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高校生編side蓮
25.闇(※未成年の飲酒・喫煙、暴力描写、異性との絡み有り)
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「ねぇぇ最悪!パンプス片っぽどっかいったんだけどぉ!」
「お姉さんめっちゃ可愛いね!何か奢るよ、俺らと飲も!」
顔を近付けて大声で喋る人々の群れ。
脳を揺さぶる大音量の音楽と、暗い室内に弾けるネオンの光。
酒とタバコの匂いが充満するそこは無法地帯さながらだ。
「蓮、最近お誘いノッてくれるじゃん!」
隣に座るのは、黒崎の友人で他校に通うカンナだ。
俺達がいる一角は金を積む必要があるVIP席で、フロアよりはやや落ち着いている。
「悠真は奨学生だから仕方ないとして、蓮は何でいつもクラブ来ないのか謎だったんだよね!」
「え、それって蓮君もバレたら退学なんじゃねーの?」
両手に酒を持って現れた男2人は、俺とは初対面。
カンナの先輩で、こいつらのおかげで未成年でもクラブに入店できている。
「なったところで別に。」
「いいねぇその心意気!ヘイ、カンパーイ!」
男の合図でテキーラのショットを一気に煽ると、喉を焼かれるようなアルコール分が胃に落ちていく。
美味いとは思わないが、今はこの感覚を追い求めていた。
「蓮君、飲み比べする?」
「俺が勝ったらソレくれんなら。」
男が持つ電子タバコを指差すと、2人とも笑った。
「タカリかよ!いいぜ、受けて立つ!」
あーあ、と溜息を吐いたカンナが席を立つ。
「そんなの蓮の勝ち確じゃん。つまんないから遊んで来る!」
そう言ってフロアに降り立つと、あっという間に男達に取り囲まれている。
一方、俺達の勝負はテキーラ10杯で幕を降ろした。
大した事ねぇ奴程勝負好きなのは謎だ。
昨日の戦利品のである電子タバコを持って旧校舎の屋上に行くと、黒崎が目を丸くした。
「えっ、蓮なんで来たの?」
「なんでって、吸いに。」
「…あんなにタバコ嫌がってたのに…?」
別に俺はタバコが嫌いなわけじゃない。
ただ…苦手な相手が傍にいただけだ。
子供の頃から少し気管支が弱く、臭いだけでも気分が悪くなってしまう存在が。
それを振り払うように、煙を吐き出す。
「なぁ、最近毎日クラブ行ってんだって?カンナが心配してたよ。」
「毎日じゃねーよ。暇な時だけ。」
正確には、考える暇ができてしまいそうな時だけ。
年確が緩いクラブは、強いアルコールを摂取するのに効率がいい。
「午前中、学校来ない事多いじゃん。」
「成績は落とさねーよ。」
煩くなって校内に入るが、黒崎は追いかけて来た。
「そうじゃなくてさ、毎日あんな強いの飲むなんて良く無いって話し!」
「俺の自由だろ。」
「心配してんだよ!…あっ。」
突然動きを止めた黒崎の目線を追うと、そこから格技場にいる剣道部が見えた。
声は聞こえないが、袴姿で玩具の双剣を手にスマホを眺めている。
と、一際色素の薄い身体が剣舞のように跳躍した。
しかし失敗したのかドテッと転がる。
大笑いする本人と周りに、胸がギシリと音を立てた。
踵を返した背中に黒崎の声が聞こえた気がしたが、振り返らなかった。
「ねぇ、最近毎日来てるよね?超カッコイイなと思ってたの。うちらと楽しまない?」
いつものようにテキーラを煽っていると、いつもの如く女達が話しかけて来た。
「うせろよ。」
押し殺した声で言うと、ソイツは悪対を吐きながら去って行った。
治らない苛つきに、電子タバコを取り出す。
身体の中に空洞ができてしまったかのような状態がずっと続いている。
どんなに肺がニコチンで満たされても埋まらないその虚無感を、強いアルコールで麻痺させている状態だ。
「ハル、いいじゃん。今日は俺と、な?」
そんな声が耳に入って来たのは、13杯目を飲み干した時だった。
ニヤニヤしながら言う男が追いかけている後ろ姿に、ドクリと心臓が鳴る。
白い肌にアッシュブラウンの髪、その長さから身長までよく似ている。
おまけに、『ハル』と呼ばれていた。
人違いは承知の上で目を離せずにいると、振り返ったその人物と目が合った。
正面から見えた顔は、当然だが全く違う。
