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解決編
19.
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side蓮中学編15話『元通り』~19話『見送りと約束』辺りの遥視点になります。(side大谷の部分は関係しないのでスルーしても大丈夫です。)
side晴人中学編だと5話『衝撃』~13話『旅立ち』の部分です。
●●●
(side 南野遥)
精神的に疲れた修学旅行から数日後、私は屋上の踊場に蓮を呼び出した。
誰にも聞かれたくないから、本当は例の神社とかがベストなんだけどね。
この後英会話スクールがあるから、仕方なく学校内で誰も近寄らない場所にしたの。
そんな気も知らず、かなり遅れて現れた蓮と早速喧嘩になったけど。
「で、用って何だよ。」
「…っと、そうだった。」
こんな事してる場合じゃないわ!
まずは、これを渡さないとね。
鞄から取り出したのは、某アクセサリーブランドの小さな巾着。
お誕生日におばあちゃんから貰ったネックレスが入ってたその袋を蓮に差し出す。
「何だこれ…って…オイ!」
一見すると分からないその中身が桜守りの片方だと気付いて、蓮が呆れたような顔を向けて来る。
「お前なぁ…。」
「いいでしょ?諦めるとは一言も言ってないもの。
少なくとも留学するまではね。想うのは私の自由だもん。」
「あのなぁ…」「そりゃ、ずっと持っててくれたら嬉しいけど…いらなければ捨ててもいいし…!」
「…あー…分かった。」
いつになく必死な私に根負けしたのか、蓮はそれを自分の鞄に入れた。
本当に私に対して優しくなったと思う。
私の『告白』以前なら、その辺に捨てて帰りそうだもん。
「ありがとう。それから、夏祭りの事も忘れないでね。」
「へいへい。」
毎年晴も含めた3人で行く、近所の割と規模の大きな夏祭り。
『思い出作り』の為に、翔君を連れて来て貰うように蓮に頼んでおいたの。
だけど…今年は晴はどうするのかしら。
修学旅行の時は蓮と話したいのかと思ったけど、それからは特にアクションは無いみたいだし。
晴は蓮との関係をどうしたいんだろう。
…あれ、待って。
流石に蓮の気持ちには気付いてる…わよね?
あの鈍感さだと怪しい…?
いやいや、流石にキス(しかもディープなやつ!あ、また怒りが沸いてきた)されたんだから、好意があるって言うのは分かるか。
だからこそ、どうするべきか悩んでるのよね、きっと。
『恋人になる』以外の選択は蓮を傷付ける事になるけど、じゃあ蓮を恋愛的に好きかってなると…。
うーん、難しいわね。
「…お前、明日家来る?」
ふいに言われた蓮の言葉に思考から浮上した。
どうやら明日、翔君が実家に帰ってくるみたい。
蓮は私の『告白』以来、一人暮らしの翔君が実家に帰って来るタイミングを把握するようにしてくれてる。
なるべく私が翔君に会えるように。
『幼馴染』兼『同志』の気遣いに、私は笑顔で頷いた。
だけど、その日の夜に蓮からのLAINで『翔が予定変更して今日帰って来た』って言われて。
私は英会話スクールだったから、結局会えず。
悔しいのと寂しいので溜息を吐いてたんだけど、続くメッセージに感傷は吹っ飛んだ。
『翔が晴連れて来て話した。』
な、なんですって!?
