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ダイン 監獄都市編
閑話 〈ギルの企み〉
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――時刻は深夜を迎えると、監獄都市の作業区の一角では小髭族の囚人達が集まっていた。本来ならば囚人は作業時間以外の作業区の出入りは禁止されているのだが、彼等だけは特別だった。小髭族は手先が器用で人間よりも仕事も早いため、囚人でありながら彼等の技能は重宝されていた。
作業区を実質的に支配している三巨頭のギルは部下からの報告を聞き、グシャスがダイン達の捕縛に失敗したという話を聞いて驚く。グシャスの傍に控える暗殺者たちでさえもダインを仕留める事が出来なかった事に彼の中のダインの評価が一変する。
「まさかあのグシャスが失敗するとはな……思っていた以上にやるようだな」
「信じられませんな。たかが人族の小僧がグシャスから逃れるとは……もしかしたら相当に優秀な魔術師かもしれませんな」
「ふむ、それでこいつらの行方は見つかったか?」
「いいえ、奴等が地下に逃げたのまでは確認してますが、それ以上の事は判明していません」
ギルの配下達もダイン達が地下道に逃げてから姿を消し、現在も監獄都市内に戻ってきていない事だけは把握していた。そもそも地下道に繋がる出入口は未だに封鎖されており、扉が開く様子はない。内側から鍵を仕掛けられた状態では「開錠」などの技能を持つ人間でも開けられず、無理やりに破壊するとしても扉が頑丈過ぎて時間が掛かり過ぎた。
「奴等はまだ地下道に閉じ込められているんじゃないのか?それならばあの扉を見張っていればいずれは出てくるんじゃないのか?何しろあそこには水も食べ物もないからな」
「いや、ミイネの奴は元々はあそこをねぐらにしていた。地下道はあの女の住処同然、きっと考え無しに飛び込んだわけじゃないだろう」
「そういえば噂ではミイネは地下道に存在する地上に繋がる出入口を知っているとか何とか……」
「どっちにしろ、あの場所に引きこもられたら俺達に手出しは出来ないわけだ」
配下達の報告を聞いたギルは酒瓶を取り出し、それを仰ぐ。最も中身は本物の酒ではなく、ただの飲み水である。小髭族は酒を好む種族ではあるが、囚人の身では酒を飲む事は許されず、この酒瓶もわざわざ酒が飲めないギルがせめて雰囲気でも味わうために制作した代物である。
一応は看守と裏取引で彼等が飲むような安酒は手に入る事が出来るが、そんな物では彼は満足できない。外にいた時は毎日上等な酒を浴びるように飲んでいたのだが、今の立場ではそんな物は手に入らない。
「はあっ……久しぶりに本物の酒が飲みてえなあ」
「親分、本当に酒好きですね。俺達なんてもう諦めちまいましたよ」
「酒を飲まない方が健康ですよ」
「馬鹿野郎!!それでもお前等は小髭族か!!くそ、俺は諦めないからな」
酒を欲しがるギルに対して配下の小髭族たちは呆れた表情を浮かべ、彼等はもう何年も酒を味わっておらず、最近ではもう酒の味など忘れていた。囚人の立場ではどれだけ酒を恋しがっても味わう事は出来ず、しかもギルの場合は彼が求めているのは普通の酒ではなく、一級品の酒である。
この監獄都市でそのような酒を飲める人物な監獄所長ぐらいであり、いくらギルが囚人の間ではそれなりの立場だとしても、相手が監獄所長となると取引の余地はない。監獄所長は厳格な人物というわけでもないのだが、かといって囚人を相手に裏取引するほど不真面目な人物でもない。
「くそ、酒が飲みてえ!!こんな見かけだけの酒瓶なんてうんざりだ!!」
「全く、親分の酒好きには困ったもんだな……」
「監獄所長の弱みでも握れれば酒も手に入ると思いますけどね」
「そんなもん、不可能に決まって……いや、待てよ。なるほど、弱みか……」
「え、親分?」
「あの、今のは冗談で……」
配下の言葉を聞いたギルは何か思いついたのか考え込む素振りを行い、そんな彼を見て他の配下の者達は不安を抱くが、ギルは笑みを浮かべて皆に振り返る。
「お前等、監獄所長は自分の酒を他の奴に渡しているという噂は聞いた事があるだろ?」
「え、ええ……確か、パール看守長が監獄所長から酒を貰っていると聞いた事がありますけど」
「まさか、パール看守長から盗むつもりですか!?止めてくださいよ、あの人を怒らせたらとんでもない事になりますよ!!」
「馬鹿野郎、そんな真似をするわけないだろ!!」
