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最終章 前編 〈王都編〉

血の繋がりがなくとも大切な家族

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「まあ、話があるなら中へ入ったらどうだ?今は男爵も居ないし、積もる話もあるんだろ?」
「悪いな、後で一杯おごるよ」
「気にすんなって」


あっさりと兵士はレナ達を裏口に通し、屋敷内に入れる。そのままレナ達は敷地内に入るとライクの案内の元で使用人が利用する建物まで案内される。広大な屋敷には使用人専用の建物まで設計している当たり、屋敷の主が使用人を大切に扱っている事が伺えた。

使用人の宿舎は敷地内の隅に存在するらしく、屋敷程ではないが大きな建物だった。ライクの話によれば深淵の森の屋敷に暮らしていた使用人はアリアを除いて全員存在するらしく、他にも十数名の使用人を男爵が雇っているようだが、この時間帯に宿舎に存在するのは休憩時間中の使用人しか存在しないらしい。


「坊ちゃんたちはここで待っててください。すぐに他の奴等も連れてくるんで勝手に出歩いちゃ駄目ですよ?」
「分かった……でも、なるべく早く戻ってきてね」
「任せてください!!おい、お前等!!凄い客人が来たぞ~!!」


ライクはレナ達を庭の方に待機させると大急ぎで宿舎内で休憩していた使用人たちを呼び出しに向かう。まさか王国の貴族の屋敷に忍び込む羽目になるとは思わなかったが、幸いな事に男爵が不在らしい。逆に考えれば王国側もまさか自分達の派閥の貴族の屋敷にレナ達が入り込んだとは考えず、王国兵を送り込む事もないだろう。


「兄貴、あの人とはどういう関係なんですか?凄く仲良さそうでしたけど……」
「どういえば言いかな……まあ、血の繋がりはないけど俺の事を家族のように大切にしてくれた人達だよ」
「じゃあ、信用できる人なんだよね?」
「うん、でも……迷惑を掛けたことを謝らないとな」


レナは屋敷を抜け出した事で深淵の森の屋敷は放棄され、そこに関わっていた使用人もレナの脱走の手引きをしたのではないかと疑われた。アイラが必死に彼等を庇い立てした事で国王も彼等に処罰を与える事はしなかったが、それでも迷惑を掛けた事には間違いない。

今更ながらに他の使用人たちにどんな顔をして会えばいいのか分からないレナは気まずい表情を浮かべると、宿舎の方からライクが数人の使用人を引き連れて戻って来た。


「ほら見ろ!!あれがレナ坊ちゃんだ!!」
「おお、ほ、本当に!?」
「髪の毛の色が違うが……」
「だが、顔はそっくりだ!!おおっ……良かった、生きていたのですね!!」
「うわっ!?」


使用人に囲まれたレナは彼等に抱き着かれ、全員が再会の涙を流しながらレナの存在を確かめるように顔を覗き込む。誰一人としてレナに怒りを抱いている様子はなく、感激を露わにして抱き着く。


「ああ、坊ちゃま……今まで一人で暮らして寂しかったでしょう」
「本当に坊ちゃまだ……生きてて良かった」
「アリアの奴はこんな時に何処行ったんだ!!あいつめ、肝心な時に間が悪い奴だな……」
「皆……ただいま」


自分に優しく抱きしめてくる使用人たちに対してレナは瞳を潤ませながらも抱きしめ返し、その様子を見てエリナとミナも貰い泣きする。出来る事ならばここにアリアやアイラがいれば良かったのだが、それでも家族同然に自分の事を愛してくれた使用人達と再会できたことでレナの心は救われた。

屋敷を抜け出すときにもう二度と家族とは会えないと思い込んでいた分、使用人達と再会したレナは子供の頃に戻ったような気分を味わい、無意識に涙を流す。だが、感傷に浸る暇はなく、涙を拭ってレナは使用人達に頼みごとを行う。


