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中学生編side蓮
17.写真
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何とか気持ちを切り替えようと、後半に入った夏休みの話を振った。
どうやら別れの前に遥も含めた3人で何かしたいらしく、そんな晴の気持ちは分からなくもない。
ただ、思ってしまう。
俺は『晴が部活を頑張ってるから』と連絡を控えて、会う事も我慢してきた。
だけど晴は、例え時間ができようが俺と2人で過ごす気はないしそれが辛くもない。
分かってはいたが、その温度差が少し堪える。
ってか、遥は家族でカナダだからいねぇけどな。
それを指摘すると、どうやら遥からのLAINを見てなかったらしい。
驚きながらも揺れる表情に、これは押せば行けると算段を踏む。
「だから今年は俺とお前だけ。宿題一緒にやるか?」
夏休みの苦行であるだろうそれをチラつかせると、晴はコクンと頷いた。
よっしゃ!
今までは約束なんかする事も無く、どちらかの家に入り浸っていたが…俺がその均衡を崩してしまった。
だから、約束が無いと不安になる。
また、晴と話せない日々が訪れる事に。
我ながら必死すぎて笑えるが、俺にとって先の約束は重要だ。
.
少し気を良くして日程を調整しようとしたが、先約が中野啓太だと知り苛立つ。
「…啓太って中野?いつから名前で呼んでるわけ?」
険しくなってるであろう表情を見られたくなくて、その耳元に唇を寄せる。
「…アイツのこと好き?」
聞かずにはいられなくて、それなのに口に出した瞬間からもう後悔していた。
「す、好き、だよ。」
ほらな、自分の傷を抉るだけだ。
晴が、信頼しているらしいアイツの事を悪く言う訳がないだろ。
自身の矛盾に気付いているのに、心が暗く翳っていく。
「な、何だよ⁉︎
親友なんだから好きにきまってんだろ。」
「親友だから好き?……俺は?」
「え、幼馴染だろ。」
…馬鹿か俺は。
『幼馴染だから好き』だと言って貰えるとでも?
晴にとって『幼馴染』は『家族』と同義語なんだろう。
俺が『翔の事が好きか』なんて考えた事もないのと同じように、好きとか嫌いとか意識した事もない存在。
一緒に育ち、幼少期のほぼ全てを共有できた事は幸運だったと思う。
だけど…
もし違う出会い方だったら、と考えてしまう。
もしも、友人として出会えていたら。
その世界線でなら、晴は俺を意識してくれただろうかーー。
いや、その前に俺が他人との接触を避けてるだろうから無理か。
晴と出会うのが遅ければ、恐らく俺は何事にも無関心なままだっただろう。
それが、酷く孤独な事だとも知らずに。
俺に心があると、最初に気付かせてくれたのは晴だ。
『突出して能力が高い』と言うだけで他人から見えなくなる俺の気持ちや感情を、晴だけはいつも正確に理解しようとしてくれる。
『嬉しい』も『楽しい』も、教えてくれたのは晴。
「蓮は特別じゃん。生まれた時から一緒にいるんだから。」
ハッとした顔で付け足したこの発言だって、俺の些細な表情の変化で何かを感じ取ったんだろう。
そう言う鋭さは見せるくせにーー
俺がどれだけお前の事が好きなのか。
お前の言葉や行動に振り回されてるのか。
本当に何も無かったみたいに抱き付いてきて、躊躇なく肌を見せて。
そんな相手に言われる『特別』なんて言葉がどれだけ残酷か、何で分かんねぇんだよーー。
「ふーん。特別ねぇ…。じゃ、俺も特別扱いしていいんだな。」
酷く意地の悪い気持ちになって、晴の耳に言葉を吹き込んだ。
自分に好意を持つ相手にそんな事言ったらどうなるか、思い知ったらいいんだ。
「晴、耳弱いの?」
囁く様に言うと、晴の肩がピクリと反応した。
「もしかして、気持ちイイーーー?」
狼狽える顔に溜飲が下がる。
赤くなった形のいい耳に歯を立てると、またピクリと動く。
「ヒャッ!待って…!!」
逃げようとするその腰を引き寄せて、甘噛みを繰り返す。