そもそも性別が違った。
その女はツカツカと俺の方に歩み寄ると、手をグッと握って来る。
「今日はこの人と約束してるの。ほら、行こ!」
そう言って、俺を引っ張って歩き始める。
向かった方向は金を払って借りる所謂『ヤリ部屋』だ。
「オイ、離せよ。」
「騙すのに使ってごめん!あの男マジで頭おかしくて…。ねね、お礼に私とする?」
「しねぇよ。」
「前戯とかいらないから、後ろから突っ込んで欲しいんだよね。」
良く似た後ろ姿が続ける。
「私ハルって言うの。君も『ハル』って呼びながら腰振れるしウィンウィンじゃない?」
「は?何で…」
「さっき名前に反応してたから。誰かの代わりでいいよ。私もそうだから。」
フッと寂しげに笑うその手を振り払わなかった。
どうでもいいか。
誰とヤろうが所詮ただの性欲処理だーー。
ベッドが一つあるだけの簡易的な部屋で、女は手慣れた様子で衣服を脱いだ。
「自分で濡らすから、君も準備しといて。」
宣言通りこっちを向く事のない白い背中。
癖のあるアッシュブラウンのショートヘアが、薄暗い部屋の灯りでますますダブって見えてくる。
自分のモノを取り出して扱くと、直ぐに勃ち上がり始めた。
思えば、ここ暫く抜いていない。
想像する相手はただ一人なのに、今はその姿を思い浮かべる事が辛いから。
だから『良く似た別人』で処理するのは効率的なように思えた。
相手も俺を誰かの代わりにしているらしいから、後腐れも無い。
「オッケー、突っ込んで。」
色気のカケラもない言い方が事務的で気楽だ。
ゴムを付けて、背を向けて四つん這いになったその腰を掴む。
細さも良く似ている。
そう。
似ているだけだ。
ーー欲しいのは、コレじゃない。
途端に迫り上がって来た思いに激しく動揺する。
違うのは理解していて、目の前に肉体的な快楽があると分かっているのに。
全く身体が動かない。
「マジかよ…。」
萎えた自分のモノを見て、頭を抱えた。
「悪ぃ、無理だわ。他の奴探して。」
ズボンを整えて部屋代だけ置いて出ようとすると、女に止められた。
「ちょ、待って!今出たらまださっきの奴いるかもだから。ねね、君の『ハル』について教えてよ。」
「は?関係ねーだろ。」
服を着ながら言う女は、俺をジロリと睨む。
「へぇ?私に恥じかかせておいて『お喋り』もできないって訳?」
流石に罪悪感があって黙ると、女は笑った。
「君さ、その子にしか勃たないんでしょ。今知ったの?」
渋々頷くと、目を見張られる。
「国宝級イケメンがそれって…勿体ないけど、めちゃくちゃ尊いね。てか君に好かれて落ちないなんて有り得ないと思うんだけど『ハル』はそんな魔性の女なの?」
「男。」
「なるほどね、そのパターンかぁ。」
もうどうでも良くなって答えると、アッサリ納得された。
「辛いよね、どんなに想っても叶わないんだもん。私の好きな人はね、死んだ両親に代わって私を1人で育ててくれた実のお姉ちゃんの旦那さん。
…マジで終わってるでしょ。」
そう言うと、俺の方を見て言う。
「『誰かのもの』になっちゃったらもう終わりだよ。それまでにできる事は何でもしないと、私みたいに後悔で一生苦しむからね。高校生へ、お姉様からの格言。」
俺が高校生だって知ってて誘ったのかよ。
「また会ったら、お酒でも飲もうよ。じゃあね。」
一人になった部屋には、虚しさだけが残った。
マジで、俺何やってんだよ…。
逃れようとすればするほど、結局は心も身体も囚われている事を思い知らされる。
『誰かのもの』になるのは許せない。
だけど『俺のもの』にはならないーー。
どうしようも無い感情が嵐のように吹き荒れて部屋のドアを叩きつけように閉めると、さっきの男が近付いて来た。
俺が出るのを待ち伏せしていたんだろう。
「オイ、俺の女とヤッたんだから、代わりにお前の女寄越せよ。」
どうやら、自分が心底嫌われてる事に気付いてないらしい。
答える気にもならず無視していると、男が一人で話し出す。
「へぇ、嫌なんだ。もしかしてソイツが本命?なのに他の女とヤりまくってんの?」
「邪魔。」
それだけ言って通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
「舐めてんじゃねぇぞガキが!!