翔君…それはグッジョブなの!?それとも…。
『そ、それで?』
『これからも幼馴染でいたいって、キスは忘れるし忘れろって言われた。』
…晴は全部無かった事にして『元通り』を望んでるのね。
蓮にとっては凄く辛い言葉だけど、それが晴の本音なら仕方ない。
『蓮、大丈夫?』
『大丈夫じゃねーけど、また話せなくなるよりはマシ。』
ーー好きな気持ちを押し込めてでも、傍にいたい。
その気持ちが痛いほど分かって、天を仰いでギュッと目を瞑った。
蓮と晴がまた話すようになると、私も含めた3人での時間も多くなって。
蓮は自分の気持ちを押し付けて晴が離れて行った事がトラウマになったのか、周りへの牽制はかなりマシになった。
尤もゼロではないんだけど…これでも成長したと思う。
そんな中で少し気になったのは、晴が偶に私と蓮をジッと見てくる事。
不思議に思ってたんだけど、そう言えば私と蓮って前は晴を挟んで話す関係だったわよね…と思い出した。
事の経緯を知らない晴からしたら『この2人、何で急に喋るようになったんだ?』って感じなのかも。
蓮も同じ事を思ってたみたいだけど、晴が特に突っ込んで聞いてくる事もなかったからそのままにしてた。
理由を聞かれても話せない事だらけだから、正直助かったわ。
そのまま夏休みに入って、今日は例の夏祭りの日。
『浴衣で来て欲しい』って蓮にリクエストしたから、一緒に来る翔君も浴衣で来てくれる筈!
ウキウキしながら待ち合わせ場所でスマホを弄ってると、周りのザワめきが大きくなって。
蓮の到着を確信して顔を上げると、ビンゴ。
幼馴染目線で見てもキラキラした浴衣姿の蓮は、周りが『芸能人?』って騒ぐのにも納得ね。
浴衣姿を褒める私に蓮も(ちょっとおざなりだけど)返してくれて、その成長が嬉しい。
晴以外を気にもしてなかった頃とは大違いだわ。
でも、ほんわかしてばっかもいられないのよね。
事前に遅れて来るのが決まってた翔君とは違って、こっちは今が初出しの情報だから。
「あ、晴は部活だから来れないって。さっきLAIN来たの。」
途端に蓮の瞳が剣呑になって、私をジロリと睨む。
ちょっと、晴がアンタに連絡しなかったからってそんな顔しないでよ。
それに、私だって態と黙ってた訳じゃないんだから。
連絡が来た時にはもう、待ち合わせの時間ギリだったのよ。
「ほら、行こ!日本のお祭り楽しんどかなきゃ!」
せっかくの『思い出作り』なのに、不機嫌とかやめてよね。
そう思って蓮の袖を引くと、引き摺るように会場の中へ足を踏み入れた。
「おーい!遥、蓮!」
歩き出していくらもしないうちに、翔君の声が聞こえた。
人波がサッと割れて、長身のイケメンがその道を楽し気に歩いて来る。
はぁぁ、カッコいい。。、
浴衣姿が眩しくて、直視できないくらい。
「お、遥は浴衣も似合うなぁ。」
その一言で、この日の為に必死に着付けを覚えた事も、態々美容院で髪をセットしてもらった事も全てが報われた。
並び立った切藤兄弟はちょっとビビるくらい目立ってて、周りに人が集まって来て。
「あー、取り敢えず水分補給だな。何か買ってくるからそっち居て。」
なるべく目立たない所に私と蓮を誘導すると、翔君はサッと踵を返した。
それに付いて行くような形で、人の群れが移動する。
「翔君、大丈夫かな?」
「慣れてるし平気だろ。」
私の心配に、蓮は気のない返事。
はぁ、やっぱり晴が来なかった事が…ってーー
「あれ?晴?」
人混みの中に見慣れたアッシュブラウンを見た気がして思わず声を上げた。
振り返ったのは、制服姿に竹刀を担ぐ晴。
もしかして、部活が早く終わったのかしら。
「来るなら連絡くれればよかったのに!」
嬉しくなって近寄る私達を見て、晴は浮かない表情。
え?晴、何かあったの?
