最弱職外伝 〈貧弱の勇者は異世界で生き抗う〉

カタナヅキ

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エルフ王国

疾風剣

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兵士に剣を渡して刃にこびり付いた血液を拭いてもらいながらナオはステータス画面を開き、緑鼠よりも経験値が多いと思われる角兎を倒したが、レベルを確認してもナオのステータスは「1」しか上昇していなかった。


(……やっぱり、ステータスが1しか上がってない。特に能力値も大きく上がっていないし、だいたい貧弱の能力の事がわかったな)


残念なことにナオの「貧弱」は魔物を倒す事でレベルを上昇するが、普通の人間のように経験値という概念はない。魔物を倒せばレベルは上がるが、その魔物がどれほどの経験値を所有していようが1個体につき1しかレベルは上がらない。つまりどれほど弱い魔物だろうと倒せば確実に1レベルは上昇するが、逆に言えば圧倒的に強い存在を倒したとしてもレベルが一気に上昇する事はない。


(SPが増えるのはいいけど、流石に今の状態だと不味いな。緑鼠を狩るのも限界があるだろうし……)


夜中に緑鼠を狩り続けたとしても命の危険があり、200匹や300匹を倒した程度ではリンと同等の力を持つ王子には及ばない可能性がある。だいたいの能力値を上昇させるスキルは習得しており、これ以上に能力値を引き延ばす方法は地道に魔物を倒し続けるしかないのだが、そう考えると無暗に外に出るのは危険かもしれない。


(貧弱の能力の秘密を話すべきか?いや、魔物を倒してもステータスが1しか伸びないなんて知られたら待遇が変わるかもしれない。だけど緑鼠や角兎よりも強い魔物と戦わされて時間を無駄にするのは惜しいな……)


ナオはこの城の人間(森人族)の事を信用してはおらず、自分の世話役を任されているリンにも「貧弱」の異能の秘密を明かすのは危険だと考えていた。しかし、このままでは事情が知らない彼等に外の世界に案内され、大会当日までにレベルを上昇させるために魔物と戦わされる日々を送ってしまう。


(どうにか効率よくレベルを上げないと……本当に他に能力値を伸ばすレベルがないのかを調べ直すか)


考え事をしながらもナオは兵士から刃を綺麗に磨いた剣を渡され、彼は無意識に剣に視線を向け、ある疑問を抱く。それは自分がこの数日間に剣の訓練を行っているにも関わらず、剣技系の戦技を覚えていない事である。


「あの、リンさん。聞きたいことがあるんですけど……」
「なんでしょうか?」
「その、剣の戦技とかはあるんでしょうか?」
「戦技ですか?勿論ありますよ」


リンに尋ねた所、剣技系の戦技は間違いなく存在するらしく、試しに彼女がナオの前で剣を握りしめ、自分の得意とする戦技を発動させた。


「見ていてくださいね……疾風剣!!」
「うわっ!?」


彼女が正面から剣を振り翳した瞬間、凄まじい速度で剣が振り抜かれ、振り翳した跡に風切り音が生じた。その光景にナオは驚き、あまりの剣速に攻撃した後に反応した程だった。


「この戦技は速度に特化した斬撃を生み出す戦技です。特定な動作は必要とせず、速度を重視して斬撃を繰り出します」
「な、なるほど……すごいですね」
「暗殺者の職業の方も愛用する戦技です。ナオ様も練習すればきっと使用できますよ」
「疾風剣、ですか」


ナオは自分の剣に視線を向け、そしてステータス画面を開き、戦技の項目から「疾風剣」を探し出す。そして躊躇なくSPを消費して習得し、更に熟練度を限界値まで上昇させる。


『疾風剣――速度を重視した斬撃を繰り出す 熟練度:10(最大限界値)』


今回は戦技を限界まで強化させた技術スキルは発動せず、魔法と違って指弾と同じ攻撃系のスキルなので何らかの技術スキルを覚えると思っていたナオは残念に思うが、試しに剣を握りしめて檻の前に居る兵士に声を掛ける。


「あの、次の角兎を出してもらえませんか?」
「え、あっ……は、はい!!」
「大丈夫ですか?少し休憩した方が……」
「いえ、このまま行きます」


事情を知らないリンは初めて魔物と戦うはずのナオが緊張していないのか心配するが、実際には既に何度か魔物との戦闘経験を済ませているナオは緊張よりも覚えたばかりの戦技を試す事に集中しており、兵士に檻の中から角兎を出すように願う。リンが仕方なく兵士に頷くと、即座に檻のからもう1体の角兎を解放した。


「キュイイッ!!」
「おっと」
「キュイッ!?」


檻を抜け出して早々に角兎がナオに向けて突進するが、彼は軽快な足捌きで回避し、そして角兎に向けて覚えたばかりの戦技を放つ。


「疾風剣!!」
「ッ――!?」
『えっ!?』


次の瞬間、ナオの両腕が一瞬消えるほどの速度で剣が振り下ろされ、角兎の頭部と胴体が切り裂かれた。その光景に兵士達は驚愕の表情を浮かべ、一方でリンも自分の目ですら完全には捉えきれない速度で攻撃を繰り出したナオに目を見開き、その一方で技を繰り出したナオ本人も動揺していた。


「え、ええっ……!?」


自分が仕出かしたこととはいえ、地面に転がる角兎の死体に視線を向け、彼は自分の剣を確認する。あまりの手応えの無さに本当に自分が切ったのかさえも分からず、冷や汗が止まらない。
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