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高校生編side晴人 守ってくれるのは大切だからだって思いたい
57.羨ましくもある(side黒崎悠真)
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高校は地獄みたいな中学時代とは大違いだった。
成績さえ良ければ自由な特進クラスは俺にとって天国。
バイトもできるから、ノートを買う金すら無くて惨めになる事もない。
偏差値高めのこの学校の、さらに選ばれし上位30人。
その中に属する俺から見ても、ただ1人別格だと感じる奴がいる。
切藤蓮は、高校生にして全てを手にしていると言っても過言では無い。
そう、思っていたーーー。
「萱島君、大丈夫だといいねぇ。」
俺は今、一般クラスの中野啓太と一緒に駅へ向かっている。
「本当だよな。悪戯なのか晴人が狙われたのか分かんないけど…。それに切藤がまさかあんな庇い方するなんてなぁ。」
幼馴染の萱島晴人を庇って、学校にタバコを持ち込んだ罪に問われている蓮。
「んー、犯人の動機は分かんないけど、蓮が反撃もせずに大人しく鬼丸に従った意味は分かるよ。」
「どう言うことだ?」
「ほら、萱島君って剣道部でしょ?しかも小火の第一発見者で、当初警察に疑われたって言ってたじゃん。」
萱島君から聞いたその話しは相当理不尽だった。
「しかもさ、小火の現場にタバコの吸い殻が落ちてたらしいじゃん。
それで萱島君の鞄からタバコが出てきたなんて事になったら、もう疑いは一気に濃厚になるわけよ。」
部室で喫煙中に小火になり、第一発見者を偽装したって。
「た、確かにそうだな…。え⁉︎じゃあ…」
「うん、蓮はそうなるって気付いてたんだろうね。変に騒がなかったのは、自分に疑いの目を向けさせて萱島君を隠そうとしたんだよ。」
それと、多分…
「教師から事件について何か探ろうとしてるかも。」
「マジか。やっぱすげぇな。
…ここまでするのって全部晴人の為だろ?
大切にするのはいいと思うんだけど…献身的すぎないか?」
そうかもね。でもさ。
「ねぇ、中野君。俺が未来が見えるって言ったらどうする?」
急な話しの路線変更に中野君が目を白黒させる。
「脈絡なくね⁉︎えーっと、まぁ実際見て判断したいなとは思う。」
実直な彼の解答は大方予想通り。
「中野君ならそう言うよね。実はさぁ、俺にはその能力があるんだよね。」
「「…いや、そんな事言われても信じられない。
もっと詳しく説明してくれ。」」
「え⁉︎」
中野君が驚愕している。
だって、中野君の返答をそっくりそのまま俺が同時に答えたんだから。
「ビックリした?まぁ種明かしするとさ、IQが高い人間には良くある現象なんだよ。
相手が次に何を言うか分かるとか、話しの冒頭だけ聞けばオチが分かるとか。」
「そう言えば、TVの特集で見たことあるな。」
納得顔の中野君。
「俺もさ、IQだけで言えば東の名探偵も夢じゃない訳よ。」
「「そう言えば、お前頭良いんだもんな。」」
また被せて言うと、彼は戸惑いつつも笑った。
「すげぇな!って事は俺は黒崎に心を読まれてるみたいなもんなのか?」
「そこまでの物じゃないよ。」
これはあくまでも「予測」の域だからね。
「たださ、全く読めない人もいるんだよね。
それが萱島君。」
ほんわかした感じの彼だけど、俺にとってはかなり特殊。
「素直でやたら許容範囲が広くてさ。相手を否定しないでほぼ肯定するんだけど、どっかで拘りがあるから斜め上の解答が来るんだよね。」
水遊びの事なんか思い出すと笑ってしまう。
水ぶっかけらのにあの反応!
あれ以来、彼は俺のお気に入りだ。
「多分ね、『こうあるべき』って決め付けが他の人より少ないんだと思うんだ。
俺らにとっては貴重な存在。」
「俺らって、もしかして…。」
「そ、蓮もこっち側の人間。まぁあれだけできてIQ低い訳ないけど。」
「言われてみればそうか。でも黒崎の方がテストの順位いつも上じゃなかったっけ?」
あぁ、それね。
「連はさ、全然本気出してないよ。」
「は⁉︎」
「俺はちゃんとやってるけどね、蓮は適度に手を抜いてだいたい3位キープしてると思う。」
まだ全然余力あるのが分かるんだよね。
「それって…!」
うん、中野君ならそう思うよね。
「真面目にやってる人に対して失礼だって思う?