お前も少しは動揺しろ、この鈍感。
「アッ……れん…ダメっ…止まっ…て…」
懇願する声に、耳を手で弄りながら少し身体を離す。
そして、呼吸が止まった。
腕の中で首を仰け反らせる晴が、俺の手の動きにビクビクと身体を震わせている。
露わになった白い喉元は紅く色付き息が荒い。
上目遣いに俺を見つめる瞳は潤んで、トロンとしている。
さっきまでとは別人のような艶っぽさはまるでーー
事後
その言葉が浮かんで、ゴクリと唾を飲んだ。
そうだ!コイツ鈍感だけど敏感なんだわ。
いや、もう何言ってんだって感じだが…。
「蓮…?」
脳内であれこれ考えていた俺は、晴の声で我に返った。
クソ、結局俺が動揺してんじゃねーか。
悔しいが、こんな事をされたのに俺に身を預けたままなのが可愛くて困る。
しっかり立てるようになったのを確認して離れると、その頭をかき回した。
「悪い、やり過ぎたわ。またLAINする。」
理性が保てなくなりそうで、急いで背を向けた。
『親友』には決して見せないであろう姿を、俺は知ってる。
晴にあんなエロい一面があるなんて、誰も想像しないだろう。
てか想像した奴は片っ端から粛清だ。
どんなに憎たらしく思っても恨めしくても、好きな気持ちがその100倍上回るんだもんな…。
やはり、俺はどうやったって晴には敵わない。
夏休みは良くも悪くも何事も無く終わり、晴との関係も現状維持。
お互いあの夜の事に触れないまま、いつも通り接している。
正直どう攻めて行くか悩みの種ではあるが、今は先にやる事を終わらせるべく、別クラスの教室を訪れた。
「大谷いる?」
シンとした教室で、戸惑い顔の銀縁メガネがソロリと手を挙げた。
「…これで全部です。」
写真部の部室で俺に写真を差し出す大谷。
剣道部の試合当日のそれはかなりの分量があり、会場の雰囲気や応援の横断幕なども撮ってある。
晴が映った写真も数枚あったが、邪な気持ちで撮られたものでは無いようだ。
念のため調べたこの大谷だが、様々な部活の試合写真を撮影し、それを顧問経由で本人達に行き渡るようにしている変わり者らしい。
「この写真どうすんの?」
「基本はその部活の顧問に渡してます。良い物はコンテストにだそうかと…。」
成る程な、後者は問題だ。
「それ、コイツの顔映ってるのはNGな。」
晴の写真を指しながら言うと、大谷は眉を下げた。
「えーっと…これも、ダメでしょうか…。」
それは横向きで抱き合う男子2人に、周りが駆け寄って来ているシーン。
ドラマみたいな青春感溢れるそれは、確かに良い写真だ。
だが、である。
「はぁ?」
引きで撮られて顔が殆ど写っていなくても、俺にはそれが晴だと分かる。
中央で抱き合う男子は晴と中野啓太だ。
「ふざけんなよ…」
その声に大谷がビクリと震える。
「成る程、これが上位アルファのグレアか…」
「……お前、何語話してんの。」
「あ、何でもないです。」
余りにも謎すぎて一瞬怒りを忘れた。
「これは諦めて。」
「顔は映ってないので萱島君だとは分からないと思うんですが…。」
「俺は分かる。」
「う、受けへのレーダーが過敏な攻め…」
「何?」
「あ、何でもないです。」
イマイチ掴めねぇ奴だな。
「晴が映ってる写真はネガも全部寄越せ。」
「うぅ、僕の入選予定作品が…あっ!そうだ!」
急に叫んだ大谷がゴソゴソと何かを取り出した。
「練習風景も撮ってて、試合の写真と一緒に渡そうと思ってたんですけど…これ。」
30枚近くある中から大谷が取り出して見せたのは、何かを見つめる晴の横顔。
「…これ、俺か?」
それは、袴姿の晴がサッカーのユニフォームを着た俺の後ろ姿を見ている写真。
「いつのだよ…」
「夏休みに一度集まってますよね?その時に剣道部の撮影してて…休憩中に外に出た萱島君がその様子を見てたんですよ。その横顔が何だか切なくて、思わずシャッターを切りました。」
確かに、サッカー部は三年だけ夏休みに一度集まって試合をした。
その日剣道部が練習しているのは知っていたが、晴には会いにいかなかったし、終わりを待つ事もしなかった。