「どうした?」
蓮も心配だったのか、晴の頭に手を置いて尋ねる。
その仕草の、声の柔らかさったらーー。
いつぞや私を慰めてるくれた事があったけど…これを見ちゃうと、あんなの100億分の1にも満たないわね。
蓮のこんな優しい表情を引き出せるのは、やっぱり晴限定だわ。
感心する私を他所に、『別に、何でもない』なんて答えて蓮の眉間の皺を深くさせてる晴。
何でもない…かぁ。
昔は何でも話してくれたけど、これも晴の成長の証よね。
それでもちょっと寂しくて、せめて元気付けたくて、私も晴を撫でようと手を伸ばす。
一瞬ギンッて感じで誰かさんに睨まれたけど、相手が私だから苦い顔をするに留まって。
だったのに、その表情が一気に険しくなったのは、私が晴に触れる寸前に聞こえて来た声のせい。
「晴人~お待たせ!あっちでリンゴ飴売ってたから買ってきたぜ!」
声の主、中野啓太の登場で、蓮の機嫌は一気に氷点下まで下がった。
剣道部の主将兼部長で、真面目な中野は皆んなから好かれてる。
いつぞや晴にジャージを貸してたのも彼だし、委員会で一緒になった時には私もいい人だと感じた。
偶に晴の話しにも出てくるようになってたけど…名前呼び?しかも2人で夏祭り?
わぁぁ!いつの間にこんな仲良くなってたのよ!
感動して、色々聞いてしまった。
どうやら3年で部活に残ってるのは2人だけみたいで、急速に仲良くなったらしい。
リラックスして話す晴の姿に、心配が吹き飛んで内心で涙する。
晴にお友達ができて、お姉ちゃん嬉しい!!
「…じぁね、遥。蓮も…。」
先輩が来てるから挨拶しに行くと言う2人を笑顔てま見送ろうとした時だった。
「晴。」
それまで大人しくしてた蓮が、その手ごと引き寄せて、晴のリンゴ飴を舐めた。
コイツ、また…!と思って引き離そうとしたけど…赤く染まった晴の耳を見て動きを止める。
もしかして晴、照れてる…?
「もうこれ、オレのな。」
混乱した私は、明らかな牽制と威圧を中野に向ける蓮を止められず。
だけど中野は逃げたりせず言葉を返してて、蓮に負けず晴と仲良くしてくれる存在に一安心。
…じゃなくて!晴のあの態度って…。
これまでだったら、蓮がどんなに近付こうと気にしなかった筈よね?
「オイ!俺にくれたんだろ!」
今度は晴が、さっきの仕返しみたいに蓮の手を引き寄せてリンゴ飴を齧った。
あぁ、でもその上目遣いは蓮にはちょっと…!
案の定固まった蓮に勝ち誇った顔をして、晴は中野と去って行く。
「…蓮、ティッシュいる?」
割と本気で鼻血出してもおかしくないなと思って聞いたけど、突っぱねられた。
無自覚で蓮をこんなに振り回すなんて晴は本当に凄い。
「遥、蓮!動くなって言ったろ。」
その時ラムネを持った翔君が現れて、私は急いで駆け寄った。
「俺帰るわ。」
そう言ってさっさと去って行く蓮を、翔君がポカンと見送る。
「晴が友達と2人で来てたの。」
状況を説明すると、翔君は仕方ないなぁと笑って。
「じゃあ、遥の祭り納めといきますか!」
なんて笑顔で言ってくれた。
2人きりだと『美優』に気を遣って断られるかも…なんて思ってたけど、そんな事全然無さそう。
それが嬉しくもあり、全く意識されてない事が悲しくもあり…。
でも、今はこの時間を楽しまないとね!
そう思って、煌めくお祭りの中を翔君と歩いた。
それから少しして、蓮から晴に御守りを渡したって報告があった。
『対霊泉家』の御守りらしいけど、蓮は1番守りたい晴に持ってて欲しいのね。
私がパパママとカナダに下見に行ってる間にあった晴の試合も、蓮は応援に行ったらしい。
私がいない間の夏休みも2人で過ごしてたみたいだし…もしかしてちょっといい感じなのでは?
