不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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最終章 前編 〈王都編〉

まさかの再会 〈使用人〉

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「大人数が隠れられて、それでいて目立たない場所か……宿屋が使えないとなると廃屋とかかな?」
「でも、そんな都合が良い場所があるのかな……」
「それに廃屋だって王国兵の人達が見回りに来るかもしれないっすよ」
「適当に歩き回って探すしかないか……といっても、兵士の巡回も多いから気を付けないとな」


街道を移動しながら今夜過ごせる場所を捜索するが、流石に王都の警備も高まっており、頻繁に兵士達が巡回していた。この様子では既に王都で大人数が潜伏出来そうな場所は存在しないかもしれず、街中を歩き回るが結局は都合が良さそうな場所は見当たらない。1時間程歩き回って流石に引き返すしかないかと考えた時、道の角を曲がる際にレナは見知った人物の顔を発見した。


「え、あの人……!?」
「どうかしたんすか?」
「……付いていこう」
「レナ君?」


レナが発見したのは馬車に木箱を運び込む中年男性だった。その顔を見て自分の記憶が正しければ間違いなく知り合いだと悟り、子供の頃によく世話になっていた人物の一人である。それどころか他に馬車に荷物を運ぶ人間や御者に至るまでレナの子供の頃から知っている人物で間違いなく、どうして王都に彼等がいるのかと動揺を隠せない。

彼等に気付かれないようにレナ達は馬車に近寄り、様子を伺う。どうやら食料品を運び込んでいるらしく、大量の食材を詰めた木箱を荷台に乗せると、御者の男が声を掛ける。


「よし、出発するぞ。馬車に乗り切れない奴は歩いて帰れ」
「おう」
「また荒い運転をして木箱の中身を落とすなよ?」
「分かってるよ!!」


御者が馬車を走らせると1人だけ馬車に乗り込む事が出来なかった男が馬車の後を追うように歩み始め、周囲に人気が無い事を確認したレナは男性に話しかけた。


「ライク!!」
「ん?誰だ……?」


自分の名前を呼ばれた男性は驚いた表情を浮かべて振り返ると、レナ達の顔を見て訝し気な表情を抱く。その彼の反応を見てレナが前髪を上げて自分の顔を見せながら話しかける。


「俺だよ、分からない?子供の頃によくアリアに内緒でおやつをくれたでしょ?」
「アリア?子供の頃……それにその顔、まさか……坊ちゃん!?」
「「坊ちゃん」」


ライクと呼ばれた男性はレナの顔を覗き込んで驚愕の表情を浮かべ、その一方でミナとエリナは首を傾げるが、ライクはレナの正体に気付くと激しく動揺しながらも彼の元へ向かう。


「ああ、この顔……間違いない、本当に坊ちゃんなんですか!?」
「そうだよ、分かる?」
「当り前じゃないですか!!俺が坊ちゃんの顔を忘れるはずがない……やっぱり生きてたんですね!!良かった……!!」
「あの、兄貴?この人誰ですか?」
「知り合い?」


感極まったように涙を流しながらライクはレナの顔を両手で掴み、号泣しながらレナを抱きしめる。そんな彼の態度にエリナ達が二人の関係を問うと、レナは抱きしめられたまま説明する。


「この人はライク、俺が昔住んでいた屋敷の料理人をしてた人だよ」
「ははは……今はただの雑用係ですけどね」


レナの説明にライクは苦笑いを浮かべながら離れ、改めてエリナ達と向き合って不思議そうな表情を浮かべると、レナに質問する。


「それで坊ちゃん、この御二人は誰ですか?まさか恋人とか?」
「え、ここ、恋人!?」
「いや~なんか照れるっすね」
「違うわいっ」


恋人と間違えられたエリナとミナは頬を赤く染めて照れ臭そうな表情を浮かべるが、悠長に話をする暇はないのでレナは歩きながらライクに説明を行う。


「ライク、歩きながら聞いてほしい。今の俺はもう王子じゃないから坊ちゃんなんて呼び方しなくてもいいよ」
「何を言ってるんですか!!俺達にとって坊ちゃんは坊ちゃんだけですよ!!立場なんて関係ない、俺達の坊ちゃんはレナ坊ちゃんだけです!!」
「それは嬉しいけど、ちょっと声を控えてよ……俺が指名手配されている事は知ってるでしょ?」
「え?でも、確かもう指名手配は解除されたんじゃ……」