前にも言ったが、部活を真剣に頑張る晴を邪魔しない為だ。
俺達は既に引退していたから完全なるお遊びだったし、普段のポジションとは違う所をやったりふざけてたんだが…。
まさか、そんなん見てたのかよ。
しかも、何だよこの表情。
「偶然だと思いますけど、片想いしてるみたいな表情ですよね。」
大谷の言葉にドクッと心臓が鳴った。
あり得ない、飛躍しすぎだ。
そんなのは分かってる。
ただ、嬉しかった。
晴が、俺の知らない所で俺を見ていると言う事が。
いつどんな時でも晴の姿を探しているのは俺だけで、晴の記憶の中に俺の後ろ姿なんて無いと思っていたから。
「…その一枚だけな。」
それだけ言って晴の写真とネガを集めてポケットに収めた。
机に残った写真に、大谷がホッとした顔をする。
「晴の写真出すからには優勝しろよ。それと、晴個人の写真は今後撮るの禁止な。」
「攻めセコム…溺愛攻め…」
「なぁ、頭だいじょーぶ?」
「何ならこの15年間で1番冴えてるよ。」
「あっそ。」
マジで意味分からん。
変わり者ってのはガチらしい。
「あっ!いた!蓮、俺ら職員室呼ばれとる。」
何ともなく話しながら教室の近くまで戻ると、同じクラスの赤嶺が寄って来た。
どうやら、夏休み中(晴が中野と遊んでて予定が合わない日)に空けたピアス穴が早くもバレたらしい。
「じゃーな、大谷。」
大谷と別れて職員室に向かう途中、ポケットに手を入れて写真の存在を確認する。
ヤベェな、ニヤけそう。
まぁ、他人から見ても絶対に分かんねぇだろうけど。
些細な出来事に一喜一憂する自分が馬鹿らしいが仕方ない。
今からダルい説教が待ち構えてる事も気にならないくらい、俺は浮かれていた。
●●●
side晴人中学生編12話「甘噛み」辺りの話です。
写真は10話「アオハルかよ」の時に撮られたもの。
大谷、実は早めに蓮と絡んでました。
コンテストに出せて良かったね。
今回登場した赤嶺は、高校編でも出て来ます。
特進クラスで黒崎の次に蓮と仲良いのが彼です。
「最悪な夏祭り」でも一緒にいました。
蓮と気後れせずに話せる、ダンス部所属の爆イケ男子。
特進に入れる事が確定してるような2人なので、フライングでピアス開けちゃいました。
蓮はこの段階では晴には内緒にしてます。笑
どうやら別れの前に遥も含めた3人で何かしたいらしく、そんな晴の気持ちは分からなくもない。
ただ、思ってしまう。
俺は『晴が部活を頑張ってるから』と連絡を控えて、会う事も我慢してきた。
だけど晴は、例え時間ができようが俺と2人で過ごす気はないしそれが辛くもない。
分かってはいたが、その温度差が少し堪える。
ってか、遥は家族でカナダだからいねぇけどな。
それを指摘すると、どうやら遥からのLAINを見てなかったらしい。
驚きながらも揺れる表情に、これは押せば行けると算段を踏む。
「だから今年は俺とお前だけ。宿題一緒にやるか?」
夏休みの苦行であるだろうそれをチラつかせると、晴はコクンと頷いた。
よっしゃ!
今までは約束なんかする事も無く、どちらかの家に入り浸っていたが…俺がその均衡を崩してしまった。
だから、約束が無いと不安になる。
また、晴と話せない日々が訪れる事に。
我ながら必死すぎて笑えるが、俺にとって先の約束は重要だ。
.
少し気を良くして日程を調整しようとしたが、先約が中野啓太だと知り苛立つ。
「…啓太って中野?いつから名前で呼んでるわけ?」
険しくなってるであろう表情を見られたくなくて、その耳元に唇を寄せる。
「…アイツのこと好き?」
聞かずにはいられなくて、それなのに口に出した瞬間からもう後悔していた。
「す、好き、だよ。」
ほらな、自分の傷を抉るだけだ。
晴が、信頼しているらしいアイツの事を悪く言う訳がないだろ。
自身の矛盾に気付いているのに、心が暗く翳っていく。
「な、何だよ⁉︎
親友なんだから好きにきまってんだろ。」
「親友だから好き?……俺は?」
「え、幼馴染だろ。」
…馬鹿か俺は。
『幼馴染だから好き』だと言って貰えるとでも?
