不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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真・最終章 七魔将編

不死身の肉体

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「な、何だこいつは……人間ではないのか!?」
「ナオちゃん、貴女は下がっていなさい。ここは私が何とかするわ」
「ふんっ……多少は腕が立つようだが、この俺の敵ではないわ」


窓から乗り込んできた兵士は全身が影に覆われ、それを見たアイラは一目で影魔法だと見抜く。彼女はかつて影魔法の使い手とも戦った事はあるが、全身に影を覆い込むなどという芸当をする人間は見た事がない。

影魔法ならば光を当てれば無効化できる事はアイラも知っており、彼女は魔鎧術を両手に発動させる。ジャンヌほどではないが彼女も魔鎧術の使い手であり、この技術は亡き母親から教わった。母親との仲は決して良かったとは言えないが、それでも武人としては母親の事を誰よりも尊敬していた。


「さあ、かかってきなさい!!」
「ほう、その魔力の輝き方は火属性の使い手か……だが、その程度の魔力でこの俺を倒せると思うな!!」


アイラの息子であるレナの場合は水属性と火属性の性質を併せ持つ「蒼炎」を扱うが、母親であるアイラの場合は聖属性と火属性の性質を併せ持つ「白炎」を見に纏う。彼女は魔鎧術は滅多に扱わないが、相性的には闇属性に対して優位だった。

闇属性が苦手とする聖属性と、影魔法に対して優位に立てる火属性の性質を持つ「白炎」をアイラは両腕に纏い、改めて構えを取る。しかし、魔鎧術を発動してから数秒後には彼女は汗を流す。それに気づいたナオはアイラが無茶をしている事に気付く。


(あのアイラさんが汗を!?まさか、魔鎧術の影響がもう……!?)


アイラは母親が森人族であるために普通の人間よりも魔力量は多いが、生憎と妹のマリア程に魔法の才能は持ち合わせていなかった。彼女は冒険者であった父親の血を濃く注いでおり、魔術師としての才能は受け継がなかった。その代わりに格闘家や剣士としては超一流の才能を持つが、今回の敵は彼女の得意とする肉弾戦では倒せない。

息子のレナは祖母の血を濃く注いでおり、勇者の家系でもあるバルトロス王族の血筋でもある事から人間でありながら並の森人族よりも魔法の才能があった。しかし、アイラの場合はレナやマリアのような魔法の才能はないため、魔鎧術に関しても長くは持たない。

そもそもアイラが母親に教わったのは性格に言えば「魔鎧術」ではなく、武器に魔力を纏う「魔刀術」である。母親から教わった魔刀術をアイラは独自に素手でも扱えないのかと模索し、武器を失った時でも戦えるようにと彼女は自力で魔鎧術を編み出した。


(この技、やっぱり長くは持たないわね……レナちゃんは本当に凄いわ)


息子レナならば魔鎧術や魔刀術を発動させても顔色を変えずに扱いこなすだろうが、生憎とアイラには息子のような魔法の才能はない。しかし、今は無理をしてでも自分の義理の娘のために命を賭けてでも戦う覚悟を決める。


「はあああっ!!」
「おっと、先ほどのようにはいかないぞ」
「なっ!?」


勢いよく踏み出してきたアイラに対して兵士は横に一歩だけ移動して彼女の繰り出した攻撃を躱す。仮にも現役は引退しているとはいえ、一流の格闘家であるアイラの攻撃を避けるなど容易ではない。しかもブラクは純粋な格闘家ですらなく、普通ならば避けられるはずがない一撃だった。


(避けた!?そんな馬鹿な……ならっ!!)


自分の拳をあっさりと回避したブラクにアイラは呆気に取られるが、彼女は今度は右足の爪先の部分に魔力を集中させる。今度は至近距離から最速の一撃を喰らわせるため、彼女は足技の戦技を発動させた。


「足刀!!」
「ぐあっ!?」
「やった!!」


今度はアイラの攻撃を避けきれずにブラクは腹部に強烈な衝撃が走り、彼女の繰り出した白炎を纏った右足の爪先がめり込む。しかし、攻撃を繰り出したアイラは嫌な感触を覚えて顔色を青ざめて距離を取る。

アイラの蹴り技は人間よりも大柄で頑丈な肉体を誇る巨人族であろうと悶絶する程の威力を誇るが、攻撃を受けたにも関わらずにブラクは笑みを浮かべる。その様子を見てナオは何が起きているのか理解できなかったが、彼の腹部を見て表情を引きつらせた。


「なっ……何だと!?」
「そんな……」
「言い忘れていたが……この身体は俺の本当の身体ではない、ただのだ」


ブラクの影が乗り移った死体は前蹴りを受けた際に腹部が貫通し、いつの間にか攻撃を受けている箇所の部分だけ影が覆い込まれていない。先ほどの攻撃でアイラが感じた感触は兵士の死体の腹部を貫通した際の感触だと判明し、彼女は自分の行為に吐き気を催す。


「うっ……」
「ふんっ、酷い女だな。何の罪もない人間の死体を抉るとは……」
「き、貴様!!何て事を……」
「さて……そろそろ遊びは終わらせるか」


腹部を貫かれながらもブラクが憑依した死体は動きを止めず、既に肉体の方は死を迎えているのでどれほどの致命傷を与えようと。しかも攻撃を受けた箇所もブラクが肉体の表面に影を覆い込む事で何事もなかったかのように動かせる事ができる。
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