俺に生意気な口きいて許されると思うなよ⁉︎
…イイ事考えた、お前の可哀想な本命ちゃん見つけて、俺がグチャグチャに犯してやるよ!」
「…離せ。」
冷たく暗く翳っていく内面を感じながら手を振り払っても、男は止まらない。
「縛られて、俺の精液塗れでアンアン鳴いてる所見てもそんなスカしてられるかな?ちょっとクスリ使ってやれば、善がり狂って俺のチンポ飲み込むぜ?
それが嫌なら謝れよ、土下座しーーうぐぁっ!!」
顔面を殴られた男が鼻血を出して蹲る。
鼻の骨は折れているだろう。
口先だけのこんな野郎が実行できる訳がない事は分かっている。
それでも許せなかった。
例え虚言でも、晴を貶められる事がーー。
「…え?…ぐぁっ!まっ…うぐぅ!」
続け様に入れた蹴りで倒れた男が、胃の中身を吐き出した。
それを避けて髪の毛を引っ掴むと、こっちを向かせる。
「このままお首の骨折って殺すなんて簡単なんだぜ?」
「ヒィッ!待って…ウソでふ…だから、許ひて…!」
歯が折れた血塗れの口で必死に何か言っているが、何の感情も沸かなかった。
ゴキリッ!!
骨の鳴る音がして、男が泡を吹く。
落としただけだが、本人は激しい音で自分が死んだと思ってるだろう。
失禁したその体を無造作に転がすと、騒ぎを聞きつけたのか人が集まり始めた。
通報されて補導か?
まぁ、もうなんでもいいけど。
その時、ガッと強く腕を引かれた。
その先にいたのはーー
「は?クロ?」
何でここにと聞くより先に、頭に深くキャップを被らされる。
「とにかく走れ!」
手を引かれて、夜の繁華街を全力で走った。
●●●
晴は楽しそうに見えて無理して笑ってる状態。
蓮は静かに自棄になっていくタイプです。
前からチョイチョイ登場してた「カンナ」ちゃん。
蓮をクラブに誘ったものの、その後の様子を心配して黒崎に相談していました。
因みにパンプス片方失くしたのは若い頃の作者の体験談です。それ以来クラブ行かなくなりました笑
「お姉さんめっちゃ可愛いね!何か奢るよ、俺らと飲も!」
顔を近付けて大声で喋る人々の群れ。
脳を揺さぶる大音量の音楽と、暗い室内に弾けるネオンの光。
酒とタバコの匂いが充満するそこは無法地帯さながらだ。
「蓮、最近お誘いノッてくれるじゃん!」
隣に座るのは、黒崎の友人で他校に通うカンナだ。
俺達がいる一角は金を積む必要があるVIP席で、フロアよりはやや落ち着いている。
「悠真は奨学生だから仕方ないとして、蓮は何でいつもクラブ来ないのか謎だったんだよね!」
「え、それって蓮君もバレたら退学なんじゃねーの?」
両手に酒を持って現れた男2人は、俺とは初対面。
カンナの先輩で、こいつらのおかげで未成年でもクラブに入店できている。
「なったところで別に。」
「いいねぇその心意気!ヘイ、カンパーイ!」
男の合図でテキーラのショットを一気に煽ると、喉を焼かれるようなアルコール分が胃に落ちていく。
美味いとは思わないが、今はこの感覚を追い求めていた。
「蓮君、飲み比べする?」
「俺が勝ったらソレくれんなら。」
男が持つ電子タバコを指差すと、2人とも笑った。
「タカリかよ!いいぜ、受けて立つ!」
あーあ、と溜息を吐いたカンナが席を立つ。
「そんなの蓮の勝ち確じゃん。つまんないから遊んで来る!」
そう言ってフロアに降り立つと、あっという間に男達に取り囲まれている。
一方、俺達の勝負はテキーラ10杯で幕を降ろした。
大した事ねぇ奴程勝負好きなのは謎だ。
昨日の戦利品のである電子タバコを持って旧校舎の屋上に行くと、黒崎が目を丸くした。
「えっ、蓮なんで来たの?」
「なんでって、吸いに。」
「…あんなにタバコ嫌がってたのに…?」
別に俺はタバコが嫌いなわけじゃない。
ただ…苦手な相手が傍にいただけだ。
子供の頃から少し気管支が弱く、臭いだけでも気分が悪くなってしまう存在が。
それを振り払うように、煙を吐き出す。
「なぁ、最近毎日クラブ行ってんだって?カンナが心配してたよ。」
