その場にいたのは僕だけだった

桜井 海來

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その場にいたのは僕だけだった(階段)

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 校門をぬけてそれぞれの下駄箱へ行く、靴を履き終えた僕達、「んじゃ私こっちだから、またね!」夏陽さんは僕が上る階段の反対方向にある階段をへ上って行った。
 また夏陽さんの口から、またねっと言われた。
その(またね)が必ず会いに来てねのように聞き取ってしまう僕。少し頭を使いすぎているのかと、また自分に言い聞かせ教室へ向かった。
 向かう途中階段を一段一段上がっていくにつれ、先程の不思議な体験といい、鏡のこともあったせいか、ふと一つだけ思い当たることがあった。
 あの時なぜ僕より先に駅に向かっていたはずの夏陽さんは僕と同じあの場にいた事に気がついた。
 乗り遅れたのだろうか?だとするとおっちょこちょいで済むんだろうけど、乗り遅れたとしても僕が乗ろうとしていた電車に乗れていたはずだ。まぁどうせ彼女の事だから、好奇心どこかへほっつき歩いてたんだろう。
 2階へ辿り着いた僕は長い廊下をじーっと見つめた、自分の教室は生憎一番奥にある、ゲームのラスボスまで行く感覚に落ちいて。なぜならその教室に行く途中には4つの教室がある、いわば中ボスがうじゃうじゃいるのだ。恐らく教室の中からまじまじと見られるのだろう、と考えていく僕。
 これは悪魔で頭で想像しておくことでワクチンのような働きをしてくれるから、いざ本番で起きても平気でいられることが多い。でもこんな事をしているのは僕だけしかいないと思うけれど。
 ここで溜息用の空気を吸っておく、心の準備ができたところで一歩二歩進んで行くと案の定その事は直ぐに起きた。
 だが僕は想像ワクチンをしていたのでなんてことは無かった。それにしても皆珍しい動物を見てるかのようにジロジロと見てくるし、先生ですらも見てきた。そうしてる間に自分の教室に着いていた、ドアノブに手を掛けた時、担任の江藤先生の声が聞こえてきた。
どうやら朝礼が行われていた。このタイミングで教室へ入るのはバンジージャンプを自ら飛び下りる程の度胸がいる。先程の想像ワクチン効果は既に切れていた。
 ドアノブに手を掛けて引くことが中々できないでいた。不安と緊張が僕の体に覆い被さる、床が沼地のように柔らかな感覚に落ちて、指でつつかれればクラッと倒れるほど僕の足はグラグラと震えていた。
すると「おはよう」っと後ろから聞こえてきた。
僕は驚きパッと振り向くと、友達の山根湧斗(やまね ゆうと)だった。 山根は相変わらず眠そうな顔をしていて今にも立ったまま寝るんじゃないかと心配しかけた。
山根とは去年の体育祭で仲良くなったが、2年生になってからはクラスが別々なってしまい殆ど校内で会うことは無かった。授業中も昼休みも寝てばかりでお決まりの口癖が「だりーちゃ」だった。だりーちゃとはめんどくさいの略で、語尾のちゃに関しては福岡弁らしい。そんな山根が「久しぶりやな、あれ?体調でも悪いと?」っと珍しく心配してきたので、嬉しさ反面気持ち悪さもあり、少しだけ体が楽になった。
 僕達の話し声が聞こえていたらしく、ガラガラっと勢いよくドアを開いた。
 担任の江藤先生が一瞬、怒りに満ちた顔で僕達を見るも、2ヶ月も来ていない僕が居たことでその表情も治まり、「おう、おはよう」っ驚いたような声で鯉のように口を開けていた。
「おはようございます」と小さく会釈した
「ここ5組やん!教室間違えましたー」山根は挨拶もぜずに隣の教室に入っていった。
    
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