お祭りでの晴の態度は、蓮を意識してたようなーー気がしなくもないーーような…。
ぬか喜びさせたくないから蓮には言わないけど、私には少しだけそんな感覚があって。
晴の事を思うと、多少自制するようになったとは言え、まだまだ蓮とくっつくのは心配ではあるけど…。
私が悶々としてる間にも夏休みは明けて、そこからは留学の準備で一気に忙しくなった。
翔君も医師免許の為の国家試験を控えてるから、なかなか会えなくて。
最後に会えたのは、卒業祝いを兼ねて三家で開かれた壮行会。
仕事の都合でパパママも渡米する事になったから、高校卒業まで帰国するつもりは無い。
『遥なら大丈夫!頑張れよ!』
涙ぐんでしまった私の頭を撫でた翔君の笑顔を、胸に刻み込んだ。
これで、私の初恋は終わりーー。
さよならする時は、笑顔で。
そう思ってたのに、まさかの卒業式が被って翔君は見送りには来れなくなった。
「あ~あ、最後までこれだもんなぁ…。」
フライトを待つ空港のカフェで思わず呟く。
私のパパママに挨拶に行く晴を心配そうな視線で追ってた(ほんのちょっとの距離なのに)蓮は、私の言葉の真意が分かるからちょっと同情的。
「ねぇ蓮、約束通りちゃんと連絡してね。」
私は蓮と3つの約束を結んだ。
1つ目は、『晴に合わせた選択』をしない事。
何でも人並み以上にできる蓮が自分に合わせてるって事に気付いたら、それは晴の重荷になる。
晴には晴の生き方があるんだから、それを尊重するべき。
2つ目は、週一で私に連絡する事。
近況が知りたいのな勿論だけど、蓮の暴走防止の為もある。
だって蓮のストッパーになれるのって、現状では私しかいないんだもの。
晴に何かあってから(既にキスしてるし!あ、また怒りが…)じゃ遅いし。
晴に避けられた事で反省した蓮は、めちゃめちゃ嫌そうな顔だったけど2つ共「否」とは言わなかった。
そして、3つ目はーー私に翔君の話をしない事。
少しでも翔君を近くに感じちゃったら、忘れられないと思ったから。
あっちに行ったら諦めるって心に決めてるし。
ただ、問題は連絡不精の蓮が2つ目の約束をどれだけ守れるかなのよね…よし、釘刺しとこ。
「あんまり放っとかれたら浮気しちゃうかもしれないんだからね!」
「おい、ふざけんな。」
敢えて彼女気取りで言うと、蓮が晴の方を気にしつつ睨んで来た。
私と蓮がそんな関係になるなんて、天地がひっくり返っても無いのにね。
それは晴も分かってる筈なのに、蓮としては万が一にも誤解させるような事を耳に入れたくないらしい。
半ば呆れながらも、私達も晴達の方へ向かう。
『JALU312便バンクーバー行きに搭乗のお客様は…』
響くアナウンスで、談笑してた全員がハッとした。
「遥ぁ~!!」
涙声を出す晴をギュッと抱きしめる。
晴、大好きよ。
私は何処にいても味方だからね。
「蓮、約束守んなさいよ。」
その頭越しに念を押すと、不機嫌な蓮。
はいはい、私が晴に触ってるのが気に入らないのね。
「晴、蓮に虐められたらすぐ連絡してね!」
私の言葉に晴はキョトンとしてるけど、意趣返しを汲み取った蓮は『サッサと行け』みたいな顔。
ふふっ、それすらも何だか可笑しい。
2人の事が心配で心残りはあるけど…私は自分の夢の為に頑張って来るから。
「行ってきます!」
だから2人とも、毎日笑顔でいてねーー。
●●●
踊り場でのやり取り、一部明らかになってませんがそれはこの先で。
一見分からない『桜守り』とは?なんぞ??
