最弱職外伝 〈貧弱の勇者は異世界で生き抗う〉

カタナヅキ

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エルフ王国

国王の疑問

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――国王が自室にて書類の整理を行っていると、外から扉が荒々しく押し開かれ、激怒した表情のイヤンが入り込んできた。彼は心底怒りを抱いた様子であり、国王を問い詰める。


「父上!!やはりあの男は偽物です!!勇者であるはずがありません!!」
「何じゃ藪から棒に……その前に部屋に入る時ぐらいはノックぐらいせんか」
「はしたないですわよお兄様」
「むっ……居たのかヤミン?」


国王の傍には彼の妹であるヤミンの姿があり、彼女は国王の傍で手編みのセーターを縫っていた。イヤンとヤミンは双子ではあるが外見はあまり似ておらず、イヤンは若かりし頃の父親、ヤミンは今は亡き母親に似ていた。ヤミンは許可もなく部屋の中に入り込んできた自分の兄に呆れるが、国王は彼を責めずに部屋に入り込んできた理由を問い質す。


「それでどうしたというのだイヤンよ?勇者殿に何かあったのか?」
「何かあったのかではありません!!あの男、訓練にも参加せずに部屋の中で遊んでいるのです!!」
「勇者?ああ、あの人間でありながら女の子のような方の事ですね」


イヤンの言葉にヤミンも訓練場で見かけたナオの事を思い出し、人間にしてはそれなりの美貌があったので彼女も覚えていた。基本的には兄同様に人間という種族を見下している彼女ではあるが、異世界から訪れたという「勇者」には興味を抱き、訓練場に赴いてナオの様子を確認していた。最初は勇者が人間である事に落胆を隠せなかったが、訓練自体は非常に面白く、ナオがわざとではないにしろリンを押し倒した時は彼女も笑いを堪えられなかった。


「そういえば父上、あの御方が今日の訓練であのリン将軍を押し倒した事をご存知ですの?」
「何!?それは本当か?何と命知らずな……」
「あの時は本当に笑いを堪えるのに精一杯でしたわ。ですが、剣の腕前はどうやら素人ではない様子でしたわ」
「ほう」
「ヤミン、お前は黙っていろ!!父上、私の話を聞いてください!!」
「……いくらお兄様でも話の最中に割り込むのは失礼ではなくて?」


普段は妹には甘いイヤンではあるが、今は自分の見たことを国王に知らせるために話を遮り、ヤミンは不満そうな表情を浮かべるが只事ならぬ気迫を感じた国王がイヤンと向き直る。


「一体どうしたというのじゃ?勇者殿がお主に何かしたのか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……あの男が訓練の最中にリン将軍に軽く叩かれただけで気絶した事はご存知ですか?」
「確かに報告では訓練の最中に倒れたとは聞いていたが……」
「もう奴は意識を取り戻しています。しかし、部屋から出る様子もなく、あろうことか部屋の中で花瓶に向けて何かを投げつけて遊んでいたのです!!」
「花瓶?」
「何かとはなんじゃ?」
「いえ、それは……」


鍵穴越しに覗いでいたのでイヤンもナオの行動の詳細は分からず、辛うじて花瓶に何かを当てていたとしか分からない。普段の彼ならば部屋の中に乗り込んで問い質すような真似はしただろうが、国王から勇者に不用意に近づかないように彼は厳命されていた。それにも関わらずにどうして彼が勇者であるナオの動向を知っているのかが問題であり、全てを察したように国王は溜息を吐く。


「イヤン、お主は儂の命令を破り、ナオ殿の様子を伺っていたのだな?」
「お、お待ちください父上!!決して奴とは顔を合わせてはいません!!これは本当です!!」
「愚か者!!そんな屁理屈が儂に通じると思っているのか!!」
「ぐうっ……」
「お兄様……流石にその言い訳は見苦しいですわ」


ヤミンも自分の兄の言葉に呆れた表情を浮かべ、国王から怒鳴りつけられたイヤンは自分のあまりにも短慮な行動に頬を赤くし、悔しそうに顔を俯く。そんな彼に対して国王は頭を抑える。


「し、しかし、どうしてリンを世話役に任せるのですか?身の回りの世話など使用人に任せれば良いではないですか!!」
「それが出来れば苦労はしない……もうお主は黙っていろ」



――実際の所、国王が将軍であるリンにナオの世話役を任せたの理由がある。それは彼女が人種差別を行わず、尚且つ他の将軍の中で最も温厚で人当たりの良い性格だからだった。彼女以外のの将軍はイヤンのように人間を見下す者が多く、とてもではないがナオに世話役を任せられない。


別にこれは将軍に限らず、大抵の森人族は人間を嫌悪している。性格には森人族以外の種族を見下しており、彼らは同族以外には礼儀を重んじることはない。理由は色々とあるのだが、過去に森人族は他の国家と大きな溝を作った事があり、その際に他の五種族と対立した時期が長かった事が主な理由だった。

なので森人族の中でリンのように種族差別を行わない者は貴重であり、将軍でありながらナオの世話役を任せられている。だからこそ滅多な理由がない限りは彼女をナオから外すわけにはいかなかった。しかし、そんな理由も分からないイヤンはナオに対して益々と恨みを深めてしまう。
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