不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

魔人編

闇の聖痕の異変

「ぐあっ！？」
「ダイン！？どうしたの！？」
「ま、また聖痕が……がああっ！？」
「この反応はまさか……！？」


ダインの聖痕が再び疼きだし、その様子を見て他の仲間達が心配する。すぐにレナはダインの元へ向かい、聖痕を調べると形状が変化しており、徐庶に身体に広がり始めていた。その様子を見てレナは周囲に視線を向け、先ほど屋敷を襲撃した敵が現れたのかと警戒する。


(そんな馬鹿な、あり得ない……ここから冒険都市までどこまで離れていると思ってるんだ！？)


レナ達は転移魔法で冒険都市からに王都に転移したが、敵がこんなに短時間に冒険都市から王都まで移動できるはずがない。転移魔法は高等魔法であり、マリアでさえも１日の間に２度も使用すれば魔力を使い果たしてしまう。だから彼女は事前に水晶札に転移魔法を封じ込めており、必要だと判断した時に転移魔法の水晶札を使用するようにしていた。

先ほど屋敷に襲撃を仕掛けてきた者がこの近くにいるのかとレナは警戒する一方、ここでダインの闇の聖痕が徐々に変化しはじめ、彼の右半身を覆いつくす。ダインは白目を剥きながら悲鳴を上げた。


「うがぁあああっ！？」
「ダイン！？」
「まずいわ……離れなさい、レナ！！」


ダインは雄たけびを上げると傍に寄ってきたレナの身体を掴み、彼の胸元に目掛けて黒色化した腕を伸ばす。その瞬間、レナの身体に腕が振れた途端、まるで空間魔法を発動させたときのような「黒穴」が誕生し、その中にダインは腕を入れる。


「がはぁっ！？」
「だ、ダイン！？レナ！？」
「お前、何してんだよ！？」
「レナから離れなさい！！」


傍から見ればレナの肉体にダインが腕を貫いたようにしか見えず、慌てて他の者達はダインを引き剥がそうとした。一方でレナの方は体内の魔力を乱され、体中から力が抜けていく。その様子を見てマリアは信じられない声を上げた。


「まさか……レナの中の闇属性の魔力を利用して空間魔法を強制的に開いた！？」
「そ、そんな事が出来るのですか！？」
「分からない、けれどそうとしか考えられないわ」


マリアの言葉にカゲマルは驚き、確かにレナの空間魔法は闇系統の魔法ではあるが、それでも他者によって無理やりに発動させられるなど今まではなかった。だが、闇の聖痕に侵されたダインは黒穴から腕を引き抜くと、そこにはレナの「鏡刀」が握りしめられていた。

異空間に保管していた鏡刀を引きずり出したダインはレナの身体から腕を引き抜くと、直後にレナは地面に倒れ込み、その様子を見ていた他の者が慌てて駆けつける。一方でダインの方は引き抜いた鏡刀を持って駆け出すと、近くに存在した石像に目掛けて振り下ろす。


「ううっ……ああっ！？」
「止めなさい、ダイン！！」
「気が狂ったか！！」


咄嗟にシズネが前に出るとダインの暴走を食い止めるために石像に刃が触れる前に白百合で受け止め、カゲマルもダインを抑えつけるために彼を背中から羽交い締めする。ダインは正気を失ったように叫び声を上げ、無理やりに引き剥がそうとした。


「がああっ！！」
「な、なんだこの力は……！？」
「くっ……いい加減に目を覚ましなさい！！」


シズネはダインに目掛けて平手打ちを食らわせようとした時、突如としてダインの動きが止まり、彼は糸が切れた人形のように動かなくなった。彼は手にしていた杖と鏡刀を手放して動かなくなると、その様子を見ていたハルナは呆然と呟く。


「ど、どうしたんだ急に……動かなくなったぞ？」
「これは……ともかく、それを回収するぞ！！」


ダインが気絶したように動かなくなった途端、ソルが動いて彼が落とした鏡刀と杖を回収しようとした時、彼の足元を黒蛇のような物が通り過ぎる。それを見たソルは驚きの声を上げ、一方でマリアは何かを察したようにカゲマルとシズネに注意した。


「二人とも、早くその杖と刀を拾い上げなさい！！」
「えっ？」
「くっ！？」


シズネはマリアの言葉に彼女に振り返り、カゲマルはダインを羽交い締めにしていた状態だったために反応が遅れ、間に合わなかった。二人の手が鏡刀と杖を手にする前に地面に這うように移動する黒蛇は牙を向ける。

咄嗟にカゲマルは黒蛇を止めようと足を延ばし、踏みつけようとした。しかし、黒蛇の正体はどうやら本物の蛇ではなく「影」で構成された蛇だと判明する。足で踏みつけようと影で構成された蛇は止まらず、やがてダインの影魔法のように実体化した黒蛇は頭を二つに分かれさせて鏡刀と杖に噛みつく。


「しまった！？」
「誰か、その黒蛇を止めなさい！！」
「くそぉっ！！」


マリアの言葉にハルナが反応し、彼女は電流を帯びた状態で黒蛇に攻撃を仕掛ける。影魔法ならば光を発する攻撃は弱点のはずなのだが、黒蛇は鏡刀と杖を噛みついた状態から一気に飲み干す。刀と杖は黒蛇に取り込まれるように消えてしまい、ハルナが攻撃を仕掛けた時には既に跡形もなく消えてしまった。