晴が目撃したキスの件についてはあの人にしっかり詰めてもらいましょう!笑
side晴人中学編だと5話『衝撃』~13話『旅立ち』の部分です。
●●●
(side 南野遥)
精神的に疲れた修学旅行から数日後、私は屋上の踊場に蓮を呼び出した。
誰にも聞かれたくないから、本当は例の神社とかがベストなんだけどね。
この後英会話スクールがあるから、仕方なく学校内で誰も近寄らない場所にしたの。
そんな気も知らず、かなり遅れて現れた蓮と早速喧嘩になったけど。
「で、用って何だよ。」
「…っと、そうだった。」
こんな事してる場合じゃないわ!
まずは、これを渡さないとね。
鞄から取り出したのは、某アクセサリーブランドの小さな巾着。
お誕生日におばあちゃんから貰ったネックレスが入ってたその袋を蓮に差し出す。
「何だこれ…って…オイ!」
一見すると分からないその中身が桜守りの片方だと気付いて、蓮が呆れたような顔を向けて来る。
「お前なぁ…。」
「いいでしょ?諦めるとは一言も言ってないもの。
少なくとも留学するまではね。想うのは私の自由だもん。」
「あのなぁ…」「そりゃ、ずっと持っててくれたら嬉しいけど…いらなければ捨ててもいいし…!」
「…あー…分かった。」
いつになく必死な私に根負けしたのか、蓮はそれを自分の鞄に入れた。
本当に私に対して優しくなったと思う。
私の『告白』以前なら、その辺に捨てて帰りそうだもん。
「ありがとう。それから、夏祭りの事も忘れないでね。」
「へいへい。」
毎年晴も含めた3人で行く、近所の割と規模の大きな夏祭り。
『思い出作り』の為に、翔君を連れて来て貰うように蓮に頼んでおいたの。
だけど…今年は晴はどうするのかしら。
修学旅行の時は蓮と話したいのかと思ったけど、それからは特にアクションは無いみたいだし。
晴は蓮との関係をどうしたいんだろう。
…あれ、待って。
流石に蓮の気持ちには気付いてる…わよね?
あの鈍感さだと怪しい…?
いやいや、流石にキス(しかもディープなやつ!あ、また怒りが沸いてきた)されたんだから、好意があるって言うのは分かるか。
だからこそ、どうするべきか悩んでるのよね、きっと。
『恋人になる』以外の選択は蓮を傷付ける事になるけど、じゃあ蓮を恋愛的に好きかってなると…。
うーん、難しいわね。
「…お前、明日家来る?」
ふいに言われた蓮の言葉に思考から浮上した。
どうやら明日、翔君が実家に帰ってくるみたい。
蓮は私の『告白』以来、一人暮らしの翔君が実家に帰って来るタイミングを把握するようにしてくれてる。
なるべく私が翔君に会えるように。
『幼馴染』兼『同志』の気遣いに、私は笑顔で頷いた。
だけど、その日の夜に蓮からのLAINで『翔が予定変更して今日帰って来た』って言われて。
私は英会話スクールだったから、結局会えず。
悔しいのと寂しいので溜息を吐いてたんだけど、続くメッセージに感傷は吹っ飛んだ。
『翔が晴連れて来て話した。』
な、なんですって!?
翔君…それはグッジョブなの!?それとも…。
『そ、それで?』
『これからも幼馴染でいたいって、キスは忘れるし忘れろって言われた。』
…晴は全部無かった事にして『元通り』を望んでるのね。
蓮にとっては凄く辛い言葉だけど、それが晴の本音なら仕方ない。
『蓮、大丈夫?』
『大丈夫じゃねーけど、また話せなくなるよりはマシ。』
ーー好きな気持ちを押し込めてでも、傍にいたい。
その気持ちが痛いほど分かって、天を仰いでギュッと目を瞑った。
蓮と晴がまた話すようになると、私も含めた3人での時間も多くなって。
蓮は自分の気持ちを押し付けて晴が離れて行った事がトラウマになったのか、周りへの牽制はかなりマシになった。
尤もゼロではないんだけど…これでも成長したと思う。
そんな中で少し気になったのは、晴が偶に私と蓮をジッと見てくる事。
不思議に思ってたんだけど、そう言えば私と蓮って前は晴を挟んで話す関係だったわよね…と思い出した。
事の経緯を知らない晴からしたら『この2人、何で急に喋るようになったんだ?』って感じなのかも。
蓮も同じ事を思ってたみたいだけど、晴が特に突っ込んで聞いてくる事もなかったからそのままにしてた。
理由を聞かれても話せない事だらけだから、正直助かったわ。
そのまま夏休みに入って、今日は例の夏祭りの日。
『浴衣で来て欲しい』って蓮にリクエストしたから、一緒に来る翔君も浴衣で来てくれる筈!