「皆、もう離れて……俺の話を聞いてほしい」
『……?』


レナの言葉に使用人達は困惑した表情を浮かべ、レイクが彼等をレナから引き剥がすと、他の人間に聞かれないように宿舎の中へ案内する。


「坊ちゃま、ここなら話が聞かれる事はありません。すぐに他の奴等も呼んできますから安心してください」
「ありがとう……でも、この部屋は何?」
「最近まで働いていた巨人族用の給仕の部屋です。今は誰も使っていないので中に誰かが入ってくる心配はありません」
「広いっすね……これなら皆も呼び出しても問題ないっすよ」


宿舎の中には巨人族の使用人専用の部屋まで用意しているらしく、部屋というよりは広間のように大きな部屋だった。この場所ならば深淵の森の屋敷で待機している面子を呼び寄せても問題はなく、この際に全員を呼び出す。


「よし、皆驚かないでね……はあっ!!」
「うおっ!?空間に黒い渦が!?」
「これは……分かったわ!!収納石や収納魔法を使うときに出てくる奴よ!!」
「理解力凄いっすね!?」


レナが黒渦を空間に展開して屋敷の中で待機していた者達を呼び出すと、使用人達は黒渦の中から次々と人間が現れて驚くが、今は詳しく説明している暇はないのでレナは全員を集めて話し合いを行う。


「よし、これで全員だね。ライク、悪いけど誰かが聞き耳を立てていないか外の様子を見てきてくれない?」
「大丈夫ですよ、この部屋は鼾がうるさい奴等が使用していたので防音対策は施されています。収音石が壁の中に埋め込まれてますから外から声は聞こえませんよ」
「それでも念のために見張りも立てて欲しい。他の人間に知られると不味いから……」
「そうですか……なら、誰か一緒に来てくれ」


レイクが他の使用人を連れて扉の入口の外で見張りを行い、窓の方も他の使用人が見張ると、やっと全員が安全に過ごせる場所を確保してレナ達は深いため息を吐き出す。


「ふうっ……これで一先ずは潜伏先を確保出来たかな」
「ですが、ここも安全とは限りません。もしも男爵が戻って来た場合はどうします?」
「それなら大丈夫だと思いますよ?男爵様は滅多に使用人の宿舎には訪れませんし、それに何日かは王城の方で寝泊まりされていますし、戻ってくるとしても着替えなどの荷物を持ち込む際だけなので……ナオ姫の処刑が迫っているせいで王国貴族の方々もお忙しいようなんです」
「そうなのか……処刑が早まったという噂を耳にしたけど、その事に関しては何か聞いてない?」
「申し訳ありません、流石にそこまでは……」


流石に只の使用人にナオの処刑日の話をするほど男爵も危機管理が甘い人間ではないらしく、それでも男爵が滅多に使用人の宿舎に訪れないというのは今のレナ達には都合が良かった。

ヴァルキュリア騎士団のリノンとポチ子の連絡を取る前にレナ達はこの王都で集めた情報を整理する。既に一般民衆の間にもナオの処刑日が早まる事が伝わっており、王国兵は頻繁に街中を巡回している事から王都の警備も高く、氷雨の支部ギルドの冒険者達も既に見張られている事、ラナの集めた資料によると王城内に囚われたナオ、シズネ、ジャンヌの3人は別々の地下牢に閉じ込められているという。

現状の戦力で王城に殴り込みを仕掛ける事も難しく、そもそも人質を相手側に囚われている以上は無理は真似は出来ない。しかし、ナオの処刑日が早まるとなると悠長に作戦を立てる余裕もなく、どうにか処刑日の前に彼女達を救い出さなければならない。


「レナ様、これからどうしますか?」
「とりあえず、緑影やヴァルキュリア騎士団も協力してもらって3人を救いたいと思っているけど、まずは王城にどうやって忍び込むかだよな……」
「忍び込むと言っても難しいんじゃないのか?流石に警備も固いだろうし……」
「それに忍び込む事に成功してもどうやって脱出するんだよ」
「そこは俺の空間魔法なら一瞬で逃げられるでしょ」
「あ、そうか……本当に便利だよなその魔法」


王城に潜入して3人を救出したあと、空間魔法の特性を生かして城から脱出すれば問題ないとレナは語るが、そのレナの提案にリンダが心配そうな声を上げる。
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