それは正しいし、多くの人が持つ考えだよ。」
だけどさ、
「萱島君がこの事知ってるかは分かんないけど、多分、蓮には蓮の事情があるからいいんじゃない?って反応だと思うんだよね。」
読みにくい彼の考えだけど、今日の思い出話しを聞いた感じそう言う気がする。
例えば、外国人に対して「この人は外国人だから大雑把なんだな」と思ったとしよう。
それは「外国人」と言う肩書きを、潜在意識の中にある「おおらかな国民性」と結び付けてしまっている。
つまり、本来の「その人自身」を見ていない。
同じように、能力が突出した人間に対しても人は「能力が高いから○○なんだ」と思ってしまう。
『蓮は頭がいいからテストで手を抜いたりできるんだ。嫌味だよなぁ。』
とかさ。
肩書きが一つ付くだけで、人はその人の背景とか心情を考えるのを止めちゃうんだよ。
だけど萱島君は違うんだよね。
その人自身を見て、向き合ってる。
「それはさ、俺らみたいに肩書きが先行しちゃう奴らにとっては有難い存在なんだよ。いつでも自分個人を見てくれて、思いも気持ちも湾曲しないで受け取ってくれるから。」
蓮の気持ちを慮って、上級生に立ち向かった萱島君。
それだけ自分の「心」を大切にしてくれる存在が、子供の頃から隣にいたんだとしたらーー。
「何に代えても守りたいって思うだろうね。」
そしてね、そう言う感情が絡んで来るともっと読み辛くなるんだよ。
だから、その気になれば意のままに人を動かせる蓮も、萱島君が絡んで来ると上手くいかない。
お得意の狡猾さも計算高さも、てんで機能してないとか面白すぎるんだよな!!
完璧だと思っていた男の、意外な弱点。
俺はそれを凄く好ましいと思うんだ。
●●●
黒崎は実は苦労人で、彼には帰る家がありません。
機会があれば番外編で書こうかなと。
成績さえ良ければ自由な特進クラスは俺にとって天国。
バイトもできるから、ノートを買う金すら無くて惨めになる事もない。
偏差値高めのこの学校の、さらに選ばれし上位30人。
その中に属する俺から見ても、ただ1人別格だと感じる奴がいる。
切藤蓮は、高校生にして全てを手にしていると言っても過言では無い。
そう、思っていたーーー。
「萱島君、大丈夫だといいねぇ。」
俺は今、一般クラスの中野啓太と一緒に駅へ向かっている。
「本当だよな。悪戯なのか晴人が狙われたのか分かんないけど…。それに切藤がまさかあんな庇い方するなんてなぁ。」
幼馴染の萱島晴人を庇って、学校にタバコを持ち込んだ罪に問われている蓮。
「んー、犯人の動機は分かんないけど、蓮が反撃もせずに大人しく鬼丸に従った意味は分かるよ。」
「どう言うことだ?」
「ほら、萱島君って剣道部でしょ?しかも小火の第一発見者で、当初警察に疑われたって言ってたじゃん。」
萱島君から聞いたその話しは相当理不尽だった。
「しかもさ、小火の現場にタバコの吸い殻が落ちてたらしいじゃん。
それで萱島君の鞄からタバコが出てきたなんて事になったら、もう疑いは一気に濃厚になるわけよ。」
部室で喫煙中に小火になり、第一発見者を偽装したって。
「た、確かにそうだな…。え⁉︎じゃあ…」
「うん、蓮はそうなるって気付いてたんだろうね。変に騒がなかったのは、自分に疑いの目を向けさせて萱島君を隠そうとしたんだよ。」
それと、多分…
「教師から事件について何か探ろうとしてるかも。」
「マジか。やっぱすげぇな。
…ここまでするのって全部晴人の為だろ?
