不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
1,267 / 2,090
世界の異変編

七魔将オウガとアルドラの結託

しおりを挟む
――復活を遂げた直後に七魔将を脱退した鬼人将のオウガは山奥にて過ごしていた。彼は滝に打たれながら瞑想を行い、精神を集中させる。滝から流れ落ちてくるのは水だけではなく、時には流木や岩なども落ちてくるが、それらが身体に触れても気にする事もなく彼は集中していた。

鬼人将のオウガが行っているのは精神統一のための修行ではなく、彼の頭の中ではこれまでの生涯で戦ってきた強敵を思い浮かべ、心の中で彼等の事を思い出しながらどのように戦うかを考える。もうこの世にはいない強敵達の事を思い返しながらオウガは心の中でも鍛錬を行う。

そんなオウガの精神を乱したのは上空から聞こえてきた翼の音であり、彼は眉をしかめながら視線を向けると、そこには自分と同じく七魔将を脱退した吸血鬼のアルドラが浮揚していた。


「アルドラか……何の用だ」
「ただの通りすがりよ。ちょっと人間の街に遊びに行こうと思っていたら、貴方の気配を感じたからここへ来たの」
「そうか、ならばさっさと失せろ」
「そんなに冷たくしなくてもいいじゃな~い?」


アルドラとオウガは同じ七魔将ではあるが、オウガは彼女の事を毛嫌いしていた。吸血鬼であると同時にサキュバスでもあるアルドラは生まれた時から他者を魅了する力を持つ。特に彼女の場合はその瞳に宿る力は凄まじく、魔眼将のメドゥーサとは違った魔眼の持ち主である。

昔からオウガはアルドラを嫌っているが、アルドラの方はオウガの事をからかいにちょくちょく彼の前に現れる。時には何度か本気で命を狙われそうになったが、それでもアルドラはオウガの元に訪れる。その理由は彼女がオウガを好いている、というよりはアルドラにとっては全ての異性は彼女にとっては好みの対象だった。


「貴方のそういうそっけない所も好きなのよね」
「この淫魔が……今は俺は忙しい、とっとと消えろ」
「長い間、眠らされていたから身体が思うように動けないんでしょう?だからそうやって身体が馴染むまで精神の修行まで行うつもり?」
「分かっているのならば消えろ……本当に殺すぞ」


オウガは自分の考えをアルドラに読み取られた事に不機嫌さを露にした。石化から復活してから時は経過したが、オウガは未だに全盛期の時のように身体が動かせない。長い時を石化していたせいで身体は思うように動かず、だからこそ身体が動けるようになるまでは精神面の修行を行おうとしていた。

そんなオウガに対してアルドラは近づくと、彼女は爪を刃物のように変化させて伸ばす。そして躊躇なくオウガの顔面に向けて爪を放つと、それに対してオウガは人差し指を伸ばして彼女の爪を受け止めた。金属音が鳴り響き、オウガは自分に攻撃を仕掛けてきたアルドラを睨みつける。


「……何の真似だ?」
「あら、やっぱり動けるんじゃない。もう貴方の身体は解れているんでしょう?」
「貴様……」
「身体は動けるのにどうして貴方は動かないのか……それはこの世界の事を良く知らないからでしょう?」


アルドラの言う通り、もうオウガの身体は全盛期ほどではないが、それでも戦うのには十分な程に身体が動かせるようになっていた。それなのにどうしてオウガは動かないのか、その理由は彼が求める「強者」がこの時代にいるのかどうか分からないからである。


「どうせ人見知りの貴方の事だから、こうして身体を解すふりをして人間の世界を旅するのを先延ばしにしてたんでしょう」
「どうやら本当に殺されたいようだな?」
「凄んでも駄~目、貴方の性格はよく知っているわ。戦う事が生きがいと言いながら弱者を痛めつけるのは性に合わない。だから私の事を殺さないんでしょう?」
「ちっ……」


オウガにとって戦う事こそが生きがいだが、彼は決して弱者に手を出すような真似はしない。最もこの弱者とは女子供のような非力な存在を指すのではなく、彼にとって敵ではない存在全てを示す。

自分と戦う相手は常に強者、自分よりも弱い存在に手を出す行為は戦闘とは言わず、ただの一方的な蹂躙である。その事が彼にとってはどうしても我慢できず、鬼人将と呼ばれながらもオウガは自分に歯向かう存在としか戦わない。


「貴方のそういう性格は好きだけど、この世界で生きていくのは難しいわね」
「黙れ……からかいに来たのならばさっさと消えろ」
「違う違う、そうじゃないの……実は私、最近面白い子達を見つけたの。その子達を配下に加えたいと思うんだけど……私一人では手が余りそうなの」
「……何が言いたい?」
「もう、鈍い人ね……手を組まないかと言ってるの。貴方と私で、ね」
「手を組むだと……貴様と?」


アルドラの提案にオウガは目つきを鋭くさせ、平常時の彼ならば即座に断っていただろう。だが、そんな彼に対してアルドラは魅力的な条件を付けくわえた。


「戦いたいんでしょう、この時代の強者と……私に付き合ってくれるなら用意してあげるわ。貴方の敵をね」


その言葉を聞いたオウガは目を見開き、アルドラは笑みを浮かべた――
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。