「毎日じゃねーよ。暇な時だけ。」
正確には、考える暇ができてしまいそうな時だけ。
年確が緩いクラブは、強いアルコールを摂取するのに効率がいい。
「午前中、学校来ない事多いじゃん。」
「成績は落とさねーよ。」
煩くなって校内に入るが、黒崎は追いかけて来た。
「そうじゃなくてさ、毎日あんな強いの飲むなんて良く無いって話し!」
「俺の自由だろ。」
「心配してんだよ!…あっ。」
突然動きを止めた黒崎の目線を追うと、そこから格技場にいる剣道部が見えた。
声は聞こえないが、袴姿で玩具の双剣を手にスマホを眺めている。
と、一際色素の薄い身体が剣舞のように跳躍した。
しかし失敗したのかドテッと転がる。
大笑いする本人と周りに、胸がギシリと音を立てた。
踵を返した背中に黒崎の声が聞こえた気がしたが、振り返らなかった。
「ねぇ、最近毎日来てるよね?超カッコイイなと思ってたの。うちらと楽しまない?」
いつものようにテキーラを煽っていると、いつもの如く女達が話しかけて来た。
「うせろよ。」
押し殺した声で言うと、ソイツは悪対を吐きながら去って行った。
治らない苛つきに、電子タバコを取り出す。
身体の中に空洞ができてしまったかのような状態がずっと続いている。
どんなに肺がニコチンで満たされても埋まらないその虚無感を、強いアルコールで麻痺させている状態だ。
「ハル、いいじゃん。今日は俺と、な?」
そんな声が耳に入って来たのは、13杯目を飲み干した時だった。
ニヤニヤしながら言う男が追いかけている後ろ姿に、ドクリと心臓が鳴る。
白い肌にアッシュブラウンの髪、その長さから身長までよく似ている。
おまけに、『ハル』と呼ばれていた。
人違いは承知の上で目を離せずにいると、振り返ったその人物と目が合った。
正面から見えた顔は、当然だが全く違う。
そもそも性別が違った。
その女はツカツカと俺の方に歩み寄ると、手をグッと握って来る。
「今日はこの人と約束してるの。ほら、行こ!」
そう言って、俺を引っ張って歩き始める。
向かった方向は金を払って借りる所謂『ヤリ部屋』だ。
「オイ、離せよ。」
「騙すのに使ってごめん!あの男マジで頭おかしくて…。ねね、お礼に私とする?」
「しねぇよ。」
「前戯とかいらないから、後ろから突っ込んで欲しいんだよね。」
良く似た後ろ姿が続ける。
「私ハルって言うの。君も『ハル』って呼びながら腰振れるしウィンウィンじゃない?」
「は?何で…」
「さっき名前に反応してたから。誰かの代わりでいいよ。私もそうだから。」
フッと寂しげに笑うその手を振り払わなかった。
どうでもいいか。
誰とヤろうが所詮ただの性欲処理だーー。
ベッドが一つあるだけの簡易的な部屋で、女は手慣れた様子で衣服を脱いだ。
「自分で濡らすから、君も準備しといて。」
宣言通りこっちを向く事のない白い背中。
癖のあるアッシュブラウンのショートヘアが、薄暗い部屋の灯りでますますダブって見えてくる。
自分のモノを取り出して扱くと、直ぐに勃ち上がり始めた。
思えば、ここ暫く抜いていない。
想像する相手はただ一人なのに、今はその姿を思い浮かべる事が辛いから。
だから『良く似た別人』で処理するのは効率的なように思えた。
相手も俺を誰かの代わりにしているらしいから、後腐れも無い。
「オッケー、突っ込んで。」
色気のカケラもない言い方が事務的で気楽だ。
ゴムを付けて、背を向けて四つん這いになったその腰を掴む。
細さも良く似ている。
そう。
似ているだけだ。
ーー欲しいのは、コレじゃない。
途端に迫り上がって来た思いに激しく動揺する。
違うのは理解していて、目の前に肉体的な快楽があると分かっているのに。
全く身体が動かない。
「マジかよ…。」
萎えた自分のモノを見て、頭を抱えた。
「悪ぃ、無理だわ。他の奴探して。」
ズボンを整えて部屋代だけ置いて出ようとすると、女に止められた。
「ちょ、待って!今出たらまださっきの奴いるかもだから。ねね、君の『ハル』について教えてよ。」
