【番外編更新中】桜の記憶 幼馴染は俺の事が好きらしい。…2番目に。

あさひてまり

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高校生編side蓮 

24.暗

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「蓮、一言!」

「勝つ未来しか見えねぇ。」

発した言葉にどっと湧いた周りを背にして、所定の位置に向かう。

体育祭当日、次の種目はクラス対抗リレー。

『第四走者なら出る。』

学校行事なんて興味の無かった俺がそう言って参戦を決めたのは、中野を打ち負かす為だ。

いくら『親友』とは言え、晴のズボンの中を覗き込んだあの日の行動は断固として容認できない。

晴の為に排除できないなら、合法的なやり方で制裁を下す所存である。



リレーの選手がいつメンなのを理由に、練習をする中で『晴以外の人間の気持ちに関心を持つ』努力をしてみた。

すると、赤嶺と白田が、会話が晴と翔の事にならないように配慮している事に気付く。

夏祭りでの件で何かあったと察したらしく、俺が相川への告白の件を尋ねるまで踏み込まないようにしていたらしい。

「中庭に相川ちゃんが見えたから、誰かに告られたのか聞いたんだよ。そしたら『萱島君に悪いから言えない』って言われてさ。それで蓮の幼馴染君が相川ちゃんに告ったんだろうなって。」

「そう、あくまで俺達の予想ってだけ。最近萱島君と一緒にいないけど、俺らが余計な事言ったのと関係あったらマジでごめん!」

紛らわしい事言ってんじゃねぇと思ったが、それを鵜呑みにしたのは俺だ。

『できる事があったら何でもする』と言う様子は真剣で、それが少し意外だった。

俺の周りはどうやら、俺と晴が一緒にいない事を不自然だと思っているらしい。

じゃあ、晴の周りはどうだろうか。

中野は言わずもがなだが、その他の奴等は…?

その辺りに何か違和感を感じる。

「蓮、今日バ先行ってもいい?」

思考に割り入って来たのは相川だった。

クソ、何か掴めそうだったのにマジで邪魔しかしねぇなこの女。

だが、この手の輩は刺激すると厄介だ。

晴の件について問い正したい思いをぐっと堪える。

他人を信用していないらしいコイツは警戒心が強く、なかなか尻尾を出さない。

常に単独行動な辺り、なかなかの策略家だとも言えるだろう。

また晴に何か仕出かさないように、暫くは様子見だ。

適当に相川をあしらいつつ日々は過ぎて、体育祭当日を迎えた。


軽快なピストルの音と共に始まったリレーは、俺の前で暫定4位。

中野のクラスは3位で、その差は僅かだ。

「啓太!頑張れよ!」

走り出した中野に声援を送る晴の声が聞こえて、ドクリと心臓が鳴った。

近くにその存在を感じながら、僅かに遅れて俺も走り出す。

それ程差がついていなかった1位と2位を追い越すのは容易だった。

問題は、コイツーーー。

追い付いた中野と全速力で並走しながら、俺は小学生の記憶を思い出していた。


クラスメイトの欠席が理由でリレーに出た晴が、バトンを落とした。

『あーあ、萱島のせいでもう終わりじゃん!最下位なのに走るの嫌なんだけど!』

打ちひしがれる晴を見ながら言うクラスのアンカーに、俺は食って掛かった。

『は?お前やる気ないなら代われよ。』

そうして無理矢理代わった俺に、周囲は戸惑う。

朝練が嫌で選出されないように加減していた俺は『平均よりチョイ早い』程度の認識だったから当然だ。

ここで本気を出したら、卒業するまでリレーの選手をやらされるだろう。

だけど、晴の為ならそんなのどうでも良かった。

大丈夫だ。見てろよ、晴。


そうして本気を出した俺は、最下位から一気に駆け上がってゴールテープを切る。

劇的な結末に騒ぐ学校中の誰からの賞賛も無意味だ。

勝利を捧げたいのは、ただ一人ーー。

『大丈夫だ!晴!俺が勝ったぞ!』

だから泣くな、誰にもお前を責めさせたりなんかしない。

『ほら、いつまでも座ってーーはっ⁉︎』

引っ張って立たせた晴のがその勢いのまま抱きついて来て、俺の思考が止まる。

『れん…れんっ…。』

繰り返し名前を呼ばれて、鼓動がバクバクと音を立てた。

これは全力で走った事とは少しも関係ない。

戸惑いながらも抱き締め返すと、フワリといい匂いがして、その柔らかさと高い体温を感じる。

ギュッと胸が締め付けられて、泣きたいような気分になった。



生きていて一番『幸せ』を感じたあの瞬間ーー。

それは俺の心に強く残って、それ以来晴の為なら何でもしてやりたいと思うようになった。

今でもそれは変わっていない。

ただ、交友関係が広がり大人に近付いて来た今はそれだけでは足りないのかもしれない。

それが何か、分かればーー

違和感を感じている『晴の周り』に関係があるような気がしてならない。



そんな事を考えていたせいだろうか。

次の走者にバトンを受け渡した俺は、ほんの少しスピードを緩めてしまった。

ほんの一拍の差で後ろにいる中野の存在を忘れてーー。

「うわっ!」

思っていたより間近で声がしたと思った時には、俺達は縺れ合って転倒していた。

ヤベェ!