ウキウキしながら待ち合わせ場所でスマホを弄ってると、周りのザワめきが大きくなって。
蓮の到着を確信して顔を上げると、ビンゴ。
幼馴染目線で見てもキラキラした浴衣姿の蓮は、周りが『芸能人?』って騒ぐのにも納得ね。
浴衣姿を褒める私に蓮も(ちょっとおざなりだけど)返してくれて、その成長が嬉しい。
晴以外を気にもしてなかった頃とは大違いだわ。
でも、ほんわかしてばっかもいられないのよね。
事前に遅れて来るのが決まってた翔君とは違って、こっちは今が初出しの情報だから。
「あ、晴は部活だから来れないって。さっきLAIN来たの。」
途端に蓮の瞳が剣呑になって、私をジロリと睨む。
ちょっと、晴がアンタに連絡しなかったからってそんな顔しないでよ。
それに、私だって態と黙ってた訳じゃないんだから。
連絡が来た時にはもう、待ち合わせの時間ギリだったのよ。
「ほら、行こ!日本のお祭り楽しんどかなきゃ!」
せっかくの『思い出作り』なのに、不機嫌とかやめてよね。
そう思って蓮の袖を引くと、引き摺るように会場の中へ足を踏み入れた。
「おーい!遥、蓮!」
歩き出していくらもしないうちに、翔君の声が聞こえた。
人波がサッと割れて、長身のイケメンがその道を楽し気に歩いて来る。
はぁぁ、カッコいい。。、
浴衣姿が眩しくて、直視できないくらい。
「お、遥は浴衣も似合うなぁ。」
その一言で、この日の為に必死に着付けを覚えた事も、態々美容院で髪をセットしてもらった事も全てが報われた。
並び立った切藤兄弟はちょっとビビるくらい目立ってて、周りに人が集まって来て。
「あー、取り敢えず水分補給だな。何か買ってくるからそっち居て。」
なるべく目立たない所に私と蓮を誘導すると、翔君はサッと踵を返した。
それに付いて行くような形で、人の群れが移動する。
「翔君、大丈夫かな?」
「慣れてるし平気だろ。」
私の心配に、蓮は気のない返事。
はぁ、やっぱり晴が来なかった事が…ってーー
「あれ?晴?」
人混みの中に見慣れたアッシュブラウンを見た気がして思わず声を上げた。
振り返ったのは、制服姿に竹刀を担ぐ晴。
もしかして、部活が早く終わったのかしら。
「来るなら連絡くれればよかったのに!」
嬉しくなって近寄る私達を見て、晴は浮かない表情。
え?晴、何かあったの?
