不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

カタナヅキ

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Ｓ級冒険者編

火竜

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――ヨツバ王国の騒動から一か月の時が流れ、レナ達は無事へバルトロス王国へと帰還を果たす。しばらくの間は平穏な時を過ごしていたが、ある時に冒険都市からそれほど遠くない火山が噴火を起こした。結果的に言えば噴火による人的被害はなかったが、火山を住処としていた「竜種」が縄張りを離れて動き出したという報告が届く。

火山に生息していた竜種の名前は「火竜」と呼ばれ、一般的には地竜や白竜よりも知名度が高く、最も人的被害を生み出した魔物だと言われている。白竜の場合はその殆どが人間の暮らす領域には訪れることはなく、地竜に関してはバルトロス王国内では幼体が何匹か暮らしているが、成体が出現したという話はない。

しかし、火竜に関しては数年に一度の割合で人間が支配する領地に訪れては大きな被害を生み、その度に冒険者や軍隊が派遣されて討伐が試みられる。火竜は火山に生息し、普段は火属性の魔石を喰らうのだが火山が噴火した場合や餌となる火属性の魔石が不足すると人間の村を襲う傾向があった。

この問題に対処したのは当然ながら世界最大の冒険者ギルドである「氷雨」だったが、ギルドマスターであるマリアはあろうことか氷雨の傘下である「黒虎」に討伐を任命した。この彼女の判断には数多くの人間が驚愕し、反対を示した。

本来ならば元Ｓ級冒険者でもあり、今尚も「世界最強」の称号を持つマリア本人が討伐に向かうべきだろうと進言した。彼女が無理だとしても、剣士としては大陸一の腕を持つ「ゴウライ」他にも剣聖である「シュン」「ハヤテ」「ロウガ」「ジャンヌ」が出向くべきだろう。だが、文句を言う彼等にマリアは堂々と言い放つ。

『私の甥が討伐に向かうと言ったのよ。腐敗竜、地竜を打倒した冒険者が討伐に向かうというのよ？何か文句があるのかしら？』

マリアにそう言われると誰も反論できるはずがなく、火竜の討伐は黒虎のギルドに所属する冒険者達に委ねられた――

「――うおおおおっ！！来るなぁああああっ！？」
「……ダイン、うるさい」
「グガアアアッ！！」

火山の麓にてダインの悲鳴が響き渡り、彼はウルの背中に乗るコトミンの腰にしがみ付きながらも背後から迫る火竜の姿を見て悲鳴を上げる。速度は同等ではあるが、地上の障害物を避けなければならないウルと違い、火竜は空を飛んで追撃を繰り出す。

「アガァアアアアッ！！」
「ひいいっ！？ほ、炎の吐息（ブレス）だ！！」
「スラミン、ヒトミン、放水」
「「ぷるっしゃあああっ！！」」

後方の火竜が口内から爆炎を想像させる炎を放出すると、コトミンも流石に危ないと判断したのか両脇に抱えていたスライム達に放水を行わせる。結果としては丸焼きになる事は避けられたが、火竜は今度は大きく顎を開くと、火山弾を想像させる炎の塊を放つ。

「アガァッ！！」
「ぎゃああっ！？あいつ、炎の岩弾まで吐き出したぞ！！」
「ウル」
「ウォンッ！！」

体内に存在する結石に炎を纏わせ、吐き出してきた火竜に対してコトミンは冷静にウルに合図を送ると、火竜の放った炎塊に当たる寸前に跳躍して回避を行う。

「うわわ、落ちる！？」
「ぷるぷるっ」
「ぷるんっ」
「頑張って」

空中に跳躍した際にダインは危うく落ちそうになるが、咄嗟にスライム達が触手をロープのように伸ばしてダインを掴む。面倒欠けるんじゃないとばかりにスライム達はダインを引き寄せ、どうにか墜落は免れた。

悉く自分の攻撃を回避するウルに対して火竜は苛立ちを抱き、面倒になったので速度を上昇させ、体当たりを行ってウルたちを仕留めようとした時、突如として前方の方角から迫る「巨岩」を目にして火竜は呆気に取られる。

「ぬぅんっ！！」
「ガアッ！？」

地上の方から聞こえたきた謎の声と同時に火竜の肉体に巨岩が激突し、体勢を崩して地上へと落下してしまう。いったい何が起きたのか理解出来ず、謎の声をした方向に視線を向けるとそこには３メートルを超える大男が存在した。その男の傍には金色の髪の毛の少女が二人存在し、片方は黒色のクロスボウを構えると火竜に目掛けて矢を放つ。

「強化射撃！！」
「ギャアッ！？」

的確に火竜の右目に矢が突き刺さり、火竜は悲鳴が火山に響く、右眼は確実に潰れ、視界を半分奪われた火竜は苦しみもがき、その間に逃走を中断したウルが立ち止まると背中の二人を下ろす。

「はあっ……し、死ぬかと思った」
「ダイン、速く捕まえて」
「たくっ、人使いが本当に荒い運転手だな！！分かったよ、シャドウ・バインド・スパイラル！！」
「ガアアアッ……！？」

地上に降りたダインは影魔法を発動した瞬間、ダインの影が伸びて螺旋状の軌道を描きながら火竜の身体へと巻き付く。火竜は必死に振り解こうとしたが、ダインの影魔法は物理攻撃は受け付けず、いくら爪や牙を食い込ませようと取り外す事は出来ない。

しかし、巨体なだけに完全に影魔法で抑え込む事は出来ず、ダインの影は口元と腕の部分に巻き付くのが限界で完全拘束までには至らない。しかし、火竜を地上に抑えることが出来れば最強の剣士二人が迎え撃つには十分な時間稼ぎだった。

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