晴にとって『幼馴染』は『家族』と同義語なんだろう。
俺が『翔の事が好きか』なんて考えた事もないのと同じように、好きとか嫌いとか意識した事もない存在。
一緒に育ち、幼少期のほぼ全てを共有できた事は幸運だったと思う。
だけど…
もし違う出会い方だったら、と考えてしまう。
もしも、友人として出会えていたら。
その世界線でなら、晴は俺を意識してくれただろうかーー。
いや、その前に俺が他人との接触を避けてるだろうから無理か。
晴と出会うのが遅ければ、恐らく俺は何事にも無関心なままだっただろう。
それが、酷く孤独な事だとも知らずに。
俺に心があると、最初に気付かせてくれたのは晴だ。
『突出して能力が高い』と言うだけで他人から見えなくなる俺の気持ちや感情を、晴だけはいつも正確に理解しようとしてくれる。
『嬉しい』も『楽しい』も、教えてくれたのは晴。
「蓮は特別じゃん。生まれた時から一緒にいるんだから。」
ハッとした顔で付け足したこの発言だって、俺の些細な表情の変化で何かを感じ取ったんだろう。
そう言う鋭さは見せるくせにーー
俺がどれだけお前の事が好きなのか。
お前の言葉や行動に振り回されてるのか。
本当に何も無かったみたいに抱き付いてきて、躊躇なく肌を見せて。
そんな相手に言われる『特別』なんて言葉がどれだけ残酷か、何で分かんねぇんだよーー。
「ふーん。特別ねぇ…。じゃ、俺も特別扱いしていいんだな。」
酷く意地の悪い気持ちになって、晴の耳に言葉を吹き込んだ。
自分に好意を持つ相手にそんな事言ったらどうなるか、思い知ったらいいんだ。
「晴、耳弱いの?」
囁く様に言うと、晴の肩がピクリと反応した。
「もしかして、気持ちイイーーー?」
狼狽える顔に溜飲が下がる。
赤くなった形のいい耳に歯を立てると、またピクリと動く。
「ヒャッ!待って…!!」
逃げようとするその腰を引き寄せて、甘噛みを繰り返す。
お前も少しは動揺しろ、この鈍感。
「アッ……れん…ダメっ…止まっ…て…」
懇願する声に、耳を手で弄りながら少し身体を離す。
そして、呼吸が止まった。
腕の中で首を仰け反らせる晴が、俺の手の動きにビクビクと身体を震わせている。
露わになった白い喉元は紅く色付き息が荒い。
上目遣いに俺を見つめる瞳は潤んで、トロンとしている。
さっきまでとは別人のような艶っぽさはまるでーー
事後
その言葉が浮かんで、ゴクリと唾を飲んだ。
そうだ!コイツ鈍感だけど敏感なんだわ。
いや、もう何言ってんだって感じだが…。
「蓮…?」
脳内であれこれ考えていた俺は、晴の声で我に返った。
クソ、結局俺が動揺してんじゃねーか。
悔しいが、こんな事をされたのに俺に身を預けたままなのが可愛くて困る。
しっかり立てるようになったのを確認して離れると、その頭をかき回した。
「悪い、やり過ぎたわ。またLAINする。」
理性が保てなくなりそうで、急いで背を向けた。
『親友』には決して見せないであろう姿を、俺は知ってる。
晴にあんなエロい一面があるなんて、誰も想像しないだろう。
てか想像した奴は片っ端から粛清だ。
どんなに憎たらしく思っても恨めしくても、好きな気持ちがその100倍上回るんだもんな…。
やはり、俺はどうやったって晴には敵わない。
夏休みは良くも悪くも何事も無く終わり、晴との関係も現状維持。
お互いあの夜の事に触れないまま、いつも通り接している。
正直どう攻めて行くか悩みの種ではあるが、今は先にやる事を終わらせるべく、別クラスの教室を訪れた。
「大谷いる?」
シンとした教室で、戸惑い顔の銀縁メガネがソロリと手を挙げた。
「…これで全部です。」
写真部の部室で俺に写真を差し出す大谷。
剣道部の試合当日のそれはかなりの分量があり、会場の雰囲気や応援の横断幕なども撮ってある。
晴が映った写真も数枚あったが、邪な気持ちで撮られたものでは無いようだ。
念のため調べたこの大谷だが、様々な部活の試合写真を撮影し、それを顧問経由で本人達に行き渡るようにしている変わり者らしい。
「この写真どうすんの?」
「基本はその部活の顧問に渡してます。良い物はコンテストにだそうかと…。」
成る程な、後者は問題だ。