「どうした?」
蓮も心配だったのか、晴の頭に手を置いて尋ねる。
その仕草の、声の柔らかさったらーー。
いつぞや私を慰めてるくれた事があったけど…これを見ちゃうと、あんなの100億分の1にも満たないわね。
蓮のこんな優しい表情を引き出せるのは、やっぱり晴限定だわ。
感心する私を他所に、『別に、何でもない』なんて答えて蓮の眉間の皺を深くさせてる晴。
何でもない…かぁ。
昔は何でも話してくれたけど、これも晴の成長の証よね。
それでもちょっと寂しくて、せめて元気付けたくて、私も晴を撫でようと手を伸ばす。
一瞬ギンッて感じで誰かさんに睨まれたけど、相手が私だから苦い顔をするに留まって。
だったのに、その表情が一気に険しくなったのは、私が晴に触れる寸前に聞こえて来た声のせい。
「晴人~お待たせ!あっちでリンゴ飴売ってたから買ってきたぜ!」
声の主、中野啓太の登場で、蓮の機嫌は一気に氷点下まで下がった。
剣道部の主将兼部長で、真面目な中野は皆んなから好かれてる。
いつぞや晴にジャージを貸してたのも彼だし、委員会で一緒になった時には私もいい人だと感じた。
偶に晴の話しにも出てくるようになってたけど…名前呼び?しかも2人で夏祭り?
わぁぁ!いつの間にこんな仲良くなってたのよ!
感動して、色々聞いてしまった。
どうやら3年で部活に残ってるのは2人だけみたいで、急速に仲良くなったらしい。
リラックスして話す晴の姿に、心配が吹き飛んで内心で涙する。
晴にお友達ができて、お姉ちゃん嬉しい!!
「…じぁね、遥。蓮も…。」
先輩が来てるから挨拶しに行くと言う2人を笑顔てま見送ろうとした時だった。
「晴。」
それまで大人しくしてた蓮が、その手ごと引き寄せて、晴のリンゴ飴を舐めた。
コイツ、また…!と思って引き離そうとしたけど…赤く染まった晴の耳を見て動きを止める。
もしかして晴、照れてる…?
「もうこれ、オレのな。」
混乱した私は、明らかな牽制と威圧を中野に向ける蓮を止められず。
だけど中野は逃げたりせず言葉を返してて、蓮に負けず晴と仲良くしてくれる存在に一安心。
…じゃなくて!晴のあの態度って…。
これまでだったら、蓮がどんなに近付こうと気にしなかった筈よね?
「オイ!俺にくれたんだろ!」
今度は晴が、さっきの仕返しみたいに蓮の手を引き寄せてリンゴ飴を齧った。
あぁ、でもその上目遣いは蓮にはちょっと…!
案の定固まった蓮に勝ち誇った顔をして、晴は中野と去って行く。
「…蓮、ティッシュいる?」
割と本気で鼻血出してもおかしくないなと思って聞いたけど、突っぱねられた。
無自覚で蓮をこんなに振り回すなんて晴は本当に凄い。
「遥、蓮!動くなって言ったろ。」
その時ラムネを持った翔君が現れて、私は急いで駆け寄った。
「俺帰るわ。」
そう言ってさっさと去って行く蓮を、翔君がポカンと見送る。
「晴が友達と2人で来てたの。」
状況を説明すると、翔君は仕方ないなぁと笑って。
「じゃあ、遥の祭り納めといきますか!」
なんて笑顔で言ってくれた。
2人きりだと『美優』に気を遣って断られるかも…なんて思ってたけど、そんな事全然無さそう。
それが嬉しくもあり、全く意識されてない事が悲しくもあり…。
でも、今はこの時間を楽しまないとね!
そう思って、煌めくお祭りの中を翔君と歩いた。
それから少しして、蓮から晴に御守りを渡したって報告があった。
『対霊泉家』の御守りらしいけど、蓮は1番守りたい晴に持ってて欲しいのね。
私がパパママとカナダに下見に行ってる間にあった晴の試合も、蓮は応援に行ったらしい。
私がいない間の夏休みも2人で過ごしてたみたいだし…もしかしてちょっといい感じなのでは?