ライクはレナの指名手配が最近になって再び出回った事を知らない様子らしく、目立つ行為は避けたいレナは移動しながらライクに自分達の事情を話す。


「色々とあって俺達は王国兵に追われてるんだよ。だから隠れられる場所を探してる……何処かに心当たりはない?」
「なるほど、そういう事なら俺達が今仕えてる貴族様の屋敷に向かいましょう。屋敷には今は俺達しかいないので入っても大丈夫なはずです」
「俺達、という事は……」
「ええ、森の屋敷に暮らしていた人間は全員居ますよ!!あ、でもアリアは実家に戻ったそうですが……」
「……そう」


レナはライクの言葉を聞いて過去にアイリスから教わった情報を思い出し、深淵の森の屋敷に存在した使用人たちはアイラに対する国王の配慮で彼女を預かっている貴族の屋敷に異動したと聞いていた。どうやらアイラが姿を消した後も使用人たちは彼女を預かっていた貴族の屋敷に残っているらしく、今現在も働いて暮らしているらしい。

アリアに関しては彼女は実家に帰るという名目で姿を消したらしく、以後は連絡を取り合っていない。だが、レナが無事だと知れば彼女も喜ぶだろうとライクは笑うが、そのアリアはもうこの世にはいない。その事実にレナは心が痛むが、今は仲間達のために身を隠す場所を探す事に集中する。


「ほら、見えてきましたよ!!あの屋敷です。あそこが俺達が仕えている「ダンディーノ男爵」の屋敷です!!」
「あそこか……」
「かなり大きい屋敷ですね」
「わあ……凄く広そう」


アイラが一時的に預かっていたダンディーノ男爵は王国貴族の中でも特殊な立ち位置らしく、男爵家でありながら普通の公爵家よりも広い敷地の屋敷を持っていた。ライクによると深淵の森の屋敷の2倍近くの敷地を誇るらしく、今現在は王城に呼び出されて男爵家の人間は不在らしい。


「使用人は裏口しか利用できないんです。兵士が見張りをしていますが、俺の顔見知りなので坊ちゃんとお嬢ちゃんたちの事は俺の親戚という事で通り抜けましょう」
「大丈夫?」
「平気ですよ。男爵は使用人であろうと優しい人ですからね、兵士の奴等も気のいい奴ばりですし……」


屋敷の裏口に回ったレナ達は男爵の私兵が見張りをしている扉の前に近寄り、正体が気付かれないように顔を伏せながらライクに任せる。見張り役の兵士はライクの顔を確認すると軽く手を上げて迎え入れた。


「よう、やっと戻って来たな。随分と帰りが遅かったじゃねえか……ん?誰だそいつら?」
「おう、このぼっ……坊主は俺の甥なんだ。たまたま王都に用事があって俺に会いに来たんだよ」
「へえ、そうなのか?でも、甥という割にはあんまり似てねえな」
「あはは……よく言われます」


ライクは危うく「坊ちゃん」と言いそうになったが、私兵は特に怪しむ様子もなくレナとライクの顔を見て笑い声をあげると、今度は後ろの二人に気付く。


「んで?そっちの綺麗な嬢ちゃん達は誰だ?まさか姪とか言い出さないよな?」
「えっと、こ、こっちの森人族の嬢ちゃんは坊主の彼女なんだよ。それでこっちの子は俺の従弟の娘だ。なあ!?」
「そ、そうっすね!!ダーリンの彼女のエリリンっす!!」
「従弟の娘って……」


咄嗟にレナの彼女役を演じたエリナは偽名を使って自己紹介を行い、適当な説明をされたミナは複雑そうな表情を浮かべるが、見張り役の兵士はそれを信じたように扉の中にレナ達を通す。
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