大切にするのはいいと思うんだけど…献身的すぎないか?」
そうかもね。でもさ。
「ねぇ、中野君。俺が未来が見えるって言ったらどうする?」
急な話しの路線変更に中野君が目を白黒させる。
「脈絡なくね⁉︎えーっと、まぁ実際見て判断したいなとは思う。」
実直な彼の解答は大方予想通り。
「中野君ならそう言うよね。実はさぁ、俺にはその能力があるんだよね。」
「「…いや、そんな事言われても信じられない。
もっと詳しく説明してくれ。」」
「え⁉︎」
中野君が驚愕している。
だって、中野君の返答をそっくりそのまま俺が同時に答えたんだから。
「ビックリした?まぁ種明かしするとさ、IQが高い人間には良くある現象なんだよ。
相手が次に何を言うか分かるとか、話しの冒頭だけ聞けばオチが分かるとか。」
「そう言えば、TVの特集で見たことあるな。」
納得顔の中野君。
「俺もさ、IQだけで言えば東の名探偵も夢じゃない訳よ。」
「「そう言えば、お前頭良いんだもんな。」」
また被せて言うと、彼は戸惑いつつも笑った。
「すげぇな!って事は俺は黒崎に心を読まれてるみたいなもんなのか?」
「そこまでの物じゃないよ。」
これはあくまでも「予測」の域だからね。
「たださ、全く読めない人もいるんだよね。
それが萱島君。」
ほんわかした感じの彼だけど、俺にとってはかなり特殊。
「素直でやたら許容範囲が広くてさ。相手を否定しないでほぼ肯定するんだけど、どっかで拘りがあるから斜め上の解答が来るんだよね。」
水遊びの事なんか思い出すと笑ってしまう。
水ぶっかけらのにあの反応!
あれ以来、彼は俺のお気に入りだ。
「多分ね、『こうあるべき』って決め付けが他の人より少ないんだと思うんだ。
俺らにとっては貴重な存在。」
「俺らって、もしかして…。」
「そ、蓮もこっち側の人間。まぁあれだけできてIQ低い訳ないけど。」
「言われてみればそうか。でも黒崎の方がテストの順位いつも上じゃなかったっけ?」
あぁ、それね。
「連はさ、全然本気出してないよ。」
「は⁉︎」
「俺はちゃんとやってるけどね、蓮は適度に手を抜いてだいたい3位キープしてると思う。」
まだ全然余力あるのが分かるんだよね。
「それって…!」
うん、中野君ならそう思うよね。
「真面目にやってる人に対して失礼だって思う?
それは正しいし、多くの人が持つ考えだよ。」
だけどさ、
「萱島君がこの事知ってるかは分かんないけど、多分、蓮には蓮の事情があるからいいんじゃない?って反応だと思うんだよね。」
読みにくい彼の考えだけど、今日の思い出話しを聞いた感じそう言う気がする。
例えば、外国人に対して「この人は外国人だから大雑把なんだな」と思ったとしよう。
それは「外国人」と言う肩書きを、潜在意識の中にある「おおらかな国民性」と結び付けてしまっている。
つまり、本来の「その人自身」を見ていない。
同じように、能力が突出した人間に対しても人は「能力が高いから○○なんだ」と思ってしまう。
『蓮は頭がいいからテストで手を抜いたりできるんだ。嫌味だよなぁ。』
とかさ。
肩書きが一つ付くだけで、人はその人の背景とか心情を考えるのを止めちゃうんだよ。
だけど萱島君は違うんだよね。
その人自身を見て、向き合ってる。
「それはさ、俺らみたいに肩書きが先行しちゃう奴らにとっては有難い存在なんだよ。いつでも自分個人を見てくれて、思いも気持ちも湾曲しないで受け取ってくれるから。」
蓮の気持ちを慮って、上級生に立ち向かった萱島君。
それだけ自分の「心」を大切にしてくれる存在が、子供の頃から隣にいたんだとしたらーー。
「何に代えても守りたいって思うだろうね。」
そしてね、そう言う感情が絡んで来るともっと読み辛くなるんだよ。
だから、その気になれば意のままに人を動かせる蓮も、萱島君が絡んで来ると上手くいかない。
お得意の狡猾さも計算高さも、てんで機能してないとか面白すぎるんだよな!!
完璧だと思っていた男の、意外な弱点。
俺はそれを凄く好ましいと思うんだ。
●●●
黒崎は実は苦労人で、彼には帰る家がありません。
機会があれば番外編で書こうかなと。
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