お祭りでの晴の態度は、蓮を意識してたようなーー気がしなくもないーーような…。
ぬか喜びさせたくないから蓮には言わないけど、私には少しだけそんな感覚があって。
晴の事を思うと、多少自制するようになったとは言え、まだまだ蓮とくっつくのは心配ではあるけど…。
私が悶々としてる間にも夏休みは明けて、そこからは留学の準備で一気に忙しくなった。
翔君も医師免許の為の国家試験を控えてるから、なかなか会えなくて。
最後に会えたのは、卒業祝いを兼ねて三家で開かれた壮行会。
仕事の都合でパパママも渡米する事になったから、高校卒業まで帰国するつもりは無い。
『遥なら大丈夫!頑張れよ!』
涙ぐんでしまった私の頭を撫でた翔君の笑顔を、胸に刻み込んだ。
これで、私の初恋は終わりーー。
さよならする時は、笑顔で。
そう思ってたのに、まさかの卒業式が被って翔君は見送りには来れなくなった。
「あ~あ、最後までこれだもんなぁ…。」
フライトを待つ空港のカフェで思わず呟く。
私のパパママに挨拶に行く晴を心配そうな視線で追ってた(ほんのちょっとの距離なのに)蓮は、私の言葉の真意が分かるからちょっと同情的。
「ねぇ蓮、約束通りちゃんと連絡してね。」
私は蓮と3つの約束を結んだ。
1つ目は、『晴に合わせた選択』をしない事。
何でも人並み以上にできる蓮が自分に合わせてるって事に気付いたら、それは晴の重荷になる。
晴には晴の生き方があるんだから、それを尊重するべき。
2つ目は、週一で私に連絡する事。
近況が知りたいのな勿論だけど、蓮の暴走防止の為もある。
だって蓮のストッパーになれるのって、現状では私しかいないんだもの。
晴に何かあってから(既にキスしてるし!あ、また怒りが…)じゃ遅いし。
晴に避けられた事で反省した蓮は、めちゃめちゃ嫌そうな顔だったけど2つ共「否」とは言わなかった。
そして、3つ目はーー私に翔君の話をしない事。
少しでも翔君を近くに感じちゃったら、忘れられないと思ったから。
あっちに行ったら諦めるって心に決めてるし。
ただ、問題は連絡不精の蓮が2つ目の約束をどれだけ守れるかなのよね…よし、釘刺しとこ。
「あんまり放っとかれたら浮気しちゃうかもしれないんだからね!」
「おい、ふざけんな。」
敢えて彼女気取りで言うと、蓮が晴の方を気にしつつ睨んで来た。
私と蓮がそんな関係になるなんて、天地がひっくり返っても無いのにね。
それは晴も分かってる筈なのに、蓮としては万が一にも誤解させるような事を耳に入れたくないらしい。
半ば呆れながらも、私達も晴達の方へ向かう。
『JALU312便バンクーバー行きに搭乗のお客様は…』
響くアナウンスで、談笑してた全員がハッとした。
「遥ぁ~!!」
涙声を出す晴をギュッと抱きしめる。
晴、大好きよ。
私は何処にいても味方だからね。
「蓮、約束守んなさいよ。」
その頭越しに念を押すと、不機嫌な蓮。
はいはい、私が晴に触ってるのが気に入らないのね。
「晴、蓮に虐められたらすぐ連絡してね!」
私の言葉に晴はキョトンとしてるけど、意趣返しを汲み取った蓮は『サッサと行け』みたいな顔。
ふふっ、それすらも何だか可笑しい。
2人の事が心配で心残りはあるけど…私は自分の夢の為に頑張って来るから。
「行ってきます!」
だから2人とも、毎日笑顔でいてねーー。
●●●
踊り場でのやり取り、一部明らかになってませんがそれはこの先で。
一見分からない『桜守り』とは?なんぞ??
晴が目撃したキスの件についてはあの人にしっかり詰めてもらいましょう!笑
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姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ
MITARASI_
BL
I
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
Ⅱ
高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。
別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。
未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。
恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。
そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。
過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。
不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。
それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。
高校編のその先を描く大学生活編。
選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。
続編執筆中
囚われ王子の幸福な再婚
高菜あやめ
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【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】
触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。
彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。
冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
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全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
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伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
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ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
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