「は?関係ねーだろ。」
服を着ながら言う女は、俺をジロリと睨む。
「へぇ?私に恥じかかせておいて『お喋り』もできないって訳?」
流石に罪悪感があって黙ると、女は笑った。
「君さ、その子にしか勃たないんでしょ。今知ったの?」
渋々頷くと、目を見張られる。
「国宝級イケメンがそれって…勿体ないけど、めちゃくちゃ尊いね。てか君に好かれて落ちないなんて有り得ないと思うんだけど『ハル』はそんな魔性の女なの?」
「男。」
「なるほどね、そのパターンかぁ。」
もうどうでも良くなって答えると、アッサリ納得された。
「辛いよね、どんなに想っても叶わないんだもん。私の好きな人はね、死んだ両親に代わって私を1人で育ててくれた実のお姉ちゃんの旦那さん。
…マジで終わってるでしょ。」
そう言うと、俺の方を見て言う。
「『誰かのもの』になっちゃったらもう終わりだよ。それまでにできる事は何でもしないと、私みたいに後悔で一生苦しむからね。高校生へ、お姉様からの格言。」
俺が高校生だって知ってて誘ったのかよ。
「また会ったら、お酒でも飲もうよ。じゃあね。」
一人になった部屋には、虚しさだけが残った。
マジで、俺何やってんだよ…。
逃れようとすればするほど、結局は心も身体も囚われている事を思い知らされる。
『誰かのもの』になるのは許せない。
だけど『俺のもの』にはならないーー。
どうしようも無い感情が嵐のように吹き荒れて部屋のドアを叩きつけように閉めると、さっきの男が近付いて来た。
俺が出るのを待ち伏せしていたんだろう。
「オイ、俺の女とヤッたんだから、代わりにお前の女寄越せよ。」
どうやら、自分が心底嫌われてる事に気付いてないらしい。
答える気にもならず無視していると、男が一人で話し出す。
「へぇ、嫌なんだ。もしかしてソイツが本命?なのに他の女とヤりまくってんの?」
「邪魔。」
それだけ言って通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
「舐めてんじゃねぇぞガキが!!
俺に生意気な口きいて許されると思うなよ⁉︎
…イイ事考えた、お前の可哀想な本命ちゃん見つけて、俺がグチャグチャに犯してやるよ!」
「…離せ。」
冷たく暗く翳っていく内面を感じながら手を振り払っても、男は止まらない。
「縛られて、俺の精液塗れでアンアン鳴いてる所見てもそんなスカしてられるかな?ちょっとクスリ使ってやれば、善がり狂って俺のチンポ飲み込むぜ?
それが嫌なら謝れよ、土下座しーーうぐぁっ!!」
顔面を殴られた男が鼻血を出して蹲る。
鼻の骨は折れているだろう。
口先だけのこんな野郎が実行できる訳がない事は分かっている。
それでも許せなかった。
例え虚言でも、晴を貶められる事がーー。
「…え?…ぐぁっ!まっ…うぐぅ!」
続け様に入れた蹴りで倒れた男が、胃の中身を吐き出した。
それを避けて髪の毛を引っ掴むと、こっちを向かせる。
「このままお首の骨折って殺すなんて簡単なんだぜ?」
「ヒィッ!待って…ウソでふ…だから、許ひて…!」
歯が折れた血塗れの口で必死に何か言っているが、何の感情も沸かなかった。
ゴキリッ!!
骨の鳴る音がして、男が泡を吹く。
落としただけだが、本人は激しい音で自分が死んだと思ってるだろう。
失禁したその体を無造作に転がすと、騒ぎを聞きつけたのか人が集まり始めた。
通報されて補導か?
まぁ、もうなんでもいいけど。
その時、ガッと強く腕を引かれた。
その先にいたのはーー
「は?クロ?」
何でここにと聞くより先に、頭に深くキャップを被らされる。
「とにかく走れ!」
手を引かれて、夜の繁華街を全力で走った。
●●●
晴は楽しそうに見えて無理して笑ってる状態。
蓮は静かに自棄になっていくタイプです。
前からチョイチョイ登場してた「カンナ」ちゃん。
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