監獄都市の監獄所長と看守長のパールがただならぬ関係である事は囚人達も周知の事実であり、噂ではパールは監獄署長から色々な贈り物を受け取っているという話である。そのパールならば監獄所長から酒を受け取っていてもおかしくはない。
だが、仮にも看守長であるパールから酒を盗むなど有り得ず、普段の彼女は優しくて相手が囚人であろうと無碍な真似はしない。だが、彼女を怒らせれば途轍もない事態を引き起こす事は囚人達も知っており、だからこそパールは看守長の中で最も恐れられる存在だった。
作業区を実質的に支配している三巨頭のギルは部下からの報告を聞き、グシャスがダイン達の捕縛に失敗したという話を聞いて驚く。グシャスの傍に控える暗殺者たちでさえもダインを仕留める事が出来なかった事に彼の中のダインの評価が一変する。
「まさかあのグシャスが失敗するとはな……思っていた以上にやるようだな」
「信じられませんな。たかが人族の小僧がグシャスから逃れるとは……もしかしたら相当に優秀な魔術師かもしれませんな」
「ふむ、それでこいつらの行方は見つかったか?」
「いいえ、奴等が地下に逃げたのまでは確認してますが、それ以上の事は判明していません」
ギルの配下達もダイン達が地下道に逃げてから姿を消し、現在も監獄都市内に戻ってきていない事だけは把握していた。そもそも地下道に繋がる出入口は未だに封鎖されており、扉が開く様子はない。内側から鍵を仕掛けられた状態では「開錠」などの技能を持つ人間でも開けられず、無理やりに破壊するとしても扉が頑丈過ぎて時間が掛かり過ぎた。
「奴等はまだ地下道に閉じ込められているんじゃないのか?それならばあの扉を見張っていればいずれは出てくるんじゃないのか?何しろあそこには水も食べ物もないからな」
「いや、ミイネの奴は元々はあそこをねぐらにしていた。地下道はあの女の住処同然、きっと考え無しに飛び込んだわけじゃないだろう」
「そういえば噂ではミイネは地下道に存在する地上に繋がる出入口を知っているとか何とか……」
「どっちにしろ、あの場所に引きこもられたら俺達に手出しは出来ないわけだ」
配下達の報告を聞いたギルは酒瓶を取り出し、それを仰ぐ。最も中身は本物の酒ではなく、ただの飲み水である。小髭族は酒を好む種族ではあるが、囚人の身では酒を飲む事は許されず、この酒瓶もわざわざ酒が飲めないギルがせめて雰囲気でも味わうために制作した代物である。
一応は看守と裏取引で彼等が飲むような安酒は手に入る事が出来るが、そんな物では彼は満足できない。外にいた時は毎日上等な酒を浴びるように飲んでいたのだが、今の立場ではそんな物は手に入らない。
「はあっ……久しぶりに本物の酒が飲みてえなあ」
「親分、本当に酒好きですね。俺達なんてもう諦めちまいましたよ」
「酒を飲まない方が健康ですよ」
「馬鹿野郎!!それでもお前等は小髭族か!!くそ、俺は諦めないからな」
酒を欲しがるギルに対して配下の小髭族たちは呆れた表情を浮かべ、彼等はもう何年も酒を味わっておらず、最近ではもう酒の味など忘れていた。囚人の立場ではどれだけ酒を恋しがっても味わう事は出来ず、しかもギルの場合は彼が求めているのは普通の酒ではなく、一級品の酒である。
この監獄都市でそのような酒を飲める人物な監獄所長ぐらいであり、いくらギルが囚人の間ではそれなりの立場だとしても、相手が監獄所長となると取引の余地はない。監獄所長は厳格な人物というわけでもないのだが、かといって囚人を相手に裏取引するほど不真面目な人物でもない。
「くそ、酒が飲みてえ!!こんな見かけだけの酒瓶なんてうんざりだ!!」
「全く、親分の酒好きには困ったもんだな……」
「監獄所長の弱みでも握れれば酒も手に入ると思いますけどね」
「そんなもん、不可能に決まって……いや、待てよ。なるほど、弱みか……」
「え、親分?」
「あの、今のは冗談で……」
配下の言葉を聞いたギルは何か思いついたのか考え込む素振りを行い、そんな彼を見て他の配下の者達は不安を抱くが、ギルは笑みを浮かべて皆に振り返る。
「お前等、監獄所長は自分の酒を他の奴に渡しているという噂は聞いた事があるだろ?」
「え、ええ……確か、パール看守長が監獄所長から酒を貰っていると聞いた事がありますけど」
「まさか、パール看守長から盗むつもりですか!?止めてくださいよ、あの人を怒らせたらとんでもない事になりますよ!!」
「馬鹿野郎、そんな真似をするわけないだろ!!」
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