こわれたものをなおすには

車線・トンネル

 より子は次第に引かれていったー。

 期待をもつには十分な世界だったー。

 毎週末バイトに入るようになったより子。週間だったドライブもいつしかお店のある街中えと終着を変えていた。
 
 より子は平日でバイトでもないにもかかかわらずお店にいた。
 

 長いー。
 長いトンネルの始まりー。


 より子はお店に出会って平日は通常の仕事、週末はBarでバイト。こんな今までとは違う日常が3ヶ月続いた。
 お店に入り出して分かったことがあったー。
それは、このお店は他とは違うー。
あの縁もなく、好まなかった場所じゃない。
何の刺激もなくつまらない日常がこの3ヶ月でがらりと変わった。それと同時に、期待が確信に変わるのにさほど時間はかからなかったー。

 いつしか週末しか入っていなかったバイトに平日にも入るようになっていた。ニュアンス的に従業員として誘ってくれているのを感じていたより子は、核心的な言葉を言われたら二文字の言葉で返そうと決めていた。そしてその日は意外にも早く訪れたー。

 ガチャッ
 「いらっ、おーコウ。おつかれ。」
 「おつかれぇい！」
今の会話は店長のキイさんとオーナーのコウさんの会話。私も「お疲れ様です。」とあいさつをした。
 「より子ちゃん、コウと裏で話ししてくるから表お願いね。」
 「はい、分かりました。」
 裏にはこの会社の2トップ、表はまだ立ち馴れないお店。お願いねと言われたものの内心お客様が来ないことをより子は願っていた。そして、一時裏から出てこなかった2人が表に出てくるやいなや、オーナーのコウさんが私にこう告げたー。

 「よりこちゃん、うちにおいで。」

 本当に、本当になんの前置きもなかった。むしろ、私の名前を呼ぶときは裏から表に出る私の横の通路を歩きながら言われた。 心に決めていたセリフをなんの前置きもない言葉に返すだなんてあまりにも想定外だったより子は、とりあえずそのひとことには笑いで返すことしかできなかった。それにつられてにこやかに笑いを返すオーナー。
 「この人絶対AB型だ。」とより子は想いながら笑いの途切れた二人の間にキイさんが入ってきた。
 「コウ、直球すぎ。」
 「え、そうかな」
 コウさんは一人で爆笑しながら、なんの悪びれた様子もなく次にでてきた言葉が、
 「で、どうする」
 二言目にはこの言葉だった。今思えば確信犯だったのだと思う。私はこの言葉にやっと決めていた二文字を告げた。

 「はい！」


 ー終着の見えないトンネルがぽっかりと口を開けている。暗いトンネルはヘッドライトの明かりのみが頼りですー