「それ、コイツの顔映ってるのはNGな。」
晴の写真を指しながら言うと、大谷は眉を下げた。
「えーっと…これも、ダメでしょうか…。」
それは横向きで抱き合う男子2人に、周りが駆け寄って来ているシーン。
ドラマみたいな青春感溢れるそれは、確かに良い写真だ。
だが、である。
「はぁ?」
引きで撮られて顔が殆ど写っていなくても、俺にはそれが晴だと分かる。
中央で抱き合う男子は晴と中野啓太だ。
「ふざけんなよ…」
その声に大谷がビクリと震える。
「成る程、これが上位アルファのグレアか…」
「……お前、何語話してんの。」
「あ、何でもないです。」
余りにも謎すぎて一瞬怒りを忘れた。
「これは諦めて。」
「顔は映ってないので萱島君だとは分からないと思うんですが…。」
「俺は分かる。」
「う、受けへのレーダーが過敏な攻め…」
「何?」
「あ、何でもないです。」
イマイチ掴めねぇ奴だな。
「晴が映ってる写真はネガも全部寄越せ。」
「うぅ、僕の入選予定作品が…あっ!そうだ!」
急に叫んだ大谷がゴソゴソと何かを取り出した。
「練習風景も撮ってて、試合の写真と一緒に渡そうと思ってたんですけど…これ。」
30枚近くある中から大谷が取り出して見せたのは、何かを見つめる晴の横顔。
「…これ、俺か?」
それは、袴姿の晴がサッカーのユニフォームを着た俺の後ろ姿を見ている写真。
「いつのだよ…」
「夏休みに一度集まってますよね?その時に剣道部の撮影してて…休憩中に外に出た萱島君がその様子を見てたんですよ。その横顔が何だか切なくて、思わずシャッターを切りました。」
確かに、サッカー部は三年だけ夏休みに一度集まって試合をした。
その日剣道部が練習しているのは知っていたが、晴には会いにいかなかったし、終わりを待つ事もしなかった。
前にも言ったが、部活を真剣に頑張る晴を邪魔しない為だ。
俺達は既に引退していたから完全なるお遊びだったし、普段のポジションとは違う所をやったりふざけてたんだが…。
まさか、そんなん見てたのかよ。
しかも、何だよこの表情。
「偶然だと思いますけど、片想いしてるみたいな表情ですよね。」
大谷の言葉にドクッと心臓が鳴った。
あり得ない、飛躍しすぎだ。
そんなのは分かってる。
ただ、嬉しかった。
晴が、俺の知らない所で俺を見ていると言う事が。
いつどんな時でも晴の姿を探しているのは俺だけで、晴の記憶の中に俺の後ろ姿なんて無いと思っていたから。
「…その一枚だけな。」
それだけ言って晴の写真とネガを集めてポケットに収めた。
机に残った写真に、大谷がホッとした顔をする。
「晴の写真出すからには優勝しろよ。それと、晴個人の写真は今後撮るの禁止な。」
「攻めセコム…溺愛攻め…」
「なぁ、頭だいじょーぶ?」
「何ならこの15年間で1番冴えてるよ。」
「あっそ。」
マジで意味分からん。
変わり者ってのはガチらしい。
「あっ!いた!蓮、俺ら職員室呼ばれとる。」
何ともなく話しながら教室の近くまで戻ると、同じクラスの赤嶺が寄って来た。
どうやら、夏休み中(晴が中野と遊んでて予定が合わない日)に空けたピアス穴が早くもバレたらしい。
「じゃーな、大谷。」
大谷と別れて職員室に向かう途中、ポケットに手を入れて写真の存在を確認する。
ヤベェな、ニヤけそう。
まぁ、他人から見ても絶対に分かんねぇだろうけど。
些細な出来事に一喜一憂する自分が馬鹿らしいが仕方ない。
今からダルい説教が待ち構えてる事も気にならないくらい、俺は浮かれていた。
●●●
side晴人中学生編12話「甘噛み」辺りの話です。
写真は10話「アオハルかよ」の時に撮られたもの。
大谷、実は早めに蓮と絡んでました。
コンテストに出せて良かったね。
今回登場した赤嶺は、高校編でも出て来ます。
特進クラスで黒崎の次に蓮と仲良いのが彼です。
「最悪な夏祭り」でも一緒にいました。
蓮と気後れせずに話せる、ダンス部所属の爆イケ男子。
特進に入れる事が確定してるような2人なので、フライングでピアス開けちゃいました。
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