不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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真・最終章 七魔将編

避難できたのは……

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「くそ、情けないね……あたしがもっと若ければ、いや……今更そんな事を知っても仕方ないね」
「いったい何が……!?」
「その前に中に入りな……ここまで来れば大丈夫だとは思うけどね、念のために中で話すよ」
「分かった……」


レナ達は中に入ると、扉に鍵を掛けて改めて向かい合うように座る。屋敷の中には使用人も存在し、彼等はレナの顔を見ると慌てて駆けつけてきた。


「レナ様!!ご無事で何よりです!!」
「皆!!全員ここへ来てたの!?」
「はい、実はバル様に逃げる様に促されて……」
「兄貴!?兄貴じゃないっすか!!」
「ご無事でしたか……!!」


屋敷の中には使用人以外にもティナの護衛役であるリンダとエリナも存在し、他にも声を聞きつけて全身に包帯を巻いたゴンゾウも現れる。彼は牙竜の冒険者の力を借りてレナの元へ向かう。


「レナ!!無事だったか……!!」
「ゴンちゃん!?どうしたの、その怪我!?」
「大丈夫だ、治療は終わっている……すぐに治る」
「こいつ、無茶をし過ぎたんだよ……鬼人化を発動させてあたしたちが逃げるために時間を稼いだんた。だけど、その時に身体を壊して……」
「そんな……待ってて、すぐに精霊薬を出すから!!」


ゴンゾウは冒険都市から逃げ出す際に囮役を務め、バルたちが駆けつけた時には鬼人化の影響で倒れていた。どうにか彼を運び出す事には成功したが、今まで意識を失っていたという。

ただの怪我ならばティナやコトミンの回復魔法で治す事が出来るのだが、鬼人化の影響でゴンゾウは身体の内部まで損傷が残り、二人でさえも完全に治療する事はなかった。だが、レナは前にヨツバ王国に赴いた時に回収した精霊薬を取り出す。


「これを飲めばどんな怪我も治るはずだよ!!」
「す、すまない……」
「でも、ゴンちゃんがこんなになるなんて……いったい、誰にやられたの?」
「それは……」


レナの質問に全員の顔色が変わり、誰に顔を向けても答えようとしない。その反応にレナは戸惑うと、ここでゴンゾウを連れてきた牙竜の冒険者の一人が語る。


「氷雨の冒険者ですよ」
「えっ……?」
「ミレト!?お前っ……!?」
「黙っていても仕方ないじゃないですか」


他の人間にミレトと呼ばれた少年にレナは顔を向けると、ここでレナは疑問を抱く。ミレトの顔を見るのは初めてのはずなのだが、何処と泣く見覚えがあった。だが、ミレトという名前を聞いても特に思い出せず、少なくとも知り合いではない。

その一方でミレトはレナの顔を見つめ、遠目で見た事はあったがこうして間近で顔を合わせるのは初めてだった。ミレトにすれば彼の人生を大きく変えた相手ではあるのだが、不思議と恨みのような感情は湧かない。


(この人がレナ……僕の義理の兄か)


イレアビトの息子であるミレトからすればレナは義理の兄に当たるが、彼の父親は先王ではないので一切の血の繋がりはない。そもそもミレトはバルトロス王族ですらなく、彼の父親は大将軍ミドルである。ミレトからすればレナはミドルの命を奪った親の仇なのだが、恨みや復讐といった気持ちを抱けない。


(何だろう、この子……他人な感じがしない)


レナの方もミレトと対峙して不思議な気持ちに陥り、彼とは他人のような気がしない。だが、今は冒険都市で何が起きたのかを確かめる必要があり、彼に事情を問う。


「いったい何が起きたの?氷雨の冒険者がどうしたって?」
「……急に氷雨の女性冒険者が襲ってきたんです。いや、氷雨の冒険者だけじゃない。戦える力を持った女の人たちが急に態度を変化させて襲ってきたんです」
「え?」
「……そいつの言う通りだよ。しかも、最初に異変を起こしたのはあのゴウライとシズネらしい」
「ゴウライ!?それにシズネ!?シズネに何かあったの!?」


ゴウライとシズネの名前を聞いてレナは驚き、特にシズネの身に何か起きたのか心配すると、冒険者の一人が悔しそうな表情を浮かべて壁に拳を叩きつける。


「くそっ……あいつらのせいだ!!あいつらが現れてからおかしくなったんだ!!」
「君は……確か、モリモ君?」


ここで騒ぎ出した冒険者がレナは以前に何度か見かけた顔だと思い出し、すぐにミナと同じ冒険者集団を組んでいたモリモと呼ばれる男性だと気付く。ガロの姿は見えないが、彼もここに避難していたらしい。

氷雨の冒険者であるモリモはあの時に何が起きたのか全て把握しており、事の発端からレナに説明を行う。唐突に戻って来たシズネとゴウライが女性冒険者を捕まえ、謎の薬を飲ませた。その薬を飲んだ途端に他の女性冒険者がおかしくなり、反乱を起こした事を話す。


「ゴウライさんとシズネの奴が変な薬を飲ませたせいでミナも……ガロの奴なんか、ミナにやられて未だに部屋の中で塞ぎ込んでやがる。あいつ、あんなに落ち込んでいる所なんて初めて見た」
「あのガロが……」
「そんな事よりも問題なのは女性冒険者が急に反乱を引き起こした事です。彼女達はいったい何が目的だったのか……」
「それよりも皆はどうやってここから脱出したの?こんなに大勢でよくここまで逃げ切れたね……」


レナは冒険都市から皆がどのような手段を用いて脱出したのか気にかかり、バルたちだけならばともかく、レナの屋敷に居た使用人全員までも無事に避難出来た事に驚くが、すぐにレナの屋敷の執事が答えてくれた。
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