転んだ先はコースのやや内側で、念のためさらに安全な場所に中野を引っ張る。

膝と左手から出血しているが、俺は擦り傷だけのようだ。

「悪ぃ。大丈夫か?」

「イテェけど大丈夫…!俺こそ後ろから突っ込んで悪かった。」

周りが騒々しくなって、数人が駆け寄って来る。

その中にいる赤嶺に向けて差し出した手を取ったのは、まさかの相川だった。

ーーいや、テメェじゃ俺の事支えらんねぇだろしゃしゃり出てくんな。

そう言おうとしたのに、言葉が出なかった。

「啓太!大丈夫か!」

そう言いながら、晴がから。

迷いなく、こっちに見向きもせずに『親友』の元へ向かった姿に、俺は強い衝撃を受けた。

晴が優先するのは中野で…俺は晴が気に掛ける対象からすらも外れてしまったのかーー。

その事実と、そうさせた自分の愚かな行為に愕然とする。

一言も発せられず促されるまま立ち上がった俺は、気が付くと保健室にいた。

人がゴチャゴチャしている気配があったが、校医の大声がして急に静かになる。

「蓮、大丈夫?」

隣にいるのが相川だと認識したのはたった今。

反対側の椅子に中野もいて、どうやら俺達3人だけのようだ。

なんで相川お前残ってんだよ出てけよと言う思いと、これはチャンスなんじゃないかと言う思いが錯綜する。

晴と何を話したか問いただすのにはいい機会だ。

俺と相川だけなら嘘を付く可能性があるが、ここには中野もいる。

あの時、晴としていた会話を多少なりともコイツに聞かれていたかもしれないと考えるだろう。

動揺している人間が嘘を付く時に出すボロの行動パターンは心得ている。

チラリと中野を見ると、一瞬呆けた顔をしてからハッとしたように頷いた。

案外鋭いのか、俺の意図は伝わったらしい。

そして口を開いた、まさにその時ーー

「啓太!脚どうだって?」

窓側から声がして中野が飛び上がった。

いや、タイミング…。

間違いなく晴の声だが、俺からは角度的に顔が見えない。

反対に、ギリギリ見える中野の表情が凍ったのが確認できた。

ーー何だ?

その疑問はすぐに解決する。

「これ、に渡しといてくれる?」

それが自分の事だと理解するのに暫くかかった。

「えっ⁉︎晴人?呼び方…」

動揺する中野に明るい声をかけて晴が去って行く。


俺の心に、鋭い刃を残してーー。


それは気負った感じも無理した感じもない、普通の声だった。

晴が、それをーー俺を苗字で呼ぶ事を当然だと思っているかのように。

一定の距離を保つのが正解で、あたかもずっとそうして来たかのように…。


どうしてだ…。

俺達は16年間ずっと一緒で。

俺は誰よりも…それこそ晴の両親よりも晴の事を思って生きて来た。

俺がお前を守る為にしてきた事も、お前が俺にくれた言葉も…

たった一度のぶつかりで全て無かった事になってしまうのか?


時間が経つ毎に刃が胸を抉って血が噴き出す。


一番苦しいのは、晴の声がそれを何ともないように受け止めている事だ。

お前にとって俺はその程度の存在だったのか…?


「お前ら、どうしたんだよ…。」

気遣わしげな中野には答えず、渡されたTシャツを見つめる。

「…一時的って、いつまでだよ…。」

翔に言われた言葉を思いだして、思わず言葉が溢れた。

「なぁ、晴人は相川さんに告って無いって言ってた。剣道部の佐藤が、相川さんが特進の奴に『告られた』みたいな事言ってたのを聞いたらしいけど…。俺も一緒に否定したから噂も広まってないはずた。」

噂の火消しが成功した事も、相川の話し相手が赤嶺だろう事も理解したがもうどうでもいい。

「俺は正直、相川さんの事疑ってるけど…確証も無いし夏休み中切藤には連絡しなかったんだ。
晴人、部活も普通に来てたし…お前からも連絡無かったから、てっきり二人で話して解決したんだと思って…。」

申し訳なさそうにする中野の表情を、ぼんやり見ていた。

いつもなら食って掛かる場面だが、そんな気もおこらない。


晴が普通に過ごしていたのなら、理由は一つだ。


晴にとって俺がーーー



『蓮は幼馴染だから特別だろ。』


その言葉に満足して、溜飲を下げていた馬鹿野郎は何処のどいつだ。

気を使われたのか…突っかかって来る俺が面倒でそう言っただけなのか。

そんな事にも気付かず、気持ちを押し付ける俺を、晴はどんな思いで見ていたんだろう。

キモイよな…マジで終わってるわ。

独りよがりの『幼馴染』と離れる事を、晴はずっと望んでいたのかもしれない。

俺の最後の言動が、その引鉄をひいてしまった。

自業自得すぎて自嘲めいた笑いが口許に広がる。


「切藤…?おい…?」

中野の焦りを含んだ声が、どこか遠くに聞こえる。




俺達を繋いでいた系が全て切れて、何とか持ち堪えていた世界がガラガラと崩れ落ちた。


分かってる。

これは『一時的』なんてものじゃない。



永遠に続く、地獄だーー。



●●●
side晴人高校生編16話~22話辺りの話です。
蓮はいい所に気付きかけてたんですが…常にタイミングの悪い2人ですね。笑




























この辺りは晴も苦しんでましたが、彼は基本的に光属性なのでそこまで暗い話にはなりませんでした。
例え真っ暗でも光を探して頑張れる子なので。



さて、では蓮はどうでしょう。


次回のタイトルは

「闇」

です。笑



































































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