であり、身体の芯まで届く美声だった。
 それなのに近くの社務所で聞かれず様子を見に来る気配が無いのは異常だ。

「気配を遮断する呪いを展開したからの。妾の呪いは中々高等でのう、触れるかこの身体の主のような余程の高位術者でなければ気が付かぬ」

 普段は優しくおっとりしていて、何処か抜けているところのある雅だ。
 しかし、精気の操作に関しては天宮一族の歴史の中でも五指に入ると言われるほどの能力者で、その才能は彼女の両親でさえ遠く及ばない。

「けど、気配を遮断するだけで大丈夫なのか? 無くなるとバレるぞ」

 昔一刀は、雅の身体に興味を持ち、どうしても一目見たいと習ったばかりの隠業の技を使い風呂場を覗こうとしたことがあった。
 しかし、気配を消した瞬間に師である養父にバレた。
 気配を消したということは、何かを行おうという証拠だという推理の元、風呂場の前で待ち伏せされた。
 風呂場を覗く寸前に養父に捕まり、罰として一晩中実戦形式の乱稽古をする羽目になった。

「そこは適当にお主達の気配を放出して誤魔化しておる。二人ともそれぞれの部屋にいるような気配を出しておるから暫くはバレぬ」

「そうか」

 養父母にバレないことに一刀は安堵したが、胸中は複雑である。
 育ての親であり、討滅の師である養父が妖魔に騙されているのは見たくなかった。
 その心の揺れが顔に出ているのを見た玉兎は、笑いながら答えた。

「妾の方が長生きしているからの。経験がモノを言うこのような腹芸は妾の方が上であるのは致し方有るまい」

「けど」

「まあ、お主の気配を真似るのは難しく、危うくバレるところだったのじゃ」

「本当か」

「そうじゃ、平静な心を模したら怪しまれてのう。危うく部屋に乗り込まれるところじゃった。途中からこの身体への邪な思いを波動に乗せたら引き返して行きおったわ」

「俺ってそう思われているの!」

 既に内緒で一戦を何度も超えているとは言え、養父にそのような人物と思われていたことに、更に自分が雅への邪な思いを放っていたことに思春期特有の少年の心は傷ついた。

「兎に角、大人しく戻れ」

「嫌じゃ」

「なら無理矢理封印する」

「無理じゃろう。無理矢理封印とは無理矢理襲うという事じゃろう? その瞬間に結界を解放する。そうなれば、親が飛んで来るであろうな」

「くっ」

 玉兎が張った結界が破れたら養父は飛んでくるだろう。そして玉兎を雅の身体の中に封印していることがバレてしまう。
 その前に雅を襲っているところを目撃され一刀は養父に殺されるだろう。

「大人しくしていろ。というか服を着ろ」

 幸い、養父母は夕方頃に神社庁の研修で神社を離れる。
 その後は目の前の玉兎と二人きりとなるから問題無い。
 それまでバレないように過ごすのが一刀の使命だ。
 養父に殺されないためにも。
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